米国株式投資の真実を伝える [Vol.45]2022年5月2日配信
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米国株式投資の真実を伝える
[Vol.45]2022年5月2日配信
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川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
***目次***
マーケット振り返り
今週のピックアップ記事
川田の気になる銘柄
投資のヒント
お散歩
ちょっと教えて「失敗しない資産形成のヒント」
超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
活動情報
休刊日:5月30日
社会人になって40年以上読み続けている日経新聞の中から気になる記事をピックアップしコメントする企画だ。毎週土曜日午前9時〜9時45分にズームへの参加形式で実施している。
参加は無料なのでご興味あるかたはPeatixでお申込みください。
以下は先週土曜日にカバーした記事の表題をいくつか。
皆様が資産形成で成功するために一緒に学び啓発し合うオンラインサロンです。大好評のメルマガ「メディアで鍛える米国株式講座」だけでは伝えきれない内容や、米国株式投資の魅力を体感できる会員向けのセミナーを提供します。
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
さあ、2000万円達成までのカウントダウンを今すぐ始めよう!
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1.マーケット振り返り(4月25日~4月29日)
<主要指数>
・NYダウ -2.5%
・S&P500指数 -3.3%
・ナスダック総合指数 -3.9%
=駆け足バージョン=
先週は業績発表とインフレ懸念を受けて大きな値動きとなりました。市場予想を上回る決算を発表する企業は過去平均を上回るものの、大手ハイテク企業による低調な見通しに加えて金融政策に対する警戒感から週末に急落しました。
=ちょっとだけ詳しく=
週初は中国の景気悪化に対する懸念はあったものの、ツイッターが買収提案を受け入れたことからIT関連成長株を中心に反発しました。
しかしツイッター買収資金のための売却が懸念されたテスラ株が急落すると、市場心理が悪化して下落に転じました。
1-3月期の国内総生産(GDP)成長率は予想外のマイナスとなりましたが、メタの好決算を受けて大幅に上昇しました。
しかし金曜日には個人消費支出のコア価格指数の大幅な上昇を受けてインフレ懸念が強まったほか、アマゾンの予想外の赤字決算や、アップルやインテルから低調な見通しが発表されました。
翌週の連邦公開市場委員会(FOMC)を前にした警戒感も重なり、IT成長株を中心に大幅な下落となりました。
S&P500指数チャート1年間
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2.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1】日経新聞 Deep Insight 抗うウクライナ、日本に教訓 4/26
ロシアによるウクライナ侵略は連日、多くの犠牲者と破壊をもたらしている。このままで自国の安全は大丈夫か。4月15日に刊行された元外交官、岡本行夫氏の自伝「危機の外交」(新潮社)では、そんな苦悩の内幕が生々しく描かれている。
湾岸戦争(1991年)ではイラクに侵攻されたクウェートを解放するため、米国が多国籍軍を結成し、日本にも強く関与を迫った。結局、130億ドル(約1兆6700億円)の戦費を出すことしかできず、「お金で済ます国」と各国から批判された。
岡本氏「日本は外国の軍隊に守ってもらいながら、外国人が攻撃されても助けない。防衛費を最低限に抑え、もっぱら自国の繁栄と福祉にお金を使ってきた。こうした「ジャパン・ファースト主義」は続けられない。」
日本の当局者や識者らの見方:大事な教訓は次の3つ。
第1は、いくら多くの友好国に囲まれていても、有事の際に本当に頼りになるのは同盟国。
第2「天は自ら助くる者を助く(Heaven helps those who help themselves)」。2010年代半ば、当時の安倍晋三首相は「尖閣諸島が侵攻された時、最もやってはならないのは即座に米国に連絡し、助けを要請することだ。まず、日本が自力で守ろうとしなければ同盟は働かない」
第3に、軍事力だけでなく、政治リーダーの統率力が戦争の行方を大きく左右する。ウクライナのゼレンスキー大統領は首都キーウにとどまり、国民と軍に直接、結束を呼びかけ続けている。
今後、課題になるのが、核抑止力のあり方。ロシアの核戦力は米国を威嚇し、ウクライナへの直接介入を阻んでいる。だが、米国の核はロシアを止められず、侵攻を防げなかった。
同じ構図を、台湾海峡に当てはめたらどうなるだろう。米国は中国との核戦争を恐れて介入できない一方で、中国は米国の核に抑止されず、台湾に侵攻する……。こんな事態も絵空事ではない。
【2】日経新聞 台湾人、有事の米軍派遣「信じない」54% 半年で急増: 日本経済新聞 4/27
有事の際の米軍派遣の可能性「全く信じていない」が24.8%、「あまり信じていない」が29%。一方「信じている」「まあ信じている」と回答した人はあわせて36.3%。
中国が実際に台湾侵攻に踏み切る可能性「とてもある」「まあある」と答えた人が38.6%。
米国が1979年に制定した台湾関係法は、台湾への武器供与などを定める一方、中国への配慮から防衛義務を明記していない。米国は現在に至るまで、有事の際に米国がどういう対応をするかを明確にしない「あいまい戦略」をとってきた。
【川田コメント】
私は【1】の記事に賛成だ。私の住まいの最寄りの駅でも「戦争ハンターイ〜」と叫んでいる集団に時々出くわす。また主流メディアも戦争の悲惨さを我々に繰り返し刷り込む。
しかし“戦争反対!”と思いっきり叫んでそれで敵が攻めてこない?こんな非現実的な世界はない。
今回のウクライナ侵攻と同様の事態が日本に降りかかった時に“戦争反対”と唱えながら殺されるのではたまらない。
安全保障の問題を論ずるとそこかしこで炎上し誰かが火だるまになる。しかし、日ごろから議論を絶やさず常に一定の危機感と緊張感を保つことが抑止力に繋がるのだろう。
ただし、下記の雑誌「Will」のような勇ましい見出しばかりだとちょっと後ずさりしたくなる。それでも現実を直視するなら、こういう見出しにも慣れることもまた必要だろうと思うが、いかがだろう。
【3】日経新聞 ウクライナ戦況、ロシア軍が領土部分奪取など3シナリオ 4/26
【シナリオA ロシア軍優勢、ウクライナ領を部分奪取】
ロシア軍は南部でも攻勢を強め、モルドバ東部の親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」を自称する地域につながる回廊を形成しそうだ。その場合、プーチン大統領は「国外のロシア系住民の救済という作戦目的を達成した」として勝利を宣言しそうだ。
【シナリオB ウクライナ軍持ちこたえ、ロシア軍押し戻される】
米欧のウクライナへの軍事支援の中身は質量ともに強まっている。「今後本格化するウクライナ軍の反撃で、ロシアはいずれ本国にまで押し戻されるかもしれない」。
そうした展開になると、ウクライナが平和を回復する一方、ロシアの国内情勢は不安定化していく。「ウクライナ侵攻」から「ロシア不安定化」に事態が転化する。
【シナリオC ロシア軍、劣勢挽回へ大量破壊兵器を使用】
東部や南部での戦闘が膠着状態に陥ったり、ウクライナ軍が明らかに優勢になったりする場合、ロシア軍が化学兵器や核兵器といった大量破壊兵器の使用に踏み切る恐れがある。
「ロシアによるウクライナ領の部分奪取」「ロシア軍撤退とロシアの不安定化」「大量破壊兵器の使用と第3次世界大戦」。3つの可能性の起点となる東部と南部での攻防戦が続く。確かなのは、この先どの展開に向かうにせよ、遅かれ早かれ「ロシアの自滅」が必至になってきたことだ。
【川田コメント】
NHK クローズアップ現代 2022年4月26日で“プーチンの戦争の影で 揺れるロシアの人々”を放送していた。
「ロシアでは、ウクライナへの軍事侵攻に対する経済制裁が、徐々に市民生活に影響を及ぼす中、政権は情報統制を強化。世論調査ではプーチン大統領の支持率が80%を超える結果に。その一方で、ウクライナの現状を前に苦悩するロシア人も。隣国ジョージアでは祖国を追われたジャーナリストたちが、真相を伝えようと活動を始めた。その苦闘は、変化をもたらすのか。ロシアの人々の本音を独自取材し、ロシアの「今」を追う。」
この番組では今回のウクライナ侵攻に対しロシアが一般市民にどのような情報統制を行っているのかを報道している。
国民を情報統制したり世論誘導するのは政治の世界では当たり前だ。ただし、自らの意思が強固で情報を咀嚼する力があれば誤った情報に惑わされない、誰しもそう思っているのではないか。
しかし現実はそんな生易しいものではないのだろう。国家の方針に異を唱えることは自分の生命と引き換えだ。番組で取り上げられていたロシアの一般大衆の多くはそのことを身をもって知っている。だから政府を疑わぬように自らを暗示にかける人も多いのではなかろうか。
危機を察知した時の生存本能は我々日本人にも当然備わっている。自らを愚民化し思考停止する事態に社会が追い込まれないようにするのも、我々の責務だと思う。
【4】日経新聞 家計の国外逃避論じわり 「悪い円安」があおる日本売り 4/27
4月に入り、為替市場関係者から「家計のキャピタルフライト(資本逃避)」を指摘するリポートが相次いで出されている。
「本当に恐ろしい円安リスクは家計部門の円売り」。みずほ銀行の唐鎌大輔氏はこう題したリポートで「日本人は『空気』で突然動き出す」として、個人の円売りが一気に強まる可能性を指摘する。
市場では「貯蓄から投資へ」は「オオカミ少年」のごとく、すべて掛け声倒れに終わり、円預金はずっと膨らみ続けている。そんな「空気」が変わるきっかけになり得るのが、身近な商品の値上げラッシュを招いた「悪い円安」の到来。
日銀の資金循環統計によると、2021年末時点で初めて2000兆円を超えた家計の金融資産のうち、円の現預金は約半分を占める。唐鎌氏は「その10%が外貨資産に移るだけでも、100兆円規模の円売りを招く」と話す。2021年度の日本の貿易赤字である約5兆3700億円をはるかに上回る金額だ。
実際、若い世代を中心に外貨投資への関心は急速に高まっており、新型コロナウイルスショック後に円安が進むのと並行するように、投資額も急速に膨らんでいる。
【ご参考】
個人金融資産の95%以上が円資産、50%以上が現預金(図表1)。
【5】日経 インデックスファンド、残高20兆円迫る つみたてNISA追い風 4/28 夕刊
ETF(上場投資信託)を除くインデックスファンドの純資産残高は3月末時点で合計20兆円に迫り、2年前から倍増。運用資産規模のランキングをみると、首位は米株価指数に連動する「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」。2018年の設定以降、純資産残高は1兆円を超すまで成長。
上位には日本株指数連動型が見当たらない。首位を含め大半を積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)対象か、確定拠出年金(DC)専用が占めた。資産形成を目的に税制優遇制度を有効活用し、リスクを取りながらも平均を低コストで狙う手法だ。コツコツと積み立て投資する一般個人の広がりを映している。
【川田コメント】
S&P500指数に連動する投信やETFが増えていることは、日本人の資産形成が正しい方向に進んでいることの証左だ。ただしその金額の規模はまだまだ桁違いに小さい。S&P500指数や米国の主要指数に投資するETFや投信が数十兆円単位で積みあがることを願っている。
外国の株式にそんな多額の資産を投資して大丈夫なの?そう思っている人もいるかもしれない。しかし日本の安全保障は米国に依存している。またマイクロソフトやアップル、アマゾン等のプラットフォーマーのサービス無しにビジネスや社会生活も成り立たない。
現実を直視するなら、米国株式に投資することは日本人の資産を守ることと同義と思っていい。つまり米国株式に投資することは国益にも適うことだ。
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3.川田の気になる銘柄
川田の保有銘柄を始め、米国株の情報に触れている中で、気になった銘柄を紹介するコーナーです。
今週の銘柄
フェデックス<ティッカー:FDX> FedEx Corporation
概要
世界最大規模の運送会社であり、航空貨物便を主体として迅速かつ信頼性の高い輸送サービスを全米と世界220以上の国と地域で提供しています。航空運送に加えて宅配事業や陸運事業のほか、「キンコーズ」ブランドによるオフィス向けサービスなども手掛けています。
同社の魅力
長期的な需要の成長と世界的なネットワーク
インターネットによる販売がますます便利になって使われている現在、貨物運輸に対する需要は長期的に安定した成長が見込まれます。陸運・空運と宅配事業を行っている物流会社は世界全体で見ても少なく、寡占状態の中で、人件費や燃料費の上昇を運賃の値上げでカバーできる状態にあります。
2016年にオランダの大手運送会社であるTNTエクスプレスを44億ユーロで買収しました。これにより、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋におけるネットワークが拡大しました。2022年度中にオペレーション面の統合はほぼ終了して、今後は収益への一層の貢献が見込まれます。
設備投資の一巡感と株主還元期待
設備投資の収入に対する比率で見ると、TNTの買収や宅配事業整備のための設備投資に一巡感が出てきたため、低下傾向にあります。設備投資に向けていた資金による株主還元の拡充が期待されます。
(図1:FDXの設備投資額の比率=対収入=)
フェデックスは増配を続けていましたが、コロナ禍による不透明感や北米での宅配事業の整備のために2020年度と2021年度(5月決算)は増配を見送りましたが、2022年5月期ではすでに増配を行っています(年間3.00ドル)。
(図2:FDXの配当実績=会計年度ベース=)
割安感による安心感と上値余地
現在のフェデックスの株価は、予想株価収益率(PER)が9倍前後で市場全体や同業他社と比較しても割安な水準にあり、下値余地は限定的だと思われます。一方、利益率の上昇もしくは株主還元の充実が確認された場合の上値余地は大きいと思われるため、現在の不透明な環境下で再び投資家の注目が集まる可能性があります。
リスク
FDXの会計年度は5月末ですが、2022年5月期の決算発表後の6月末に投資家向け説明会を予定しています。FDXは創業者のスミス氏が長らく最高経営責任者(CEO)を務めていましたが、新CEOのスブラマニアム氏による新たな中長期戦略の発表が期待されています。しかし、スブラマニアム氏の戦略に新鮮味がないと判断されると、上昇のきっかけが失われてしまう可能性があります。
FDXの基本データ(出所:会社データ、Yahoo! Finance)
(4月29日現在)
株価 198.74ドル
時価総額 515.1億ドル
総収入 916億ドル
予想PER 8.8倍
実績利回り 1.5%
本社:テネシー州 メンフィス
上場:1978年4月
(図1、図2はFDXの資料より)
株価チャート
チャートはTradingView.comによる
(本コーナーは一般的な情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買を勧誘するものではありません)
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
今回は、弊社のYouTubeチャンネルの「アメリカ株式40年投資」シリーズでおなじみの大倉真さんの寄稿です。
イールドカーブよりも長期金利
前回は「金融政策とイールドカーブ」というタイトルで、金融政策がイールドカーブにどのように影響するのか説明しました。今回はイールドカーブと景気動向の関係について見てみたいと思います。
1.イールドカーブの先見性
景気・インフレ動向あるいはそれをコントロールするための中央銀行の政策スタンスを反映する形でイールドカーブは変化していきます。イールドカーブの傾きは長期金利と短期金利の差(長短金利差)で測ることができます。この長短金利差のことをイールドスプレッドといいます。そしてこのイールドスプレッドが景気の先行指標となるとの考え方は、エコノミストやファンドマネジャーなど市場の専門家の世界では以前から存在するものです。
今般、市場参加者の間で注目されたのが逆イールド(マイナスのイールドスプレッド)と景気後退の関係です。より具体的には「10年と2年の金利の間で逆イールドになると、いずれ景気後退が起こる」というものです。それと言うもの、米国では実際4月に入り10年と2年の金利が急接近し、遂には一時的に逆イールドが観測されたからです。
そこで10年と2年の金利のスプレッドと景気循環の関係について確認してみましょう。図表1は鉱工業生産の前年同月比と10年と2年のイールドスプレッドを比較したものですが、実際イールドスプレッドが鉱工業生産に対して先行して推移していることが分かります。そして逆イールドが発生した後、多くの場合、景気後退が起こっていることが分かります。
図表1 イールドスプレッド(10年-2年)と鉱工業生産
2.景気後退前のイールドカーブの形状
次に2000年以降に発生した逆イールド(図表2の破線で囲った部分)について、1つずつイールドカーブの形状を確認してみましょう(図表3~6)。
図表2 イールドスプレッド(10年-2年)と景気後退
図表3 ①ドットコムバブル崩壊前
図表4 ②リーマンショック前
図表5 ③コロナショック前
図表6 ④今回2022年3月
このように、これら4回のケースの全てに共通して10年と2年の金利が逆転していることが確認できます。
しかし、よく見ると①②③については3カ月金利(政策金利にほぼ連動して動きます)が2年金利よりも高いのに対し、④では3カ月金利がまだほとんど上昇していない状態(図表6の赤の破線で囲った部分)です。つまり、④については短期金利を2年で測るか3カ月で測るかによってイールドカーブの傾きが大きく異なっているのです。よって、これから起こるかもしれない景気後退リスクについては、専門家の間でも議論が分かれています。
一般的にイールドスプレッドの計測には、市場参加者の市場分析では10年と2年の金利が用いられ、それに対し研究者が行う実証分析では10年と3カ月(あるいは政策金利FFレート)の金利が用いられることが多いようです。2年金利と3カ月金利(あるいはFFレート)の違いは、前者が市場参加者の期待を反映した市場金利であるのに対し、後者は足元の政策スタンスをより反映したもの(つまり期待の要素をあまり含んでいない)といえるでしょう。
短期金利にどちらの金利を用いるのが良いのかは、一概に何ともいえません。10年と2年のスプレッドが政策変更に関する期待を反映しより速く変化するのに対し、10年と3カ月(あるいはFFレート)のスプレッドの方が景気先行性の精度が高くなる傾向があるようです。
3.逆イールドの発生パターン
逆イールドが景気後退のシグナルを示す過程を見てみましょう。図表7は1988年4月以降の10年金利、2年金利、そしてFFレートの推移を見たものです。赤の破線の丸印のところで逆イールドが発生し、その後、景気後退に至っています。
図表7 米国金利の推移(1998年4月以降)
丸印のところで長短金利がどのように動いているのか見てみると、景気のピーク近辺ではFRBが依然として金融引締めを継続しているのに対し、市場が先に景気後退を織り込み長期金利がピークアウトすることで逆イールドが発生していることが分かります。つまり、長期金利が短期金利よりも先にピークをつけるのです。
そして、さらに細かく見ていくと、まず10年金利が2年金利を下回り、その後FFレートを下回っていくというパターンが確認できます。つまり10年と2年の逆イールドは早期シグナル、そして10年とFFレートの逆イールドが本シグナルだといえそうです。
しかし図表8からも分かるように、今回は10年金利がなかなか上がっていない中、先に2年金利が急上昇したため10年と2年の間に逆イールドが生じたのであって、これまで見てきた逆イールド発生のパターンとは大きく異なります。実際、これまでのところ長期金利はまだ上昇中であること、さらにFFレートの引き上げは始まったばかりであることを考えると、仮に早期シグナルが誤報ではないにしても、本シグナルが点灯するまでにはもっと時間がかかるのではないでしょうか。
図表8 米国金利の推移(2021年3月以降)
4.逆イールドよりも長期金利
以前このメルマガでも申し上げたように、今のアメリカ株市場は金融相場から業績相場に移行している途中です。基本的に業績相場への移行過程では金利上昇を伴い市場の変動性は高まります。
加えて今回は、コロナ禍によるサプライチェーンの目詰まりやエネルギーを中心としたコモディティー価格の高騰などにより高いインフレ圧力を伴っています。当初FRBはインフレ圧力は一時的と考えていましたが、ここにきてインフレに対する警戒感を強めており、政策スタンスをタカ派的なものに修正しつつあります。
また昨年11月に開始したテーパリング(量的緩和のための資産購入の縮小)を3月に終了するまで、長期金利には下押し圧力がかかっていました。しかしテーパリングの終了に伴い、2年金利と同様に10年金利も上昇基調となっています。またFRBはいずれ量的引締(QT、これまでとは逆の資産売却)を開始していくことになるので、当面は長期金利に上昇圧力がかかりやすい状況が続くでしょう。(少なくとも長期金利がピークアウトするまでには時間がかかることになるでしょう。)長期金利の上昇がPERの押し下げ要因になることは言うまでもありません。
このように考えると、株式投資において現時点で心配すべきは、逆イールドが示唆する景気後退リスクよりも長期金利の上昇そのものではないでしょうか。
【大倉真】
愛媛県出身。1984年大阪大学経済学部卒業。2005年 埼玉大学大学院経済科学研究科より博士(経済学)。シティバンク、エヌ・エイ、シティトラスト信託銀行、ソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)に勤務。年金・公的資金など機関投資家に加え、プライベートバンクで富裕層向けの資産運用にも従事。2017年、京都・東山で投資会社EagleCapital株式会社を設立。CFA協会認定証券アナリスト。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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5.お散歩コーナー
◇◇最近行ったお店、映画、美術館、書籍編◇◇
~熊倉 貫宜の巻~
元証券マンで読書家である熊倉貫宜さんの寄稿です。
嵯峨野明月記 / 辻邦夫
東京の文京区といえば、東京大学を筆頭とする大学群の文教地区、根津や西片といった閑静な住宅街、医科大学や病院が集まる医療地区が頭に浮かぶのではないでしょうか。
このような学究的な土地柄から、出版・印刷業者が集まり、特に出版社が集まる音羽から江戸川橋にかけて盛業中です。
その大手、凸版印刷の社屋に『「印刷文化学」の確立と発展に取り組む。』を理念として設立された、印刷博物館という小体な博物館がございます。
いささか聞き慣れない「印刷文化学」とはどのようなものでしょうか?
同館のホームページによれば『「印刷文化学」とは、これまで本格的に取り上げられることのなかった印刷と人間の関係を、文明史的なスケールの視点から捉え直し、これに携わった人類や社会の営みについて検証を加えるものです。』とあります。
従って、こちらで見学できるものは印刷機器・印刷技術・印刷物等々の印刷に関わる森羅万象を集大成しようという意図から、収集されたものばかりです。
その収集物のうち、日本書物の部門で白眉とも言えますのが「嵯峨本」のコレクションでしょう。
【嵯峨本】(日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋)
慶長年間(1596〜1615)後半期、本阿弥光悦およびその門流が、京都の嵯峨で、主として木活字を用いて出版した書物。出版地にちなみ嵯峨本と称する。嵯峨本は料紙・装丁などに豪華な美術的意匠を施した、わが国出版史上もっとも美しい書物として知られる。
さて、その嵯峨本の立役者、偉大な書家の本阿弥光悦、天才絵師の俵屋宗達、そして現代で言えば一種の調整役=プロデューサーである角倉素庵、この三人各々の独白という形式で綴られた長編小説が「嵯峨野明月記」です。
私の場合は本書に出会うことで初めて嵯峨本の存在を知り、その現物を鑑賞し、光悦・宗達・素庵の偉業を学び、京都市北区鷹峯の光悦寺を訪れることとなりました。
本書の時代背景は江戸幕府発足までの戦国時代なのですが、英雄豪傑譚でもなく、戦国武将やその家来衆、あるいは歴史に残る大きな事件も、あくまで物語の背景に過ぎません。
なぜなら、物語の主題、登場人物の美に対する過剰な執着が、人間の業として、現世の雑事を取るに足らないものと化しているからです。しかしながら、現世の雑事衆はあの手この手で登場人物を利用しようとしたり、配下に置こうとしたりします。
そのような働きかけを跳ね返す氷のように冷徹な心の動きが、通底する主題として、透明で静謐に流れて行きます。
それは現代の混迷する世界で、ブレない精神の在り方という意味では、極めて重いテーマではないでしょうか。
印刷博物館
東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川本社ビル
開館時間:10時~18時
休館日:毎週月曜日(ただし祝日・振替休日の場合は翌日)
*現在は事前の入館予約が必要です。
【熊倉 貫宜】
1980年大和証券入社。企業派遣留学としてシカゴ大学経営大学院にてMBA取得。シンガポール、香港駐在を通しアジアビジネスに関わる。
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6. ちょっと教えて「失敗しない資産形成のヒント」
ファイナンシャルアドバイザーの本橋竜一さんが、中長期にわたる着実な資産形成のために大切なヒントをお伝えします。
本連載では、投資家の皆さまが、嵌(はま)ってしまいがちな「感情面での注意点」と、事前に想定し「避けるべき落とし穴」について、そのエッセンスを数回に分けてお伝えてしていきたいと思っています。
ファイナンシャルアドバイザーである私のところにご相談にいらっしゃる方の中で、多くの方々に「共通のお悩みや不安」として以下の点があります。
①いざ資産運用を始めてみたものの… なかなか利益が上がらず上手くいっていない。
②金融機関のオススメ、話題の売れ筋・新商品に投資したものの… 本当に自分に合っているのかわからない。
③たくさん手数料を負担しているわりには、思った以上に儲かっておらず、よくよく考えてみると損ばかりしている。
④時々ニュースにもなる◯◯ショックとも言われるマーケットの大暴落に、自分も巻き込まれたら、どうすればいいのだろうか…
⑤資産運用なんて、所詮お金持ちのすることで、やはりシロウトの私には難しい…
まずは、このお悩みや不安の原因はどこにあり、このシックリいかないモヤモヤを抱えることによる悪影響をご自身で認識してもらいます。
すると・・・返ってくるのは以下のような答えです。
①マーケットなんて読めないから仕方がない…所詮「運」も大事かも…
②資産運用に対する知識や経験がないから不安になるのかも…
③そもそも、私は素人だから資産運用なんて向いていないのかも…
そして、その不安を抱えた多くの方が、とってしまいがちな行動は以下の通りとなります。
①自分ではどうしていいか分からないので、とりあえずそのまま放って置いて(例:塩漬けスタイル)様子をみよう…
②他の金融機関の無料セミナーに参加していろいろ勉強してみたり、FP等の専門家に相談してみる…
③自分で何とかすべく、手数料の安いインターネット証券を利用して、自分自身で資産運用を始める…(※これが出来ればベストです!)
④自らマネー雑誌やWEBで情報収集をしながら、儲かりそうな商品を探してみる…
⑤しかし、、、「やはり自分には向いていない!」と最後は資産運用自体をギブアップしてしまう…
こうした行動でも、不安や悩みはスッキリ解消されることはないのです。(勿論、運用をギブアップし金輪際、一切資産運用はしない!場合を除きますが…)
では、この不安がスッキリ解消できない「根本原因」は果たして何でしょうか?
この「根本原因」とは、『我慢できる損失額の大きさを、事前に想定してから、資産運用をスタートしていない!」ことにあります。
決して、素人だから向いていないとか、資産運用が難しいからではありません。
私はこの「我慢できる損失額の大きさを、事前に想定して開始する」資産運用スタイルを『心にやさしい資産運用術』と命名しています。
なぜ、我慢できる損失額の大きさを事前に想定して運用を開始する『心にやさしい資産運用術』が、着実な成果に繋がりやすいのか?
さらに、それはどんな人たちが実践しているのかというと、、、
私がプライベートバンカーとして、長年近くでお仕えしてきた「超富裕層」と言われるご資産家の方々の思考回路や意思決定プロセスにヒントがありました。次回以降では、その共通する思考法についてご紹介していきます。
【本橋竜一】
1998年に大学を卒業後、横浜銀行にて金融業界でのキャリアをスタート。その後、外資系金融機関のプライベートバンカーへ転身。間もなく世界を震撼させるリーマンショックが勃発し、第一線のセールスとして成功を諦め、正統派な資産運用を伝えるファイナンシャルアドバイザーを目指そうと決意。数名の顧客を頼りに約20年の金融機関勤務から独立。信用・人脈ゼロながら、海外のPB・FAビジネスモデルを徹底研究、顧客体験の向上に資する創意工夫を重ねる日々。
現在は、特定の金融機関に属さず、真にお客様の価値観を大切にした資産運用・形成サポートを専業とする、独立系ファイナンシャルアドバイザーとして、お客様へのプライベート金融コンサルティングに従事している。
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7. 超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
IFAに特化した営業支援を行っている市川宏さんが、超富裕層が活用している投資戦略を、皆様に簡単にお伝えするコーナーです。
本日は、「エンダウメント投資」についてです。エンダウメント投資とは、米国の大学などが実践している「寄付金で集められた資産を運用する投資」のことです。エンダウメント投資には資産配分や投資手法など、かなり独特であり、投資パフォーマンスも非常に高くなっています。
「エンダウメント」とは
「エンダウメント」(Endowment)という言葉は、もともと英語で「寄付する、寄贈する」といった意味で、資産運用の世界ではそれが転じて米国の名門大学の基金のことをを指すようになりました。
寄付金なので返済義務はありませんが、エンダウメントはその寄付金を半永久的に運用し、その運用益で大学の収入を賄う義務があります。
特に、大きなエンダウメントであるハーバード大学やイエール大学などは、その運用資産が数兆円にもなり、毎年の寄付金にも数億円以上のものがあります。こうした大規模な大学には投資オフィスがあり、運用目標、運用資産や運用者の選定を行っています。
全米の大学には約800のエンダウメントがあり、全体での運用資産規模は50兆~60兆円と言われています。エンダウメントは投資主体として米国のみならずグローバルに注目されています。
現在最大のエンダウメントはハーバード大学であり、テキサス大学、イエール大学と続きます。これらの大学では支出の3割程度をエンダウメントからの運用益に依存しています。
エンダウメント投資の特徴
エンダウメントの資産運用の特徴は、36年にわたりイエール大学基金を率いたデビット・スウェンセン氏の著書(邦訳「イエール大学流投資戦略」)にまとめられています。
長期的な投資家として株式を資産運用の中心に据える
マーケットタイミングを取らず機械的なリバランスを行う
株式からのリスク分散効果を期待して、不動産、未公開株、ヘッジファンド、インフラなどのオルタナティブ資産に積極的に投資する
オルタナティブ資産投資では、優れたマネジャー(ファンド)の選択に力を注ぎ、より高いリターンをあげる
最近のポートフォリオの特徴として、プライベートエクイティやヘッジファンドなどのオルタナティブ資産が非常に多くなっています。
ハーバード大学の資産配分と運用戦略
最大のエンダウメントであるハーバード大学の運用について具体的に見ていきましょう。ハーバード大学の運用は、毎年大きなリターンをあげています。2021年6月末時点での資産配分は、下記の図の通り、プライベートエクイティ(34%)とヘッジファンド(33%)のオルタナティブ投資で約7割を占めます。
個人投資家がエンダウメント投資を再現する
エンダウメントは、運用規模が巨額で、投資のプロが運用を行っていることなど、個人投資家とは異なる存在に思えます。
しかし、運用資金の性格を考えると、他人の資産を預かっているわけでも借金でもなく、自己資金を長期で運用できます。その意味では、エンダウメントと個人投資家はよく似ていると言えます。これは、銀行や保険会社、年金などの機関投資家にはない、個人投資家の強力な武器です。
武器は積極的に活用しましょう。投資の武器で最も重要なことは、時間を味方につけるということです。しかし、ポートフォリオの分散をしておかないと、大幅に相場が変動したときにもろに影響を受けてしまいます。それでは長期投資には向きません。
個人投資家は、エンダウメントを手本に投資戦略を再現することで、積極的な長期分散投資という、金融機関や年金などの投資家ができないような資産運用をすることができます。
また、プライベート・エクイティやヘッジファンドなどのオルタナティブ資産投資を活用するには、資産・タイミングの適切な分散に加えて、マネジャーの選別、運用コストや仕組みについての工夫などのポイントが重要になります。
【市川宏】
株式会社Winviser代表取締役。SMBC日興証券にて茨城、福岡、東京の各支店にて資産運用コンサルティングに従事した後、超富裕層向け金融商品のマーケティングを行う。
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)業者に転籍し、超富裕層の資産運用のアドバイスを行った後、日本の金融業界の発展のためIFAに特化した支援会社を設立。現在は、IFAを支援する傍ら、自身の経験を元に個人投資家に資産運用のサードオピニオンを行っている。
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8. 今後の活動情報
◇ストックボイス:5月11日、18日(水)11:00~
日経CNBC:5月19日(木)電話インタビュー(改野さん)
5月24日(火)スタジオ出演(露口さん)
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