米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.32]2022年1月24日配信
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米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.32]2022年1月24日配信
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***目次***
マーケット振り返り
今週のピックアップ記事
【円の実力低下、50年前並み 弱る購買力、輸入に逆風 消費者、負担感増す】【米主要企業23%増益 10~12月、市場予想 値上げ浸透、人件費は重荷】【米銀、強まる「一人勝ち」 前期は大手4行が最高益 M&A助言など好調 市場に変調、逆風も】【ナスダック総合が1971年の指数発足以来66回目の10%調整】
川田の気になる銘柄
投資のヒント
川田のお散歩
活動情報
休刊日:1月31日号
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
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1.マーケット振り返り(1月17日~1月21日)
<主要指数>
・NYダウ -4.6%
・S&P500指数 -5.7%
・ナスダック総合指数 -7.6%
=駆け足バージョン=
長期金利が約2年ぶりの水準に上昇したほか、一部企業の決算発表が市場予想を下回って警戒感が高まりました。ハイテク株に一時的に押し目買いは入ったものの続落となり、ナスダック総合指数は調整局面入りとなりました。
=ちょっとだけ詳しく=
月曜日は休日でしたが、火曜日から下落が続きました。
中東での地政学的な懸念から原油価格が急騰したことを受けて、インフレが高進して利上げが加速するとの観測から、長期金利は1.85%と約2年ぶりの水準に上昇しました。成長株に加えて、決算発表が嫌気された金融株も下落しました。
その後、中国人民銀行による金融緩和が好感されたことなどからハイテク株に押し目が見られましたが、連邦公開市場委員会(FOMC)や主要ハイテク企業の決算発表が翌週に控えていることから警戒感が強く、金利上昇が落ち着いた週後半も戻り売り圧力の大きさが示されました。
ナスダック総合指数は昨年11月の史上最高値から約14%下落して、調整局面入りとなりました。
S&P500指数過去1年間
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2.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1】 円の実力低下、50年前並み 弱る購買力、輸入に逆風 消費者、負担感増す 1/21
円の総合的な実力が50年ぶりの低水準に迫ってきた。円の実質実効為替レートは95年の150台が最高で、当時から50%強、低下した。95年から足元までの日本の消費者物価指数(CPI、総合)の伸びは4%なのに対し、米国は84%に達した。
物価の格差はビッグマック指数でも明らかだ。21年7月時点でマクドナルドのビッグマックは日本では390円で米国では5.65ドル(約650円)。円相場が1ドル=70円まで上昇しないと価格差を埋められない。円相場はむしろ円安に振れているため、国内の7割増しの価格を払わないと米国で同じ商品を買えないという購買力の低下につながっている。
日銀の輸入物価指数によると、牛肉は10年前に比べ2.4倍に急騰。小麦は66%上昇するなど身近な商品の輸入物価上昇が目立つ。粗糖やパーム油はすでに1980年代以来の高水準だ。今後、販売価格への転嫁が進めば、さらに生活者の負担が増すことになりそうだ。
【川田コメント】
直近は海外旅行が出来ないので、この記事にある円の“実力低下”を直接感じる機会は少ない。しかし記事にもあるように、現実に我々は確実に貧しくなっている。
物価と同時に米国株式投資にも為替は影響する。長期資産形成の観点なら円高の時に米国株式を買い貯めておきたいところだが、そうあってほしい時にはそうならない。
経験則だが、米国株式投資では為替と株価の両方で同時に儲けようなどとは思わないほうがいい。為替の方向性にとらわれなくても満足できるリターンをもたらしてくれるはずだ。
【2】 日経新聞 米主要企業23%増益 10~12月、市場予想 値上げ浸透、人件費は重荷 1/20
22年1月14日時点ではS&P500指数の構成企業の21年第4四半期(9〜11月期などを含む)の純利益は23%増で、売上高は12%増となる見込みだ。
ヘルスケア(20%増)やテクノロジー(16%増)などの増益率が大きい。コロナワクチンが量産段階に入っても値崩れしておらず、企業によるデジタル化対応の投資は底堅いことなどが要因だ。
利益率も改善傾向。第4四半期の売上高純利益率は13%と高い水準が続く。21年通期でも13%と20年(10%)より3ポイント上昇する見通し。ただし22年を通じては「過去最高の利益率を維持できるとは考えにくい」。最大の理由は高まる賃金上昇圧力だ。
米国株に対しては22年も強気の予想が多い。米JPモルガンのストラテジスト、マルコ・コラノビッチ氏は22年末のS&P500指数の予想値を18日の終値より10%高い5050とみる。ただし企業収益が揺らぐことになれば、相場の波乱要因となるリスクがある。
【川田コメント】
こういう話題は日経新聞が便利だ。新聞をこまめにフォローすると、米国の代表的な企業の決算を時系列で報道しながら業種別にも纏めてくれる。例えば、メガバンクなら、個々の決算が出終わったらそれらを一覧のテーブルにして見やすくしてくれる。先週はエネルギー、今週と来週はプラットフォーマーなど、注目決算が目白押しだ。
日経は記事のグラフやチャートも分かりやすい。下手にネット上をあれこれ探して時間をロスして不確実な情報を鵜呑みにするより、日経を丁寧に読むのが効率がいい。ただし、どうしても日本の国益と日本企業に期待を抱かせる記事がデフォルメされているので、そのトリックを見破る眼力が試される。
【3】日経新聞 米銀、強まる「一人勝ち」 前期は大手4行が最高益 M&A助言など好調 市場に変調、逆風も 1/21
19日までに出そろった21年12月期決算ではJPモルガンに加え、バンク・オブ・アメリカやゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーが過去最高の純利益を記録した。収益面で英HSBCなど欧州大手銀や日本のメガバンクとの差が広がり、米銀1強の構図が強まる。
米銀の強さには構造的な要因がある。M&Aの助言、株式や債券の引き受けといった投資銀行部門は北米市場が最大。米銀は圧倒的な地位を占め、21年のM&Aブームの追い風を受けた。母国市場での高い収益力を背景に、欧州やアジア事業を強化している。
米銀が攻めの手を緩める様子はない。JPモルガンは14日、22年の非金利費用が前年比9%増の770億ドルに膨らみそうだと公表した。IT関連に120億ドルを投じるなど、今後の収益源の確保に向けた積極策を続ける。
【川田コメント】
【2】で紹介したが、この記事は米銀主要6行の決算を纏めた記事だ。米銀と欧州や日本の同業を、部門別や絶対額でも比較している。図表も見やすい。「米欧投資銀行の手数料収入推移」や「米銀の収益は邦銀・欧州銀を上回る」と題するグラフがある。
例えば、JPモルガンの純利益は500億ドル近いが、これは邦銀3行を合わせたものより大きい。こういう規模感や世界での存在感の大きさは普段は見逃しがちだ。経済や投資対象を常にグローバルな視点で見るクセがつく。
ただし、日経は投資価値を語ることはない。したがって投資情報を求めるなら私が編集人を勤める「バロンズ・ダイジェスト」が便利だ。この2つの情報源を使い分けることで効率的な情報収集ができる。
なお「バロンズ・ダイジェスト」は主なネット証券に口座があれば無料でアクセスできる。
【4】MarketWatch(米国の株式専門メディア)ナスダック総合が1971年の指数発足以来66回目の10%調整 1/20
【川田コメント】
「ナスダック総合は1月19日(水)のマーケットでも売られた。昨年11月19日の史上最高値を境に下落基調が続き、高値からは10.7%下落した。ウォール街では株価が10%超下落すると“調整”と呼ぶ。1971年にスタートした同指数が高値から“調整”を記録するのは今回の前までに65回あった。このうち24回(37%)ではその後も下落し弱気相場、つまり20%超下落した。一方、この10%下落を起点に反転するケースも多い。」
この記事は1月19日(水)終了時点のものだが、その後の2日間でも大幅に下落した。
下記は2007年の金融危機以降の“調整”局面を取り出したテーブルだ。2007年と2008年は未曽有の下落相場で、2009年3月が大底だった。したがって、この期間は“調整”のあとに反発しても、また下落したケースが多い。
2011年夏の下落は欧州債務危機、米国国債格下げ、景気後退懸念で売られた。2016年年初は、2015年12月から利上げを始めたものの景気減速懸念が台頭して株価は下げた。そして2018年も利上げとFRBバランスシート縮小の最中での景気への懸念だった。また、2020年2月は新型コロナウイルス危機で、3月下旬までかつてないほど短期間で下げた。
ナスダック総合10%調整以降のパフォーマンス
今回の“調整”の後?
これまで10%超下落した後にさらに相場が下振れするのは、景気後退懸念が相場を覆っているときに多い。
今回は、インフレ懸念の中で利上げとバランスシート縮小が相場の下押し要因だ。しかし2018年と異なり、今回は利上げもバランスシート縮小もまだ始まってもいない。
利上げ回数については、年内3回ではなく4回までが織り込み済みで、初回は0.25%ではなく0.5%との観測もある。
前回は2015年12月の初回の利上げから2017年10月の量的引き締めを開始するまで22か月(1年と10か月)だった。今回は利上げ開始後、その数カ月以内にはQT(量的引き締め)が始まるとの観測だ。それだけFRBがタカ派的に変身したと株式市場は受け取ったのだろう。
これは、インフレマインドを抑制するための強いシグナルかもしれない。また、バランスシート縮小の株式市場への影響は2017年10月から経験しているが、株価がマイナスに反応したのは2018年終盤だ。
今回のFRBは、膨れ上がった資産価格へ冷や水を浴びせかけることで、投資家の過剰な楽観論に警戒を呼び起こすためかもしれない。その意味ではFRBが利下げやさらなる金融緩和で投資家を救済してきた、いわゆるFRBプットは期待できそうもない。
ナスダック総合 長期チャート(目盛りは対数)
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3.川田の気になる銘柄
川田の保有銘柄を始め、米国株の情報に触れている中で、気になった銘柄を紹介するコーナーです。
これからしばらく、米国の投資週刊誌であるバロンズが年初に行っている恒例の大型企画である「ラウンドテーブル」で取り上げられた銘柄の中から取り上げます。このラウンドテーブルは、10人の金融市場のエキスパートが金融市場のみならず経済・社会情勢を検討した後に推奨銘柄を披露する、米国の投資家の注目が高い企画です。
今週の銘柄
アプライド・マテリアルズ <ティッカー:AMAT>
Applied Materials, Inc.
概要
19カ国に115拠点を持つ世界最大の半導体製造装置メーカーです。事業は、売り上げの約3分の2を占める「半導体システム」、機器サポートのための「アプライド・グローバル・サービス」、「ディスプレイと隣接市場」の3セクターに分かれています。
同社の魅力
半導体産業の市場規模は今後も急速に拡大します。それは、分析して様々な機器を動かし、行動を起こすためのデータが、今後急速に増えるためで、この市場規模が同社の魅力の源泉です。
資料1にあるように、人間が作成するデータは将来のデータのわずかな部分です。今後は、モノのインターネット(IoT)によって得られる機器からのデータが大半を占め、住宅(スマートホーム)や自動車(主に電気自動車)からのデータも人間が作成するデータの量を上回る見通しです。
資料1 データ作成主体の変遷(単位:ゼタバイト=1兆ギガバイト)
(棒グラフの下から人間、IoT、住宅、自動車が作成するデータ量)
そして、資料2にあるように、半導体産業の売り上げの新たな源泉として、1990年まではメインフレームコンピューター、2002年頃まではパソコンとインターネット関連機器、現在はモバイル機器となっています。そして、今後はAIが新たな源泉となると見込まれており、そこから発生する売り上げの増加は非常に速くなります。
資料2 半導体産業の市場規模とその源泉の推移(単位:10億ドル)
別の言い方をすると、通信の5G、IoT、ウェブスリー(Web 3.0)、メタバース、超大規模データセンターなどの、新たな時代のデータ処理に必ず必要になる半導体の市場は大きいものがあります。
足元を見ても、2021年の半導体産業の市場規模は26%成長して約5000億ドル超になったとの試算もあり、2022年は6000億ドルを超える可能性があります。同社は世界で生産されているほぼ全ての種類の半導体の製造に関連した装置と運用ノウハウを持っており、長期的な市場拡大の恩恵を受けるためには外せない銘柄です。
資料3 半導体製造装置部門の四半期別売上高と営業利益率の推移
(単位:100万ドルと%)
リスク
2021年第4四半期(10月末)の売上高はサプライチェーンの混乱で前期から減少しました。2021年度第3四半期まで売上高が急増したことから、今後は対前年比でハードルが高くなることも予想され、成長鈍化のイメージで売られる場面も考えられます。それでも高い利益率を誇っており、長期的な成長性に問題はないと思われます。
AMATの基本データ(出所:会社データ、Yahoo! Finance)
(1月21日現在)
株価 135.06ドル
時価総額 1379億ドル
総収入 230.6億ドル
予想PER 18.7倍
実績利回り 0.68%
本社:カリフォルニア州、サンタクララ
上場:1972年10月
株価チャート 5年
チャートはTradingView.comによる
(本コーナーは一般的な情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買を勧誘するものではありません)
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
バリュー対グロース、私は投資方針を変えずにグロースのまま
バリュー対グロース
昨年までの個人投資家はグロース銘柄、とりわけ株価の値動きが派手なハイフライング銘柄で大きく儲けた投資家が多いことだろう。しかし直近の下げ相場ではそのハイフライングに限らず売り上げも利益も伴っている“まともな”グロース銘柄の株価もかなり下落している。
継続して市場でリスクを取り続ける投資家にとって、物色対象と注目銘柄の変化にどう対応するのかは投資家の関心事であり、力量や胆力を問われるところでもある。そこで物色対象の区分けとして代表的なバリュー対グロースについて紹介する。
1)バリューとグロースの優位は10年単位で役者交代
過去40年間にわたって長期金利は低下傾向が続いた。そしてその間ほぼ10年毎にバリューセクターとグロースセクターのパフォーマンス優位は入れ替わって来た。
このパターンに従えば、昨年辺りから今後10年間はバリュー優位が続くことになる。実際に、昨年春の金利上昇期や年初からではバリュー銘柄が優位だ。もっとも、昨年1年間ではS&P500指数がダウ工業株30種平均のパフォーマンスを凌駕した。
ラッセル1000グロース(RLG)とラッセル1000バリュー(RLV)の相対パフォーマンス
ラッセル1000は大型株の指数だ。この1000銘柄をグロースとバリューに分類しているのがこの両指数だ。あいにくこの指数は1994年からしか採取できない。そこでこのグロース/バリューのチャートが下記だ。指数が上方に向かっていればグロース優位。下方に向かえばバリューが優位だ。
上記の40年チャートと下記のチャートを見比べると、確かに90年代はグロ―スが優位で2000年代はバリュー、そして金融危機のあとは再度グロースが優位だ。1990年代後半のグロースの相対優位は凄まじく、2000年代前半のその反動は極めて大きかった。
ただし、バリューが優位なはずの2000年代も金融危機が本格化する前の2007年ごろからは、すでにグロースの相対優位が見て取れる。これは金融危機の際に、バリューセクターの銀行や資本財セクターが情報技術セクターなどより大きく下がったからだ。
なお、バリュー/グロースの相対株価は2015年頃までには1998年頃とほぼ同じパフォーマンスに戻っている。つまり1998年以降著しく先行したグロースは、その後壊滅的な下落を経験したが、2007年ごろにはボトムを打ち、2015年頃までにはバリュー銘柄とそのパフォーマンスは並んだということだ。
ナスダック100/ダウ工業株30種平均の相対パフォーマンス
ナスダック100は成長力の高い大型銘柄の構成比率が大きく、つまり大型グロースの代表的な指数だ。一方、ダウ工業株30種平均(いわゆるNYダウ)は米国を代表するバリュー系の大型優良銘柄指数だ。ここでもナスダック100とダウ工業株30種平均のパフォーマンス優位は10年毎に交互に入れ替わっているように見える。
ただしナスダック100は、ITバブルの途中の値上がりが凄まじかった。そして崩壊後の暴落のあとは2003年ごろにはその相対パフォーマンスはすでに1998年当時のレベルにまで戻り、その後はナスダック100が相当に良好だ。ここがラッセル1000とは異なっている。
つまり1998年から2002年までの尖った時期を除けば、コンスタントにダウ工業株30種平均をアウトパフォームしているように見える。ここは私がナスダック銘柄を重視する理由でもある。
ただし、直近5年間はナスダック100がITバブル期のように大きくアウトパフォームしている。この乖離をどう評価するかだ。つまりナスダック100の上方乖離がこのまま続くのか、もしくは2000年のITバブル崩壊時のように行き過ぎが修正されるのか?
ナスダック100には、米国でもっとも成長力が高く、世界中で稼ぎ、その果実を投資家にもたらす企業が集まっている。だから米国株式に投資するならこの指数が有望との考えで、これは今後も変わらない。年初来ナスダック銘柄を中心に大きく売られているが、長期的な視点でこの銘柄群を見守りたい。
ナスダック100/ダウ工業株30種平均 1986年以降の相対株価
ナスダック100/ダウ工業株30種平均 直近5年間の相対株価
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5. 川田のお散歩
◇◇最近行ったお店、映画、美術館、書籍編◇◇
直近の読了、読みかけ、読む予定の本(1/24)
なぜ日本は没落するか (岩波現代文庫) 文庫 – 2010/7/17
森嶋 通夫 (著)
「このままだと日本は必ず没落する……。1999年に刊行された本書は、2050年を見据えて書かれているが、驚くほど現在の日本の現実を予見している。なぜそうなるのか、日本人の精神性と日本の金融、産業、教育の荒廃状況を舌鋒鋭く指摘し、その救済案「東北アジア共同体構想」を示し、救済案への障害となるものをも示す。(解説=中村達也)」
最近、何度かこの本に言及している。とにかく老いも若きも、およそ日本の行く末を真摯に憂う気持ちがあるなら、この本は必読だと思う。
まずは「はしがき」が刺激的だ。「通常没落とは、明治維新を見ればわかる。当時徳川幕府は行き詰っていたが、経済的に国民全体が塗炭の苦しみに喘いていたわけではない。」
「幕末の時も、ヨーロッパから見れば、日本は時代遅れの中世的な国であったのに、経済的には中進国と見なせる国であった。庶民の教育課程や、文化水準は驚くほど高かった」
それで森嶋先生の見立ては、「政府に力がなく、国民が時勢に目覚めてなくても、国が経済的に貧困で無いことは十分あり得る。こういう場合には、一群の政治的アイデアを持った人々が現れて主導権を握れば、明治維新がそうであったように、社会の歯車が一転して勢いよく回転しだすことがあり得る。しかしそういう人が現れず、政治的停滞が続けば、その国はせいぜいよくて、人々が過分の物質的生活を享楽して時を潰すだけの国に終わってしまう」
また森嶋先生のアプローチは
第一章 P5
マルクスは経済が社会の土台であると考えるが、私は人間が土台だと考える。経済は人間という土台の上に建てられた上部構造にすぎない」
このあとで日本を担う経済、官僚そして政治家がどのような教育環境にあったかを時系列で表す。
例えば、この本が書かれた1998年時点で3歳、13歳そして18歳の人は2050年、つまり52年後にはそれぞれ55歳、65歳そして70歳となっている。そして、これは日本社会の屋台骨を担う官僚(事務次官)、企業の社長そして政治家の重鎮の人の年齢だというのだ。
その上で、この人達の受けた教育内容を調べれば今後の日本が占えるという論法だ。社会の動きを、人口という土台の動きから導き出す思考は、「人口史観」と呼んでもいいと言っている。
いくつか興味深い箇所を列挙する。
戦前戦後の教育の不接合
P15 デュルケーム(注)によれば、青少年への教育は青少年が大人の社会に参入するのを円滑にするという役割がある。
戦後の日本人は大人の社会をできるだけ戦前のままに保つ努力をした。戦後の日本経済は戦争中の体制の平時版と見てよいほど、戦時体制に酷似していた。(P16)政治体制もまた戦前回帰的だった。そしてここが重要だが、このような組織を動かしていくイーソス(精神 ethos)は、極めて日本土着的であった。
(注)エミール・デュルケーム(Emile Durkheim、1858-1917)
社会学者・教育学者時代は19世紀後半から第一次世界大戦末期。この期間に彼は、今日の個別細分化した学問分野からは想像も出来ない多分野に跨がった学説(社会学、教育学、政治哲学、ネーション・ナショナリズム問題、エピステモロジーなど)を展開し、今日まで影響を与え続けている。
第2章(P21)「現実に政治家は知識人の範疇の外に所在する。(中略)(本も読まない政治家を詰ったあとで)信じがたい程の金が、冠婚葬祭での心付けや、贈賄のためや、使途不明の接待費やお車代に使われていることがわかる。~日本の政界が西欧のように研究に金をかける政界と非常に異なっていることが判明する」
また、戦後高度成長期に活躍した政治家について(P24)の要旨「1946年から1980年にかけては、吉田茂、石橋湛山、池田勇人、佐藤栄作、三木武夫、福田赳夫、大平正芳など、日本的水準では優れていると言える政治家が活躍した時代だったが、石橋、三木を除けば他は全員キャリア官僚出身。
その後官僚出身の政界支配が批判され政党生え抜きの人間が重要な地位に。1988年から1997年にかけて9人の首相が誕生したが、官僚出身は宮澤喜一だけで他は皆政党生え抜きの首相。だがその業績は官僚出身の首相に比べると明らかに大きく見劣りする」。
ここは難しい問題だ。官僚機構は官僚出身の首相となら気脈が通じて政権運営がスムーズにできたのかもしれない。そもそも戦後の高度成長期は政策目標が設定しやすく、国民も一丸となって豊かになるために頑張った時期だから、迷いが少ない時期だったとも言える。
石油危機を乗り越えた1970年代後半から日本の経済的プレゼンスが高まり、日米貿易摩擦を解消するための円高誘導(プラザ合意)と内需拡大、低金利政策でバブル経済に突入し1989年にピークを迎える。日本の難題はこの時点から表面化しだしたわけで、この後は戦後日本の本当の実力が試されていたわけだ。その結果は経済だけなら株価が如実に示している。
いたるところ“荒廃”だらけの日本?
森嶋先生によればその後の日本の停滞は根底には日本人の精神が荒廃しており(第3章)エリート主義が欠如しているからという見立てだ。そしてこのあとは
4章「金融の荒廃」
第5章「産業の荒廃」
第6章「教育の荒廃」
第7章「ただ一つの救済策」
第8章「救済策の障害」
と“荒廃”が続く。
先生の中で理想と模範的な統治機構を有するのは英国だと読める。しかしその英国は世界を植民地化することで収奪行為を正当化し、富と利権を独占し選ばれた人間だけの支配を固定化する身分制社会の徹底では無かったか。
英国が最高の統治モデル?
本書が刊行された1999年時点での先生の慧眼には驚くべきものがある。しかし、限られたエリートが権力と富を占有し、その他大勢は黙って後をついて行くだけの社会に生きる価値を見出す人がどれだけいるのか?それとも従順な被支配者には思考する資格もないとでも言いたいのだろうか?それは違うと思う。
ところで、先生の論法には欧米の価値観をベースにしたキリスト教、それもプロテスタント的選民思想の独善を感じる。経済学の研究から出発し、その底流にある社会学や宗教に根差した論理展開に西欧の鼻持ちならぬエリートと同じ匂いを感じるのだ。
ただし、先生は生粋の日本人だ。だから西欧エリートが必ずといっていいほど陥る日本への“誤解”と“思い込み”は皆無だ(でも偏見はある程度あるかも?)。その分、日本批判はより鋭角的で辛辣に我々の胸に刺さる。
森嶋先生の学問的見識と分野を横断した研究業績は突出している(と皆が言っている)。本書の「あとがき」によれば、先生の舌鋒鋭い物言いは論点の対立軸を際立たせ、より多くの議論を呼び込むための仕掛けの意味もあるように感じた。それだけ深く日本のことを思ってくれていたと信じたい。
それでも、この類まれなる異才からもっと優しくそして愛情をもった言葉で「没落しない」ための日本再生の指針を聞きたかったと願う人もまた多いだろうと思った。
P.S.
先生は京都大学大学院特別研究生として残り、助手として就職。その後、大阪大学(法経学部助教授、のちに社会経済研究所教授)に移籍する。京大と阪大では自身のプリンシプルを貫き、周りと喧嘩別れに近い形で日本を出て行くことになる。
その時の様子は「智にはたらけば角が立つ―ある人生の記録」 単行本 – 1999/3/1に詳しいようだ。私はまだ買っていないが、ご興味のある方はどうぞ。
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新連載「これでばっちり!米国株式を使った資産形成術のすべて」
はじめに
今回、資産形成に必要な基本的な内容を網羅した連載シリーズを始めます。全体の構成は以下のように考えています。
我々はどのような時代に生きているのか?全二回
自立した日本人と自立に欠かせない資産形成 全三回
株式市場は米国にしかないの? 全4回
日米株式文化の違い
知っておくべき米国市場の特徴
おすすめの投資戦略~コア・サテライト投資~
コア部分の投資戦略
サテライト部分の投資戦略
何を買ったら良いのか
情報源と投資
第5話 知っておくべき米国市場の特徴 五回目
このシリーズではこれまで株式相場に影響を与える金利やインフレ率などについて解説してきた。今回は米国の景気サイクルと株価の関係を解説する。寄稿してくれたのは弊社のウェブサイトの「アメリカ株式40年投資」シリーズでおなじみの大倉真さんだ。
景気循環と株価の関係
1. 既に始まっている新しい10年サイクル(中期循環)
市場動向を考える上で役に立つ理論の一つに「景気循環」があります。景気循環にはその周期に応じて、短期循環(3~4年)、中期循環(約10年)、長期循環(約20年)、超長期循環(約50~60年)という4つの循環があると考えられており、それぞれ在庫投資、設備投資、建設投資、技術革新によって展開すると言われています。中でも株式投資の観点から最も重要なものは中期循環ではないでしょうか。
図表1はアメリカの鉱工業生産のグラフに著者が10年毎に▲印を付けたものです。この図を見ると、シャドー部分の景気後退期が▲印前後に発生していることが分かります。必ずしもぴったり同じ周期で発生するわけではありませんが、概ね10年毎に大きな景気後退が来ることが見て取れると思います。
図表1 アメリカの鉱工業生産の推移
図表2は実質GDPで見た景気循環です。こちらは前年同期比で見たもので、循環性がより強調されたものとなっています。こちらの図からも景気後退が約10年間隔で発生していることが確認できます。2000年からのドットコム・バブル崩壊、少しずれていますが2008年からのリーマンショック、そして2020年のコロナショックなどが記憶に新しいものです。
そして図を見ると明らかなように、一般的に景気はいったん底打ちするとしばらくは反転しないという特徴があります。もちろん100%そうなるわけではなく例外もあるので、データの継続的な観測が重要であることは言うまでもありません。
このように「約10年おきに大きな景気後退が起こる」、そして「景気がいったん底打ちし回復過程に向かうとしばらくは大きな景気後退は来ない」ということを、頭の片隅にとどめておくとよいでしょう。
図表2 アメリカの実質GDP(前年同期比)の推移
次に図表3は、全米供給管理協会(ISM)が公表しているアメリカの景況感指数(左が製造業、右が非製造業)です。GDP統計が四半期ごとに発表されるデータであるのに対し、ISM景況感指数は月次データなので、景気動向をよりタイムリーに把握することができます。この図を用いて、2020年のコロナショック時点での景況感の推移を見てみましょう。
まず製造業は、2019年の時点で既にかなり悪化していたのですが、2020年に入りコロナショックがダメ押しをした形となっています。それに対し非製造業は同時点で堅調さを維持していましたが、パンデミックにより一気に後退したのです。しかしその後、政府および中央銀行(FRB)が大規模なコロナ対応策を打ち出したことから、景気後退は非常に短期間で終了し、現在は製造業も非製造業も景気回復期にあるのです。
中期循環の考え方に基づくと、アメリカ経済はコロナショックによる短期的(かつ鋭角的)な景気後退により前回の中期循環の大底をつけ、現在は既に次の新しい中期循環に移行しているということになります。そして次に私たちが考えたいのは、この中期循環に照らし合わせた時、われわれは株式相場のどの位置にいるのかということです。次回は、株式市場のロードマップという考え方を紹介しながら、今後の相場展開について考えてみたいと思います。
図表3 全米供給管理協会(ISM)の景況感指数
(左が製造業、右が非製造業)
【大倉真氏】
愛媛県出身。1984年大阪大学経済学部卒業。2005年 埼玉大学大学院経済科学研究科より博士(経済学)。その後、シティバンク、エヌ・エイ、シティトラスト信託銀行、 ソシエテジェネラル信託銀行(現SMBC信託銀行)を経て2017年、京都・東山で投資会社EagleCapital株式会社を設立。年金・公的資金など機関投資家に加え、プライベートバンクで富裕層向けの資産運用にも従事。CFA協会認定証券アナリスト。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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6.今後の活動情報
◇日経CNBC:1月25日(火)10:15~スタジオ
◇ストックボイス:2月2日(水)11:00~
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