FRBが利上げをやめない理由 【中原駿の今日のひと言】8月3日更新
消費の劇的な落ち込みはすでにカウントダウン
FRBとパウエル議長が利上げをやめない理由は、消費者物価の上昇が続き、雇用が強いことだ。賃金上昇によるインフレ高止まり―それこそがFRBの悪夢という訳だ。しかし、この道は事実上すでに塞がれている。なぜならば、多少の賃金上昇では補え切れないほど物価が上昇しているので、労働者の実質賃金は下降し続けているからだ。むしろ、多少の賃金上昇を容認したほうが実質所得の向上にはよりふさわしい。だが、FRBはそれを容認しない為、劇的な消費の落ち込みに向けてまっしぐら、と筆者は考えている。これが実現すれば、すでに2四半期マイナスとなったGDPは3~4四半期マイナスが続き、当局は慌てて景気刺激に動かざるを得なくなる―それが筆者のメインシナリオだ。
皮肉なことだが、パウエル議長が昨年夏、ジャクソンホールで語ったインフレ鎮静化への道は、今や実現可能となりつつある。パウエル議長は21年のジャクソンホールで、「経済の急速な再開はインフレの急激な上昇をもたらした」としつつも、「しかし、インフレ上昇が一時的であることが証明される可能性が高く、インフレ懸念は和らげられる」とした。その上で、「タイミングが悪い金融引き締めは、雇用や他の経済活動を不必要に遅らせ、インフレを望ましい水準よりも低く押し下げる」とし、さらに、「現在、労働市場にかなりのたるみが残っており、パンデミック(世界的大流行)が続いているため、こうした間違いは特に有害となる。失業の長期化は労働者と経済の生産能力に永続的な害を及ぼす可能性をわれわれは知っている」。今振り返っても、2021年夏でこの認識は大いなる間違いであったが、2022年の現在、実はこの内容を実行すれば経済の急速な落ち込みは回避可能かもしれない。
FRB自身の金融引き締めでGDP成長率の引き下げが相次ぐなど、2022年の経済活動は急速に縮小しつつある。
消費者物価の上昇も雇用の拡大も最も遅行する経済指標だ。ここを重視する限りFRBは現実にまたしても決定的に遅れることになる。実質所得は下がり続け、消費者は生活防衛をし、住宅ローンを断られ、大型耐久消費財の購入をあきらめている。6月の米個人消費支出(PCE)は、インフレ調整後ベースで前月から0.1%の増加にとどまった。一方、米金融当局がインフレ目標の基準値としているPCE総合価格指数は前月比1%上昇(予想0.9%上昇)。前年同月比では6.8%上昇。前日発表された4-6月(第2四半期)の米実質国内総生産(GDP)も前期比年率0.9%減。2四半期連続で経済が縮小、高進するインフレの影響で購買力が低下している。消費者所得は増加しているものの、そのペースは急速な物価上昇に追い付いておらず、多くの消費者はガソリンや食品、家賃といった生活に必須の支払いを行った後、他の支出に回すお金がほとんど残っていない。貯蓄率は5.1%に低下、2009年以来の低水準となった。国勢調査局が最近実施した調査によれば、米国民の10人に4人は、普段の家計をやり繰りするのがやや厳しい、ないし非常に厳しいと回答。この割合は、同質問が調査票に最初に登場した2020年8月以降で最大だ。
これらの非常に厳しい米消費者の現況を考えれば、ある時点で「想定をはるかに上回る個人消費の劇的落ち込み」が到来するはずだ。その時はさすがのFRBも政策当局も大規模な経済刺激に動かざるを得ない。当初その時期は2023年春~夏頃と想定していたが、この調子では今年の秋~冬には「決定的な消費の落ち込み」が観察されるかもしれない。
その時こそ株式購入のすべての条件が整うことになる。