米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.14]2021年9月13日配信
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.14]2021年9月13日配信
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
***目次***
マーケット振り返り
今週のズバリ! 【相場見通し】
今週のピックアップ記事 【米国の宗教と社会】【日本企業の突破口】【米国同時多発テロ】
投資のヒント 【ストラテジスト予想の使い方】
川田のお散歩 【起業と9.11】「川田君、自殺するなよ」
活動情報
質問コーナー 【あなたが儲からない理由(わけ)】
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
さあ、2000万円達成までのカウントダウンを今すぐ始めよう!
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
1.マーケット振り返り(9月6日~9月10日)
<主要指数>
・NYダウ -2.2%
・S&P500指数 -1.7%
・ナスダック総合指数 -1.6%
=駆け足バージョン=
全体的に様子見気分の強い週で、景気回復に対する懸念が強く、NYダウとS&P500指数は前週金曜日から5日連続で下落しました。週末発表の生産者物価指数の伸びが市場の予想を上回って金利が上昇したことも警戒感につながりました。
=ちょっとだけ詳しく=
レイバーデーで4日間だった株式市場では、新型コロナウイルスの感染再拡大などによる景気回復懸念が重しとなりました。新規失業保険申請件数の低下はあったものの、地区連銀経済報告で、景気回復が7月初旬から8月にかけて緩やかなペースにやや減速したとの認識が示されたことなどが嫌気されました。一方、FRB高官から年内の債券買い入れ枠の縮小(テーパリング)を支持する発言があったほか、生産者物価指数が比較可能な2010年11月以降で最大の上昇率となったこと、欧州中央銀行が債券買い入れ枠の縮小を決定したことなどから金利が上昇しました。景気と金利の両面で好材料が見当たらず、小幅な下落が続いた結果、NYダウは7月中旬の水準に下落しました。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
2.今週のズバリ!
これだけは知っておいてほしい情報をお届けするコーナーです。
軟調相場
夏休み期間中に高値圏で推移していた株式市場は、先週ずっと軟調だった。マクロ経済環境、金融政策、株価バリュエーションなど、どの観点からも積極的に買いを入れる理由にとぼしく、ナスダック総合指数だけが休み明けの火曜日に史上最高値を更新したが、夏休み中に上昇した分をポケットに入れた感じだ。
慎重な見通し
こうした状況に加えて、季節的に弱い期間に入ることもあり、銀行や証券会社から慎重な見通しの発表が相次いでいる。
バンク・オブ・アメリカは自社のモデルのシグナルとして、今後10年間のS&P500指数の年間平均リターンがマイナスになった(ITバブル以降で初めて)と警戒し、モルガン・スタンレーは早期の金融緩和縮小や新型コロナウイルス感染拡大などを警戒して株式のウエートを引き下げた。
シティは公的部門と民間部門の信用創造の流れがマイナスになりつつあることを最大の懸念材料に挙げた。ゴールドマン・サックスは第3四半期のGDP成長率の予想を大幅に引き下げたほか、ネガティブサプライズに対する緩衝材がない状態だと指摘した。クレディ・スイスも割高なバリュエーションと規制懸念から若干のアンダーウエートを継続した。
それでも買い持ちがベスト
これらのコメントはもっともだが、いずれも株式市場や経済・金融環境から指摘される内容だ。日柄的にある程度の調整はあってもおかしくないと思うが、上記の理由による調整はせいぜい10%程度だろう。これは天井と底を事後的に測った場合の数値だから、現実のトレードでうまく波乗りができても7%程度が上限ではないか。長期の資産形成を目指すのであれば、その程度を気にせずに肝を据えて買い持ちを続けるべきだろう。売った後に買いそびれるリスクのほうが大きいと考えている。
市場外部のリスク要因
10%を超える調整があるなら、市場の外部からの要因だろう。考えられるものとしては、債務上限や予算案を巡る政治面の混乱、欧州の金融緩和解除の勇み足(先週の動きは想定内)、中国の不動産企業などの米国外の債務問題、デルタ株を上回る感染力の新型コロナウイルスの蔓延、地政学的リスク、そしてそれらの同時発生によるパニックだ。
いずれにせよ買い材料にとぼしい展開が続きそうだ。値幅でなく日柄で調整して、企業の決算発表に投資家の注目が集まる10月下旬につながる展開がベストシナリオかもしれない。
S&P500指数過去1年間チャート
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
3.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【米国の宗教と社会】
【1】日経新聞 「再生エネ安、米の脱炭素を後押し」 9/6
■記事要旨
米国人の6割は化石燃料の使用を大幅に減らすべきだと考えている。残りの4割は大半が共和党支持者で気候変動を全否定。ハリケーンの危険性は理解するも、気候変動の深刻さは信じていない。
ルイジアナ州沿岸部に住む白人保守層に「なぜ環境規制を嫌悪?」に「環境汚染に慣れてしまった」からと。
米国が気候変動に対し世界で最も懐疑的なのは政治的、文化的な要因も大きい。最大の要因は、共和党が温暖化問題について長年、組織的に有権者に事実とは異なる情報を与えてきたこと。
党内で気候変動否定論が優勢なのは、キリスト教福音派の悲観的な世界観も。白人の福音派は温暖化の科学を受け入れようとはせず、自分たちの考え方に不都合が生じると、コロナ禍や自然災害は神が堕落した世界に下した天罰として片付けてしまおうとする。
■川田メモ:宗教国家アメリカの現実を直視せよ
普通に教育を受けた日本人の感覚からはほど遠い
“宗教国家”アメリカの現実がここにある。橋爪大三郎の世界は宗教で動いてる(光文社新書)を参考にすれば、どこの国でも政治は大事だが米国ではそれ以上に大事なものがあるという。それがGodだ。政治は教会と信仰を守るためにある。Godは王や政治家より大事なのだ。Godの言葉である聖書や教会がGodのつぎに大事。これらをないがしろにする政治家は批判の対象になる。宗教と政治の関係は現代の日本人には極めて希薄だろう。それだけこの記事の真のメッセージを読み取ることは難しい。
【日本企業の突破口】
【2】日経新聞 英国空軍に学ぶ情報戦略 企業、知財生かす「司令部」を 9/6
80年ほど前の1940年9月、英国空軍ははるかに強大なドイツ空軍に勝利した。押し寄せるドイツ空軍3000機強、迎え撃つ英国空軍の戦闘機は1000機弱で、英国の運命は風前の灯火(ともしび)と思われた。しかし約2カ月の戦いで1200機を撃墜し、勝利したのは英国だった。
勝利のカギは、レーダーと統合防空システムだ。英国司令部はレーダーというインテリジェンス(知性)を活用し、強大な敵と互角以上に戦うことができたのだ。米国や中国、韓国の先進企業の後じんを拝している、現在の日本企業は当時の英国に似ているのではないか。必要なのは客観的な情報を集めるレーダーと有利に戦う場所を決める司令部だ。
レーダーとして注目を集めるのが、知的財産などの分析を経営判断に生かす「IP(知財)ランドスケープ」。また、東証が6月に改定したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は経営陣に知財投資・活用のための司令部機能を果たすことを求めている。いわば「知財ガバナンス」である。知財活用に本気な企業はインテリジェンスの強化に動いている。英国が情報収集を始めたのは、ドイツの空襲を受ける15年も前だった。インテリジェンス活動は静かに始まり、地道に続けられ、やがて決定的な役割を果たすのだ。
■川田メモ
うーん。この記事、結論としての「日本企業頑張れ」は分かるけど、具体論に欠けていると思う。それに、当時の英国と今の日本企業を似ているとしている点に無理がある。英国がインテリジェンスの成果でドイツに勝利したのに比べ、日本企業はインテリジェンス(知財)戦略で出遅れたため、各国の後塵を拝しているのではないか。
それに、東証がガバナンス・コードを改定したからすぐに企業が変わるものでもない。知的財産のような「目に見えないもの」の価値を見極めて事業に活かすには長年の忍耐と努力が必要で、その道の専門家を育て、それなりの処遇をする必要がある。ただし、目先の収益にはなかなか結びつかないため、経営者は腹を据えて取り組む必要がある。
いずれにせよ知財戦略で対抗できるのは一部の企業だけだろう。それよりも、知財戦略以外の他の得意分野で攻めて、知財戦略は提携で乗り切るなど、ドライに割り切った方が良いように思う。
【3】日経新聞 日本企業よ、ダイナミックであれ 9/9
■日本企業の問題点を三点指摘
第一に、日本企業の行儀が良すぎ、逆に大胆さが消えた。
第二に、過去へのこだわりが強すぎる。
第三に、国内事業の比率が依然高い。
上の三つは同根だ。事業活動それ自身がリスクなのだから、現時点の事業が直面している大きなリスクとその変化に目配りしつつ、同時に新たなチャンスを具現化することで、リスクと利益の最適化を実現する。このダイナミズムを取り戻すことが今の日本企業に強く求められる。
■川田メモ:終身雇用からの脱皮が日本企業復活の鍵
日経新聞の本当の名称(?)は日本経済“応援”新聞だ。記事が唱えるように日本企業にも戦い方はあるに違いない。ただし、私に見える日本企業の一番の問題点は就業形態であり、つまりは終身雇用制度の扱いだ。高度成長期と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持て囃された1980年ごろまでは世界中で賞賛された雇用システムだが、今はそれが弱点になっていると感じることが多い。
私の場合でもそうだが、大学入学で地元を離れ、就職で京都から東京そして海外と、自分の意思とは無関係に転勤を繰り返した。その間にスキルを身に着け人脈を広げる。その意味では業容発展期には良く機能したシステムだと感じる。しかしこのシステムは従業員に一生安泰という誤った安心感と自己規律の弛緩を生むリスクを孕んでいる。
日本の雇用問題について正鵠を得た論陣を展開しているのが八代尚宏昭和女子大学特命教授だ。今回、アマゾンで注文したこの本日本的雇用慣行を打ち破れ | 八代 尚宏 |本がいま届いた。中古本で配送料金含めても528円だ、安い、そして面白い。以下は紹介文から抜粋。
「労・労」対立こそ問題の核心だ!日本の雇用問題の本質は、正規と非正規など労働者同士の利害対立=「労・労対立」だ。
戦後の経済成長に大きく貢献した、長期雇用保障・年功昇進・企業別組合という「成功体験」をもつ日本では、過去の遺産に固執し、それを守ろうとする動きが根強い。
その典型が、男性正社員が、長期の雇用と家族を養う生活給を保障される代わりに、使用者に命じられるままに、どのような仕事でも無限定で働くという仕組みだ。
職種・職務に限定のない働き方をする大企業男性正社員を中心モデルとして形成された日本の雇用慣行は、今や「効率的だが不公平な働き方」になってしまっている。
以下は川田メモ
■現代の「身分制度」を打破せよ
しかし現実は教授の指摘する方向にはすんなり行かない。終身雇用の問題は、新卒の就職段階でその人の職業人人生がほぼ決まることだ。超一流企業に入社すればそれで一生安泰だ。そしてこれだけ好待遇だとリスクを取ってチャレンジする気にもならない。
日本の企業社会にもっと活力が欲しいなら、終身雇用制度の見直しが不可欠だ。さて、どの組織にも序列やブランドがある。それらは本来、その組織の努力や功績の結果に対して社会が与えるものだ。この組織の就業形態が終身雇用だけなら、新卒時点でその人の一生がある程度決まってしまうことになる。これは言ってみれば「身分制度」だ。
階級社会も身分社会も人間の本性が生み出す必然かもしれない。仮にそうであっても、その中で生きる個人の意思と努力で階級や身分の壁は打破できる仕組みがあるべきだ。
【米国同時多発テロ】
【4】日経新聞 9.11から20年、米州の記者が振り返るあの日の衝撃(写真=ロイター) 9/11
同時テロを米国が襲ったのが2001年9月11日だ。日経新聞の米州総局で当時取材し、今もNYやシカゴで記事を書く3人の女性の座談会だ。ちなみに爆破されたワールドトレードセンター (WTC)ビルのすぐ近くの高層ビルに私の駐在時の事務所があったのでWTCには何度も行ったことがある。
テロが起こったのはレイバーデーが終わった火曜日の朝だ。日本では火曜日の夜。テレビに異様な画面が映し出され、ただ事ではないと気づくのに時間はかからなかった。
米国の株式市場はその日から4日間閉鎖され、再開したのは9月17日(月)だ。取引再開後、株価は下落し続け、翌週9月24日(月)から上昇に転じた。その後2002年1月まで上昇を続けたが、再び軟調になった。この相場でS&P500指数が最終的に底を打つのは2002年10月9日だ。この下落では2000年3月23日の高値から49%下落している。
S&P500指数2001年7月~2003年10月頃
年間ベースでS&P500指数が3年連続で前年比でマイナスに陥った極めて珍しい期間だ(このメルマガトップの表を参照)。1989年の冷戦終了を経て1995年から未曽有のIT相場で思いっきり買い上げられた後の大混乱だ。この記事の座談会の出席者によればあの頃は「米国が一つになった」と感じたと言う。
その団結を経て経済に活気が戻ったと思ったら、今度は金融危機に見舞われた。2001年からの10年間(2001年~2010年)はS&P500指数の年間パフォーマンス(年率+1.38%)が近年では最悪の10年間だった。
良いことも悪いこともド派手なのが米国だ。その時の10年でS&P500指数は2回も半値になった。それでもやはり株価は上がり続ける。そして、何があろうと米国の将来を信じて株式を買い続けるその姿勢に、彼らのアニマルスピリットが見て取れる。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
■ストラテジスト予想の使い方
■株式ストラテジストとは
ウォール街にはストラテジストというポジションがある。投資戦略を設計する「立案者」のことだ。 経済の動きから産業・企業の動向、証券の需給要因まで、様々な視点から投資環境を分析し、投資方針を顧客に提供する。
ストラテジストは株式だけではなく債券や為替にもいる。ここでは株式ストラテジストに焦点をあててご紹介する。またストラテジストと言えばセルサイド(証券会社)に著名人が多いが、大手のバイサイド(運用会社)や独立系にも、その名を馳せる有名人は多い。
セルサイドの著名人ならビジネスを所属している金融機関に取り込むし、メディア露出が多ければブランディングにも寄与する。一方でバイサイドは地味な印象がある。独立系は、その前職がセルサイドストラテジストということが多いが、生き残れる人は少ない。
■ストラテジスト予想
今回はストラテジスト予想のクセや予想の役立て方をご紹介する。私の編集する「バロンズ・ダイジェスト」の最近のもの(9/6号)に登場した6人のストラテジストの予想を以下にまとめてみた。予想が注目を集めるのは年末年始とこの時期だ。年末年始は今後1年の予想なので投資家の関心は高い。秋は投資家が夏休みから戻り、政治や海外情勢、さらには企業や消費者の活動が活発になるのもここからだ。そこで今一度相場環境を整理して見通しを投資家に伝えていると注目度が高い。
■主流はファンダメンタルズ予想
彼らストラテジストは勘や需給そして計量分析を重視するトレーダーとは異なり、ファンダメンタルズ(金利、企業業績、為替等)から論理的に相場予想を組み立てる。勿論、株式需給や資金移動そしてM&Aや自社株買い等も株価に与えるインパクトは大きい。ただし、需給や計量指標を重視するストラテジストはクオンツストラテジストと呼ばれることもある。
■マーケットの変化にストラテジストが追いついていない
この10年ぐらいは株式市場の変化にストラテジストが追いついていないように感じている。その影響があるのかどうか分からないが、マーケットの上昇よりストラテジストの予想数字が概ね低めで、この数年は特にその傾向が顕著だ。
具体的には、ハイテク銘柄を正しく評価できていない、プラットフォーマーの大躍進でこれら少数の銘柄の時価総額が飛躍的に膨らんだが、この現実に懐疑的だ。またコロナ危機を契機に一気に進んだDX(デジタルトランスフォーメーション)がもたらす社会変革についてもいまだ半信半疑で過小評価している。
その結果、少数の銘柄で指数を牽引する相場に警戒感が強いので、指数は買われすぎとの判断が先行する。金融、エネルギー、資本財、素材、生活必需品セクターを構成する伝統的なバリュー銘柄が割安に放置されがちだが、これらがいずれ再評価されるとして推奨し続けるストラテジストが多い。これのセクターはずっと出遅れたままなので予想が外れ続けている。
■ストラテジストの癖(くせ)
①セルサイド・バイサイド:ストラテジストの所属組織でも違いがある。一般的にセルサイド(証券会社)のストラテジストはバイサイド(運用会社)よりも予想のターゲットが広い。つまり強気の天井と弱気の大底が深い印象がある。証券会社は顧客の売買が増えれば収益が増える点が理由かもしれない。一方、運用会社は株に弱気になると、今度は債券に強気にならないと取り込んだ資金を逃がす。そんな大人の言い訳が予想に働いているように感じる。
② 欧州系の予想は低い:バークレイズ、ドイツ、ソジェン、UBSのような欧州系はおしなべて予想は低めというのが私の体験的印象だ。彼らは地元(欧州)と新興国に強みがある。それが理由か「米株は割高なので欧州や新興国に投資しましょう」が基本のメッセージのことが多い。
③欧州は創造的破壊が苦手:既存秩序にどっぷり胡坐をかいたエリートが欧州の証券会社には多い。つまり出自や社会的階層でアドバンテージを持った人達が“金融村”に巣くっている。そういう人達に米国のダイナミズムや下克上は“不都合な現実”だ。それもあってか、米国株は万年割高に見えるようで、それが災いしていると感じる。
■直近のストラテジスト予想と年末株価
下記のチャートは、またまた弊社の佐々木研究員(写真)の考案だ。株価はS&P500指数の過去5年間だが、赤枠は年初の値と参加ストラテジストの年末予想を対角線を下に長方形で囲った。また黒い実線は年末の値を左横に伸ばしてみた。
過去数年はストラテジスト予想は現実の株価に比べ地味だ。その前、つまり2014年~2016年ごろを振り返るとストラテジスト予想の方が強気な年もあった。
彼らの予想株価は1株当たり利益にPER(株価収益率)を乗じて算出される。そしてPERは金利やインフレ率などを勘案して予想されるが、ここにストラテジストの裁量の余地が大きくあり、結論を左右する。
過去3年間のストラテジスト予想と実際の年末株価
■つまるところストラテジスト予想とは
上述のように彼らの予想がピタッと当たる場合は当然だが少ない。それだけならまだしも、大きく外れこともある。
なぜ株価予想が当たらないか?企業業績はそれなりの確率で予想できるが、金利予想は外れることが多い。そうなるとPERの倍率も結果的に大きく外れ、株価の居所が全然違う場合も出てくる。
■均(なら)せば概ね10%に収斂
少し前だが、2008年にS&P500指数は年間で38%下がった。2007年年末時点でストラテジストたちの平均は+11%程度だった。あの金融危機では2007年秋ごろから相場が崩れ始めた。市場には相当な警戒感があったはずだが、彼らは金融危機そのものを想定していなかったことになる。マーケットに腐臭があっても立場上言えなかったのかもしれないが、その時点でストラテジストとしての資質が疑われる。
大組織に所属しているストラテジストは公表データに基づいてシナリオを組み立て、その上で自身のドタカンを若干加味しているのだろう。ファンダメンタルズから逸脱したり、突発的な事象を事前に想定した予想株価は公表できない仕組みだ。
こういう時には株価の上でも下でも儲けのチャンスが大きいヘッジファンド系のファンドマネジャーが有名になることが多い。
■過去20年間の予想の平均は年間+9.8%
ウォール街のストラテジストと言っても、正式にグループや資格があるわけではない。しかし、主要メディアや独立系リサーチがまとめた公表データでは、概ね似通ったメンバーがその予想数字を世に問う。私が参照するのは「バロンズ・ダイジェスト」、CNBCあたりの数字を使うことが多い。
さて過去20年の予想平均は+9.8%だ。しかしこの9.8%という数字はすなわち過去100年のS&P500指数の配当込の上昇率に近い。配当を除いた指数だけなら年率7%で上昇してきた。つまり彼らは約3%高めに予想していることになる。この3%の「強気」を主張することが、このポジションの役割かもしれない。
■論理的整合性で外れるストラテジスト予想より大事な原則
ストラテジストの予想数字は投資家にとって精神安定剤のようなモノだろう。大組織のれっきとしたプロフェッショナルが綿密な調査に基づいて予測しているので何となく安心する。この安心が彼らの提供する価値だ。ただし、彼らはマーケットという生き物に無機質な論理的整合性を使って予想することを求められる。それが結果的に大外れする理由でもある。
しかし私の場合、当たらないストラテジスト予想より、米国市場そのものが持つ“アニマルスピリッツ”、“適者生存”そして“創造的破壊”を重視する。“株は売らない(=永久投資家)”と決めているので以下のような“おまじない”を唱える。
「米国株式が下がるのは5年に1度」
このメルマガのトップの表(「S&P500指数 パフォーマンス(1970-2019)」)によれば米国株式が前年比で下がるのは概ね5年に1度。さらに5年に3回は年末ベースで史上最高値を更新する。この事実を重視している。
直近では2018年(-6.24%)、さらに2011年(-0.05%)、2015年(-0.77%)もマイナスの年だ。しかし2011年と2015年は配当込なら前年比でプラスなのでマイナスは5年に一回となる。それほど実は米国株式は下がりにくいのだ。ストラテジストのご託宣をありがたく拝むより、米国株式の持つアニマルスピリットを信じた方が資産形成には役立つと思う。
S&P500指数 年間変化率(配当は含まず 1928~2021年)
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
5.川田のお散歩
◇◇起業と9.11◇◇
あの日、2001年9月11日(火)の夜も、テレビやネットでマーケットをチェックしていた。突如映し出された驚愕の映像で、これが本物だとすぐに分かった。その後は知り合いと電話で情報交換に努めた。
■ファンド設定と冴えないパフォーマンス
私が起業したのはその前年2000年の3月だ。時を同じくしてITバブルが弾けた。起業前から温めていたファンド運用は少し遅らせはしたが予定通り夏場にはスタートした。1995年から始まった未曽有のIT相場があれほど長くて深い下げ相場に帰結するとは思いもしなったが、後の祭りだ。
思えば私の運用ビジネスはこの時点ですでに勝敗がついていた。ちなみにこのファンドの投資対象は日米の成長株で、資金を集めたのが私で、知り合いのファンドマネジャーが運用の責任者だった。
設定直後の9月からファンドの基準価額はダラダラ下がる。それで毎晩のCNBCの実況放送を見るたびに暗鬱な気持ちになった。翌年2001年春頃には大口の投資家が資金引き上げを要求し、ファンド運用は事実上ストップせざるを得なかった。
■「川田君、自殺するなよ」
1万円からスタートした基準価額は閉鎖時には7千円前後だったと記憶する。事業で大成功を収め、私のメンターだった投資家からは電話の向こうから笑みを含んだ声でやんわりと「川田君、自殺するなよ」と慰められた。自殺?私には思いも寄らぬ励ましのお言葉だった。そうか、事業家は命がけでビジネスをやっているのだなと改めて思い知った次第だ。
ファンド運用の素人だったが、これほど短期間で閉鎖に追い込まれるとは想定外で、起業と運用業の難しさを思い知らされた。その後はどうやって会社を続けるか暗中模索の日々だったはずだ。その矢先に起きたあの大惨事だ。今となっては何をどうやって凌いで生き延びたのか定かではない。
■運用業に必要なノウハウと経験が足りなかった
当時の株式市場の崩れ方は尋常ではない。S&P500指数は2000年から3年連続でマイナスで、2000年3月の高値から2002年10月に底を打つまで49%下落している。結局私のビジネスアイデアは相場の右肩上がりが前提だったということだろう。
さて、実際に相場が底を打つのはファンド閉鎖から1年以上もあとだ。もちろん銘柄選択が上手ければ相場全体が下がっても運用成績は良かったかもしれない。ただし、成績にかかわらず資金が引き揚げられればビジネスとして成り立たない。ここが運用業の難しさだ。その意味で私には経験もノウハウも不十分だった。
■運用業への挑戦で学んだこと
この時の経験から何を学んだか?
①資金集めも大事だが、私自身に運用ノウハウが無ければ運用業での成功は覚束ない。
②一度で必ず成功するというものではない。成功した人は何度か失敗を繰り返してもめげずにチャレンジし続けた人だ。
③ビジネスとしての成功の鍵は運用の巧拙よりマーケット環境が大きい。
④投資家のためには諦めも大切。私と同時期にファンドを設定した知り合いは、その基準価額が3000円にまで下落したのち白旗を上げていた。運用業では諦めもまた大事だと悟った。
2000年の起業とその翌年の9.11を挟んだ相場低迷は、独立してビジネスを営むことの難しさを教えてくれた。その後は運用業にこだわらず何としても生き延びてやろうと、こだわりなくいろいろな機会に挑戦するきっかけを作ってくれた。いまとなってはこの試練にも感謝だ。
自戒を含めて言える事は、とにかく若いときからたくさん失敗したほうが得るものが大きいということ。日本人の場合、サラリーマンの居心地が良すぎるので、この貴重な経験を積むチャンスを逸する。これがビジネスでの成功のチャンスを狭めている。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
6.今後の活動情報
◇9月15日(水)午前11時 ストックボイス
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
7.質問コーナー
質問(要約)
先週のメルマガで、マネックス証券で米国株式を取引している人の投資パフォーマンスが芳しくないという記事を川田さんが解説していました。実は私も儲かったり損したりで年初来は少し儲かっています。投資金額は全部で1000万円で、個別銘柄を数か月を限度に乗り換えながら回転しています。損切ルールもきちんと決めていますが、時折その原則を守らない銘柄もあります。
米国株式投資を始めて5年ほどたちますが結果的に資産はそれほど増えていません。今後はどうしたらいいのでしょうか?またリスク調整後リターンでS&P500指数に勝ったとか負けたという意味が分りません。ここも教えてください。
回答
記事の要旨をおさらい:マネックス証券の3000口座を無作為に抽出して年初来のリスク調整後のパフォーマンスを評価すると、多くの投資家は年初来約20%上昇しているS&P500指数に劣っている。
さて、先週の日経ヴェリタスの大槻さんの記事を読んでマネックス証券は正直な会社だと改めて思った。そして、週明けにマネックス証券に連絡して私の理解が正しいことを確認した。
S&P500指数は年初来約20%上昇しているので、資産を全てS&P500指数で運用すれば、そして為替を無視すれば、年初の1000万円は1200万円に増えているはずだ。
■投資成果がでない短期売買志向の投資家
日本人の典型的な投資方法は、個別銘柄をいくつか買って、利食いと損切りを繰り返す。買い持ちすると値下がりしたまま戻らないというトラウマが焼き付いているからだろう。
①少ない投資資金で高いリターンを狙っている
この投資手法だと当初の1000万円を常時リスクに晒していない人が多い。つまりおカネを十分に働かせていないわけだ。仮に現金比率が4割ならリスクを取って稼ごうとしている資金は600ということだ。
S&P500指数に1000万円突っ込んでいれば年初来200万円稼げているのに、売買を繰り返して平均投資金額600万円で200万円を稼ごうとして個々の銘柄で過剰なリスクを取っている。これだと、どうしても値動きの良い銘柄を追いかけるので割高な銘柄を売り買いしていることになる。
②損切りルールの遵守
ルールを儲けていても損切価格を下に突き抜けたり、あまりに急落したりすると当初想定していた値段で売却できないことも多発する。また、好材料を伝えるニュースが多い銘柄はついつい売りそびれてしまい、短期投資を長期投資の位置づけに勝手に鞍替えしている人も多い。それがまたずるずる下がる。例えば下記のズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)がその典型だろう。500ドルまで戻るのはいつのことになるやら?
ズーム 上場(2019年4月18日)来の株価
ズーム(橙)対S&P500指数(青)の相対株価 過去1年間
■パフォーマンス測定
①年初の投資金額全体との比較
皆さんの投資パフォーマンスは口座にある1000万円に対する損益だ。多くの人は投資した個々の銘柄の損得を足し合わせてその金額の多寡だけで投資成果を評価している。対面証券と取引のある投資家によくあるが、その金額が少しでもプラスなら営業員に「君に儲けさせてもらった、ありがとう」なんて言っているかもしれない。これでは資産は増えない。
②リスク調整後のベンチマークと対比
単純にS&P500指数のパフォーマンス(この期間だと年初来約20%)を上回る成績を上げている投資家は少なからずいる。しかし問題はどの程度のリスクを取った上での戦績なのかだ。多くの投資家はハイフライング銘柄(値動きが荒く、高値を付けている銘柄)で過剰なリスクを取った上で、なおかつS&P500指数のリターンを上回っていない。
③S&P500指数に対する負けを直視せよ
マネックス証券の調査結果は、多くの人がリスク調整後のリターンでS&P500指数には及ばない事実を公表している。改めて資産形成のための投資と、エンターテインメントや興奮を味わうための投資との差を確認した。
■まずはS&P500指数の買い持ちポジションから
皆さんの投資目的が資産形成なら、まずは資産にたっぷりリスクを取らせることだ。それはすなわちS&P500指数の買い持ちのポジションをどれだけ作るかだ。まずはそこから始めよう。
───────────────────────────────────
★ご質問は、以下の【質問ルール】をご一読後、
info@kawata-magazine.comまでお願いします。
【 質問ルール 】
◆全ての質問への回答はいたしかねます。あらかじめご了承ください。
◆いただいた質問は、当社サイト、YouTube動画等のSNS・書籍等に、個人を特定できない形で掲載する可能性があります。
◆ご購読が確認できない方の質問には回答いたしません。
◆明らかな広告・宣伝とみなされる部分は割愛する対象となります。
◆未購読にもかかわらず悪質な質問を投稿された方には、然るべき措置をとらせていただきます。
───────────────────────────────────
★免責事項
◆当社は、本メールマガジンにて提供する情報にて、株式、債券、ファンド、ETF等の有価証券、およびセクター等に関する売買等の推奨はしておりません。また、投資判断はメールマガジン購読者(以下、会員)の責任にて行うものであり、当社は一切の保障責任を負わないものとします。
◆当社は、会員が当社の提供するメールマガジンを利用して被った損害について、一切の保障責任を負わないものとします。
◆当社は、当社が提供する本サービスにおいて、会員間で生じたトラブル(違法又は公序良俗に反する行為の提案、名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、脅迫、誹謗中傷、いやがらせ等)に関して、一切の責任を負わないものとします。
◆当社は、本サービスの情報の内容が会員若しくは第三者の権利を侵害し、又は権利の侵害に起因して紛争が生じた場合、その侵害及び紛争に対して何らの責任も負わないものとします。
◆当社は、本サービスの停止又は中止、本サービス内容の変更によって受ける損害について、賠償する義務を一切負わないものとします。
───────────────────────────────────
■ 発行元:株式会社日比谷テクノロジー・ファイナンス
■ 川田重信のありがとうアメリカ株式
https://www.kawataamekabu.com/
■ Twitter:https://twitter.com/ShigenobuKawata
■内容に関するご意見・ご要望、購読解除はこちらから
【メール】info@kawata-magazine.com
■メールが届かない場合などは迷惑メール等に分類されている場合もありますので予めお確かめください。
───────────────────────────────────
ใช่ไหม?