米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.24]2021年11月22日配信
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米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.24]2021年11月22日配信
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11月29日号は休刊
***目次***
マーケット振り返り
今週のズバリ!
今週のピックアップ記事
投資のヒント
川田のお散歩
活動情報
質問コーナー
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
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1.マーケット振り返り(11月15日~11月19日)
<主要指数>
・NYダウ -1.4%
・S&P500指数 +0.3%
・ナスダック総合指数 +1.2%
=駆け足バージョン=
好調な経済指標を受けて上昇した長期金利は、国債入札が波乱なく終了して落ち着きを取り戻しました。小売売上高などの好調な経済指標や好決算を背景に成長株が買われ、ナスダック総合指数は史上最高値を更新しました。
=ちょっとだけ詳しく=
週前半は好調な経済指標の発表や20年債などの国債入札への警戒感から長期金利が上昇して株価の重しとなりましたが、好調な企業業績が下支えとなりました。10月の小売売上高は市場予想を上回りましたが、インフレに関わりなく消費者心理が好転していると受け止められ、株価のプラス要因となりました。国債入札が波乱なく終了したことが好感されて長期金利が低下すると、好決算を発表した半導体株などが買われ、ナスダック総合指数は2日連続で史上最高値を更新しました。S&P500指数も木曜日に史上最高値を更新しましたが、欧州での再度の都市封鎖(ロックダウン)などから景気敏感株が売られたため、NYダウは前週末との比較で下落となりました。
S&P500指数チャート 過去1年間
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2.今週のズバリ!
これだけは知っておいてほしい情報をお届けするコーナーです。
再び成長株が買われる
先週の株式市場はまちまちだった。週初に上昇していた長期金利が低下すると、これまでの上昇相場の通例に従って成長株が買われた。市場予想を上回る好決算を発表したエヌビディアなどの半導体株やソフトウエア株などが中心だった。一方、景気敏感株は下落。経済指標の発表は好調だったが、新型コロナウイルスの感染再拡大でオーストリアがロックダウンに踏み切ったことなどが影響した。特にNYダウは、航空需要に対する懸念などからボーイング、決算発表で今期の見通しが低調だったシスコシステムズ、利益率の低下が嫌気されたウォルマート、金利低下からJPモルガンなど、採用銘柄の多くに懸念材料が出て2週連続の下落となった。
注目材料
決算発表が峠を越して投資家の注目はマクロ経済指標や金融政策、そして長期金利の動向に移る。大きな注目を集めるマクロ経済指標は12月3日の雇用統計までないが、金融政策に関しては12月の連邦公開市場委員会(FOMC)のための地区連銀経済報告(ベージュブック)が12月1日に公表され、前回のFOMCの議事録の公表は今週の水曜日(24日)だ。これらに加えて、連邦準備制度理事会(FRB)高官からいろいろなコメントが出されそうだ。
金融政策
FRBのクラリダ副議長は先週末に、インフレの上振れリスクと景気の強さに言及して、12月のFOMCで量的緩和縮小(テーパリング)のペース加速を討議することを示唆した。他の高官のコメントもタカ派的だったが長期金利の大幅な上昇にはつながらなかったため、FRBはタカ派スタンスを市場に徐々に織り込ませるのに成功しているように感じられる。企業業績や経済指標が好調なうちに織り込ませるのは、株式市場が下落しても企業業績などが下値を支えるとの認識があるからだろう。こうしたことが可能なのは、もちろん企業体質が強靭で、政策に頼らなくても利益を上げられるからだろう。
感謝祭休日
さて、今週の木曜日(25日)は感謝祭休日だ。翌日の金曜日の市場は早く閉まり、商いも閑散としており、開店休業状態だ。今週水曜日あたりから5連休という市場関係者も多く、予想外のイベントがあると値動きが大きくなるかもしれないが、こういう事情を理解していれば振り回されることもないだろう。感謝祭休日後、しばらくは小売り関連のデータが注目され、いよいよ年末相場を迎える。
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3.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1】日経新聞
「新しい資本主義」を問う 新しい資本主義、過度な株主還元見直しを 岩井克人氏 2021/11/15 11:30
国際基督教大学特別招聘教授 岩井克人氏
Q:「新しい資本主義」の実現を目指す政権が誕生。
A:日本の企業はバブル崩壊以降、売上高も従業員への給与も設備投資も横ばいながら配当金だけは4倍に。自社株買いで株主還元に拍車。株主の3割は海外投資家で、売買高では7~8割だ。市場が国富を収奪する場に。
Q:なぜそうなった?
A:海外投資家からの圧力で、会社法制が欧米以上に株主重視的な方向に転換した。これを欧米並みに戻さなければならない。
経営者の怠慢も指摘。経営者は次の成長に向け、生み出した付加価値を設備投資や研究開発、従業員に対する人的投資などに振り向けるべきだ。米国でさえ自社株買いの弊害が指摘されているのに、株主主権論に配慮して、株主還元で責任回避。
いわい・かつひと 東大経卒、米マサチューセッツ工科大(MIT)博士(経済学)。専門は理論経済学。「会社はこれからどうなるのか」など資本主義と企業に関する著書・論文も多数。
【川田コメント】
日本の企業が純然たる利益追求の装置でないことは明白だ。企業経営に必要なヒト・モノ・カネのうちヒトを変動費ではなく固定費として捉えているのが日本企業だ。米国の投資家目線と異なっていて当たり前だ。
岩井先生は“日本の会社法制が欧米以上に株主重視になっているから、これを欧米並みに戻せ”そして“日本企業は買収しやすいカモと見なされている”と言う。
株主の権限については米国と欧州では大きく異なるので、「欧米」として一緒に議論するのは論点がクリアーではないと思う。岩井先生からみると米国が異質なのだということだと思う。
岩井先生も宇沢弘文も、米国流の資本主義がもたらす負の側面に早い時期から警鐘を鳴らした。現在、その危機が環境汚染や所得格差拡大の形で我々に跳ね返っている。
ただし、米国ではこの負の側面を修正するのも資本主義に基づいている。日本は成長よりも分配の声が大きいように見える。岩井先生に資本主義が抱える宿痾に対する処方箋はあるのだろうか。
ところで、数年前にヒットしたのが『経済学の宇宙』(日経ビジネス人文庫) 文庫 – 2021/8/3 岩井 克人 (著)、 前田 裕之 (その他)だ。
私の手元にあるのは2015年の第1版だ。この人の著書は思索的で難解と言われる。今回、本書をめくってみたが、やはり難しい。トピックのカバレッジはずいぶんと広い。第一章の「おいたち」では幼少時から異才を放っていた様子が分かる。高校時代にすでに世界の哲学的な名著を読み漁っている。そして東大では小宮隆太郎ゼミだ。さもありなん、だ。
【2】日経新聞 「新しい資本主義」を問う
新資本主義、人材流動化で成長促せ 三井物産・安永氏 2021/11/17 11:30
三井物産・安永竜夫会長
Q:「新しい資本主義」に必要な論点?
A:日本はこの30年、すでに成長が止まっている。変えるのに必要なのは労働力の移動を促す仕組みの整備だ。
Q:政府の「新しい資本主義実現会議」の緊急提言も人材流動化の重要性に言及。
A:人材の流動化を象徴するのが中途採用だ。2020年度は新卒135人に対して中途を42人採った。社内にスタートアップの育成機関を設けて若手社員に挑戦の機会を与えつつ、成功と失敗の知見を蓄積している。
Q:終身雇用や定年制を含めた働き方の見直しも焦点です。
A:終身雇用という仕組みがあるがゆえに、社員一人ひとりが若い時期から人生設計を描くことをしなくても済む社会になっていた。
やすなが・たつお 1983年東大工卒、三井物産へ。2015年、役員の序列を32人抜きする異例の人事で社長に。21年から現職。経団連副会長も務める。
【川田コメント】
私は、日本復活の鍵は雇用の流動化だと思っている。ただし日本の経済を担う大企業は、依然として大卒一括採用が基本だ。
紙面に登場する大企業のトップは、主張と実態の乖離が大きいと感じる。実際に思ってもないことを言わないとダメなのが、日本のエスタブリッシュメントの辛いところだ。
と言うのも、今の日本の社会では、雇用を流動化させて採用に極端な柔軟性を持たせても、会社の成長には繋がらないだろう。見えないがしっかりと根を張っている社会の秩序を無視して、会社や社会を活性化する試みは世の中の賛同や共感を得られない。だから、業績やブランド価値の向上に繋がらないと思う。
【3】日経新聞 自社株買い、米株高支える 9月末で昨年超える90兆円 好業績背景、テック多く 2021/11/18付
米国企業の自社株買いが急増し、株式相場を押し上げている。2021年は9月末時点で約7800億ドル(約90兆円)と、すでに昨年実績を上回る。年間ベースでは、過去最高の18年の約9700億ドル超えも視野に入る。
新型コロナウイルス禍で進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)など、産業構造の転換を商機に変えた企業が多い。稼ぐ力が回復し、潤沢に積みあがったキャッシュを株主に還元する姿勢が鮮明だ。
自社株買いの規模が大きいのは大型ハイテク企業だ。アップル、グーグルの持ち株会社アルファベット、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトの4社合計は1847億ドルと、米企業全体の24%を占める。
純利益に占める配当と自社株買いの合計額の比率である「総還元性向」は20年末に米企業全体で前年比33ポイント増の平均83%だった一方、日本企業は同6ポイント増の29%。
【川田コメント】
米国株式市場の時価総額は、ざっくり4500兆円。自社株買いが90兆円ということは約2%に相当する。つまり1株当たり利益は2%程度はかってに増えるので株価が同じならその分割安になる理屈だ。
自社株買いについては株価至上主義を助長するとの議論も多く、米国でも規制強化の議論も出ている。しかし、この低金利に乗じて社債発行で資金を調達し、それを原資に自社株買いを実行しているハイテク企業も多い。
米国では株主価値を高める行動を取らない経営者は職務怠慢と受け止められるかもしれない。
株価が上昇すれば株主に売却の機会を与えられる。それが消費に回って経済成長を促す。
株式を経済に有効に活かそうという発想がない日本人の思考回路で米国株式を理解するのは、間違いの元だ。
このあたりの事情は下記、みずほ証券ストラテジストである菊地正俊さんの説明に詳しい。『なぜ米国企業は「自社株買い」を重視するのか?』
【4】バブル秘史:波乱の証券業界/1 王者、野村証券に負けるな=恩田饒 | 週刊エコノミスト Online
【川田コメント】
この記事の語り部である恩田饒(ゆたか)さんは、私、川田の大和証券NY時代の上司だった方だ。かん高い声で部下を厳しく指導していた。大和証券で常務を務めた後、様々な分野で活躍している。現在86歳でIT企業ITbookの名誉会長だ。
その恩田さんが1980年代の事業法人営業を振り返っている。野村、大和、日興、山一の大手4社が上場法人の幹事シェアを寡占していた時代で、4社それぞれに特徴がある。
しかし、実際は野村証券がダントツに強く、当時の「大蔵省も野村証券の意向を確認してから行動を起こしていた」。
ここはとてもよく分かる。私は1981年当時は引受部に在籍していた。事業法人部と一緒に上場企業の資金調達をアドバイスする部署だ。そこで商法、証取法を踏まえて提案書を作成し、法人営業員と一緒に幹事獲得活動に勤(いそ)しんだ。
■伝統芸能の継承者?
当時の4社の特色を表す言葉として「法人の山一」、「情報の野村」と言われていたが、実際は、野村の後は三社が横一列だった。ただし大和は財閥グループとのパイプが細く、主幹事獲得競争では苦労していた時代だ。
恩田さんの記事にもあるが、主幹事や幹事シェア争いのためには、日参して誠意を見せるのが重要だったことが分かる。ただし、米国では金融界のイノベーションを目の当たりにした。何をやるにしても、大蔵省主導の証券会社は、人間関係の強化ぐらいでしか差別化ができない。それと、米国のイノベーション主導と比較して、日本の証券会社は「伝統芸能の継承者か?」と揶揄されるようなものだった。
どんなに金融の技術が進歩しても対人の関係が基本にあることには変わりないはずだが、今でも“日参”がカギなのだろうか。この記事を読んで「昭和の時代の幹事獲得競争」を懐かしく思い出した。
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
やっぱりS&P500指数には勝てないでしょう?
常日頃、個人投資家はもとより、機関投資家のファンドマネジャーでもS&P500指数等のベンチマークを上回る運用成績をあげることが難しいと紹介している。今年の相場もあと1カ月あまりを残すのみになったので、メディアでもこの話題が増えてきた。そこで、このコーナーでも、皆さんへの注意喚起の意味も込めて、再度おさらいしておく。
①バークシャー・ハサウェイ(の保有銘柄ポートフォリオ)も大したことない
日経新聞 バフェット氏は指数に勝てたか SECへの報告書を分析 11/17
2021年9月末現在のバークシャー・ハサウェイの保有銘柄数(米国市場上場のみ)は1銘柄減って41銘柄。一定の仮定を置いて計算した7~9月期の投資収益率は0.78%とさえなかった。
20年以上も継続して保有しているのは、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、ムーディーズ、プロクター・アンド・ギャンブル、ウェルズ・ファーゴの5銘柄だが、最後の2銘柄はすでに大半を売却したため、実質では3銘柄にすぎない。
保有銘柄の売買はすべて四半期末に実施したと仮定すると、2021年7~9月期は0.78%と、S&P500指数の4.78%を下回った。実は、3四半期連続のアンダーパフォームだった。ただし、2021年9月末の保有銘柄を11月15日まで持っていたとすれば、9月末以降の投資収益率は6.95%と、S&P500指数の4.68%を上回っている。
もっと中長期的な投資成果をみるため、「年初来」「新型コロナウイルスの流行前から」「過去2年10カ月半」「過去4年10カ月半」「過去9年10カ月半」「過去14年10カ月半」「過去19年10カ月半」の7つの期間について、運用成績をベンチマークと比較した。
最近3年弱の運用成績は何とかベンチマークに追い付いている。しかし、5年弱から15年弱までの中長期のパフォーマンスはベンチマークを下回っている。2010年以降、「バフェット氏も80歳代になって神通力を失った」と評されることも多く、事実、グロース(成長)株優位の相場のなかで苦戦した。
20年弱の超長期のパフォーマンスはベンチマークを上回っている。毎年2月末に公表する「投資家への手紙」を読むと、S&P500指数が大きく下落した2002年に小幅のマイナスリターンで済んだことや、リーマン・ショックが起きた2008年の損失がS&P500指数ほど大幅でなかったことが奏功した。
バークシャー・ハサウェイは過去57年の長きにわたってマーケットに居続けているが、株価は凄まじい上昇率だ。ところで今から紹介する数字は今回のポートフォリオではなく、それを保有しているバークシャー・ハサウェイという企業の株価パフォーマンスだ。
S&P500指数が配当込みで年率10.2%なのに対しバークシャー・ハサウェイは20.0%だ。自分で運用をやった人なら分かるだろうが、運や勘で達成できる業ではない。ただし、そのバフェット氏も、パフォーマンスを荒稼ぎしたのは最初の30年間ほどだ。直近の20年間はS&P500指数とトントンと言って良い。
バークシャー・ハサウェイ株価パフォーマンス表
最初は運用資産も大きくなかったので、機動的に動けたのだろう。またグロース/バリューのバリューが優位な時代では、銘柄選択の目利きが効いたのかもしれない。ハイテクは分からないと言って投資しなかったこともパフォーマンスの出遅れを招いた。それでもこのパフォーマンスは驚異的で、この57年間でS&P500指数は230倍だが、バークシャー・ハサウェイは28000倍だ。この数字はポートフォリオのパフォーマンスそのものではないが、ウォーレン・バフェット氏はS&P500指数を大幅に凌駕した稀有な人と言える。
②アクティブ投信のパフォーマンスもやはり勝てない
運用成績がインデックスよりも優れていたアクティブ運用投資信託の割合が50%を超えていたというケースは、「オーストラリアの過去1年」に55.70%という例が見えるだけで、他の市場や他の期間ではアクティブ運用はすべて50%を割っている。
ほとんどの職業人ファンドマネジャーは、長期ではS&P500指数に勝てない。運用にはいろいろな制約があるのも事実だが、その制約がほとんどない個人投資家でも、実際に記録を取って運用してみれば、ベンチマークを凌駕することの難しさを実感できる。
③川田理論:永遠の成長株(『青年』)などない。
■なぜS&P500指数に勝てない?
なぜS&P500指数に勝つことがそれほど難しいのか?S&P500指数は極めて広い銘柄群から一定のルールに基づいて選択した銘柄で構成されている。
一方で人間は個人レベルでは情報の処理能力に限界があり、先入観やら思い込みに基づく誤解、自己の過大評価バイアスが激しく、感情にも左右される。これが、人間が現実を見誤る大きな余地を生み出している。
ここでは、人間が犯す間違いがポートフォリオのパフォーマンスの足を引っ張りかねない例を挙げてみる。
■『永年の青年』銘柄?
昔、バフェット氏が一度買ったら永遠に売却しない銘柄を例えて、『永久保有銘柄』という言い方をしていた。コカ・コーラやアメックス、そして最近ではアップルもその類だろうか?
私は、こういう超優良株を『永遠の青年』に例えている。IPO直後のよちよち歩きでもなし、評価が定まらない思春期でもない。会社としてしっかり売り上げも利益もあり、順調に成長を続けている企業群だ。
■私の持ち銘柄:青年真っ最中
私のポートフォリオの個別銘柄は、こういう青年企業で構成しているつもりだ。例えば指数プロバイダーのMSCI(MSCI)だし、シンガポール企業でEコマースのシー(SE)、さらにはサービスナウ(NOW)やゼブラ(ZBRA)、インテュイティブサージカル(ISRG)等だ。こういう銘柄は心身共に成長している「青年真っ最中」銘柄だと思っている。
青年真っ最中銘柄の5年間チャート
ただし私は、投資の世界に「永遠の青年」などいないと思っている。直近、プロのファンドマネジャーが「青年」だと思っている2銘柄の株価が変調を来した。
11月10日に決算を発表したディズニー(DIS)が、その後の市場で値を崩した。さらにビザ(V)も最近株価が冴えない。ビザの場合は主な理由として、セクター変更に伴う需給関係の悪化が取り沙汰されている。
この2銘柄はアクティブ運用のファンドマネジャーが好む筆頭格だ。そして多くのマネジャーには長期でS&P500指数を上回る「永遠の青年」に見えるようだ。
では、この2銘柄が本当にその尊称に値するのか?将来のことは誰にも分からないが、過去の栄光を少し探ってみる。
■ディズニーの超長期チャート
この会社は設立が1923年でIPOは1957年3月だ。上場当時の1株は株式分割で384株に増えている。公募株価は13.88ドルなので単純に今の時価(154ドル)なら65年間で4260倍だ。仮に65年前に1000ドルかったとすればそれが426万ドルになっている勘定だ。公募株は買えなかっただろうけど、それでもその上昇倍率は凄い。
If You Had Invested $500 in Disney's IPO, This Is How Much Money You'd Have Now
■ビザも凄い
2008年IPOのビザも同様に凄い上昇率だ。株式公開日は2008年3月19日で、その日の引け値は44ドルだ。直近株価はちょうど200ドルぐらい。その間に1株が4株に増えているので、この13年間で18倍になっている。
下記はS&P500指数(ロウソク足)ナスダック100(橙)、ビザ(水色)そしてディズニー(黄色)の5年チャート
■過去20年間
過去20年チャートだと、ビザ(2008年3月上場)は18倍ぐらいになっていて、ディズニーや指数を凌駕しているまさに「青年」そのものだ。その他の3指数はナスダック100とディズニーが一緒ぐらいで、S&P500指数が少し出遅れている。
■過去5年間
ビザは途中までナスダック100を凌駕していたが、この1年ぐらいで差がついた。ディズニーもS&P500指数についていけなくなっている。
■これらの銘柄を買うくらいならS&P500指数を買ったほうが良い
ディズニーもビザも米国を代表する世界の超優良企業だ。この2銘柄を保有し続ければいまでも長期的に主要指数を上回るのか?
両社の知名度、事業としての完成度、そしてその時価総額を勘案すれば、そう思いたいだろう。しかし盲目的に信じるのはリスクがある。
これらの銘柄の将来性を否定することは、自分の銘柄選択能力を否定するような敗北感に襲われる。そして、自分を否定するだけの勇気と知恵を持つのは容易ではない。
私の場合、ここで紹介した長期のチャートを眺めて、これらの会社が持つであろう潜在的な成長可能性を自分なりに判断しているつもりだ。
この2社の成長力がピークを打ったのかどうかは分からない。しかし、主要指数との比較チャートを眺めるにつけ、これらに投資するよりS&P500指数に投資したほうが運用管理の点でコスパが優れているように思える。
④テーマ型ファンドは不安定、指数に永続的に勝つのは難しい
■ARKインベスト・マネジメント社のETFと投信
ARK社はキャシーウッド氏(写真)が率いる新興の運用会社で「破壊的イノベーション」をもたらす企業への投資に特化することで高い成長率を実現している。代表的なテーマ型投資商品だろう。
ETFは下記の5銘柄
ARKK:ジャンルを問わず「破壊的イノベーション」
ARKW:次世代のインターネットの進化に貢献
ARKF:金融の仕組みを変える技術・サービス
ARKQ:自動化に貢献する企業が中心
ARKG:ゲノムやバイオに関連する企業
確かに、これらのETFの過去5年間のパフォーマンスはブッチギリで、S&P500指数をアウトパフォームしている。そして今年の2月ぐらいまでは破竹の勢いで上昇したが、その後が思わしくない。
■S&P500指数との相対パフォーマンス過去5年間
■S&P500指数との相対パフォーマンス過去1年間
日本人投資家が大量に購入してからのパフォーマンスは?
日本の個人投資家はこのアーク社の運用するARKイノベーションファンドシリーズ - 日興アセットマネジメント|日興アセットマネジメントの投信を購入することができる。今年の春までに日本からも大量に資金が流入して、ずいぶんと話題になった。
しかし、日本人投資家が対象に購入したのは昨年秋ごろからではないか?だとすればそれ以降、とりわけ今年2月までに購入した投資家のパフォーマンスはS&P500指数には出遅れているはずだ。
■アーク社の運用の特徴
アーク社が投資しているのは若くて伸び盛りの企業であり、その前段階にある評価がまだ定まっていない研究開発に特化した企業も多い。未曽有の金融緩和や個人投資家のヤミクモな買いで上昇に拍車がかかった側面も否めない。
これらの中から本物の成長企業(青年)が生まれることは間違いない。しかし、それには時間もかかるし投資環境も影響する。それまで同社の目利きを信頼して投資を我慢できる投資家がどれだけいるのか?こういうテーマ型投信が長期でS&P500指数をアウトパフォームすることは難しいだろう。
ARKイノベーションファンドシリーズ - 日興アセットマネジメント|日興アセットマネジメント
【まとめ】
いくつかの事例で、ベンチマーク(ここではS&P500指数)をアウトパフォームすることの難しさを例証してみた。個別銘柄やテーマ型投信に投資するのは、まったくもって正しい投資手法だ。しかし資産形成におけるこれらの位置付けは、コア・サテライト投資手法のサテライトの一部に止めるべきだ。そうでないとあなたの資産は増えない。
資産形成においていろいろ知恵を絞るのはけっこうなことだが、多くの場合、S&P500指数のパフォーマンスを凌駕する運用にならないのではないか?その意味でもバフェット氏が妻に言ったとされる「資金の90%をS&P500指数に投資せよ」は、自分で運用に汗をかいた人ならひときわ刺さる箴言だ。
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新連載「これでばっちり!米国株式を使った資産形成術のすべて」
はじめに
今回、資産形成に必要な基本的な内容を網羅した連載シリーズを始めます。全体の構成は以下のように考えています。
我々はどのような時代に生きているのか?全二回
自立した日本人と自立に欠かせない資産形成 全三回
株式市場は米国にしかないの?
日米株式文化の違い
知っておくべき米国市場の特徴
S&P500とは
なぜ米国は強いのか
おすすめの投資戦略~コア・サテライト投資~
コア部分の投資戦略
サテライト部分の投資戦略
何を買ったら良いのか
情報源と投資
第3話 株式市場は米国にしかないの?第三回
■米国株式の長期上昇を確信させる書物
ここからは私が前回までに書いてきた見方をするきっかけになった書物に関してです。
共通しているのは「米国の歴史や文化は、その他のどの国や地域とも異なっている」です。西洋人にとっては「新世界」であり、プロテスタントによる人工国家。こういう条件が揃うことで、初めて完成度の高い株式市場が誕生し進化したのではないか、いやそうに違いないと私は思っています。
①歴史の終わり フランシス・フクヤマ 著 ; 渡部昇一 訳、三笠書房
私がNY駐在中の1990年に発行された衝撃の本です。
「歴史の終わり」とは、国際社会において民主主義と自由経済が最終的に勝利し、それからは「社会制度の発展が終結し、社会の平和と自由と安定を無期限に維持する」という仮説です。
民主政治が政治体制の最終形態であり、安定した政治体制が構築されるため、政治体制を破壊するほどの戦争やクーデターのような歴史的大事件はもはや生じなくなる。そのため、この状況を「歴史の終わり」と呼びます。
【要点】
上巻では、自由主義に基づく民主主義の歴史的な優越性を説明し、その経緯のベースになった思想や哲学を解説しています。
下巻は、歴史の終りになるかもしれない自由主義に基づく民主主義の弱点やリスク、歴史の原動力が中心です。
歴史の原動力は、プラトンの言う気概(気骨、信念、情熱)です。他人より優れていることを示すためには命を捨てても惜しくないとする「気概」と、他人と同様に認められたいという「気概」です。すなわち対等願望と優越願望です。
自由主義に基づいた民主主義がもたらすのは対等願望の行き渡った世界です。対等願望国家が実現したときの人間の脆弱さに警告を発していたのがニーチェで、奴隷の幸福状態だと揶揄しています。
優越願望による栄光、自尊、賞賛、向上心、努力、克己心が進歩・繁栄の推進力になってきた面があります。
対等願望と優越願望のせめぎあいの中で進むのが歴史だと主張しています。それをもたらすのが気概だというわけです。
【川田コメント】
1989年に東西冷戦が終了し、米国株式市場が大いに上昇しました。当時2500ドル前後だったダウは1万ドルになると言われ、私はにわかに信じることが出来ませんでしたが、実際には1999年3月に1万ドルに達しました。
世界に争い事がなくなれば、モノや人、そして情報が自由に行き来し、それで世界経済が潤いますが、その最大の受益者は米国です。それはつまりは米国企業であり米国株式の株主です。
現実に米国の株式市場は、その後のインターネット黎明期を受けて2000年まで大相場を演じました。
この本に出会うまでに6年ほど米国に滞在していましたが、この本で西洋人、とりわけ米国の知識人の頭の中を垣間見た気がします。そして東西冷戦終了の歴史的な意義について理解を深めたと思います。
いま読み返しても学術的な記述が多く、読了するには多くの事前の知識が求められます。英語の原書は難易度が高く、ネイティブの知識人か学者の指導を受けながら読めば知的な興奮が得られる本だと思います。
私はNY時代に英語を習っていた元高校教師と一緒に少しずつ読み進めましたが、途中までしか読めなかったと記憶しています。帰国して買い求めた日本語版の渡辺昇一さんの訳は秀逸でした。
②小室直樹 日本人のための憲法原論
タイトルに「憲法原論」とありますが、条文の解釈などをテーマにした一般の憲法解説書ではありません。憲法とはそもそも何なのか、どのような経緯で誕生したのか、現代社会にどのように影響しているか、について解説しています。難しそうな内容ですが、出版会社の編集担当者との問答形式で書かれていて、読みやすいです。
【注目箇所】
*伊藤博文の慧眼が欧米近代化の核にキリスト教であることを見抜き、キリストの代替物として現人神(あらひとがみ)天皇をつくりあげた話。
*アメリカから与えられた新憲法のもと、神(神であった天皇)を失った日本は急性アノミーに陥り、権威の喪失は規範の崩壊を招いた。
【川田コメント】
人類がどのように民主主義と資本主義を発明してきたのか。その歴史をとてもわかりやすく、面白く知ることができた。
ひとつは、カルヴァンが提唱した「キリスト教予定説」という思想。キリスト教予定説とは「人間のあらゆる行動は、すべて神が決めている。そして、最後の審判で救われる人ももう決まっていて、現世の行いは関係ない」というもの。
この思想から歴史上もっとも勤勉で倹約な働き者が誕生するなんて、普通は思い浮かばないストーリーだ。そして人間にとっていかに思想や信条が大事か知ることができた。
小室直樹は経済学、政治学、法学、社会学等、幅広い社会科学分野で独創的な研究をしました。時には度を越した辛口発言で奇人扱いされたこともあったそうです。しかし、彼の原理原則を重視するスタンスは本書でもよく現れています。
私はこの本を読んで本当に感動しました。とにかく、我々が学校で学んだことやメディア報道が随分と片手落ちというか、真実を伝えてないと思いました。
現代の日本の根本原因は憲法の機能不全にあるとして、日本人に憲法とは何かを、わかりやすく、しかし深く広く書いたのがこの本です。
欧米の議会政治、民主主義、資本主義、憲法などの成立と背景、進展と、明治の日本への導入・戦前・戦後について書かれています。主にマックス・ウェーバーの宗教社会学に基づいています。欧米の近代化のエンジンとなった資本主義はキリスト教予定説に基づいています。予定説は仏教的な因果律の中にいる日本人には理解しがたい考えです。
予定説に関連した箇所は完全には理解できないけれど、何度読んでも面白い。この本の数ページあと(p180)に「キリスト教の「神」があって初めて、人間は平等だという観念が生まれたのだし、また労働こそが救済になるという考え方が無ければ、資本主義は生まれてこなかった」とあります。
これがプロテスタントの頭の中だとすると、彼らの行動原理は我々とは相当に違います。日本人の場合、この国を支えるエリート職業人は、国家公務員や大企業会社員のように究極的には国のためにわき目もふらず働く人達です。「神」のために働くのではありません。
したがって、彼らは“救い”を求めて働いているようには思えません。ただひたすら役人“道”やサラリーマン“道”など、それぞれの“道”を究め“求道者”を貫くことが本分なのではないでしょうか。そこに金銭的な多寡を競い蓄積を是認・奨励する素地はないのでしょう。
先述の『歴史の終わり』とこの本を読んで、米国株式市場は上昇を続けると確信しました。彼ら米国人は神から救われたい、そのためには一心不乱に働くことが究極の善だという人達です。
③スマート・パワー―21世紀を支配する新しい力 –2011/7/21ジョセフ・S・ナイ(著)、 山岡 洋一(翻訳)、 藤島 京子(翻訳)
【内容紹介】
21世紀の国家に必要な力とは何か。世界的な国際政治学者が、ハード・パワーとソフト・パワーを組み合わせた新概念「スマート・パワー」と、21世紀における日・米・欧・中・露および新興国の「力の源泉」を徹底解説。
【文中から抜粋】
はじめに「アメリカの全盛期は過ぎ去り、同国(アメリカ)が世界で圧倒的な力を持つ時代は終わった」(という主張に対し)こうした見方が正しいかどうか(中略)この問いに答えるには、力について語る時にこの言葉で何を意味しているのか、21世紀の情報革命の急進展とグローバル化という状況のもとで、力の意味がどう変化しているのかをよく理解する必要がある。いくつかの陥穽に気をつける必要もある。
【コメント】
ジョセフ・ナイ氏は民主党政権で政府高官を務めてきた知日派です。私は2016年10月に上智大学で開催された「学生応援プロジェクト2016年米大統領選と日米関係の行方、ジョセフ・ナイ白熱討論」に出席しましたが、当時のトランプ候補のことを嫌悪感もあらわに酷評していました。現実はナイ氏の期待とは異なり、トランプ大統領が当選しました。
ところで、本書の題名の「スマート・パワー」とは「強制と金銭の支払いという“ハード・パワー”と説得と魅力という“ソフト・パワー”の組み合わせだ」と解説してあります。
オバマ時代はソフト・パワーに傾斜した外交姿勢でしたが、トランプ政権ではハード・パワーが強烈でした。米国株式が好調なのは、この両方が強化されていることを投資家が好感しているからでもあると解釈していました。
■株式市場は極めて高度なソフトパワー
一般大衆から資金を集め、それを市場を通して必要な分野に配分するのが株式市場の大事な役割です。米国はこの活用ノウハウを極めていて、他国はマネできないでしょう。市場に規律をもたらす「適者生存」や「創造的破壊」を真に「正義」だと考え実践しているのも米国です。これだけ完成度の高い公開市場を進化、純化させられるのは米国の「スマート・パワー」のなせる業です。
本書には私がこう信じる理由が丁寧に解説してあります。そして「米国衰退論」とは真逆のことが現在起こっていることを理解できると思います。米国株式の長期投資を目指す人なら、多くのヒントを見つけ出すことができるはずです。
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5.川田のお散歩
◇◇最近行ったお気に入りのお店(映画、美術館編)◇◇
■見どころ
フレデリック・ワイズマン監督が、アメリカ・マサチューセッツ州ボストンの市役所の業務を追ったドキュメンタリー。多様な人種と文化が共存する大都市で、警察や消防、保健衛生、高齢者支援など多岐にわたる公共サービスを行う市役所の裏側を映し出す。市民の幸せのために奔走するマーティン・ウォルシュ市長をはじめ、さまざまな問題に向き合う職員たちの姿を通し、住民のための行政の在り方を問いかける。
■あらすじ
長い歴史を持ち、さまざまな人種や文化が存在する大都市アメリカ・マサチューセッツ州ボストン。その市役所の電話窓口には道路の補修、停電などといった住民からのあらゆる要望やトラブルが持ち込まれ、職員をはじめマーティン・ウォルシュ市長らが日々事態に対応している。フードバンク、全米黒人地位向上協会(NAACP)との話し合い、同性カップルの結婚式、高齢者や生活困窮者への支援など、ボストン市役所の業務は多岐にわたる。
■著名人コメント全文(順不同・敬称略)
50年以上、世界をクールに観察し描写してきたワイズマンだが、世界中でデモクラシーが危機に瀕する中、ついに極めて「政治的」な映画を撮った。ただし、大巨匠が繰り出したのは「告発」や「批判」ではなく「祝福」である。撮影時88歳。彼は実は熱い人だったのだと、僕の胸も熱くなる。
想田和弘(映画作家)
“すべての声を聞く”ことを、はなから諦めない人たちが写っていた。その姿を押し付けがましく提示しない。一人の訴えを、共に解決に尽くす時間を、街の実景と同じよう、そのままに見る・聞くことへと私たちを促す。“すべての声を聞く”ことを、作り手も信じているからだと思った。
小森はるか(映像作家)
ドキュメンタリーという手法が持つパワーに圧倒されました。フィクションではないからこそ、日常の中の民主主義のリアルさが地響きのように伝わります。日本の政治や行政の在り方と比べると、更にいろんなことを考えさせられます。
中林美恵子(早稲田大学教授)
日本の自治体の仕事と驚くほど似ている。しかし、市役所の仕事は市民からは見えにくい。それを伝えるため、様々な場面で市民に語り掛けるボストン市長に共感と感動。
越直美(元大津市長)
【川田コメント】
■ここでも問題は人種、階級、宗教
274分なので休憩を挟んで5時間の長尺となり、私が観た中では一番長い映画だろう。普通の米国映画では英語がほとんど聞き取れないが、この映画では登場人物は非常に明瞭に話していた。あと、字幕をみれば意味はそれなりに理解できた。
米国で暮らした経験がないと 映画の意図を理解するのは難しい。実際、終わったあと近くの高齢者は筋が分からんとボヤき気味だった。トランプを名指ししていないが、分断を煽る共和党政治には反対の立場だ。
ここでも人種 階級 宗教が基本的な問題の根源。そして自由と自治は自らの力で勝ち取るものとされている。しかし、出自や肌の色、そして移民時期にあるハンディキャップは容易に埋まらない。これらのハンディを解消してくれる強力な武器が米国株式投資のはずだ。しかし、その知恵も元手もない人が弱者として登場する。
■我々、駐在員はしょせん“お客さん”
映画を見ると留学や駐在時が懐かしく思い出された。私の場合は米国人の職を脅かす立場ではなかった。むしろ大学や職場で米国人に学ぶ、つまり授業料や観光料金を払う「お客さん」の立場だ。
映画の登場人物はリアルに差別、区別そして迫害を受ける人達で、どこにも逃げ場がなく、憤懣やるかたないだろう。日々、理不尽と戦っているわけで、我々の“甘え”からくる不満や不安とはレベルが違う。
ところで、この映画にはボストンの観光名所や美しい大学のキャンパスは出番がない。米国の都市部ならどこにでもある古ぼけたレンガ色の建物や老朽化した施設のコミュニティーカレッジがその舞台だ。
その中で交わされる会話や不公平な手続きに、当時の自分を思い出した。当方の英語力や立場を一顧だにせず早口でまくし立てる事務員。一向に聞き取れない方言や俗語(に違いない)を連発する店員。分かっていなくても「分かった」と言わないと終わらない事務手続き。交渉事の前は事前に英語で反復練習するものの、本番ではその十分の一も言えなくて相手の言い成りになるのがおちだったこと、などだ。
■受けた恩義
当時の疎外感や孤独は、家族や日本人仲間がいたから耐えられたのだろう。その一方で見ず知らずの我々家族を食事に誘ってくれる隣人もいた。話してみて分かったのは「自分らが移民したてのころはこうやって隣人の親切を受けた。だから今度は自分が隣人をお世話する番だ」ということ。
しかし、当時の我々は移民ではなく短期滞在のお客さんだ。招待者はそれが分かると少し落胆していたように見えた。「なーんだ、おたくらは我々と運命共同体ではないのだな」と。こういうことが何度かあった。
そういえば向いに住んでいた台湾系のチューさんも帰国の異動がでて挨拶に行ったら「シゲ、お前帰るのか?ここ(米国)に住みつくんじゃないのか?」と、やや意外な反応だった。映画に登場する移民一世の心の内に自らの思い出を重ね合わせた。
■コミュニティーの持つ力
この映画ではコミュニティーの持つ力が再確認できる。想像するに、かつて地域の共同体で教会が果たしていた役割を現代は市庁舎が担っている。つまりコミュニティーのハブ(中心)としての機能だ。
このコミュニティーの一員にならないと、そのベネフィットは享受できない。何事もコミットメントだ、つまり米国人になって初めてコミュニティのメンバーになれる。映画に登場する弱者は後戻りできない移民一世が多かった。当時の駐在員とはコミットメントがそもそも違っていた。
今週の感謝祭あたりから米国ではとりわけ家族の繋がりが強くなり、隣人や職場の同僚と集い合い、そして教会の催し物にも出向く機会が多くなるようだ。
そうなると我々「お客さん」組は家族で行動することが増えるが、コミュニティとの繋がりは一時的に希薄になる。その時に感じる疎外感も今となってはいい思い出だ。
ところで当時受けた恩義を今度は日本で誰かにお返しする番のはずだ。ところが、どうにもその余裕もなくただアクセク忙しい振りをしている自分をもどかしく感じる季節に今年もなってきた。
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6.今後の活動情報
◇11月26日(金)午前8時15分 日経CNBC(キャスターは改野さん(写真))
◇12月1日(水)午前11時 ストックボイス
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7.質問コーナー
Q:長期的に世界の経済成長と世界の株価はリンクして、今後『世界経済は右肩上がり』と考えていいのでしょうか?
A:私はそう思っています。世界中がメチャクチャになる世界規模の戦争や災害では相場は崩れますが、人類の英知でしょうか?基本的に右肩上がりです。戦後の勝ち組は当初日本、そしてその後は中国。しかし一貫して強いのは米国です。
Q:経済成長と株価のリンク関係が壊れることがある場合は、例えばどんな状態があるのでしょうか?
A:ここは難しいのですが、経済成長と株価がリンクしているのは米国のような民主主義と資本主義の仕組みがしっかりしている国です。
新興国や独裁国家では、経済が成長してもその果実(儲けや豊かさ)が誰に分配されるかは為政者の恣意的な要素が強いです。
私はその国の経済成長と株主利益の相関は小さいと考えています。特に新興国ではこの経験則が当てはまります。この記事が上手く説明しているかもしれません。
教えて投信先生!! 新興国株式で損する理由 | F-Style Magazine
最近では海外株にも手軽に投資できるようになっており、株式投資を考える場合でも日本株が唯一の選択肢ではなくなっています。海外株の選択肢は幅広く、思い切って新興国へ投資する個人投資家も増えているようです。最近では新興国人気がやや下火になりつつありますが、インド等は依然として人気エリアとなっているようです。
この記事はすごく腑におちます。
・経済が伸びている国でも株式が上昇するか否かは分からない
・一国の経済成長と株式リターンには負の関係があるという研究もある
・経済成長の果実はどこに落ちるかわからない(株主とは限らない:消費者、政府等)
・政治がそこに絡んでくることも多い(未成熟な政治体制リスク等)
・株式リターンは経済成長、為替、投資家の期待、増資など様々な要素から影響を受ける
・「新興国株式だから魅力的」という単純な判断は危険
アメリカ株については、あまり心配不用と考えてらっしゃる。本当に勉強になりました。
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