米国株式投資の真実を伝える 川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」 [Vol.12]2021年8月23日配信
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米国株式投資の真実を伝える
川田重信の「メディアで鍛える米国株式講座」
[Vol.12]2021年8月23日配信
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***目次***
マーケット振り返り
今週のズバリ!
今週のピックアップ記事
最近の中国株関係の記事をいくつかピックアップ。米国人は中国株が好き!一方で日本人の中国株投資は少ない
投資のヒント
私が通っている床屋は万年1800。過去60年で日米の床屋と株価の上昇倍率から見えるもの
川田のお散歩
会社の近くのタコしゃぶ料理に飛び込んだが昼も夜もガラガラだ
活動情報
質問コーナー
秋は必ず相場が下がるんですか?だとしたらなぜ売らないのですか?
*来週のメルマガはお休みです
2000万円達成ペースメーカー
出所:金融庁 資産運用シミュレーションを基にエグゼトラスト株式会社作成
※上記数字はあくまでシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではございません。また手数料、税金は考慮しておりません。
読み方:想定利回りと達成年限
3~4%なら30年以上:ラップファンドやバランス型の投信がこれ
5~7%でも25年はかかるよ:米国以外の株式投信だとこうかな
8~10%なら20年ほど:控えめにみたS&P500の上昇率だとこうだ
S&P500のパフォーマンス実績(配当再投資1970-2021)
正しいリスクテイクで早期に2000万円達成しよう
川田のメッセージはすこぶる簡単。2000万円の達成には余裕資金にできるだけ効率的に働いてもらうことだ。そのためには当事者の皆さんがリスク・リワード(見返り)の意味を正しく理解することが大事だ。毎週メルマガを読む前にこのテーブルを眺め、正しい投資姿勢を確認しよう。
さあ、2000万円達成までのカウントダウンを今すぐ始めよう!
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1.マーケット振り返り(8月16日~8月20日)
<主要指数>
・NYダウ -1.1%
・S&P500指数 -0.6%
・ナスダック総合指数 -0.7%
=駆け足バージョン=
引き続き堅調地合いで始まったが、7月の小売売上高や8月のニューヨーク連銀製造業景気指数の急低下を受けて景気敏感株中心に下落。金融緩和の縮小に関する不透明感も上値を抑えたが、週末にかけてはやや反発した。
=ちょっとだけ詳しく=
アフガニスタン情勢などの外部不透明感にもかかわらず、前週の強い地合いのままNYダウとS&P500指数は月曜日に史上最高値を更新。しかし7月の小売売上高や8月のニューヨーク連銀製造業景気指数などの経済指標が市場の予想を下回って景気回復に対する懸念が広がったため、景気敏感株を中心に下落に転じた。7月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録の公表後に金融緩和の縮小に対する警戒感が広がったほか、デルタ変異株のまん延によるトヨタ自動車の減産発表や中国の鉄鋼生産抑制方針などから世界経済に対する不透明感が強まり、株価の重しとなった。週末は、FRB高官の発言から金融緩和の縮小に対する不透明感が後退したことや値ごろ感から反発した。
S&P500指数チャート 過去1年間
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2.今週のズバリ!
これだけは知っておいてほしい情報をお届けするコーナーです。
先週、NYダウとS&P500指数は週間ベースで3週間ぶりの下落。ナスダックは続落。とは言うものの小幅で、夏休み期間中の調整としては上出来だろう。アフガニスタン情勢は経済的な影響はほとんどないと思われ、株式市場に対する影響はなかった。
夏枯れ相場で材料が限られる中、金融政策の動向だけがメインの材料という感じだ。多くのメディアで取り上げられているように、来週のジャクソンホール会議に注目が集まっている。ここでのFRB議長の発言が直接市場を動かしたり、秋口以降の金融政策や金利動向のヒントになったことがあったりしたため、注目が集まるのは自然だ。
しかし、ここまで注目されるとパウエル議長も安全運転を心がけるのではないか。26日から3日間の対面での会議の予定だったが、27日のオンラインでの会議だけになったこともあり、新たな手掛かりがほとんどない議長講演となりそうだ。市場は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)待ちということになると思う。
金融政策の引き締め方向への転換ということで、2013年5月のテーパー・タントラムとの比較も目にする。金融市場(株式だけでなく、債券、為替も)が当時混乱したのは、当時のバーナンキ議長の引き締め示唆が急だったためだ。今回は、かなり前から金融緩和策の縮小(テーパリング)を示唆して市場に織り込ませており、FRBの配慮が感じられる。少なくとも年内のテーパリング開始を市場はかなり織り込んでおり、あとは縮小規模(買い入れ額の減少額)とスピードだけだろう。9月のFOMCでまず少額を提示し、市場の反応を見ながらその後のFOMCで金額を引き上げると考えられる。
今後の経済指標では8月27日に発表の個人消費支出(PCE)の価格指数が注目される。また、先週発表された7月の小売売上高にデルタ変異株の影響が見られたが、各種の企業の景況感指数や消費者信頼感指数に影響が大きく出ると、特に景気敏感株は売られやすい地合いになりそう。9月3日発表予定の8月の雇用統計はもちろん注目だ。
株式市場のボラティリティが高まりそうな材料(地政学的なものは除く)としては、中国経済減速のニュース、マイクロン(パソコン需要の不振に言及)に続く半導体関連からの需要減速のニュース、9月以降に給付金などが無くなっても労働者が職場に復帰せずに労働市場がひっ迫する状況(賃金インフレ)などが考えられる。
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3.今週のピックアップ記事
資産形成に役立つ情報を、私が得た情報の中から気になるものをセレクトしランキング、極々私的な見解でコメントするコーナーです。
【1-1】日経新聞 「本土回帰」、ドル覇権に打撃 8/17
【1-2】日経新聞 文革の亡霊に縮む無形資産株 SBG「二番天井」懸念 8/6
【1-3】日経新聞 米中分断、危うい増幅 中国が海外上場の規制強化 7/8
【1-4】日経新聞 投資マネー、対中で曲がり角 8/18
【1-5】日経新聞 中国株、個人マネー退避 8/20
米中の証券投資に関する記事が目立つ。そこで今回は直近の記事をピックアップしてあれこれ思いを巡らしてみた。
米国人は中国株が大好きなのに日本人は敬遠。中国株ってほんとはどうなの?
以下は記事【1-1】の概要
■ウォール街と中国は相思相愛、だった
中国が海外上場の中国株に規制強化を打ち出した。その結果、中国企業の本土回帰が米国のドル覇権に打撃を与えかねない。
これまで中国企業は米国の株式市場で巨額の資本を調達し、一方で米国資本は中国企業の成長から利益を得てきた。また中国人民銀行(中央銀行)は中国企業が稼いだ外貨を積み上げた外貨準備で米国債に投資する。マネーでの相互依存関係が米国のドル覇権を強固なものにしていた。
ところが、米中は深刻な対立関係に陥り、米国は一部中国企業の上場廃止を打ち出した。中国も米国に配慮する必要はない。「中国はドル覇権に打撃を与える意味でも、中国の資本市場を発展させる意味でも、中国企業を本土に回帰させた方がいい」と考える関係者もいる。
■ポイントは資本規制の自由化
中国本土株は人民元建てで売買される。中国は2015年の「人民元ショック」以降は慎重だったが、再び人民元改革に前向きになった可能性がある。海外上場の規制強化と中国企業の本土回帰は表裏一体だ。グローバル資本の中国本土への流入は、世界のマネーの重心を米国から中国へ傾ける可能性を秘める。結果的に米ドルに打撃を与え、基軸通貨としてのドルの地位も揺るがせかねない重みを持つ。
川田コメント
■米国人は中国株が好き!
日米の中国株式に対する選好度合いには大きな差がある。それは私が編集している「バロンズ・ダイジェスト」のカバレッジを見ても歴然で、最近は毎週1、2本は中国関係の記事が掲載される。
米国人の株式運用は主に自国の株式だ。だから米国株式と異なるリスク・リターンの投資対象を海外に求めるのだが、その観点で魅力的なのが中国株なのだろう。
記事【1-2】によれば米国人が直近保有している中国株式は中国本土と香港の上場企業を合わせて4810億ドル(約53兆円)だ。これは米国人が保有する中国の長期債の10倍の金額だ。この株式保有額は上海、香港、深圳の合計時価総額の2%余りに相当するという。
さらに記事【1-3】の図表では米国の対中証券投資総額は約1.2兆ドル
(約130兆円)で、その75%、98兆円が株式だ。この98兆円と53兆円の差が米国上場の中国株への投資ではないだろうか?
■日本人の中国株投資はざっくり3兆円?
さて、日本人の中国株保有はどうだろう。投信で保有している中国株式は44本で約4400億円だ。これ以外に機関投資家の保有分があるが、弊社の豊田客員研究員が推計してくれた。彼は運用会社に長く在籍し、今も弊社に長年の知見を提供してくれる。以下は彼とのインタビューの抜粋だ。
Q:機関投資家の中国株式保有はいかほどか?
A:「大手年金基金はインデックス投資で組み入れている。最大手のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の外国株式投資額は48兆円で全体の25.7%。ベンチマークはMSCI ACWI(*)なので中国は約4%。少なくともパッシブ運用を43兆円行ってます。これだけでも2兆円です。
Q:他の年金はどうだろう?
A:「例えば 国民年金基金連合会の運用資産総額は4.7兆円で外国株式を36%組み入れていますが、ベンチマークはMSCI World(*)です。従って香港株は含みますが中国株式は含まれていません。さらに、企業年金連合会は10兆円で外株が25%でベンチマークはMSCIーACWIでその4%は1000億円。推測ですが、GPIFの他は合わせても1兆円程度かと考えます。合計で2兆円台前半でしょう」
Q:他の機関投資家はなにか分る?
「大手生保の外国株式投資の状況を調べました。
ニッセイ 一般勘定67兆円 うち外国株式5.2兆円
明治安田 一般勘定 42兆円 うち外国株式2.3兆円
第一 一般勘定38兆円 うち外国株式1.8兆円
3社合計の外国株式は9.3兆円
そのうち中国は1%(1,000億円)くらいはあるかもしれません?」
ありがとうございます。
そうなると投信の4400億円と併せても3兆円はないかもしれない。米国の保有額とは桁が2つ違う。もちろん分母の大きさが違うのだから仕方がない。しかし米国でも機関投資家ならベンチマークに従った資産配分に従う。そのベンチマークそのものが違うのかもしれないが、個人投資家の投信やETFを通じた投資額の差が大きいのだろう。
■【1-5】金曜夕刊1面 中国株、個人マネー退避 「中国株個人マネー退避 投信流出額146億円IT規制懸念」
ところで【1-5】金曜夕刊1面「中国株個人マネー退避」は、あまりメッセージ性がないように思うけど、どう?上記で述べた様に日本の個人投資家はそもそも中国株に投資していない。その小さい投資金額からそのまた小さい金額が流出したことを、夕刊とはいえ1面で扱っている。なにか意図があるのだろうか?
■中国の規制強化でウォール街との関係に異変?
さて今回の規制強化で銘柄によっては随分売られた。実際に米国上場の中国企業が上場廃止になるほど米中の関係が悪化するかについて、専門家はかまびすしい。
例えば、長年中国に強気だった著名ストラテジスト、スティーブン・ローチ氏も7月27日、言論サイト「プロジェクト・シンジケート」で、強気に見ていた中国経済の先行きに「重大な懸念を抱くようになった」と告白。厳しい企業統制が経済成長に最も重要なアニマルスピリッツ(血気)を失わせ「中国への長年の楽観的な予測に対する強力な、もしかしたら致命的な一撃になるかもしれない」と結んだ。一方で「1~2年すれば新たな秩序がしっかり構築されると信じている」と強気を崩さないのは、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長だ。【1-4】
■米中関係は楽観的なほうが投資では成功する
私も孫さんに賛成だ。この大国同士がまともに争って良いことはない。両国はすでに互いを無視できないくらい金融市場では深くつながっている。そしてそのつながりで互いが多大なメリットを受けているのだ。この関係を反故にするほど現状は悪くないと思う。
投資家の視点で言えば、日本のメディアは過度に悲観的な見方に傾斜しがちだ。ここは英国発の歴史的な俯瞰と米国発の楽観的な見通しに目くばせしたほうがいい。そしてなにより米国上場の中国株の株価を注視すればその趨勢がいち早く判断できると思う。とにかく日本のメディアの論調は投資の参考にならない(とまた力んだ)。
インベスコ・ゴールデン・ドラゴン・チャイナETF(PGJ)
NASDAQ Golden Dragon China Indexに連動する。同指数は、本社所在地、法人登録地または主要事業拠点が中国にある米国上場企業から、異なる時価総額の株式を保有する。ファンドは四半期ごとにリバランスされ る。
【2】日経新聞 8/18 世紀の空売り」再び? 米著名投資家、アークETFに照準 「売る権利」購入、テスラ視野
2007~2009年の金融危機の時に米住宅バブルの崩壊を予測し、信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で大もうけした著名投資家のマイケル・バーリ氏が、日本でも人気のあるアーク・インベストメント・マネジメントのETFのプットオプション(売る権利)を大量に購入したという記事だ。
「アーク・イノベーション」という、日本の投資家も買っているETFが下落すると見込んでのプットオプションの買いだが、その成否に関してではなく、こうした投資が可能になる仕組みと、それに関する情報開示に注目してほしい。
個別銘柄のオプションはほとんどの銘柄で売買可能だが、ETF、それもアクティブ運用のETFのオプションというところがすごい。また、逆から見るとプットオプションの売り手がいたからバーリ氏も買えたわけだが、売り手は誰だろう?オプション行使期限までに行使価格までは下がらないと考えている投資家だが、おそらく一人ではないだろう。もちろん運用しているアーク社でもないだろう。いずれにせよ、米国株式市場の懐の深さを感じる。
また、大量だからということもあるが、これだけのプットオプションを買ったことを開示するルールになっていることと、開示を前提に堂々と投資することもすごい。そして、アーク社のホームページでは直近の持株比率が全部開示されている(ARK INNOVATION ETF (ARKK) HOLDINGS As of 08/20/2021 )。
この持株比率のトップにあるのはテスラで、バーリ氏はテスラ株のプットオプションも大量に保有している。つまり、テスラ株が大きく下落すれば、二重に儲かることになる。損失についてはオプションの買いなので限定されるが、いずれにせよ、最近やや陰りの見えるアーク社のファンドの行方に注目したい。
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4.投資のヒント
「投資手法」や「銘柄紹介」だけでなく、「気になった指標や発言」や「社会や政治の動き」を書くコーナーです。
「理髪屋料金が示唆する資産形成へのヒント」
■何年たっても1800円の床屋
藤・理容(三鷹市下連雀)|エキテン には、何年前から行きつけているか覚えてないが、10年は経っているに違いない。洗髪無しのカットだけだが、家に帰ってすぐに風呂に入るので洗髪も整髪も不要だ。それがずーっといまの1800円が変わっていないと記憶している。
これほど安い床屋なのにカットが終わると肩揉みを始めそうになる。いつも「それは良いですから(早く終わってください)」と言いそうになる前に、先輩格のおばさんが「(そう、そのお客さんは肩もみ不要)」と目で合図を送っている。私はとにかくこの椅子にじっと座っているのが苦痛で話しかけられるのも億劫なのだ。
1800円で約30分とするとこの理髪師さんの時給はどれほど安いのか?他人事ながらちょっと心配になる。日本の経済停滞を打破するには物価や賃金の下落や停滞、つまりデフレ状態、からの脱却がカギというのがエコノミストの一致した見立てだ。
■日米の床屋料金と株価上昇率を調べた
今回の研究テーマはこの身の回りのサービス価格と株価上昇の関連を調べ、そこからどんな投資のヒントが読みと取れるかだ。さて今回の調査は弊社の佐々木研究員(写真は研究に勤しむ佐々木研究員)がデータを発掘、加工してくれた(→ 佐々木研究員)。
日本の高度成長期が始まったのが昭和30年、1955年と言われているが、私の記憶がたどれる昭和35年、1960年頃からだとどうだろう。覚えてはいないが、当時の理髪料金は160円ぐらいだ、また、ついでに東京都の公衆浴場の値段は17円だった。直近の理髪料金は、私の場合は1800円だが、このデータによれば約3600円。一方で入浴料金は450円ぐらいだ。
つまり1960年から2020年の過去60年で理髪料金は21倍、入浴料金は25倍ぐらいになった。一方で日経平均は配当を入れなければ19倍だ、つまりこの3つは一緒ぐらいの上昇率とみなせる。
一方で米国はどうか。床屋の値段は過去60年で10倍ぐらいにしか上がっていない。その一方で米国株式、S&P500の上昇率は76倍だ。国土も広いし地域差もある。まして人種や格差がある中でのデータなので、その数字の持つ意味には注意が必要なことは断っておく。
1960年以降の日米株価と理髪料金+公衆浴場代金
■データの持つ意味
過去60年の日米の理髪料金と株価の上昇率を大雑把にみてみたが、留意すべきは①日米で理髪業や公衆浴場にどのような規制や参入障壁があるのか調べていない。②時代の変遷と共に理髪に対する社会的なニーズがどう変化しているかにも注意を払っていないという事だ。
それでも言えることは、日本では株価も理髪料金や入浴料金の上昇率がさほど変わらない。一方で米国ではその差が格段に大きい。そして米国株式だけが突出して上昇している。
それはなぜか?それは米国が市場原理を尊重しその上でさらに株主重視を貫いたからだ。資本主義と民主主義の組み合わせで国家を運営するとどの国でも労働よりもおカネに働いてもらったほうが儲かる。ここはトマ・ピケティ(*)が「21世紀の資本論」で指摘したことで記憶に新しい。
一方で日本では理髪料金や入浴料と株価の上昇率がこうまで近似しているのは「神ならぬ“お上”の見えざる手」ということはあるだろか?私はこの3つの上昇率は国民の総意を反映した結果だと信じている。つまり米国ではモノやサービスの値段はマーケットが決めるが、日本はマーケットの暴走を誰かがコントロールしてきた。その結果より多くの国民の満足が実現できた、ということだろう。
(*)トマ・ピケティ(パリ経済学院)「21世紀の資本」(Capital in the Twenty-First Century、2014年)(https://www.jstor.org/stable/j.ctt6wpqbc)
長期でみると、資本から得られる収益率は経済成長率を上回り、富は資本家に集中する。所得格差や貧困が加速し、社会や経済が不安定になる。
ピケティ「21世紀の資本論」が指摘したこと-なぜ1%への富の集中が加速するのか- | 研究活動
■高度成長期には上手く機能した従業員>株主利益
戦後から高度成長期には日本の産業構造が大きく変わった。その過程で地方の労働力は業態転換を余儀なくされ、大都市の産業の集積地に駆り出されたのだ。それらの労働力に納得する仕事や待遇を与えるのは当時の政策の優先課題だった。
そして高度成長期は国民が一丸となって頑張り、その果実の分配は比較的偏りがないものだった、という事だろう。その結果、企業の従業員の士気が高まり、そして会社員にサービスを提供する理髪師も結果的に恩恵を受け、社会全体が豊かさを実感できた。つまり今流にいうと(2000年ごろまでは)“分厚い中間層”を作り上げることで、日本の経済成長の推進力になったと言えよう。その意味で国民に高度成長期の果実が偏りなく行きわたる分配方式は極めて正しかったと思う。
しかし、日本は株価が1989年にピークを打ち、その後、理容料金も入浴料金も2000年を境に横ばいだ。
■米国の株主至上主義は1980年頃から顕著に
米国の理髪料金は株価ほどではないが、上がっている。おそらく物価水準よりも少し低い上昇率ではないだろうか?一方で株式の上昇率は圧倒的に高い。上昇率が目立つのは1980年頃の新自由主義で小さな政府と規制緩和で世界的に市場機能を重視した政策が導入されたころからだ。1989年の東西冷戦終了で米国を中心とする自由主義陣営が勝利した。そしてその勢いは今の今まで健在だ。
日本では資産形成において株式投資がその役割を果たせない。だから証券会社がいくら株式投資の魅力を説いても一般人には響かない。一方で米国は勤労者が真面目に働くより株式投資のリターンが高いことを目の当たりにしている。
■理髪料金が示唆する資産形成のヒント
床屋の値段から米国株式投資の有利性を再認識した。では今回の佐々木研究員の労作がもたらす資産形成へのヒントはなにか?ズバリ米国人を真似ればよいだけだ。かつては安心、そして雇用の安定性がバツグンだった日本のこの神話が崩れて久しい。
その一方で、高度成長期に青春を謳歌し終身雇用の名のもとに家族ぐるみで国内外を転勤し、それになんの疑問も抱かなかった。あの東西冷戦終了と日本のバブルが弾けて30年以上経っているのに、日本の社会システムはその変化にまったく追いついていない。
もしあなたがそう思うなら自衛しないと!幸いに本日の米国株式取引のインフラは米国とそん色ない。税制も個人なら売却益の2割でしょう?
そう。目の前に自衛策はあるのだ。
■我々日本人の正しい資産形成とはー佐々木研究員の労作が示す教訓―
①日本のデフレの惨状を直視せよ。だれもハッピーにならない。
②トマ・ピケティ「労働よりもおカネに働いてもらったほうが儲かる」は正しい。
③日本は市場経済を意図的に歪めて高度成長期に成功した。ただし市場経済を意図的に歪めると失業や淘汰を通した構造改革が進まず、そのしっぺ返しは大きい。日本の2000年以降がまさにそれだ。
日本人は勤勉で小金を稼ぐ能力が高い、反対に大言壮語が苦手で大金を掴むもの不得意だ。いまの日本の現状と日本人の性癖、特徴を逆手にとってワールドクラスのプチ富裕層=日本クラスの富裕層になる手はある。
その道を開くのが米国株式投資だ。
余談
長年付き合いのある武者リサーチ代表の武者陵司さんが、つい直近このテーマに関連して力作を発表していたのでお知らせします。ストラテジーブレティン(285号)「安いニッポン」が日本復活の起動力
私は武者さんを大変に尊敬している。それでも日本株は買わない。
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5.川田のお散歩
◇◇最近行ったお気に入りのお店◇◇
■タコしゃぶが名物@コリドー街
ランチタイムに一人で飛び込んでみた。コリドー街を歩いていると店舗の外に立て看板のようなボードにメニューの写真がデカデカと貼ってあった。その中に牛タン定食があって、店員さんもボードを囲んでなにやら開店準備に忙しそう。
私は時折無性に牛タンが食べたくなる。今日はその禁断症状が頭をもたげて来るタイミングだったようで、その店に吸い込まれた。
中に入ると誰一人居ない、そして結局最後まで私一人だった。店員さんに話しかけた。「夜はあかんやろ?酒出してないんでしょ?」
→「酒無しで白飯で鍋を突っつく客が一組くるかどうか?」
→「もう終わったけど、オリンピック恨んでる、暴動でもしたい?」
→「暴動?その元気もないんです。」
→「その気持ちはわかる。」
そのバーの隣に水槽があって名物の蛸しゃぶの蛸がくねっていた。蛸は客入りが悪いので思いのほか長く生き永らえているのだろう、嬉しそうに体をくねらせてはいたが肌艶は色褪せて見えた。
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6.今後の活動情報
◇9月1日(水)午前11時 ストックボイス
◇9月15日(水)午前11時 ストックボイス
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7.質問コーナー
例年、秋は相場が波乱含みと聞いています。川田さんも朝会で8月~10月の3カ月間は1年で一番パフォーマンスが期待できないとおっしゃっています。私は長期投資なのですが、下がると分っていても持ち続けるのはなぜですか?下がると分っていれば売却すべきなのではないですか?
回答(要約)
はい、例年秋は相場が急変することが多いです。下のグラフは、過去20年間のS&P500指数の年初からの動きを平均してグラフ化にしたものです。その下のグラフは2007年以降の調整局面です(対数グラフ)。さらにその下の表はダウ工業株30種平均の月別の騰落率や騰落確率です。
しかし、これらはあくまで平均値や過去の記録です。確かに秋は荒れます。しかし問題はそれがいつから荒れるのか?そしてそれがどの程度なのか?それは神のみぞ知る、です。もちろん荒れない年もありますよ。
NYダウ月間騰落率(過去20年、50年、100年の平均)
■調整幅別のメンタルトレーニング
仮に秋の下落が3~5%なら、ドっ天井で売却して大底を拾ってもせいぜい1~2%もパフォーマンスは改善しないのではないですか?場合によっては(下げが)デカいと思って売ったら、浅い調整で高値で買い直すか、あがるのを指をくわえて見ているはめになるかも。
また結果的に10%調整したとして、いつの時点でこの「この下げはアブナイ!」と決断しますか?晴天に雨雲が全く見えない時、または曇り空で小雨パラパラの状態で引き返す(ポジションを売却)のは勇気がいりますよ。
さて近年、秋に大幅下落を演じたのは2018年です。9月中旬から12月24日まで19.8%下がった時の恐怖はしっかり記憶しています。このときのチャートを見れば、高値で売却して買い直すことの難しさが想像できます。高値を付けたのは9月21日ごろでS&P500指数は2929。10月9日から急落しますが、11月8日、そして12月3日ごろの2回、株価はある程度戻っています。その時は、これで調整もおしまいで、相場は踏ん張るだろうと思っていました。
ところが12月3日を境に真っ逆さまに株価は12月24日まで急落します。ただし12月26日から急反騰していますよ。そして2019年の2月頃には相当程度戻っています。皆さんならどこで売却し、買い戻せたでしょうか?私は結局なにもしませんでした。
S&P500指数、直近年の秋相場チャート
秋の下落が大きかった2018年のS&P500指数
順調に上昇した2017年のS&P500指数 、急落しているのは2018年2月のVIXショックであっという間に10%強下落しその後急反発
2016年は夏場から下げはじめ大底を打つのは翌年2016年2月11日
■教訓
株価は上下動します。しかし、米国株式に限れば下落の後は必ずその下落分を取り戻してきました。だからあなたが長期投資家なら、あるか無いか分からない、そしてその大きさもまた誰も知りえない、秋口の波乱相場はあまり深刻に考える必要はないです。そして長期の投資リターンには無関係と割り切るのがいいでしょう。
むしろ今年の投資資金にまだ余裕があるなら買い場到来を待ち望む。それくらいどっしり構えていいと思いますよ。もちろんそれは米国株式の長期上昇を信じられるかどうかです。私?もちろんです。そしてこのメルマガを読んでいれば自然に米国株式に親しみがわき、リスクを取り続けることにも恐怖感が無くなり、気が付いたら資産が増えていますよ!
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寄り道:「米国株式上昇の宿命」の源流を探して
文明の衝突(日本語) 単行本 – 1998/6/26
サミュエル・ハンチントン(著)、 鈴木 主税(翻訳)
以下はアマゾンから抜粋
◆内容紹介◆
西欧への挑戦を続ける「儒教―イスラム・コネクション」は核拡散の深刻な危機を招くのか?どちら側にも入れない日本は…。世界的な国際政治・戦略学者の著者が21世紀の国際情勢を鋭く予見!
以下、文中から抜粋
第一部 さまざまな文明からなる世界
拒否主義
日本は1542年に初めて西欧と接触して以来、十九世紀半ばまで、実質的に拒否の態度を取り続けた。火器の獲得などかぎられた近代化は許されたが、西欧文化の摂取はいちじるしく制限され、とりわけキリスト教については厳しかった。17世紀半ばには西欧人はことごとく追放された。こうした拒否的な態度を終わらせたのは、1854年にペリー提督に強制的に開国を迫られた結果だった。
中国も数世紀にわたって根本的な近代化あるいは西欧化をいっさい阻止しようとつとめた。1601年にキリスト教の使節が入国を認められたが、やがて1722年になると彼らは事実上締めだされた。日本と異なり、中国の拒否政策が基盤としているのは、主に中華帝国という自国のイメージと、周囲の諸民族よりも文化的にすぐれているという強固な信念だった。中国の鎖国は日本の鎖国と同じように、西欧の軍事力—1839年から42年にかけてのアヘン戦争でイギリス軍が行使した-によって終止符が打たれた。このような例が示しているように、19世紀のあいだに西欧の大国を前にして、非西欧社会は純粋な排外戦略を取り続けることがますます難しくなり、最終的にはそれが不可能になった。(P102)
→原著の出版が1996年だからもう25年も前。冷戦終結期にフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」でイデオロギー闘争の終結を訴えた。その後で今度はハンチントンが「文明の対立が新たに始まる」としてこの書を世に問うた。彼は文明を、西欧、ラテンアメリカ、イスラム、中国、ヒンドゥー、ギリシャ・ロシア正教、日本、(アフリカ)の7(8)つに分類している。日本が独立した1つの文明に分類されているので、そのユニークさが分かる。
さて、日本に限らず世界中が西欧との接触拒否を試みたがそれを完全に拒否し続けることはできない。多くの国や地域は西欧の植民地になり独立を果たしたのが、概ねこの100年のこと。そして時代は変わった。冷戦終結と相前後して起こったインターネット革命ではグローバル化が飛躍的に進展し、世界中の経済資源が地球規模で有機的に結びつくようになった。その結果生ずる経済格差や文化的価値の相違が、新たな対立の原因になっている。
■グローバル化に抗うことなどできるのか?
ところで、このグローバル化の動きに逆らうことなどできるのだろうか?世界の枠組みから障壁を取り払うことによって受ける恩恵をそんなに簡単に手放すことなどできるものだろうか?例えば、何らかの理由で米国株式投資に制限がかかったり禁止になったりしたら?日本にある投資対象だけで資産形成しなければならなくなったら?オレ、そんな能力ない!
議論が変な方向に進んで申し訳ない。しかし、日本に居ながら世界最高の投資機会を万人に等しく開放している米国の株式(=所有権)を保有できなくなるなど、ありえないことと信じたい。グローバル化の反動がもたらす内向き姿勢を米国株投資の機会喪失懸念にまで議論を飛躍させる愚を許してほしい。もちろんそれは杞憂と信じているが。
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