金融当局者の「不毛な議論」 【中原駿の今日のひと言】7月20日更新
不毛なG20
亀裂は大きい。16日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明をまとめられず、物価高やリセッション(景気後退)懸念への対応で分裂を印象付けた。
日本にとって、為替に関する国際協調の可能性を探る重要な会議だった。出来れば、ドル高に関する懸念を共有出来れば最高だが、そうでなくとも「急激な為替の変動は世界経済に悪影響を与える」程度の文言はぜひとも共同声明に盛り込みたかったところだろう。ところが、為替の議題は一切上がらず、日本としては是非結び付けたかった新興国経済の支援とも切り離されてしまった。鈴木財務相の「これまでの為替に関する合意が再確認された」という記者会見がうつろに響く。
一方、米国も不調であった。イエレン長官の最優先事項は、世界的なインフレ緩和に向けロシア産石油価格に上限を設定、ウクライナでの戦争の「恐ろしい結果」を巡りロシアに制裁を科すことだった。しかし、この計画はもとより中国やインドなどにとって実現の可能性が低い計画で、実際説得は不調に終わってしまった。2番目である法人税の最低税率を15%とする国際課税合意の「機運を高める」ことについても、多くの参加国が実施にあたり国内の反対にあっている。肝心の米国でも議会から反対意見が出て、重要な採決が延期される事態。明らかに後退といえるだろう。つまり、G20においては、日本はおろか、米国も当初の目的を何も果たせず、共同声明も出ず、議長総括に終わるという芳しくない結果に終わってしまった。
それでもG20はロシアのウクライナ侵攻に伴う商品相場危機の原因と解決策など、最優先課題の一部は共有されていた。欧州の懸念はロシアが主要な天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」を閉鎖する可能性だ。この点はイエレン氏も援護射撃を行い、もし「供給の流れが止まれば、欧州には深刻な打撃であり、各国経済に甚大な影響が及ぶだろう」と述べている。もっとも、そうした場合に欧州がリセッション(景気後退)に陥るかについては沈黙。逆に言えばそれほど事態は深刻化しうる―ということだ。メリットもないのにロシアがこうした要請に応じる気配はなく、単に不満と要望を述べるに留まったといえよう。
やがて、各国ともインフレと戦争に関する話は遠ざけ、会議の焦点を、スリランカなどにみられる国債デフォルト(債務不履行)リスクの警鐘や食料安全保障の強化など、脆弱な国・地域を支援する手段に移った。G20は食料危機対応のための共同基金を検討していると、議長国のインドネシアが明らかにした。これは議長国インドネシアにとっては唯一の成果ともいえるものである。それでも、議長声明に終わった―ということは、G20の亀裂があまりにも大きいことを示している。
唯一の成果は「各国の焦点」がバラバラながら、それははっきりとした―ということだけだろう。
Is it OK?