【FX手法検証】なぜ「直近高値・安値」と「キリ番」で相場は動くのか?|ブレイクと反発を生む“注文の集中”の正体
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FXをやっていると、何度も不思議な場面に遭遇します。
たとえばドル円が159.70円、159.80円、159.90円と上昇し、160.00円へ近づいてきたとします。
しかも160.00円は、過去に何度も上昇を止められている直近高値だったとしましょう。
こういう場面では、
「また160円で跳ね返されるのでは?」
と考える人もいれば、
「今度こそ160円を突破して、一気に上へ走るのでは?」
と考える人もいます。
実際、どちらになるのかを事前に100%当てることはできません。
しかし、私はここで一つ重要なことがあると考えています。
上に行くか下に行くかは分からなくても、“値動きが起こりやすい場所”はあるのではないか?
ということです。
つまり、
方向を予測するのではなく、ボラティリティが発生しやすい場所を探す。
この考え方です。
今回は、直近高値・安値、サポート・レジスタンス、そして160.00円のようなラウンドナンバーで、なぜ相場が動きやすくなるのか。
実際のFX注文データを分析した研究も紹介しながら、スキャルピング、デイトレード、スイングトレード、それぞれの視点から考えてみたいと思います。
高値・安値は、ただチャート上に線があるだけではない
チャートを見ると、多くのトレーダーが同じような場所に水平線を引きます。
たとえば、
- 直近高値
- 直近安値
- 前日高値・安値
- 何度も反発している価格
- 160.00円、150.00円などのキリ番
- EUR/USDの1.1000などのラウンドナンバー
といった価格です。
なぜ多くの人が同じ場所を見るのでしょうか。
理由の一つは非常に単純で、
「そこを基準に売買判断をする市場参加者が多いから」
だと考えられます。
160.00円で何度も上昇を止められていれば、
「160円まで来たら売ろう」
という人が出てきます。
一方で、
「160円を明確に突破したら買おう」
というブレイクアウト狙いの人もいます。
さらに160円付近で売っている人なら、
「160円を完全に突破したら損切りしよう」
と考える可能性があります。
つまり同じ160.00円という価格を、
逆張りする人、ブレイクを狙う人、利益確定する人、損切りする人が同時に見ている
わけです。
これが非常に重要だと思います。
実際のFX注文を調べた研究がある
この現象について非常に興味深い研究があります。
Carol L. Osler氏による、
「Currency Orders and Exchange Rate Dynamics: An Explanation for the Predictive Success of Technical Analysis」
という研究です。
この研究では、大手外国為替取引銀行の実際のストップロス注文とテイクプロフィット注文が分析されています。
データにはドル円、ユーロドルなどが含まれ、9,655件、総額550億ドル超の注文が分析対象となっています。
そこで確認された重要な特徴が、
ストップロス注文とテイクプロフィット注文が、ラウンドナンバー周辺に偏っていた
ということです。
特に興味深いのが、
テイクプロフィット注文はラウンドナンバーそのものに集中しやすく、ストップロス注文はラウンドナンバーを越えた側に集中する傾向があった
という点です。
これは普段私たちがチャート上で見ている、
「高値で反発する」
「高値を抜いた瞬間に走る」
という現象を考えるうえで非常に興味深い結果です。
160.00円を例に考えてみる
たとえばドル円が下から160.00円へ向かっているとします。
160.00円は過去に何度も止められている強いレジスタンスです。
イメージすると、
159.70
↓
159.80
↓
159.90
↓
159.95
↓
160.00 ←重要ライン
となります。
160.00円付近では、利益確定、新規の逆張り売りなどによって上昇が止められる可能性があります。
その場合、
159.95
↓
160.00
↓
159.95
↓
159.85
↓
159.70
という反発が起こります。
ところが、160.00円の売り注文を買い圧力が吸収してしまったらどうでしょう。
今度は状況が変わります。
160.00
↓
160.02
↓
160.05
↓
160.10
↓
160.20……
という動きになる可能性があります。
なぜなら、160円より上には、
「160円を抜いたら買う」というブレイクアウト注文
だけでなく、
160円付近で売っていた人たちの損切り買い
も存在する可能性があるからです。
買いによって160円を突破したのに、その突破がさらに別の買い注文を発生させる。
これが値動きを加速させます。
ストップがストップを呼ぶ「価格カスケード」
Osler氏は別の研究で、この現象を「Price Cascades(価格カスケード)」という観点から分析しています。
ストップロスが集中する価格帯に為替レートが到達すると、値動きが通常より速くなる傾向が確認されました。
最初のストップが発動する。
↓
その注文によって価格が動く。
↓
次のストップ価格へ到達する。
↓
さらにストップが発動する。
↓
その注文によって、さらに価格が動く。
という連鎖です。
これはトレーダーなら一度は経験したことがあると思います。
「何もニュースが出ていないのに、突然レートが走った」
という場面です。
もちろん、急変のすべてがストップロスによって起こるわけではありません。
経済指標、要人発言、大口注文、アルゴリズム取引など、値動きを発生させる要因はいくらでもあります。
しかし、
注文が集中する価格帯そのものが、値動きを加速させる原因になる場合がある
という点は非常に重要です。
「どちらへ行くか分からない」と「何も分からない」は違う
ここが今回、一番伝えたい部分です。
160.00円まで上昇してきたとして、
「反発するのか?」
「突破するのか?」
これは分かりません。
極端な話、仮に確率が50%対50%だったとしましょう。
それなら方向予測には優位性がありません。
ところが、
160円から上へ走る
または
160円から下へ反発する
という二つの可能性が高く、
逆に、
160円付近で何も起こらず、極端に値動きが小さくなる可能性が相対的に低い
のであれば話が変わってきます。
方向については優位性がなくても、
「値動きが発生する可能性」については優位性が存在するかもしれない
からです。
私はここが非常に面白いところだと思っています。
ただし「重要ラインでは絶対にレンジにならない」わけではない
ここは誤解しないようにしておきたいところです。
160.00円が重要だからといって、
160.00
159.98
160.01
159.99
160.02
159.97……
といったレンジが発生しないわけではありません。
むしろ、大量の買い注文と売り注文がぶつかれば、重要ライン周辺でしばらく攻防が続くこともあります。
したがって、
「重要ライン=必ずボラティリティが上昇する」
と断定するのは危険です。
私が注目しているのは、
重要ライン周辺では注文が集中しやすいため、通常の何でもない価格帯よりも“何らかの価格反応”が起こる可能性が高いのではないか
という考え方です。
そして重要ラインを明確に突破し、ストップ注文が集中する領域へ価格が入った場合には、値動きが加速する可能性があります。
「流動性がある」と「ボラティリティが高い」は同じではない
もう一つ注意したいのが「流動性」という言葉です。
流動性が高いから、必ず値動きが激しくなるわけではありません。
たとえば160.00円に非常に大量の売り指値が存在していたとします。
買い注文が次々に入っても、それ以上の売り注文が存在すれば、
159.99
160.00
159.99
160.00……
となかなか突破できません。
大量の注文が買いを吸収している状態です。
しかし、その売り注文をすべて食い尽くした瞬間に状況が変わります。
160.01、160.02、160.03と上昇し、さらに上に存在するストップ注文まで巻き込めば、一気に160.10、160.20と走る可能性があります。
つまり重要なのは、
「注文がたくさんあるから動く」という単純な話ではなく、その注文が吸収されるのか、突破されるのか
ということです。
スキャルパーにとって重要なのは「方向」より「動く場所」
この考え方は、特にスキャルピングと相性が良いと思います。
スキャルパーが欲しいのは、何十pips、何百pipsという大きなトレンドではありません。
数pips、場合によっては1pips前後の値動きです。
そのため、
「次の30秒~5分程度で価格が動きそうな場所はどこか?」
という考え方が重要になります。
例えば、
直近20本の最高値・最安値
+
ラウンドナンバー
+
過去の接触回数
+
ラインまでの距離
+
ラインへの接近速度
+
現在のATR
+
ティック数
+
東京・ロンドン・ニューヨークなどの時間帯
といった情報を組み合わせることができます。
「買いか売りか」を最初から決めるのではありません。
値動きが発生する可能性が高い場所まで待つ。
そして、そこで実際に起こった値動きを見て判断する。
この考え方なら、無意味な場所で何度もエントリーする回数を減らせる可能性があります。
デイトレーダーなら「重要ラインへの到達」を待てる
デイトレードでも考え方は同じです。
チャートの真ん中で売買するより、
前日高値
前日安値
東京時間高値・安値
ロンドン時間高値・安値
直近高値・安値
大きなラウンドナンバー
などへ価格が到達するまで待つ。
たとえば現在値が159.63円で、160.00円に強いレジスタンスがあるのであれば、159.63円という中途半端な場所で無理に方向を当てに行く必要はありません。
160.00円まで来るのを待つ。
そして、
反発するのか。
ブレイクするのか。
を確認する。
これだけでも「どこでもトレードする」状態から、「市場参加者が注目しそうな場所だけでトレードする」状態へ変えることができます。
スイングトレーダーにも重要な考え方
スイングトレーダーの場合は時間軸を大きくします。
日足や4時間足の、
- 直近高値
- 直近安値
- 年初来高値
- 年初来安値
- 長期間突破できていない価格
- 大きなラウンドナンバー
などです。
スキャルピングでは数pipsの攻防だったものが、スイングでは数十pips、数百pipsの攻防になります。
しかし基本的な考え方は変わりません。
長期間意識されていた高値を突破すれば、
「ここを抜けたら買おう」
という新規買いだけではなく、
「ここを超えたら損切り」
と考えていた売りポジションの買い戻しも発生する可能性があります。
だからこそ、
長期間抜けなかった高値を突破したあとに値動きが加速する
という現象が起こり得ます。
株式市場でも基本的な考え方は共通する
この考え方はFXだけに限定されるものではありません。
株でも、
「1,000円」
「5,000円」
「10,000円」
といった節目は市場参加者から意識されやすい価格です。
さらに、
上場来高値
年初来高値
前回高値
決算後につけた高値
なども重要になります。
もちろんFXと株では市場構造が違います。
FXは分散型のOTC市場ですし、株式には取引所の板があります。
したがって、まったく同じものとして扱うことはできません。
それでも、
多くの市場参加者が同じ価格を基準に意思決定すれば、その価格周辺に注文が集まりやすくなる
という基本的な発想は共通しています。
水平線そのものに不思議な力があるわけではない
私はここを勘違いしないことが大切だと思っています。
160.00円という数字そのものに、相場を止める不思議な力があるわけではありません。
直近高値に線を引いたから価格が反発するわけでもありません。
重要なのは、
その価格を多くの市場参加者が見ていること。
そして、
その価格を基準として実際の注文が置かれること。
です。
だからこそ、みんなが見ている水平線ほど意味を持つ可能性があります。
言い換えれば、
チャート上のラインを見ているのではなく、その向こう側に存在する市場参加者の行動を見る。
ということです。
ブレイクアウトは「線を越えた」というだけではない
この視点を持つと、ブレイクアウトの見方も変わります。
単純に、
「160.00円を超えたから買い」
ではありません。
160.00円を突破したことによって、
- 逆張りショートの損切り
- 新規ブレイクアウト買い
- アルゴリズムの注文
- 追随する短期トレーダー
などが連続して発生する可能性がある。
だから価格が走るのです。
つまりブレイクアウトとは、
一本の線を価格が越える現象というより、その線を越えたことで注文構造が変化する現象
と考えた方が分かりやすいかもしれません。
「高値・安値まであと何pipsか」を見る
実際のトレードで私が面白いと思っているのが、
現在価格から重要ラインまでの距離
です。
例えば、
現在値 159.92
直近高値 160.00
距離 8pips
だったとします。
さらに、
過去20本最高値 160.00
ラウンドナンバー 160.00
過去接触回数 3回
短期ATR 上昇中
ラインへの接近速度 速い
ロンドン・NY参加時間
という条件が重なっている。
こうなると、
「160円から上がるのか?」
ではなく、
「160円周辺で、普段より大きな値動きが発生するのではないか?」
という視点で見ることができます。
私はこの発想の方が、単純な上昇・下落予測より興味深いと思っています。
相場は「方向」だけを予測するものではない
トレードというと、
「上がるか?」
「下がるか?」
ばかり考えてしまいます。
しかし予測できる可能性があるのは方向だけではありません。
いつ動きやすいか。
どこで動きやすいか。
どこでは動きにくいか。
という別の軸があります。
方向予測が50%しか当たらなくても、
「この価格帯ではボラティリティが拡大しやすい」
という予測精度が高ければ、まったく違うトレード戦略を作れる可能性があります。
これは裁量トレードだけではなく、EAやインジケーターを作る場合にも非常に面白いテーマです。
最後に|高値・安値を見る理由は「線」ではなく「注文」にある
直近高値・安値やラウンドナンバーが意識される理由を、
単に、
「みんなが水平線を引いているから」
で終わらせてしまうと、本質が見えにくくなります。
その価格では、
利益確定する人がいる。
逆張りする人がいる。
損切りする人がいる。
ブレイクアウトで新規参入する人がいる。
それぞれ異なる目的を持った注文が集中します。
だから価格がその場所へ到達すると、通常とは違う動きが発生する可能性がある。
反発するかもしれない。
突破するかもしれない。
そして突破すれば、ストップ注文を巻き込みながら値動きが加速するかもしれない。
重要なのは、
「上か下かを必ず当てなければならない」と考えないことです。
むしろ、
「どこへ行くかは分からない。しかし、どこで動きが発生しやすいかは研究できる」
という考え方があります。
スキャルパーなら数秒~数分。
デイトレーダーなら数十分~数時間。
スイングトレーダーなら数日~数週間。
時間軸は違っても、
市場参加者がどこを見て、どこに注文を置き、どこで損切りし、どこから新規参入するのかを考える
という基本は共通しています。
チャート上の水平線を見るとき、
ただの一本の線として見るのではなく、
「このラインの周辺には、どんな注文が待っているのだろう?」
と考えてみる。
それだけでも、相場の見え方はかなり変わってくるのではないでしょうか。
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参考研究
Carol L. Osler
「Currency Orders and Exchange Rate Dynamics: An Explanation for the Predictive Success of Technical Analysis」
The Journal of Finance, Vol.58, No.5, 2003.
実際の外国為替市場におけるストップロス・テイクプロフィット注文の集中と、サポート・レジスタンス、ラウンドナンバー突破後の価格変動について分析した研究。
Carol L. Osler
「Stop-Loss Orders and Price Cascades in Currency Markets」
Journal of International Money and Finance, Vol.24, No.2, 2005.
ストップロス注文が連続的に発動することによって、急速で自己強化的な値動き「Price Cascades」が発生する可能性について分析した研究。
※本記事は市場構造や過去の研究をもとにした考察であり、特定の売買手法による利益を保証するものではありません。重要ラインで必ず反発・ブレイクすることを意味するものでもありません。