こういう時に限って○○ 【中原駿の今日のひと言】8月8日更新
マーケットは夏休みモードだが・・・
米経済の復調、あるいは強い経済の持続を示唆するような指標が相次いでいる。中でも雇用統計はあらゆる意味で強かった。米労働省の発表によれば、7月の非農業部門雇用者数は前月比52万8,000人増。伸びは市場予想を全て上回った。失業率は3.5%に低下、約50年ぶり低水準。賃金の伸びは加速。なぜこれだけ「経済指標」が注目されるか、といえば、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が会見でフォワードガイダンスを放棄し、「今後の利上げについてはデータ次第、会合ごとに判断される」と説明したからだ。雇用統計も8月10日に発表される7月の消費者物価指数(CPI)も遅行指数に過ぎないが、高い水準になることは間違いない。
だが、今回の違いは先行指標系も軒並み予測を上回ってきたことだ。ISM製造業購買担当者指数も52.8と踏みとどまり、製造業価格は予測の74.3から60.0に落ち着いた。景況感は好転し、価格は下がった―となる。石油の在庫は積み上がり、ISM非製造業指数も53.5のコンセンサスから56.7と予想に反して上昇している。
それにしても、雇用統計は強烈でNFPRはコンセンサスの倍以上となる+471千人、時給は+0.5%、前年比+5.2%と好調、失業率も3.5%まで低下した。インフレを加速させるほどの賃金が伸びていないのは問題だが、少なくともインフレを抑制させるほどの上昇の鈍さではない。
だが、商品価格が低下し、サプライチェーンが改善していることは指標を見ても明らかだ。
5日の米金融市場では、7月の米雇用統計を受けて期近物の金利が急伸。0.5%の利上げが大勢を占めていたが、雇用統計を受けて逆転、いまや68%は0.75%の利上げとの古センサスとなっている。利上げの最終地点は3.25%前後とのコンセンサスも巻き戻しを受け、利上げの最終地点は3.6%超とみられている。
正直言って、経済指標というよりは、ポジションの巻き戻しと損切りの影響が非常に大きい、と感じている。当面10年債の金利レンジは中立2.75%から引き締め3.25%のレンジかあるいは3.5~3.75%の強い引き締めゾーンでもおかしくはない。ただし、2023年から米景気の後退が鮮明になるという筆者のシナリオが正しければ、年末には3%前後まで落ち込むはずだ。ま、それにしても、「リセッションシナリオ」はかなりオーバーシュートしていたのは間違いない。インフレ加速シナリオにあまりにもベットしすぎていたファンドや機関投資家が多すぎたのでロスカットに相応の時間が掛かったため、と想定される。
恐らく現時点では既に中立か、あるいは緩やかな景気回復持続シナリオになっていることだろう。で、このシナリオもおそらく裏切られることになる。
消費が減速するといっても、まずは低所得層からであって高所得層は依然浪費に近いことを行っているし、この夏―つまりバカンスシーズンはそれなりに盛り上がる。長い蟄居生活のストレスで旅行需要は旺盛だし、ついでに消費も増える。ガソリン価格も落ち着きつつあり、企業収益もまだら模様ながら急速な落ち込みは見られなくなった。まるで小春日和のような一時的戻りが起きるタイミングであり、実際、第三4半期や第四4半期はそれなりにプラスの経済成長をするだろう。だが、5%を超えるようなものにはならず、1%~3%程度に収まり、結果的には景気後退前の一時的上昇に過ぎなかった―となるのではないか。今マーケットが作っているのはこうした緩やかな持続が1年程度は続く、という見方だ。そんなに話は簡単ではないはずで、やはりここでもマーケットが間違った方向に向かっていることが示唆されている。
それでも、あまりにも両極端に触れてしまった市場心理が中立に戻るのには、今しばらく時間が必要なのかもしれない。ジャンク債のスプレッド拡大もおさまり、利上げ確率も当面0.50~75%で揺れそうだ。
さらに現在のマーケットは参加者が減りつつある。参加者の減少は多くは突飛な事件やイベントを招くのだが、市場参加者の多くはそうは思っていない。市場参加者も人の子、この三年で制限されて来た旅行や外出にいそしみたいのだ。そう考えると、イベントリスクの減少は確かにある。何しろ、みんな夏休みなのである。夏休みくらい、ゆっくりしたいし、実際誰も動かないだろう―上半期に大損した多くのファンドマネージャー、誰よりも昨年大失敗してしまったFRBのパウエル議長はそうに違いない。
だが、マーケットとは皮肉なもので、誰も動かない、と安心してしまった後、そして多くの市場参加者が消えたのちに、「想定外」のことが起きる。夏季休暇は油断禁物―肝に銘じておきたい。
Is it OK?