米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.15]2021年9月20日配信
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米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.15]2021年9月20日配信
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***目次***
マーケット振り返り
今週のズバリ!
今週のピックアップ記事【ニーアル・ファーガソン】【投信の本数削減】【日経ヴェリタス藤田勉】
投資のヒント若き経済学者小宮隆太郎の見た「アメリカ」に思うこと
川田のお散歩活動情報 風雅な自由人K
活動情報
質問コーナー9月波乱相場はあるの?
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
さあ、2000万円達成までのカウントダウンを今すぐ始めよう!
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1.マーケット振り返り(9月13日~9月17日)
<主要指数>
・NYダウ -0.1%
・S&P500指数 -0.6%
・ナスダック総合指数 -0.5%
=駆け足バージョン=
消費者物価指数が予想を下回って金融政策に対する不透明感は後退しました。一方、小売売上高が市場予想を上回ったものの、消費者信頼感指数は下回るなど、景気に対する慎重な見方が残り、投資家の慎重な姿勢が強く出た週となりました。
=ちょっとだけ詳しく=
5営業日連続で下落したことからNYダウが月曜日に小幅に反発して始まったものの、引き続き様子見気分の強い週となりました。前週に発表された卸売物価指数と対照的に8月の消費者物価指数が市場予想を下回って量的緩和策の縮小(テーパリング)の前倒し懸念は後退したものの、株価の上昇にはつながりませんでした。その他の経済指標では、小売売上高が前月比マイナスの市場予想に反してプラスとなった一方で、ミシガン大学消費者信頼感指数は市場予想を下回って低い水準にとどまるなど、まだら模様で、景気回復に対する投資家の信頼感は強めるまでには至りませんでした。景気敏感株も成長株も買い材料にとぼしく、個別銘柄中心の動きが続きました。
S&P500指数 過去1年間
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2.今週のズバリ!
これだけは知っておいてほしい情報をお届けするコーナーです。
波乱なし
先週の金曜日は、個別銘柄のオプションと先物、および株価指数のオプションと先物が同時に清算日を「クァドルプルウィッチング」デーだったが、特に大きな波乱は見られなかった。以前は国際通貨基金(IMF)と世界銀行の総会がこの日前後に開かれていたため、金融政策面の思惑が重なって市場が大きく動くことがあった。しかし、最近はこの時期ではなく(今年は10月で、しかも一部バーチャル)、金融当局からの発信も様々な方法が巧みに組み合わされているため、サプライズは起こりにくくなっているようだ。
金融政策
さて、株式市場に割高感がある中で、9月の季節性を勘案すると、どうしても投資家は慎重姿勢になる。金融政策の方向性は大枠では「引き締め」であり、金融市場に波乱を起こさずに徐々に引き締める方法が焦点となっている。こうした状況では金融政策が株式市場の上昇トレンドを形成することはない。逆に引き締め方向へのサプライズがあれば10%程度の調整はありそうだ。
今週開催予定の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和策の縮小(テーパリング)が決定されることはないだろう。ただし、年内の実施に向けて外堀を埋めるような、声明文の変更やパウエル議長の質疑応答はあり得る。前回パウエル議長はテーパリングと利上げが別の事項であると市場に納得させることに成功したが、今回はテーパリングの量、期間、買い入れ対象などの具体策を通じて市場に安心感が広がれば、成功だろう。
増税
景気や企業業績に関する投資家の見通しに影響がある材料として、今後は議会の動きが注目される。インフラ法案の支出は株式市場の支援材料ではあるものの、その財源としての増税はマイナス要因であり、特に法人税の増税やキャピタルゲイン税の増税などの内容次第では株式市場に影響しそうだ。
先週ゴールドマン・サックスが、法人税が21%から25%に引き上げられ、海外収益に対する課税が現在提案されているものの半分程度になれば、約5%の減益要因になるとのレポートを発表した。市場はこの程度の増税は織り込んでいるように思われるが、これよりも大規模な増税になるとの見通しはマイナス要因となりそうだ。
気になるテクニカル指標
テクニカル面では、S&P500指数が50日移動平均線を下回った。今年の上昇相場では50日移動平均線に近づくとすぐに上昇に転じていた。今週以降、好材料が見当たらずに下回った状態が続くと、今度は上値抵抗線になるおそれもある。短期的な注目ポイントだ。
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3.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1】日経新聞 米中冷戦、台湾が発火点にも 9/16
この人の基本スタンスは「米が世界の頂点」だ。彼にとって喫緊の課題は中国の台頭と脅威だ。高速通信規格「5G」でファーウェイの商品をどこの国が容認しどこが拒否しているかを地図に落とすと冷戦状態だということが分かる。1989年に終了したのが最初の冷戦なら、我々は第2次冷戦状態だというのだ。
台湾有事に対する緊迫感はかなり強いと感じた。中国が台湾に突然に侵攻するなら米国は応戦するとの立場だ。
そうだとすると米国の株式市場がこうも能天気に上昇しているのをどう理解するか?
もっとも冷戦終了前の8年ほどの期間、S&P500指数は良く上がっている(メルマガトップのテーブル参照)。記事の最後で「米国が世界中から優秀な人材を移民として集められるなら、自国の人材にしか頼れない中国に勝つのは明白だ」とある。第2次冷戦が熱戦になるなら、それは終わりの始まりどころか終わりの終わりだからだろうか?
さて、ファーガソンのこの本を思い浮かべた。その時の読書メモが以下だ。
『文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因 単行本 – 2012/7/6』ニーアル・ファーガソン (著), 仙名紀 (翻訳)
なぜ西洋が世界の頂点に立てたか?6つの要因
①競争 ②科学革命 ③法の支配と代議制 ④現代医学 ⑤消費社会 ⑥労働倫理
現代の幕開けは、日本では明治天皇の時代(1868~1912)で、このころ「その他の地域」でもこの6つのアプリケーションをダウンロードし始めた。だが、ことがスムーズに運んだわけではない。日本では西洋の文化や制度のうち、どれが最も大切か判断できなかったため、ひたすらすべて真似た。洋服やヘアスタイルも模倣し、外国を植民地化する面でも追従した。だが不運なことに、帝国建設のコストがかさんで利益が上がらなくなってきた時期に重なっていた。(p485)
→単に真似ただけで自分で考えることを放棄していた。
英米、とりわけ米国の優位性に絶対の自信を示したのが、2012年のこの本だ。彼の中では今回の米国のアフガン問題は中国の脅威と比べれば比較にならない。
【2】日経新聞 銀行の投信 本数より効率横浜銀、5割絞り込み 顧客への説明きめ細かく 9/16
記事からピックアップ
では①なぜコスト割れの投信を償還しないのか?また②なぜ既存の投信を大きく育てる前に売れ筋投信を新たに設定するのか?
①については、日本の制度はこの償還手続きがとにかく煩雑で手間がかかるとのこと。いろいろあるけど、以前に投資家保護の観点で整備した法律で償還がやたら面倒なのだろう。記事にもあるように各社懸命に本数の削減に努めているようだが、それでも全然追いついていないようだ。
②は投信会社の経営目標に問題があるからだ。日本の運用会社は証券や銀行の子会社の系列が多い。社長以下の役員や幹部は親会社から天下りが多いし、社員も異動や転籍組でグループ全体の雇用維持と雇用の調整弁に使われている場合がある。
投信会社が顧客目線になるためには独立した営利組織になることが必要だろうが、日本ではなかなかそうはならないのが現実だ。
だとすれば投資家は自ら身を守る必要がある。我々に必要な投信は買い付け時の手数料がゼロで、信託報酬が安いインデックス型だけ。そう思っていて良い。
【3】日経ヴェリタス 人生100年こわくない 地球株の歩き方 「世界のマネーは米国株に向かう」藤田勉さん 9/19
これまで彼は、米国株式偏重になるのを避けて、グロース銘柄を「地球株」と題して紹介していた。ところが今回は、はっきり世界の投資資金は米国株式に向かうと断言している。記事中のテーブルは世界時価総額上位100銘柄中で2020年代の株価上昇率ランキング。銘柄は1位がモデルナ(19倍)、2位がテスラ(8.5倍)だ。10銘柄中で米国銘柄が5銘柄で3位がシンガポールのシー(SE)で中国が2銘柄、他はカナダのショッピファイ(SHOP)が6位で8位のASMLホールディング(ASML)はオランダだ。
おまけその1
この数ページ後(p52)に石金淳さん(三菱UFJ国際投信)が「出遅れ日本株、反撃ののろし」と題した記事を書いている。「米経済好調、日本の輸出に追い風」も日本株にポジティブな理由らしい。私ならリスクの根っこの米国株式に賭けるけど。
おまけその2
p53 投資一任サービス、人気だけど 「投信調査隊が行く」高いコスト・情報開示には課題も。
ファンドラップやSMA(セパレート・マネージド・アカウント)のことだ。これだけはっきりそのデメリットが指摘してあるのに、純資産が10兆円に伸びている。リスク選好度合を勘案すれば、全ての資金がS&P500指数向きでは無いだろうけど、1年間の騰落率が1、2%しかない債券中心のラップもあるが、なぜこのような商品が存在するのか?この半分でもS&P500指数を買っていれば日本が少しだけ豊かになるのに、もったいない。
おまけその3
今週のカバーは「緑で化ける素材株」だ。「カーボンゼロ 次の主役は」が小見出しでいい記事だ。
カーボンゼロは間違いなく次世代の相場の主力テーマだ。項目は「植物由来」、「EV革命」、「炭素パワー」で各々該当する日本銘柄が掲載されている。ただし最後のp4「投資指標VS.世界」では日本と世界の化学メーカーを比較している。横軸に時価総額、縦軸はPERだ。時価総額8.5兆円でPER20倍超の信越化学(4063)が世界的に優れた企業だと、一目瞭然だ。他の日本の化学メーカーはとにかく小ぶりだ。
【4】マネックス証券 米国株国内店頭取引のサービス提供開始! ~日中でも米国株取引が可能に~
「マネックス証券は、9/21(火)(予定)より、米国株国内店頭取引サービスを開始」。これは画期的なことだと思う。とにかく対面証券の店頭価格設定は法外に高い、ここに風穴をあけてくれるだろう。マネックス証券がんばれ!!
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
若き経済学者小宮隆太郎の見た「アメリカ」に思うこと
小宮隆太郎は日本を代表する経済学者だ。経済学のあらゆる分野で論戦を挑み、それが大いに話題になる。先生のゼミからは俊英が多く輩出された。
誰だっけ「日本企業の本分は利益追求ではない」って言ったの
「日本企業の目的は営利活動ではない」。大昔にそう喝破したのが確か小宮隆太郎でその元ネタをネットで探していた。多分この本だろうと思い、中古で買い求めたのが『日本の企業』今井賢一、小宮隆太郎編東京大学出版会だ。そして同じサイトで見つけたのが『アメリカン・ライフ』岩波新書1961年だ。小宮先生は1956年から3年間ハーバード大学に留学したが、その時の経験をエッセーにまとめたものだ。あの小宮先生が60年前にアメリカをどう見ていたのだろうか。それに興味があり購入した。岩波新書は中古本で1円なので実質配送料だけだ。
1928年生まれの小宮先生は当時28歳ぐらいで長女は4か月で次女は米国で生まれたとのことだ。「はしがき」で、
この点、小宮先生は相当に意識して出来るだけアメリカ人と交際し、日本人留学生とは付き合わないようにした。これは、なかなかできることではない。ちなみに私、川田、の留学は28歳から2年間だ。最初の4か月ぐらいは単身だったが、その後家族を呼び寄せた。娘2人は2歳と9か月だった。
さて、彼の視点はアメリカの本質に注目した分析だ。60年前の記述だからと言っても、今の我々への示唆はいささかも損なわれない。このことを最初に断っておく。
■世界の駆け込み寺、米国
米国には親切で他人に無償の愛を注ぎたい人がたくさんいる。彼らの基本的価値観はキリスト教に則った隣人への無償の愛だ。国難や迫害を経験した人への愛はとりわけ熱くて深い。何世代か遡れば自分の先祖も同じ境遇だった人が多いからだろう。住んでみるとわかるが、世界中にはありとあらゆる理由で‟アメリカ”という駆け込み寺が必要な人は無数にいる。
日本人(特に駐在員)の場合、米国に滞在する人の条件は比較的恵まれている。だから米国人と付き合わなくても事が足りるし、あの親切なアメリカ人もその必要性を感じないからではないか。
さて、この本の章立ては5章で「Ⅰ商業革命-アメリカのショッピング」、Ⅱパーティー、Ⅲデイト Ⅳアメリカの社会と上流階級 Ⅴ人種的差別、だ。
そこに描かれているのは、当時28歳で将来日本を代表する大経済学者になる若者が見た、1950年代後半のアメリカだ。ちなみに私の米国留学は1980年代だから、私の見たそのまた30年前のアメリカだ。
■階級と人種
この本の後半の「Ⅳアメリカの社会と上流階級」、そして「Ⅴ人種的差別」は特に興味深く読んだ。
私は1987年にNJ(ニュージャージー)州郊外に一軒家を購入した。ほんの少し前まで、アジア人はこのエリアでは住宅を買えなかったと聞いた。ただし住んでみて差別を感じたことはない。
階級社会アメリカ
さて、階級、人種、宗教で切り分けた米国社会は真に複雑だ。30歳前後の若者が、この複雑な米国の社会構造を深く冷静に観察していることに感心した。
彼も強調しているが、米国にははっきりした階級がある。この階級は人種や出自、そして宗教が複雑に入り組んでいるが、階級というからには上下の序列があるのだろう。違う階級間が平等ということにはならない。
生まれてから一生を終えるまで同じ階級で満足する人もいるだろう。自分の階級の相対的な位置づけに気づかない人もいるかもしれない。そして気づいたところで変わらないものは変わらないと諦めている人も多いかもしれない。
それでも、中には今の自分の階級には満足出来ない人もいるはずだ。しかし人種や出自は変えられないし宗教も変えるのは難しい。それでも自分の意思と努力でその階級の壁をぶち破る方法がある。それがおカネだ。
階級はおカネで買えるの?
NY駐在時代に投資ビジネスで大成功した日本人女性と親しく交流する機会があった。ちなみに旦那さんはスタンフォード大学MBAの白人だ。彼女ら夫婦は投資ビジネスで成功した大富豪だが、その探求心と才覚は半端ではない。
彼女は時々米国社会の仕組みを話題にした。「米国ではおカネがたくさんあるとリスペクトされる」という趣旨のことを時たま言った。当時も今も日本人の庶民感覚だと違和感がある。
しかしそう感じるなら、それは厳然と階級が存在するアメリカ社会に対する無知だ。抑圧された階級から脱却するには自分のなにかを変える必要がある。「日本人の出自」、「女性」は変えられない。推測だがその1つは①「白人男性の夫」でもう1つが②「おカネの量」という意味だったのではないか。ただし①については彼女の口からはなにも聞いたことはない。
現実直視が米国株式市場の理解を促す
多くの日本人はこういう話題を遠ざける。しかし小宮先生のこの本では「1ボストン・アイリッシュ」(p185)、「2ユダヤ人問題」(p194)で多くの紙面を割いている。経済学を専攻する彼にこれほどインパクトを与えたという事が大事だ。経済学という社会科学にとって人種、文化、歴史、宗教が学問を極める上で重要なファクターだと明確に認識しているわけだ。
米国は世界の階級、人種、宗教問題の縮図だ。さらに祖国の歴史から逃れたくて来たのに、米国に来てもその旧弊を引きずり、残滓は捻じれて変形し、そして新たな序列が出来上がる。
このしがらみを解決する特効薬が「おカネ」だとすると、それを信じて努力する人を否定するのは間違っているだろう。一生懸命に働いて子供には良い教育を受けさせ、そして質素倹約してそのおカネを投資に回し、少しでも納得の行く人生を送ることは正しい行いだ。
ところでハイテク大企業創業者は、その多くが伝統的なイスタブリッシュメントではない。彼らにとって自己実現や自己の証明が事業の成功であり、その成功の達成度が公開会社なら時価総額ではないか。そして手にした「富」は自分の階級や社会的グループから所属を変えられる「パスポート」とも言えまいか。株式市場から伝わってくる彼らの成功物語はこんな風にも聞こえる。
「アメリカン・ライフ」の最期(p206)はこう結んでいる
マーケットを突き動かすエネルギーの源泉?
米国株式市場では新興企業の興隆や、小が大を呑み込む企業買収、さらには容赦なく断行する大胆なリストラを経た企業再生が常態だ。これらは日本人の社会常識の善悪や企業倫理に悖(もと)ると映る事もあるはずだ。
しかし、しかしだ。例えば起業の動機が目をキラキラさせた日本人の若者のように「世の中の役に立ちたい、便利にしたい」だけだろうか?それほど単純なものだろうか?
アメリカ人も「世の中の役に立ちたい、便利にしたい」と思うだろう。しかしそれは「‟誰”の世の中」だろうか「‟誰”のための便利性」だろうか?アメリカには自らの祖国、民族そして宗教のレガシーで今の自分が背負っている「負の遺産」を拭い去りたい人は多い。そして、彼らは体の中に鬱積したエネルギーを「起業」、「上場」そして「時価総額の増大」に‟昇華”しているのではないか。それがあの米国株式市場のもつ強烈なエネルギーの源泉だ。つまり自分の人格や所属グループ、階級が持つ‟ネガティブ”な面を経済活動を通して‟ポジティブ”なものに‟昇華”し、その結果として、大きな経済的付加価値や社会貢献といった‟社会的ポジティブ”を生み出しているのだ。
日本でも戦時体験を事業のバネにしていた創業経営者はかつて多くいた。しかし、今の日本に自己の存在の正しさを証明しないと生きていけないことなどどれほどあるだろうか?
米国企業には自分の正しさを証明すべき多くの理由があり、日本企業にはそれが少ない。両国の株式市場の見るにつけ‟戦う理由の有無”に思いを馳せる。そして私が米国株式市場へ賭ける最大の理由は、この真っ当な戦う理由のエネルギー量だ。
株式市場は万人に平等
一方で投資家の立場ではどうだろう。トマ・ピケティ―が「21世紀の資本 | トマ・ピケティ, 山形浩生, 守岡桜, 森本正史 で示したように、資本家が「投資から得られる収益」は労働者が得る「給与所得や事業所得」よりも常に大きい。これが資本主義の掟(おきて)だ。アメリカ人は本能的にこのことを感じ取っている。だから、気づいた人から資本家になるべく一生懸命に働き余ったおカネで投資する。
ピケティ「21世紀の資本論」が指摘したこと-なぜ1%への富の集中が加速するのか- | 研究活動
そして、ここがまた大事なことだが「株式市場は投資家全て平等に扱う」。つまり一旦投資家になれば、出自や人種そして宗教に拘わりなく平等だ。そして投資のタイミングが一緒なら、大口だろうが1株の個人投資家だろうがそのリターンも一緒だ。つまり投資家にとっても株式市場はその人の置かれた境遇からの移動を可能する「パスポート」なのだ。
米国株式市場はこれまで長期にわたり起業家、投資家双方に報いてきた。彼らの思いが資本に乗り移り、その資本が凄まじいまでに懸命に働き、そして増殖してその富を彼らに還元してきたのだ。彼らは自らの意思で賢明に働き、リスクを覚悟で株式市場に資金を投入したのだ。もし株式市場という「パスポート」発券所が無かったら、多くの人が絶望的な境遇から脱却出来るチャンスさえ無かっただろう。
ウエルス・クリエーション(富の創出)の再現が使命
努力と才覚で築いた富を使って自らの置かれた境遇を変えることが出来たアメリカ人は次に何を考えるだろうか?そして何をなすことが自らの使命と考えるだろうか?
それは自分と同じ境遇にある人達に救いの手を差し伸べ、成功物語を再現することだ。その行為を通じて、自らが評価されてリスペクトが得られると考える。そしてここでの成功でやっと自分が何者かを証明できる。アメリカ人にはこう考えるDNAが組み込まれていると思う。だから成功者は次世代に投資や寄付で惜しみなくチャンスを与える。それが回り回って次世代の成功者を生み、それが富とチャンスの再生産に繋がる。この循環がアメリカの経済社会の活力の源泉だ。
ちなみに、前述の大富豪の日本人女性は大規模で高額の奨学金制度を創設し、多くの超優秀な日本人に米国のトップカレッジ進学の道を拓いている。
つまり株式市場は、命がけで自らの存在証明を賭けた人々に、その証明の機会を提供しているのだ。米国株式の長期投資がもたらすこれほど良好なパフォーマンスは彼らの勝利の「証し」だ。彼らが勝利するためには米国株式は上昇が宿命づけられている。つまり上昇すべき真っ当な理由があるのだ。こうまで言ったら株式市場を賛美し過ぎだろうか?しかし長年米国株式を観察し投資した身にとって、いま述べたことが正に実感だ。
いまも昔も、アメリカ人は「自分の存在を証明」することが宿命でそのために戦い続ける。この理念の共和国アメリカを我々日本人がどう理解しそれを我々の資産形成に結びつけられるか?私流のヒントをこれからも提示し続けたい。理念の共和国―アメリカ思想の潮流 (中公叢書)
S&P500指数過去90年チャート
ご参考
ご参考 にっぽん 130年間の超長期株価チャートから分かること
130年間の日本株チャート
(日経平均株価を基準に、日経平均株価が存在していなかった戦前期について複数の株価指数を組み合わせて連続性を持たせ、これを対数表記したもの)明治期:株価指数が存在しておらず、東京株式取引所の株価が事実上の株価指数となっていたため、本チャートでもそれにならっている。
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5.川田のお散歩
◇◇箸休め◇◇
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6.今後の活動情報
◇10月6日(水)午前11時 ストックボイス
◇10月20日(水)午前11時 ストックボイス
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7.質問コーナー
質問(要約)
今年は9月に入ってもマーケットはおとなしいですね。最近の波乱の年の状況をもう少し教えてください。
回答
最近の秋相場を株価とチャートで検証
毎年秋の相場は荒れるというのがウォール街の共通認識です。先日来お伝えしている通り月間パフォーマンスで最悪なのが9月です。また連続する3カ月で一番悪い3カ月は8~10月です。
だからといって毎年荒れるかとなるとそうでもない。そして今年は今のところおとなしいです。
今回は直近の波乱相場だった昨年2020年と2018年を振り返って今後の参考にします。
■2021年9月以降
まず今年の9月以降、S&P500指数もナスダック100も一日の変動率は小さいです。1%以上変動した日はナスダック100が先週金曜の1回だけだし、0.5%以上も日も少ないです。
テーパリング(債券買入の段階的縮小)の発表や実施時期については、すでに十分な情報をマーケットが持っています。また利上げについてもその時期や幅について議論が飛び交っているが、差し当たり直近のマーケットにはその影響は小さいようです。そうなると相場の注目点は大型インフラ法案や増税をめぐる議会の行方に注目でしょう。これらに加えコロナ危機再燃の状況や米中対立そして半導体不足が相場に影響を与えるでしょう。
モルガンスタンレーのウエルスマネジメントやバンカメのストラテジストは10~15%の調整を見込んでいると報じられています。私は、ある程度の調整はあったほうが、その後により健全な相場展開が期待できると思っています。時々調整が無いとFOMO(fear of missing out =取り残される恐怖)的な資金が相場をより加熱させるので、これを懸念しているわけです。
S&P500指数、ナスダック100の日時の株価
■2020年9月~12月
昨年は大統領選挙を控え不穏な動きが目立ちました。ロビンフッターと呼ばれた個人投資家がハイフライング銘柄やミームストック(いわゆるは流行り銘柄)、さらにはそれら銘柄のオプション取引が急増しました。短期急騰銘柄の利ザヤ稼ぎに個人投資家、ソフトバンク、そしてヘッジファンドも猛然と市場に参入しました。
9月以降で大きな波乱は2度ありました。最初が9月2日~23日で約10%調整しました。さらに10月12日から10月28日までに7.4%下落しました。下記のテーブルでは変動率の大きな日をハイライトしておきました。
S&P500指数、ナスダック100日時株価9月1日~12月21日
■2018年9月~12月
この時も大きく動きました。9月20日に付けたS&P500指数の2930が高値で、その後だらだらしながらレンジ内で値を保っていました。それが10月10日を境に大きく下落し始め、12月4日から坂を転げ落ちるように急落しました。大底は12月24日の2351で、この間に19.8%下落しました。ハイライトしてある日をみればその激しさが分かります。
このときに何が起こったかを覚えていますか?景気減速懸念があったにもかかわらずFRBは引き締め政策を推進しました。トランプ大統領が、経済実態を直視せよとパウエル議長を詰るように避難しましたが、FRBは耳を傾けず、結局は相場の下落が金融政策のスタンス変更を促した恰好です。
S&P500指数、ナスダック100日時株価2018年10月10日~12月26日
2005年~2020年の主要4指数のパフォーマンス
まとめと心構え
2017年と2019年は大きな混乱もなく相場は順調に上がりました。なぜ2018年や2020年に乱高下したのでしょうか?「当時はこうなる必然があった」と今になって評論することは簡単です。
しかし、べた凪(なぎ)状態の今年の9月から年末までを予想しそれを投資行動で実践するとなると話しは違います。
前述のように適度な株価調整は健全な株価形成には好ましいと思います。しかし一向に深押ししない相場に対峙した時にどうアクションを起こすのか?更なる高みを信じて買い上がるのか?それとも大きな調整、もしくは20%以上下落の弱気相場を想定するのか?
未来のことは分かりません。しかし、相場の季節性と過去の株価のビヘイビアを検証し、シミュレーションしておくことで不測の事態にも動揺することなく長期投資を維持できます。
過去の再現を信じることは間違いのもとだが、過去に学ばないのはもっと大きな間違いを犯します。作家マーク・トエウインが語ったとされる「歴史は繰り返さないが韻を踏む“History never repeats itself, but it does often rhyme.”」がここでも参考になりそうです。歴史が韻を踏むとき
2009年以降の下落局面
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