米国株式投資の真実を伝える [Vol.52]2022年6月27日配信
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米国株式投資の真実を伝える
[Vol.52]2022年6月27日配信
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川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
***目次***
マーケット振り返り
今週のピックアップ記事
川田の気になる銘柄
投資のヒント
お散歩
超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
活動情報
社会人になって40年以上読み続けている日経新聞の中から気になる記事をピックアップしコメントする企画だ。毎週土曜日午前9時〜9時45分にズームへの参加形式で実施している。
参加は無料なのでご興味あるかたはPeatixでお申込みください。
以下は先週土曜日にカバーした記事の表題をいくつか。
皆様が資産形成で成功するために一緒に学び啓発し合うオンラインサロンです。大好評のメルマガ「メディアで鍛える米国株式講座」だけでは伝えきれない内容や、米国株式投資の魅力を体感できる会員向けのセミナーを提供します。
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1.マーケット振り返り(6月20日~6月24日)
<主要指数>
・NYダウ +5.4%
・S&P500指数 +6.4%
・ナスダック総合指数 +7.5%
=駆け足バージョン=
前週までの下落基調が落ち着き、週半ばまで底堅い展開でした。金曜日は、それまでに発表された弱めの経済指標やコモディティー価格の下落を背景に積極的な利上げ観測が後退して大幅高となり、週間ベースで4週間ぶりに上昇しました。
=ちょっとだけ詳しく=
3連休明けの米国株式市場は前週までの下落に対する反動で始まりました。
水曜日に行われた米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の議会証言では、インフレ抑制に対する姿勢が強調され、景気後退が起きる可能性は排除されませんでしたが、株価に対する影響は限定的でした。
他のFRB高官からも大幅な利上げを支持する発言がありましたが、金利に大きな動きは見られませんでした。
しかし、S&Pグローバル米製造業購買担当者指数(PMI)やミシガン大学消費者信頼感などの市場予想を下回って景気鈍化を示す経済指標の発表が多かったことに加えてコモディティー価格が下落したことでFRBが積極的な利上げを行わないとの観測が広がり、全面高で週末を迎えました。
S&P500指数過去5年チャート
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2.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしてランキングし、極々私的な見解でコメントするコーナーです。お散歩コーナーで本を紹介している熊倉貫宜さんのピックアップ記事とコメントも掲載しています。
【1】経済倶楽部講演録 名古屋商科大学 原田泰教授(元日銀審議委員)「新しい資本主義とは何か」
岸田内閣の新しい資本主義は、最初は成長より分配だと言っていたが、結局まずは成長が大事になった。労働分配率が高くなれば賃金が上がるという議論もあったが、全体のパイが増えないと賃金も上がらない。
資本主義の歪みを正すという発想は昔からあるごく普通の議論であり、左派から嫌われている新自由主義と言う言葉も、本来は資本主義の歪みを正すという意味だ。
農林水産業の輸出力と成長力の強化のために3,200億円使うことになっているが、農林水産業の輸出額は1兆円しかないため、非効率的な支出だ。日本の太陽光発電が欧米の何倍ものコストになっているのは、民主党時代に高い太陽光発電の制度を作ったことが原因だ。
岸田政権の人的資本論はインプット主義であるが、アウトカム主義にならないと生産性は上がらない。介護職員の給与が低いのは、資本主義のせいではない。介護保険制度の下、給与を上げたら介護保険料を上げなければならず、そうすると皆が反対する。
日経新聞を中心に、悪い円安論や反金融緩和論が非常に盛んになっている。交易条件の改善も悪化も原油価格次第なので、競争力低下を示すというのは誤りだ。独英仏はGAFAがなくても、賃金が上昇しているので、GAFAがないのが日本の弱さとは言えない。日本の低成長の理由として、PCR検査目詰まり論と競争嫌い論を挙げたい。
【川田コメント】
日本の低成長が日本人の“競争嫌い”にあると決めつけているのが面白い。人間だれしも真剣に競争している時はみんな一心不乱で必死な形相だ。その姿が、いまの日本人には「なにをそこまで」、そしてそれがビジネスなら「そこでまして金を追いかけるなんて」という感じになっているのか。日本を復活させたいなら健全な競争が必要だ。でも“競争”は“結構疲れるのでできることなら避けたい”、“ご褒美も要らない”。これが今の日本人のコンセンサスだろうか?だとしたら日本はまだまだ低迷が続くだろう。
【2】日経新聞 資本主義の行方を考える 経済成長は必要か問う 6/25
日本経済の先行きが、見えにくくなっている。もし資本主義そのものがうまく機能していないとすれば、原因は何か。そんな疑問と向き合う著作が、相次いで出版された。
水野和夫法政大教授:『次なる100年』(2022年2月、東洋経済新報社)日本や独仏で実現した「ゼロ金利」は、際限のない資本の自己増殖を進めてきた近代資本主義の終着点であり、経済はこれ以上、成長を追求する必要はない。今の経済こそが最も豊かであり、もっと豊かになるためにあくせくする必要はないという指摘だ。
小野善康大阪大特任教授:『資本主義の方程式』(22年1月、中公新書)は衣食住が満たされた成熟経済へと社会が変わったのに、モノが不足する成長経済の手法を続けていることが様々な問題を生んでいると分析する。
佐伯啓思京大名誉教授:『さらば、欲望』(22年5月、幻冬舎新書)「問題は、昨日よりも今日の方が豊かであり、明日はさらに豊かでなければならない、というわれわれ自身の意識にこそあるのではないか」
【川田コメント】続き
6月25日日経朝刊の「読書」のコーナーの記事だ。これが今の気怠い日本人の心の内を代弁しているように思える。もし我々がまともにこの方向に進めば早晩日本人は地球から消滅すると思うが、皆さんはいかがだろう?
例えば佐伯さんは「問題は、昨日よりも今日の方が豊かであり、明日はさらに豊かでなければならない、というわれわれ自身の意識にこそあるのではないか」と言っている。しかしこれを本当に信じるなら、今より豊かな未来を望むなと。そんな世界を待ち望む人がどれだけいるだろうか?余命幾ばくもないならいいが若い人にそんなことを真顔で説教できるのだろうか?
そういうとこういう人はすぐに「心や内面そして精神的な豊かさの事だ」と真顔で答える。物質的そして金銭的にある程度の豊かさや余裕が無ければ人間が何をしでかすかは歴史の教えるところだ。
またその物質的、金銭的は常に相対的なものさしで測るものだ。例えば今の平均的日本人は大昔の王様より暮らし向きは豊かなはずだ。そりゃ家来や奴隷はいないかもしれないが、古代の王様より随分と快適な暮らしをしていることは間違いない。
それでも今生きている人間はもっと快適な暮らしをしたい、もっと自分の欲望をかなえたい、そう思うのが大方の総意ではないか?そう、“欲望”は人間が生きるための原動力で元々我々に備わっているものだ。その欲望をどう使うかでその人の人生や国の帰趨そして人類の未来が決まる。
世界中がリアルタイムで繋がっている時代に、国民を目隠ししたままの状態に置いておくことなどできない。私はこの三人の大家の説教「我慢しなさい!」には賛同できない。次世代の人にとって迷惑だし無責任だ。欲望を上手に使うほうが人類には明るい未来が待っていると思う。
【3】日経新聞 銀行・証券、経営モデル転換 三井住友がSBI出資 まずアプリ連携 6/24
三井住友フィナンシャルグループとSBIホールディングスは23日、三井住友がSBIに1割出資する資本提携を正式に発表した。「三井住友銀行は2700万人、三井住友カードは5000万人、SBI証券は850万人の個人顧客を有する」。三井住友とSBIが23日発表したリリースにはこんな文言が躍った。グループの垣根を取り払い、延べ8000万人以上の顧客に一体的にサービスを提供することを目指す。
柱となるのが、リテール分野での銀証連携だ。口座振込・証券取引・カード決済・消費者金融など多様な取引ができるスマホ向けサービスを2022年度中に開発する。
若者や現役世代を明確なターゲットとした施策は、銀証連携の転換点になる可能性がある。三井住友、みずほ、三菱UFJの3メガバンクグループは傘下の銀行と証券で顧客を紹介しあうなどグループ内での連携を深めてきた。ただ、対面に強みを持つ3メガバンクグループの証券の顧客は富裕層や高齢者がメインで、顧客層の広がりには限界があった。
SMBC日興証券の顧客層は50代以上が中心とみられる一方、SBI証券は20~30代が4割だ。三井住友にとってSBIとの提携は、若い世代の取り込みにつながる効果が期待できる。
日本証券業協会の21年の調査によれば、20~30代のインターネット注文の割合は86%。70代以上(69%)に比べて10ポイント以上高い。スマホ注文に限れば、70代以上の4%に対して20~30代は52%と半分を超える。
現時点では現役世代の持つ資産額は大きくない。そのため「最大手といえどもネット証券グループに10%で800億円とはなかなか決断は難しい」といった声も金融機関幹部からは漏れる。それでも、顧客層の若返りを進めなければ、じり貧は避けられない。高齢者から若い世代への相続を視野に入れている面もある。
【川田コメント】
日本の銀行・証券は合従連衡の歴史だ。我々が社会に出たころは都銀が10行以上あった。証券は大手4社を中心に準大手、地場証券と序列があった。
その後時は流れ随分整理統合が進んでいまの形になった。ただしこの20年でネット証券が勃興、台頭し若い世代を中心に顧客獲得競争を広げてきた。
今回の出資は大手ネット証券の‟出口”になるかもしれない。先行する米国でその傾向は顕著で、ここ数年で多くのネット証券が同業や他の金融機関と合併して姿を消した。
昨日の米国が明日の日本なら先日上場を発表した楽天証券、マネックス証券そして松井証券も今後の買収対象になるかもしれない。
ところで、みずほの下に楽天、野村の下にマネックス証券そして大和の下に松井証券がある。これはなにかの暗示なのか?
【4】日経新聞 米個人消費の先行き コロナ下の「超過貯蓄」支え
6/20
クレジットカード大手マスターカードの経済研究所の米国チーフエコノミスト、ミシェル・メイヤー氏に米国の先行きを聞いた。
Q)米国の個人消費の現状は?
オンラインより店舗での消費が伸びている。またレストランや宿泊など外出需要や体験型消費も拡大。需要は強い。
Q)株価などの資産価格が大幅に下がっているが?
足元の米株相場は調整しているが、歴史的に見ればまだ非常に高い水準だ。消費者は累積的な富の調整をみながら動いている。
Q)現金給付などの財政措置は効果が薄れ、金融政策も緩和から引き締め方向へ急転換している。
超過貯蓄は2020年3月から22年1月までに2.5兆ドル(約330兆円)に膨らんだとの試算があり、その一部を消費者はまだ持っている。これを使い果たすまでは、一定の消費余力が維持されることになる。FRBが利上げにより積極的になったのは消費に逆風だが、需給バランスの調整が進むことで経済成長はより持続可能な経路に落ち着く。
Q)米国ではクレジットカードの債務残高が伸びており、家計の財務健全性に問題はないか?
家計はコロナ後に債務の返済を進め、バランスシートは良好な状態だ。ただ金利上昇で借金の返済コストが上がっており、支出先の変化にどのような影響を及ぼすかに注目している。
Q)米国は景気後退を回避できるか?
旺盛な個人消費と継続的な雇用増が支えになり、景気後退が間近に迫っている兆しはない。インフレや金利上昇、景気刺激策の終了に消費者がどのように反応するかをリアルタイムで監視し続ける必要がある。
【熊倉コメント】
ミシェル・メイヤー氏(Michelle Meyer)はエコノミストとして本年、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチからマスターカードに移籍して来た方ですが、移籍後はメディアへの露出が増えているようです。
バンク・オブ・アメリカ時代から、自社のクレジットカード情報から個人消費の動向を分析する手法でコメントを発してきた方です。
米国内の個人消費の状況は、日本に住んでいては、なかなか実感がわかず見え難いものですが、この方のお名前を記憶に置いて日経を読むのも、その理解の一助となるかもしれません。
さて、昨年第4四半期時点では、他のエコノミストと同様に、この方も米国における急激なインフレ傾向は予測できず、FRBの利上げのタイミングについて年後半と予想しておりました。
その点を念頭に置いて本記事を俗な感じでまとめますと・・・・
1)街へ出てのお買い物、外食、旅行は拡大している。
2)人々の財布にはまだまだ余裕がある。
3)株価は調整気味だが、歴史的に見れば高値圏
4)旺盛な個人消費と雇用増が景気の下支えになっている。
最後に「インフレや金利上昇、景気刺激策の終了に消費者がどのように反応するかをリアルタイムで監視し続ける必要がある」と、いささか投げやりですが、いまは先の予想をする段階ではないという主旨でしょうか?
【5】日経新聞 米ケロッグ3分割 来年末めど、北米シリアル・植物肉を分離 6/22
米食品大手ケロッグは2023年末をめどに3つに分社化すると発表、主力のスナックなど売上高の8割を占める事業を残し、北米のシリアル事業と、植物肉など植物由来の新たな食品事業を切り離す。
成長スピードが異なる事業を切り離し、多角化で企業価値の評価が下がる「コングロマリット・ディスカウント」の解消を目指す。
分割先を含め3社を上場会社とする計画。ケロッグ株主に対し、分社する2社の株式を非課税で分配する方針。
他の事業に比べ収益性が低い北米向けのシリアル事業を切り離し、利益率の向上に努め、安定して稼ぐ事業にすることを目指す。ケロッグの2021年12月期の売上高は141億ドル(約1兆9000億円)、北米シリアル事業の売上高はそのうち24億ドルだった。
長期的な成長を見込む植物肉などの食品事業も切り離す。こちらの売上高は3億ドル、成長事業として米国外への展開などを進める一方、「売却の可能性を含む他の戦略的選択肢も検討」としている。
21日朝の米株式市場で、ケロッグの株価は前週末比で一時約5%上昇した。
【熊倉コメント】
私は朝っぱらから口にモソモソするシリアルのような食物を摂取する習慣はありませんが、米国では健康食品として長く親しまれ、ケロッグ社のような巨大産業を生みだしました。
そのケロッグ社が人造肉、おそらく同社の主力事業から考えると動物以外の原料から作られる肉に似た味・舌ざわり・栄養等をもつ加工食品だと思われますが、これを将来の成長産業として位置づけた点は、エコロジーやSDGs全盛の時代において極めて現代的な経営判断と思われます。
その決断とは別に戦略・財務の判断として分社という手段で「コングロマリット・ディスカウント」を回避しようという決断が為されました。
コングロマリット・ディスカウント(或いはコングロマリット・プレミアム)とはグローバル化し、多角化する巨大企業の直面する問題で、投資家の目から見た割安・割高感でしょう。
簡単な解説は下記の2018年12月20付け日経のサイトでご覧ください。
企業買収、M&Aの現場でもこのような用語が使用されだしたのは最近のことで、なじみの薄い方も多いと思われます。
企業がM&Aを駆使してさらに大きくなろうとする過程や、今回のケロッグ社のように新規事業が大きくなる過程で、コングロマリット・ディスカウントが発生するという点は記憶に留めておく必要があるでしょう。
実際、投資家はこのニュースを好意的に受け止めて、株価にも反映されております。
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3.川田の気になる銘柄
川田の保有銘柄を始め、米国株の情報に触れている中で、気になった銘柄を紹介するコーナーです。
今週の銘柄
オラクル<ティッカー:ORCL> Oracle Corporation
概要
オラクルはこれまでの多くの買収を通じて、データベース管理、ERP(企業の経営資源管理)、CRM(顧客情報管理)、SCM(サプライチェーン管理)などの多様なソフトウエア製品を販売し、最近ではクラウドコンピューティングにも注力しています。
同社の魅力
安定した業績と企業買収
オラクルは2005年に「ピープルソフト」を買収してから、顧客管理や人事管理などの企業向けソフトウエア企業の買収を続けて業容を拡大してきました。企業がオラクルのソフトウエアの利用を始めると他社製品に乗り換えるハードルが高いため、安定した収入が見込まれます。過去5年の四半期別売上高を見ても、季節性はあるものの、安定していることが分かります(オラクルの会計年度は5月末に終了)。
(図1:オラクルの過去5年の四半期別売上高の推移)
営業利益や純利益も、買収や税金関連の一時的な要因で赤字になることはありましたが、増益基調が続いてます。
(図2:オラクルの過去5年の四半期別の利益推移)
クラウドのプレーヤー
2022年の前半はハイテク銘柄にとって厳しい時期でした。そうした中でもクラウド事業は各社で着実に伸びています。米国企業全体のパブリッククラウドへの投資額が2024年までに各企業独自のITインフラ投資額を上回るとの試算も出されています。
オラクルは独自のパブリッククラウドサービスであるOracle Cloudを立ち上げ、自社ソフトウエアのクラウドバージョンを採用するよう促すことで相乗効果を発揮する戦略を取りました。この戦略が奏功してクラウド事業は順調に伸び、昨年までの株価上昇の要因となりました。
買収発表による株価下落で割安感
しかし、2012年12月末にオラクルが電子カルテ会社のサーナーの買収を発表したことで、投資家に不透明感が広がりました。サーナーの買収総額が280億ドルと、オラクルのこれまでの買収で最大の金額となったことや、統合リスクや自社株買い姿勢の後退などが嫌気され、ハイテク株全体が売られたことと重なって、株価は下落しました。
ただし、これまでの株価下落で、例えば予想株価収益率は13倍未満、時価総額のサーナー統合後の売上高に対する比率は4倍未満と、マイクロソフトと比較して半分程度となっています。
リスク
ハイテク株全体に対する売り圧力が残る可能性はまだあります。また、上記のサーナーの買収による統合が順調にすすまないこともリスクとなりますが、オラクルはこれまでも大型買収を行ってきたことから、時間の経過とともに統合リスクは和らぐと思われます。
(出所:図1、図2ともに会社資料よりエグゼトラスト作成)
オラクルの基本データ(出所:会社データ、Yahoo! Finance)
(6月24日現在)
株価 70.70ドル
時価総額 1886億ドル
総収入 424億ドル
予想PER 12.5倍
予想利回り 1.89%
本社:テキサス州 オースチン
上場:1986年3月
株価チャートは5年
チャートはTradingView.comによる
(本コーナーは一般的な情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買を勧誘するものではありません)
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
今回は、弊社のYouTubeチャンネルの「アメリカ株式40年投資」シリーズでおなじみの大倉真さんの寄稿です。
長期金利上昇と株価下落
【株価=PER×EPSで考える】
アメリカ株式市場は6月に入ってから大きく下落し、S&P500も高値からの下落率が終値で20%を超え、ついに弱気相場(ベア・マーケット)入りとなってしまいました。今回はS&P500の年初来(2022年6月17日現在)約23%の下落について、深掘りしてみましょう。
図表1 アメリカ株式市場の年初来のパフォーマンス
みなさんご存知のように株価は株価収益率(PER)と一株当たり純利益(EPS)の掛け算で求められます。つまり、
株価=PER×EPS
です。そこで、PERとEPSが年初来どれくらい変化したのか計算すると、図表2のようになります。
図表2 EPSとPERの変化率
EPSは約4%増加したのに対し、PERは約26%低下しています。次にPERを動かす要因について考えてみます。YouTubeの「アメリカ株式40年投資」で何度か取り上げているように、定率成長モデルの考え方によると、PERは以下のように与えられます。
ここで、益回り(Earnings Yield)という考え方を導入します。益回りとは一株当たり純利益を株価で割ったものです。(本来、企業が稼いだ最終利益は全て株主のものなので、益回りとは実際に株主のものとなる純利益を分子として計算する利回りということになります。)つまり益回りはPERの逆数になるので、
益回り=(長期金利+リスクプレミアム)ー長期成長率
となります。すると、益回りの変化は長期金利、リスクプレミアム、および長期成長率の各々の変化で説明できることになります。ただし一般的に、長期成長率は短期間で大きく変化することはないので、ここでは無視してよいとします。よって、
益回りの変化=長期金利の変化+リスクプレミアムの変化
となります。この3つの項目について、年初来の変化を計算したものが図表3になります。
図表3 益回りと10年債利回りの変化
益回りが1.68%上昇、10年債利回りが1.86%上昇、そしてリスクプレミアムは0.18%の低下となっています。つまり、年初来の益回りの変化のほとんどが長期金利の変化で説明できることになります。ロシアのウクライナ侵攻や中国のロックダウンなど、大きな不透明要因が発生しているにもかかわらず、リスクプレミアムはほとんど変化していないのは興味深いことです。
なお、「リスクプレミアムがほとんど変化していない」とは、株式の債券に対する相対的な魅力度がほとんど変わっていないことを意味します。株価が大きく下がったので、絶対ベースでは株式の魅力度が増した(正確には割高感が後退した)ことは間違いありません。しかし、債券価格も大きく低下(利回りは大きく上昇)したことから、債券の魅力度も増したことになります。よって、2つの資産を比較した場合、株式の魅力度が債券に対して改善したわけではないのです。
【さらに長期金利が上昇したら】
今年の株式市場の下落はかなり厳しいものではありますが、以上で見たように、下落のほとんどは長期金利の動きで説明できるものです。では、今後さらに長期金利が上昇した場合、S&P500はどの水準まで低下するのでしょうか。
これまでと同じような仕組み(あまり現実的な前提ではありませんが、便宜上、今後も予想EPSとリスクプレミアムが変化しないと仮定します)で計算してみましょう。図表4では、長期金利を2.75%から4.00%まで0.25%刻みで変化させた場合のS&P500の水準を試算してみました。
図表4 長期金利上昇とS&P500(シミュレーション)
(*リスクプレミアムと予想EPSは変化しないものとして計算しています。)
では、10年債利回りはどの程度の上昇を想定すればよいでしょうか。金融引締めの最終局面で政策金利と長期金利が同水準になることを考えると、参考になるのは、FF金利先物が示唆するターミナルレート(利上げの最終到達点)です。FF金利先物のデータはCMEのFedwatchのものを用います。図表5にあるように、6月17日現在、先物市場が高い確率で織り込んでいるのは3.75-4.00%あたりです。よって、その水準まで長期金利が上がるのだとすれば、S&P500は3,400近辺まで下がる可能性がある、ということになります。(ただし、先物市場は日々変化するので、適宜見直しが必要です。)
図表5 FF金利先物市場が織り込むFFレートと確率
【最後に】
今回は、他の要因は固定して長期金利だけ動かすことで株価の居所を推定する方法について説明しました。今年はこの方法がしっくりくる分析結果をもたらしているのですが、リスクプレミアムは投資家のセンチメントの変化などによって大きく変化するので、いつも良い結果が得られるかどうか分かりません。そういう意味では、ここでの計算もしょせん数字のお遊びの域を出ないのかもしれません。しかし、このようなアプローチに慣れれば、市場に対してより理論的に取り組むことができるのではないでしょうか。
【大倉真】
愛媛県出身。1984年大阪大学経済学部卒業。2005年 埼玉大学大学院経済科学研究科より博士(経済学)。シティバンク、エヌ・エイ、シティトラスト信託銀行、ソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)に勤務。年金・公的資金など機関投資家に加え、プライベートバンクで富裕層向けの資産運用にも従事。2017年、京都・東山で投資会社EagleCapital株式会社を設立。CFA協会認定証券アナリスト。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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5.お散歩コーナー
◇◇最近行ったお店、映画、美術館、書籍編◇◇
~熊倉 貫宜の巻~
元証券マンで読書家である熊倉貫宜さんの寄稿です。
人生の味わい方、打ち明けよう/蔡 瀾 (著)、新井 一二三 (翻訳)
私は「人生の達人」という敬称を見ると真っ先に故山口瞳先生を思い浮かべます。
人生に揺るぎない規範を持ちつつ、礼儀作法に厳しく、身の丈に合わない華美や贅沢を排し、堅実に仕事をこなしながら、将棋や競馬という趣味に一家言を持つ、まさしく市井の江分利満氏=Mr. Every Manとしての山口先生の生涯を思うと嘆息ばかりの私です。
ここにご紹介いたします蔡 瀾(チャイ・ラン)も別の意味で人生の達人に他なりません。
あの記憶に残るテレビ番組「料理の鉄人」で、日本語を巧みに操る香港の美食家として審査員を務め、その辛口な批評でご記憶の方も多いことでしょうが、本業は香港の映画製作者でコラムニスト・作家・書家・美食家としても高名であり、多方面の事業に携わる実業家でもあります。
1941年8月、英国領マラヤのシンガポールで生まれ、日本大学芸術学部映画科に留学し、学びながら香港の映画制作会社ショウ・ブラザーズで働き、日本駐在マネジャーと翻訳を担当。
1963年、香港に定住し映画制作会社ゴールデン・ハーベストの創設時に映画製作部門の副社長に招聘され、一連のジャッキー・チェン作品の映画プロデューサーを務め、香港映画界の発展に大きく貢献されました。
その後、食や旅に関するエッセイを香港の雑誌や新聞、『明報』・『壱週刊』・『蘋果日報』(あの香港政庁により廃刊に追い込まれたアップル・デイリーです。)などに発表されております。
日本ではほとんど彼の著作は翻訳されておりませんが、地元香港では大変な数の書籍が出版されており、その人気ぶりが分かります。
山口先生と同様、この方も動乱の東南アジアに生を得て、独立独歩の揺るぎない規範を身に着け、早朝の町場の市場をこよなく愛する一方で華美や贅沢を楽しみ、仕事をこなしながら、美食と美女に囲まれる世界に生きる蔡 瀾の生活は80歳になろうとも私の羨望の的です。
本書には「世界の朝食」という印象的な一編が収録されています。
地元香港での飲茶や市場での買い食いに始まり、広州、台北、シンガポール、クアラルンプールへと飛び、東京築地の早朝にラーメンと刺身を味わい韓国へ向う、ヨーロッパのコンチネンタル・ブレックファストに我慢ならず現地の市場へ出向き、ニューヨークではフルトン魚市場で海老の揚げ物に舌鼓を打つ。
そんな蔡 瀾、人生で忘れがたい朝食の場面として三つあげております。
その三番目が陥落直前のサイゴン、銃声が鳴り響く中、知り合いの商人が地下室に誘い、最高級のキャビアとロブスターをシャンパンで供され、ウエイトレスは半裸の美女、確かにこれ以上の朝食はないでしょう。
【熊倉 貫宜】
1980年大和証券入社。企業派遣留学としてシカゴ大学経営大学院にてMBA取得。シンガポール、香港駐在を通じてアジア・ビジネスに関わる。
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6. 超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
IFAに特化した営業支援を行っている市川宏さんが、超富裕層が活用している投資戦略を、皆様に簡単にお伝えするコーナーです。
投資・資産形成においてリスクは付きものです。そのリスクは、資産配分や銘柄分散などを行うことにより軽減することができます。
そのための「ポートフォリオ運用」の重要性は皆さんもよくご存じだと思います。
では、具体的にポートフォリオを構築するにはどのようにすれば良いのか、またポートフォリオ運用提供業者はどのように構築しているのか、本日はそのステップをお伝えしていきます。
Step.1 資産状況の確認
まず、最初のステップです。複数の金融機関を含めた資産全体の状況を把握することです。ここでは、預貯金、株、生命保険などの金融資産の他に不動産などの資産もできるだけリストアップします。給与収入や毎月の支出も含めた方が良いでしょう。
自身の資産一覧を作ってみると、自分ではバランスよくしていたつもりでも、必要以上に現金が多かったり偏りが出ていることが多いです。
ここで重要なのは、資産を把握することと、何かしらの気づきを得ることです。
Step.2 運用方針の決定
次に、資産運用をするにあたっての方針を決めます。以下のことがはっきりしていると良いです。
目標金額
運用期間
許容できる価格変動幅
こう見てみると、即答できる人はほとんどいないと思います。自分の運用のリスク許容度などわからなくて当然です。
単純に考えることです。つまり、自分が何歳までにいくらほしいのか、投資で増やして何に使いたいのか、そのあたりの目標を書き出してみます。
ここのステップではそれだけわかれば十分です。
Step.3 資産配分の構築
ここでは、実際に配分を決定します。このステップは、個人で行うには難しいものです。資産ごとの期待リターンや想定リスクなどを考慮し、配分を決定する必要があります。
ここは専門家に相談したり、投資信託や年金などのポートフォリオを参考に決定する方が良いでしょう。
ステップ1とステップ2で出した現状と目標、これを実現させるための資産運用の大枠がステップ3でわかりました。
Step.4 金融商品の選定、運用の実行
ここまでで、資産ごとの割合(株式〇%、債券〇%など)が決まりました。次は、それぞれの資産ごとに個別に何を購入するか、です。
ここでは銘柄選定と購入先の金融機関の調査が必要になります。個別の上場株でどの株を購入するか、債券であればどの年限、利回りのものを購入するかを決める必要があります。プライベート系の商品を組み入れる場合は、どこから調達するかも決めなければいけません。
金融の専門家であればこのあたりをサポートしてくれます。しかし、個人で行う場合には、ステップ3で導き出した資産配分通りに、インデックスファンドやETFを購入すれば良いと思います。
Step.5 資産配分の見直し・全体のレビュー
これでポートフォリオ構築はできました。ポートフォリオ運用において最も重要なことはその後です。
ポートフォリオを構築した後も、少なくとも年に1度は一連の流れに従い現状を確認した方が良いです。その際、必要に応じて運用方針、資産配分や組み入れ商品の見直しを行うことで、最新・最適なポートフォリオを維持していくことが可能になります。
時価変動により資産配分が計画から大きく乖離している場合には、配分の調整(リバランス)を実施すべきでしょう。
自分でポートフォリオ構築するには
ポートフォリオ運用を具体的に行うための5つのステップをお伝えしました。
いかがでしょうか。金融業界に見識のある方であれば全てをご自身でできるかもしれませんが、普通は難しいと思います。
証券会社やIFA、ロボアドなどはこの一連の流れを投資家に代わり行っています。個人投資家向けであれば、いくつかのモデルポートフォリオに当てはめるだけですが、機関投資家や富裕層向けに提供されている場合は、まさに、それぞれ個別のオーダーメイド方式でポートフォリオを構築していきます。
投資において重要なポートフォリオ構築ですが、その専門性からプロに構築してもらうにはコストが発生します。
私としては、インデックスファンドなどで運用するのであれば、個人でポートフォリオを構築した方が良いと思ってます。
最後に
私の「超富裕層になるための投資術」の連載は今回で最後となりました。
実は近日中に私のサイトの大幅リニューアルを行う予定です。これからも投資家の皆様のために役に立つ情報発信は続けていきます。リニューアル完了後の告知もできればと思っています。
川田さん、メルマガ関係者の皆様、そしてメルマガ読者の皆様、感謝です!!
【市川宏】
株式会社Winviser代表取締役。SMBC日興証券にて茨城、福岡、東京の各支店にて資産運用コンサルティングに従事した後、超富裕層向け金融商品のマーケティングを行う。
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)業者に転籍し、超富裕層の資産運用のアドバイスを行った後、日本の金融業界の発展のためIFAに特化した支援会社を設立。現在は、IFAを支援する傍ら、自身の経験を元に個人投資家に資産運用のサードオピニオンを行っている。
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7. 今後の活動情報
◇ストックボイス:7月6日、20日(水)11:00
◇日経CNBC:6月29日(水)電話インタビュー(改野さん)
6月30日(木)大倉さん電話インタビュー(改野さん)
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