米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.36]2022年2月28日配信
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米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.36]2022年2月28日配信
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***目次***
マーケット振り返り
今週のピックアップ記事
川田の気になる銘柄
投資のヒント
お散歩
超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
活動情報
質問コーナー
皆様が資産形成で成功するために一緒に学び啓発し合うオンラインサロンです。 大好評のメルマガ「メディアで鍛える米国株式講座」だけでは伝えきれない内容や、 米国株式投資の魅力を体感できる会員向けのセミナーを提供します。
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
さあ、2000万円達成までのカウントダウンを今すぐ始めよう!
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1.マーケット振り返り(2月21日~2月25日)
<主要指数>
・NYダウ -0.1%
・S&P500指数 +0.8%
・ナスダック総合指数 +1.1%
=駆け足バージョン=
月曜日は休場でしたが、ウクライナ情勢の緊迫化で週前半は大きく下落しました。ロシアがウクライナ侵攻を開始した木曜日の半ばまで売られたものの、その後は長期金利の落ち着きや停戦期待などから買い戻し優勢となりました。
=ちょっとだけ詳しく=
月曜日はプレジデンツデーで休場でしたが、ウクライナ情勢の緊迫化が進み、ロシアによる親露派地域の独立承認や米欧の金融・経済制裁の発表などを受けてS&P500指数は昨年の史上最高値から10%超の下落で調整局面入りとなりました。
木曜日にウクライナ侵攻が始まると世界の株式市場は大きく下落し、原油価格などの商品市況が上昇しましたが、米国市場は金融引き締めが緩やかになるとの期待などから反発に転じました。
ロシアとウクライナの停戦交渉への期待感や、米国の経済実体や企業業績の再評価、および米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する個人消費のコアデフレーターが市場予想を上回ったものの長期金利が落ち着いていたことも支援材料となりました。
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2.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1】日経新聞 「銃声は買い」 動いたマネー 2/26
相場格言「銃声が鳴ったら買え」の通り?驚異的な戻りをみせた24日に続き、25日も米国株は上昇した。
相場下落を見越して空売りが膨らんでいた。「SPDR(スパイダー)S&P500」の空売り比率は昨年末の13%台から16%台に上昇。
スパイダーS&P500の場合、過去数回の調整局面では、おおよそこの比率が17%近辺で相場が底入れしていた。24日のような急激な戻りが生じると一気に買い戻しが発生する。
エネルギー不足問題でリセッション(景気後退)懸念が高まる欧州から「投資家が米国株に資金を移す可能性がある」。緩和マネーの黒子の役割も大きい。MMF(マネー・マーケット・ファンド)などに、1.6兆ドルと過去最高水準の資金がいまだに滞留する。
ウクライナ問題が最終的にどう決着するかは流動的だ。ただ、投資の観点から地政学リスクは株式相場に大きく影響しないとの見方が強まったのは確かだ。(NQNニューヨーク=張間正義)
【川田コメント】
日経夕刊の「ウォール街ラウンドアップ」の執筆者の中では張間さんに注目している。東京本社と日本の株式市場を過度に意識していないところに好感がもてる。
S&P500指数過去3か月チャート
【2】日経新聞 バフェット氏が推す「有事の株」 2/25
「戦時に金やビットコインを買うべきではない」――。米投資情報サイトのマーケッツインサイダーは24日、著名投資家ウォーレン・バフェット氏の言葉を引き合いに、こんなコラムを掲載した。
ロシアがクリミアを併合した2014年3月、バフェット氏は「米国企業には価値がある。最も悪いのは戦時に現金を抱え込むことだ」と語り、株式投資の継続を呼びかけた。
バフェット氏は1942年、11歳で初めて115ドルの株を購入したという。第2次世界大戦の激化で株価は一時低迷したが、同氏は後に「このときに株を金に交換していたら、現在の資産は100分の1以下になっていた」
「有事には買い向かえ」という投資格言がある。24日の株価反転は、危機に果敢に挑もうとする投資家の姿勢をのぞかせた。
【川田コメント】
資産形成の観点からは、金への投資は株式には敵わない。バフェット氏の言う通りだと思う。以下、いくつかの例を紹介する。S&P500指数と金との相対パフォーマンスは時間軸の取り方にもよるが、過去の検証では:
①株価指数(配当含まず)と金との相対パフォーマンスは長期では概ね株価のパフォーマンスが金を凌駕する。
②配当再投資の株価指数と金の場合、株価指数のパフォーマンスが大幅に金を上回る。
③バフェット氏のバークシャー・ハサウェイの長期パフォーマンスは配当再投資のS&P500指数より圧倒的に高いパフォーマンス。
過去57年間ではS&P500指数は約300倍になったが、バークシャー・ハサウェイは36,000倍だ。文中にあるようにバフェットは若い時に金ではなく株式という正しい資産を選択したことになる。もっとも彼の運用能力がS&P500指数より120倍も高率のリターンを可能にしているのだが。
S&P500対金| MacroTrends
以下は、1928年以降のS&P500指数と金の相対価格だ。1932年頃までは金が有利だった。その後は1942年あたりから1970年頃までS&P500指数が相対的に有利。インフレに苛まれる1970年代は金の勝ち。その後は1998年頃まで長期にわたりS&P500指数が勝っている。2000年から2009年までは金だが、この時期に株式市場は2度の大幅下落に見舞われたのが大きい。結果的に、約100年でS&P500指数は金の2.5倍ぐらい高いパフォーマンスを上げた。
株式指数(配当再投資)と金 - 126 Year Chart | Longtermtrends
チャートの黒い線は、データの関係でウイルシャー大型株価指数とS&P500指数を合成した配当込みの株価指数だ。この株価指数は金を大きくアウトパフォームしている。他は過去50年のS&P500(配当含まず、赤)、ダウ工業株30種平均(配当含まず 青)、金(黄色)、銀(灰色)だ。
黒い線は過去50年間で170倍ぐらいになっている。これは同期間のS&P500指数(配当再投資)の上昇率と概ね同じだ。配当を含まないなら約40倍なので配当再投資の効果は絶大だ。
S&P 500 Return Calculator, with Dividend Reinvestment
このサイトでは特定の期間のS&P500指数のパフォーマンスが容易に算出できる。
2月26日公表、恒例の「株主への手紙」
2月26日(土)にバークシャー・ハサウェイの「株主への手紙」が公表された。過去57年間でS&P500指数は300倍になったがバークシャー・ハサウェイは36,000倍だ。この1年はS&P500指数を凌駕しているが、良く知られているように、この20年間ならS&P500指数をわずかに上回るだけだ。ただしバフェットの凄いところは、この長きにわたりマーケットと格闘してきたこと。また、資産がこれだけの巨体になりながらも、まだS&P500指数を上回っていることだ。まさに超人だと思う。
https://fm.cnbc.com/applications/cnbc.com/resources/editorialfiles/2022/02/26/2021ltr.pdf
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3.川田の気になる銘柄
川田の保有銘柄を始め、米国株の情報に触れている中で、気になった銘柄を紹介するコーナーです。
今週の銘柄
シナプティクス <ティッカー:SYNA> Synaptics Incorporated
概要
シナプティクスは、PCのタッチパッドや、携帯電話の画面および指紋スキャナーに使われる半導体などを製造するヒューマンインタフェース技術の企業でしたが、最近の買収により、モノのインターネット(IoT)分野に進出しています。
(図1:シナプティクスの半導体が使われている製品のイメージ)
同社の魅力
シナプティクスの魅力は、買収を通じて業容が変化しており、拡大が期待される市場の主要プレーヤーになる可能性がある点です。
同社の業容の変化は、2019年8月に現最高経営責任者(CEO)のマイケル・ハールストン氏が就任してからです。それまでは売上高の約80%を携帯電話のタッチスクリーン部品に依存していて、売上高の半分以上をアップルが占めていました。
ハールストン氏のCEO就任後、3件の大きな買収がありました。一つ目は、より多くの周辺機器をパソコンに接続できるようにするドッキングステーション部品の主要プレーヤーだった「ディスプレーリンク」の買収です。また、半導体メーカーのブロードコムから無線IoT事業を買収して、Wi-Fi、ブルートゥース、全地球測位システム(GPS)技術などを取得しました。両方の買収とも2020年7月に完了しました。
3件目は2021年12月に完了した、半導体メーカーのDSPグループの買収です。DSPはデジタル・シグナル・プロセシングのことで、現実世界の音声や画像をデジタル世界とつなぐために使われる半導体です。DSPグループの製品とシナプティクスの他の製品群との組み合わせで、新たな事業展開が可能になりました。
上記の買収でIoT分野を強化する一方、低採算の携帯電話用ディスプレー半導体事業などを売却して事業の効率化を図り、利益率が上昇しています。
これらの事業再編の結果、IoT分野の売り上げは2021年10~12月期(同社の2022年度第2四半期)には全体の62%となりました(図2)。
(図2:直近四半期のIoT分野の売り上げは全体の62%)
45%だった2020年7~9月期と比較すると急速に伸びていることが分かり、同社は今期(2022年1~3月期)には63%になると予想しています(図3)。
(図3:四半期ごとの売上高とIoT分野の比率の推移)
このように足元の業績は好調で、利益率の低いPCや携帯電話関連事業の切り離しなどから、収益力の一層の向上が見込まれます。
中長期的に期待されるのは、IoTを通じたデータ量が飛躍的に増えるとともに、シナプティクスの半導体などを使った製品の使用場面も同様に増える点です。いわゆる5Gの通信の主役はIoTだとも言われており、そのデータを取得する際に必要なアナログをデジタルに変換する場面、それを通信する場面、人間に扱いやすいように処理する(インターフェイス)場面のそれぞれで、シナプティクスの技術が使われることになります。
シナプティクスはTiny ML(タイニー・マシーンラーニング)にも注力しています。これは、ホストコンピューターなどとデータのやり取りをせずに、デバイス上だけでデータの認知と処理と行動(反応)が完結できるように、人工知能(AI)を使って機能を埋め込むことです。最終的にはインターネットで常時接続されていなくてもデバイスが行動することになり、省電力化や省スペース化が図れます。スマートホームや生産工場を始めとする多くの場面での応用が期待されており、その市場は膨大です(図4)。
(図4:現在と将来の市場のイメージ)
(図1~4は会社資料より)
リスク
シナプティクスは自前の生産設備を持たない、いわゆる「ファブレス」の半導体企業です。現在の世界的な半導体不足は生産設備の不足によるところが大きく、シナプティクスもその影響で受注残は大きいものの、実際の出荷には至っていません。従って、生産面での出遅れなどから売上高が市場予想を下回る場合、割高であるために一時的な失望売りが出る可能性があります。また、他のハイテク銘柄同様に、全般的な投資家心理の変化の影響を受けて乱高下する可能性はあります。
SYNAの基本データ(出所:会社データ、Yahoo! Finance)
(2月25日現在)
株価 227.63ドル
時価総額 86.4億ドル
総収入 14.5億ドル
実績PER 64.58倍
実績利回り -----
本社:カリフォルニア州 サンノゼ
上場:2002年2月
株価チャート 5年
チャートはTradingView.comによる
(本コーナーは一般的な情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買を勧誘するものではありません)
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
ロシアのウクライナ侵攻で株式市場は大きく下落していたが木曜、金曜の二日間で大幅に反発した。S&P500指数は史上最高値からの下落率が一時10%を超えたのでいわゆる調整局面入り、さらにナスダック総合も瞬間20%超下がったので弱気相場入りの水準だ。
今回のこのコーナーでは、今回の株価下落の特徴をハイライトすることで今後の相場展開を占ってみる。
■S&P500指数の調整局面(10%超下落)
S&P500指数は2月23日に史上最高値からの下落率が10%を超える、いわゆる調整局面に突入した。「10%」に特段の意味はないが、長年マーケットでは下落の象徴的な水準とされてきたので、心理的なインパクトはあるのだろう。
「調整」局面は第二次世界大戦後58回計測されたが、その後20%以上の下落率、いわゆる「弱気相場」にまで及ぶのは、今回を除いた過去57回のうち15回だ。
10%調整に達した日の終値(2/23)以降の平均パフォーマンス
1週間後 1.5%
1か月後 0.5%
3か月後 3.1%
6か月後 5.66%
1年後 10.19%
10%調整後のパフォーマンスがプラスになる確率
1週間後 70.7%
1か月後 57%
3か月後 65.5%
6か月後 63.8%
1年後 72.4%
S&P500指数 過去20年における10%下落局面
■地政学リスク、開戦は買い?
今回の下落とその底打ちのタイミングを測る目安として、2月25日のテレビ東京の経済番組「モーニングサテライト」では、過去3回の主な戦争の開戦時期とその後の株価の関連を分析していた。いずれも「開戦は買い」を示唆している。
①湾岸戦争
1990年8月2日 – 1991年2月28日
1991年1月17日 イラク空爆
②イラク戦争
2003年3月20日、連合国軍がイラクの大量破壊兵器に関する国連決議違反を主な理由として、イラク全土に1ヵ月余に及ぶ地空からの軍事攻撃を行った戦争。
③アフガン戦争(紛争)
2001年の米中枢同時テロを受けて始まり、2001年10月7日、米国はアフガニスタンでの空爆を開始。
■今回の主要指数の下落
下のテーブルは主要指数の年初来の日々の指数と騰落率等だ。色とその濃淡が騰落率の目安だ。
細かい数字は無視して色とその濃淡に注目だ。今回はナスダックの両指数に色付き箇所が多い。つまり今回はS&P500指数よりナスダック指数の下落率が大きいことが分かる。
2022年年初来
S&P500指数(青)とナスダック100(橙)(年初来)
■2020年2~3月(コロナ危機の株価急落)
直近は金利上昇が確実な状況での地政学リスクに見舞われた。今回の大幅下落に比肩しうるのは2010年、2011年、2015年、2016年、2018年そして2020年あたりだ。もちろん、その前に2000年と2008年の超ド級崩落相場があるが、今回はそのような下落には至らないとマーケットは見ている。
またS&P500指数の今回の下落率は、取引時間中では最大約14%だったので、この程度なら後々振り返ってそれほどの暴落とは記憶されないだろう。ただし人気のハイフライング銘柄の下落率が大きいので、傷みを感じた投資家は多いはずだ。
下記は2020年2月から3月下旬までコロナ禍で急落した際の主要指数だ。この時はS&P500指数が34%、ナスダック100指数は28%下げた。
今回の下落はナスダックの下落率が大きい
2000年3月から2年半にわたり下げたITバブル崩壊でナスダック100指数はなんと83%の大暴落だ。ただし、その後の大幅下落局面では、今回を除けばS&P500指数とナスダック100指数の下落率に極端な差はなく、S&P500指数の下落率が大きい場合もあった。
ナスダック100指数の主な急落局面(1985-2022)
まとめ
経験則
*S&P500指数の10%下落、いわゆる「調整」局面は、その後かなり高い確率で1年後にはその下落分を埋めている。
*20%以上の下落(弱気相場)入りするのは、調整局面のうち5回に1回程度。
*米国が関与した過去3回の戦争では「開戦」の後には株価は上昇傾向が見て取れる。
今回の下落:ナスダック100指数の下落>S&P500指数の下落
*この20数年のナスダック100指数の下落は2000年に弾けたITバブルを除けば、S&P500指数より軽微な場合もあった。ただし今回は、ナスダック100指数の下落率がS&P500指数よりかなり大きい。個人投資家の保有はナスダック銘柄に傾斜している場合が多いので、その分、下落に伴う傷みも大きいはずだ。
有事と株価
歴史上の侵略、暗殺、経済制裁、テロなどの有事の際、マーケットへの影響は短期にとどまる傾向がある。
2001年9月の米同時多発テロの後でも、株価は31日で元の水準に。
1968年のベトナム戦争中のテト攻勢後は65日で戻った。
影響が長期にわたったのは1990年のイラクのクウェート侵攻(189日)と1941年の真珠湾攻撃(307日)。
景気後退の有無がカギ
地政学的ショック後のリターンは、景気後退の有無により明確に二分される。
①景気後退が起きた場合、翌年のS&P500指数は平均11%超の下落。
②景気後退を伴わない場合、平均で11%上昇。
FRBは株価にフレンドリーだった。
「FRBにとってより重要なのは、株式市場」は歴史が証明するところだ。FRBの引き締めの見通しとロシアの攻撃に反応した株式市場の下落からすると、恐らく来月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅は0.5%ではなく0.25%になりそう。
最近の事例では、10%以上の株式市場の調整があると、FRBが利上げを止めるか、軌道修正する結果になっている。2016年初めの最初の引き上げ後の打ち切りと、2018年末の引き締め終了。つまりS&P500指数は20%下落の手前で止まっている。
歴史的文脈
大局的には今後も1989年前の東西冷戦構造時代に時計の針が戻ることはないというのが前提だ。しかし、行き過ぎた市場原理が格差社会を助長し、世界中でその反動が顕在化している。
今回のロシア・ウクライナ発の地政学リスクが中国を巻き込んだ世界的な大混乱に発展するのか?この見極めには少し時間を要するだろう。我々は、“欧米の影響力の低下と新興国政府の国内重視によって生じた国際政治における権力の空白”、いわゆるGゼロを同時代で体験しているようだ。その意味では、過去の例証が将来を約束するわけではない。
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5.お散歩
◇◇最近行ったお店、映画、美術館、書籍編◇◇
~熊倉 貫宜の巻~
元証券マンで読書家、熊倉貫宜さんの寄稿です。
No.1エコノミストが書いた世界一わかりやすい金利の本/上野 泰也
1980年代以降の金融工学の発展から、すべての金融商品が金利を変数として説明され、金利を媒介として金融商品同士が交互に結びつけられるようになりました。
その結果、先物・オプション・裁定等々の新しい金融商品が市場に取引の厚みや新規の参加者をもたらす事となりました。
また、企業の経営戦略、特に投資の可否を判定する際に、その投資が産む将来の収益の現在価値を図る方策として金利による算定、いわゆるディスカウント・キャッシュ・フロー方式(Discount Cash Flow)が常識となりました。
それ故に企業の資金調達に際し、証券マンと調達企業の間では同じ言葉(Lingo)で議論できる土壌が築かれました。
こんな環境の中で過去40年くらいの証券マンの仕事は、自分勝手な相場観を語ったり、易者のように罫線表(チャート表)を振り回したりする怪しげな仕事ではなく、合理的な判断を提供する先進的な仕事であったと申し上げると読者の皆様の反応は如何でしょうか?
閑話休題
現代の金融市場では‟金利”がどれ程に重要であり、個人の投資行動でも常に気を配るべきだと、ご理解頂きたいところです。
さて、都心の大手書店では投資入門書のコーナーが大きな棚を占めておりますが、‟金利”に特化した入門書はなかなか見当たりません。
私も大量の入門書をいろいろと吟味した上での判断では決してありませんが、そんな中でも一読、本書は金利に関わる世界を平易に解説しているもので是非一度、目を通して頂くことをお勧めいたします。
実際の金利をめぐる金融市場の現場を解説した書には「東京マネー・マーケット 第8版/東短リサーチ 加藤 出(編集)」と云う好著もございますが、こちらは専門的な解説書ですので、ご興味があれば、とさせて頂きます。
一期一会の人びと/五木 寛之
先にご紹介いたしました石原慎太郎閣下と同年の1932年(昭和7年)生まれの五木寛之氏。
石原氏とは異なり戦後、朝鮮半島から引き揚げ、ご苦労の末に早稲田大学に入学されるも経済的困窮もあり中退されております。
その後、作家・作詞家として膨大な仕事をこなされ、「青春の門」「大河の一滴」等々のベストセラーを生み、今なお旺盛に執筆を続けていらっしゃるのは皆様ご存じの通りです。
本書はいろいろな分野の方とのインタビューを中心に、五木氏が触れ合った文字通り「一期一会」の記録です。
本邦の作家から川端康成、森洋子、外国作家からフランソワーズ・サガン、ヘンリー・ミラー、ロレンス・ダレル、スポーツ界からはモハメド・アリ、さらにローレン・バコール、太地喜和子と云った綺麗所まで登場しております。
しかしながら、その白眉はやはりミック・ジャガーとキース・リチャーズのThe Glimmer Twinsの登場でしょう。
1990年にローリング・ストーンズがSteel Wheels Tourで日本を訪問した折のインタビューですから、既に30年以上も前のインタビューとなります。どちらの方も当初、ロック・スターらしい韜晦でその虚像を維持しようとしますが、五木氏の引き出しの多さから徐々に胸襟を開いて行きます。
短時間ながらこの二人の出自、ある種の育ちの良さみたいな核を探り当てるのはやはり「お見事!」としか言いようがありません。なにしろキース・リチャーズ氏からは個人的な住所と電話番号を尋ねられている五木氏なのですから。
人と話をする、話を伺う、どこぞの首相が「聞く力”という事を表明されておりましたが、やはり聞き手の懐の深さこそがコミュニケーションの要と改めて思い知らされた書です。
【熊倉 貫宜(くまくら のりよし)】
1980年大和証券入社。企業派遣留学としてシカゴ大学経営大学院にてMBA取得。シンガポール、香港駐在を通しアジア・ビジネスに深く関わる。
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新連載「これでばっちり!米国株式を使った資産形成術のすべて」
はじめに
資産形成に必要な基本的な内容を網羅したシリーズを連載しています。全体の構成は以下のように考えています。
我々はどのような時代に生きているのか?全二回
自立した日本人と自立に欠かせない資産形成 全三回
株式市場は米国にしかないの? 全4回
日米株式文化の違い
知っておくべき米国市場の特徴
おすすめの投資戦略~コア・サテライト投資~
コア部分の投資戦略
サテライト部分の投資戦略
何を買ったら良いのか
情報源と投資
引き続き、弊社のウェブサイトの「アメリカ株式40年投資」シリーズでおなじみの大倉真さんの寄稿です。
アメリカ株の季節性②
アノマリー
前回は「S&P500 Index Seasonal Chart(S&P500指数の季節性チャート)」を用いて、アメリカ株式市場の変動パターンの大枠を説明しました。今回は月次のデータを使って、もう少し深掘りしてみたいと思います。
理論的に説明することが難しいものの、経験的に観測できるマーケットの規則性のことを「アノマリー」と言いますが、このような一年のある特定の時期に決まった動き方をする季節性もアノマリーの一種です。そこで1971年から2020年までの50年間のS&P500指数の月次データを用いて、このような季節性を分析したものが図表1です。
図表1:S&P500の季節性(1971年~2020年の50年間)
この分析から見て取れる特徴的なことをいくつかあげてみましょう。
まず、9月のリターンは平均値・中央値ともマイナスで、勝率も50%以下となっています。次に10月頃から年初にかけては勝率が高く、平均リターンも大きなプラスとなります。そして、2月に若干勢いが低下しますが、その後5月にかけて再び勢いを取り戻します。しかし、6月以降8月にかけて再度勢いと勝率が低下して9月頃に大底を迎える、といった傾向があるようです。
簡単に言うと、「株式市場は一年のうち秋口は安く、その後上昇相場が続き、翌年5月頃にピークをつける」というような展開をしがちだということでしょうか。これをトレーディング的に表現するのであれば、「秋口に買って、翌年の5月頃に売り抜ける」と言い換えることができるでしょう。
一年を通しての相場展開の考え方
ここでは各月の平均リターンについて年間平均値からの偏差を計算し、それらを連結(掛け合わせ)するとどのような動きになるのかを確認してみます。偏差を求めることで一年を通しての上昇トレンド(月次で+0.7%)を除去することができるので、月々の強弱がより鮮明になり、アメリカ株の季節性がよりイメージしやすくなると思います。それを示したのが図表2です。
図表2:一年を通したS&P500の平均的な変動パターン(トレンド除去後)
このグラフは「Sell in May and go away; don‘t come back until St Leger Day.」という市場の典型的な動きを非常によく説明していることが分かります。4月にかけて強かったモメンタム(勢い)が5月以降低下し始めるのですが、その後9月にかけて横ばいで済むのか、それとも本当に軟調になるのかは、市場の上昇トレンドの強さ次第であると解釈すればよいでしょう。
もちろん、このような動き方は「そのような傾向がある」というだけの話であり、毎年毎年必ずそのように動くとは限りません。しかし、このようなパターンを相場展開の基本形としてポートフォリオを運用すれば、全く何も考えずマーケットに臨むよりも何倍もよいと思います。そして、実際にここで見たパターンから外れた動きになった場合は、その時々の市場材料などを考慮し、基本想定を修正してゆけばよいでしょう。
今回取り上げた季節性についての考え方は、必ずしも上手くタイミングを取るためのものではありません。前回もお話ししたように、上手くタイミングを取ることは、プロのファンドマネージャーでも至難の業です。それよりも、(繰り返しになりますが)みなさんにはむしろ市場の中に長期で居座り続けてほしいのです。
そのためには、市場が調整する可能性が高い時期を知り、それに対する「心構え」を持つことが重要です。自分なりの相場展開についての考え方を持っていれば、実際に市場が下落したとしても、パニックに陥ってせっかく保有し続けているポジションを慌てて投げ出してしまうこともないのではないでしょうか。
【大倉真】
愛媛県出身。1984年大阪大学経済学部卒業。2005年埼玉大学大学院経済科学研究科より博士(経済学)。シティバンク、エヌ・エイ、シティトラスト信託銀行、ソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)で勤務。年金・公的資金など機関投資家向けに加え、プライベートバンクで富裕層向けの資産運用にも従事。2017年、京都・東山で投資会社EagleCapital株式会社を設立。CFA協会認定証券アナリスト。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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6.超富裕層が実践する「プライベート投資戦略」とは
IFAに特化した営業支援を行っている市川宏さんが、超富裕層が活用している投資戦略を、皆様に簡単にお伝えするコーナーです。
前回に続き、「プライベート投資戦略」の4つの柱の1つである、プライベート・エクイティ投資についてお伝えします。
今回は、プライベート・エクイティ投資の4つのステージのうち、投資先企業がシード・アーリーステージという、初期の段階についてです。プライベート投資戦略の中のプライベート・エクイティにおいて、創業前や創業間もないシード期の企業に投資することを「エンジェル投資」といいます。
資産運用のための投資というよりは、自らの知識やノウハウを活かしながら直接投資先の企業の株式を持ち、伴走しながら応援するという意味合いが強いです。
今回は、そのエンジェル投資の内容と、エンジェル投資家にとって特に優遇されている「エンジェル税制」についてお伝えします。
エンジェル投資の魅力
エンジェル投資の魅力は、大きく分けると二つです。
一つは、非常に大きなリターンが見込めることです。創業間もないスタートアップ企業に出資するので、その企業が成長し、上場やバイアウトをするまで保有していた場合は、数十倍から数百倍に価値が上がる可能性があります。
例えば、自らPayPalやPalantirなどの大企業を創業し、エンジェル投資家でもあるピーター・ティール氏は、2004年にフェイスブックに50万ドル出資し、2012年のIPO時に6億ドル以上で売却することに成功しています。それだけ計算しても、たった8年で1,200倍です。これは極端な成功例ですが、このような莫大な利益を狙えるフェーズというのがシード期のプライベート・エクイティ投資です。
もう一つが、ベンチャー企業の成長に大きな影響を与えられること。自身の知識や経験を使って投資先の企業を応援することにより、その企業の成長に寄与できます。日本では、スタートアップ企業や起業家が少ないと言われています。国の成長のためにはベンチャー企業がもっと活発になることが重要です。新しい現状を打破できるような、ベンチャー企業による新サービスが増えることで、人々の生活もより便利になるでしょう。また、応援したベンチャー企業が成功することで自身の経営力や評価も上がり、人脈なども大きく増やすことができます。
エンジェル投資は税制面で優遇されている
エンジェル税制とは、ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と、売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。
ベンチャー企業へ投資した年に受けられる優遇措置
以下のAとBの優遇措置のいずれかを選択できます。
ベンチャー企業株式を売却した年に受けられる優遇措置(売却損失が発生した場合)
未上場ベンチャー企業株式の売却によって生じた損失を、その年の他の株式譲渡益と通算(相殺)できるだけでなく、その年に通算(相殺)しきれなかった損失については、翌年以降3年にわたって、順次株式譲渡益と通算(相殺)ができます。
ご自身がスタートアップ経営の経験がある場合や、知り合いの企業に直接出資するという機会がある方は、うまくエンジェル税制を活用してエンジェル投資をしましょう。
そうではなく、純投資として行いたい方は、うまく案件を見極めて、金額も少額にするなど、慎重に投資した方が良いでしょう。
プライベート・エクイティ投資では、初期段階への投資よりも、ある程度企業が成熟した段階での投資の方が魅力的です。その点は次回、ご紹介します。
【市川宏】
株式会社Winviser代表取締役。SMBC日興証券にて茨城、福岡、東京の各支店にて資産運用コンサルティングに従事した後、超富裕層向け金融商品のマーケティングを行う。
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)業者に転籍し、超富裕層の資産運用のアドバイスを行った後、日本の金融業界の発展のためIFAに特化した支援会社を設立。現在は、IFAを支援する傍ら、自身の経験を元に個人投資家に資産運用のサードオピニオンを行っている。
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7. 今後の活動情報
◇ストックボイス:3月2日、3月16日(水)11:00~
◇日経CNBC:3月9日(水)午前8時15分前後(電話インタビュー)
3月29日(火)スタジオ出演
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8. 質問コーナー
お休みです。皆様の質問をお待ちしています。
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