お金の仕組みと中央銀行の役割
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8月のマーケットはデルタ変異株の蔓延による各国経済への影響と、米連邦準備制度理事会(FRB)によるテーパリング(金融緩和の縮小)の開始時期を推し量る神経質な展開となりました。その傍らで話題になったのが、ニュージーランドのコロナ禍以降で先進国初となる利上げ観測です。結果として今回は見送られましたが、次回10月には利上げを行うと予想されています。
また欧米諸国についても今後の金融正常化およびその後の利上げ時期について市場参加者は神経を尖らせています。中央銀行の金融引締めは通貨や金融商品の動向に大きな影響を与えます。
そこで今回は実際にインヴァスト証券で行われた新入社員研修「お金の仕組み」の一部から、中央銀行はなぜ利上げを行うのか説明していきたいと思います。
紙幣の起源
私たちが使うお金には紙幣と貨幣がありますが、このうち紙幣は銀行が発行した「預り証」が起源になっています。何の預り証かというと、これは中世の当時、基本的に「金貨(ゴールド)」のことでした。
昔々、お金の量はどれだけ金・銀・銅が発見されるかにかかっていました。そして、交換価値の尺度となる、重量や純度が一定の鋳貨(コイン)は、権威と信用のある国王が造り、人々に分配する権利を持っていました。人々は取引の時に、その対価に相当するコインを支払っていました。
中でも、最も価値の高いコインは金貨でした。当時のお金持ちは、金貨を空き巣や強盗から守るために、立派な金庫を持つ金細工師などに預けていました。
仮に、この金庫を持つ金細工師をGさんとします。Gさんは、金貨と引き換えに預り証を渡し、保管のための手数料をもらう仕事をしています。金貨を預けていたお金持ちのAさんは、何かを購入するときにGさんに預り証を渡し、引き出した金貨で支払いをします。その代金を受け取ったBさんも、空き巣や強盗に入られると困るので、やはり金庫を持つGさんに金貨を預け、預り証を受け取ります。
それならば、わざわざAさんはGさんから金貨を引き出さなくても、直接Bさんに預り証を渡せば、結果的には同じ事になります。次第に人々は金貨を使って支払うより、預り証で支払う方が便利で安全であることに気づき、その預り証が通貨の役割を持っていきました。これが紙幣となります。
銀行業の始まり
こうして人々が紙幣で取引し始めると、Gさんの金庫の中にある金貨は眠ったままになります。ここでGさんは「預金者が引き出しに来ないならば、この金貨を担保に紙幣を発行してもよいのではないか」と思いつきます。賢いGさんは、預かっている金貨以上に紙幣を作ってお金が必要な人に貸出し、その貸出料として利子を受け取るというビジネスを始めたのです。
こうして近代の銀行業が始まりました。この時から、お金は銀行が貸した時に創られる(増える)ようになったのです。
よく考えてみれば、預かっている金貨はGさんのものではありませんし、勝手にそれを元手として貸し出して利益を得ているのですから、これは詐欺的な行為です。しかし、その方法は秘密裏にされていたために批難されることはありませんでした。また人々が気づいたときには既に銀行による金融は国家になくてはならないものになっていました。
ただ、ごくたまに困ったことが起きました。何らかの理由で顧客が多額の預り証を持ち込んできて、預けていた大量の金貨の返却を求めるときです。実際に持っている金貨以上の紙幣を発行しているわけですから、顧客の求めに応じられません。こういう場合には、他の銀行と協力して短期間だけ金貨を貸し合いました。
銀行の手から一時的に離れた金貨も、結局は廻り回って銀行に戻ってくるのですから心配ありません。現在のコール市場(銀行間で短期資金を融通しあう市場)に当たる同業者の取引ネットワークがこの頃既に成り立っていました。
インフレと中央銀行
こうして銀行はいくらでもお金を増やせるようになりました。必要な人にお金を貸すことができるようになったため、国の生産性は上がり経済成長が加速しました。
銀行が気をつけないといけないことは、必要以上にお金を発行しすぎるとお金自体の価値が下がってしまうということです。需要と供給の関係です。供給過多になると、お金も価値が下がります。貴重なものではなくなってしまうのです。これをインフレの状態といいます。
インフレが進行し過ぎると、最終的に起こるのは物々交換だといわれています。映画『火垂るの墓』で戦時中に着物とお米を交換するシーンがありますが、これはお金が価値を持たない状況で起こります。
こうなると銀行はビジネスにならないのでお金の価値を守ること、すなわちインフレを止めることが一番重要な課題になりました。
そして各銀行が銀行券を刷っていてはお金の量の統制が効かないことや、銀行が破綻して通貨が無価値になると困るので、発行権は一つの銀行が担当し国の管理下に置かれました。これが今日の中央銀行になっています。
このように中央銀行の最大の仕事はインフレを止めることで、お金の価値が上がるデフレは別に問題ないということになります。
しかし国の経済活動に大きな影響を与える中央銀行は次第に国家から経済、雇用に対しても貢献が求められるようになり、不況下ではお金の量を増やして経済活動を支える役割も担うようになりました。
現在、日本や米国など年率2%のインフレが目標に置いている国が目立ちます。高くもなく低くもなく、経済を成長させるためにちょうど良い水準だと考えられているからです。そのためこの水準よりインフレ率が高いと、中央銀行が利上げを行う理由となります。
現在は各国がアフターコロナの金融正常化に乗り出していることもあり、インフレと中央銀行の行動をぜひ注目していただきたいと思います。
※本記事内容は、執筆者の見解に基づくものであり、投資に関する断定的判断を提供するものではなく、情報提供のみを目的としており、いかなる種類の商品の売買も勧誘するものではありません。
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