初心者は売りから入れない?
株は買うものだ──。
多くの人がもっているイメージです。
たしかにその通り。株式を公開している企業は、事業を展開して利潤を追求し、その一部を株主に還元するための存在です。社会が成熟した現代では、ただ儲けるだけでなく、製品、従業員、活動する地域に対する責任がしっかりと求められるのですが、単純にカネ勘定をするならば、利益を出して蓄積しながら株主にも還元し、企業も自ら成長していくという“プラス”の面に焦点を当てた計算が成り立つでしょう。
シンプルで、わかりやすい考え方ですね。
しかし、別の面から考えると異なる発想も成り立つのです。
まずは、株価の変動を素直に観察してみます。
長期的に成長して長い上昇傾向をみせたとしても、一般的な個人投資家の戦略で売り買いする期間を、とりあえず、短いと数週間、長くても数カ月か数年と定義すれば、せいぜい「上がったり下がったりしている」と説明できるでしょう。
すると、企業の成長といった観点を捨てて、売りでも買いでもいい、つまり上げを狙う買い戦略だけでなく、下げで利益を取るカラ売りでも何ら問題なし、という結論に至ります。値動きを利用して利益を出すうえで、カラ売りは特別なもの、特殊なものではないのです。
株の売買について多くの人は、「おカネを出して何か新しいモノを買う」と捉えるようですが、それだと、一般的な消費行動と一緒になってしまいます。だから、カラ売りについては、「持っていないものを売るなんてヘンだ」と否定するのです。
洋服を買ったら、それを使い古して捨てることが前提です。
売っても二束三文です。
しかし株は、そういった消費財とは異なる存在です。
持つことで、配当や値上がりといった利潤を期待できます。新品の洋服は、所有した瞬間から価値が下がり始めますが、そういった価値の毀損は起こらない、買って使って捨てるものではないのです。
株は、資金の出し手(投資家)と受け手(企業)を結びつける仕組みであり、株を買うという行為は、その狙いが値上がり益であろうと配当であろうと、「手元の資金を殖やすために現金を株に置き換える」だけのことです。
そんな資金の流れをスムーズにするために、市場にはカラ売りという機能が用意されているのです。それを利用して儲けようとする行為も、ごくふつうの取引として認められているわけです。
一般的な商行為でも、“売りが最初”というケースは、いくらでもあります。
車のディーラーは、顧客に車を売って(契約して)から、メーカーに発注します。
航空機にいたっては、設計の段階で航空会社から注文を取っているじゃないですか。
トレードという金融取引、街中でのお買い物とは違うのに、「売りから入るのが特殊」と考えてしまうのは、社会の構造というか、相場業界の情報構造にゆがみがあることが原因です。
「資金を殖やす手段」と位置づけるのでなく「買って持つもの」としておいて、消費行動と混同する部分をあえて指摘しないほうが、業者にとってはラクなのです。そして、「何を買えば有利か」という視点の情報ばかりを発信し、投資家はまんまと、いや、素直に受け止めてしまうのです。
投資関連の情報は、自らのものさしで計ることが重要、という発見につながりますね。
さて、さらに別の面から考えると、「カラ売りのほうが初心者にやさしい」という考え方が成立します。株価の変動を論理的に説明しようとすると、その答えが出てくるのです。
株価を計る絶対の基準は存在しません。
PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)といった一般的な指標のみならず、確実に株価を説明する理論はありません。成長性、将来性、現時点での企業価値など、いろいろなことが土台となるのは間違いありませんが、かなりの部分が「市場の人気」というフワフワとした要素で決まっています。そうでなければ、ストップ高やストップ安によって、1日に2割も3割も価格が変動するはずがありません。
この「人気」という要素に焦点を当てて株価変動を考えると、人気がなくなると企業の解散価値に近づき、人気が集まると実体を無視してどんどん上昇する、と説明できます。
そして、多くの実践家の認識である、「安値に放置されることはあるが、高くなった相場がずっと高止まりすることはない(必ず暴落する)」という発想に至るのです。
安いと判断して買ったのに上がらない……こんなことは、いくらでもあります。
しかし、上がった相場は必ず下がるので、カラ売りで下げに乗るほうが、ある意味、理にかなった素直な手法だといえるわけです。
株価の高値圏は、人気が高まっている時期なので、エントリー(仕掛け)が難しいのですが、カラ売りのポジションをつくって下げの波動に乗ってしまえば、あとはラクチン──これが、多くの実践家の感覚です。
・株価の上昇は、引力に逆らってモノを上に持ち上げること
・下落相場は、不自然な力がなくなって引力で下に落ちる自然な現象
こんな捉え方です。
林投資研究所で現在、力を入れている「中源線建玉法」では、「上げ」「下げ」という表現を一切使いません。確固たる基準によって強弱を判断することがスタートなのですが、その強弱の見通しに対して「順行」(合っている)か「逆行」(見通しと逆の動き)のどちらか、と受け止めて“次の一手”を実践的に考えます。
少し散らかしてしまったので、まとめを書きましょう。
カラ売りを特別視するのは、視野を狭くする姿勢です。
しかし、「買うべきもの」か「売るべきもの」かは、プレーヤーの考え方によります。
中源線のように上げも上げも同列に捉える視点は、最もプレーン(平易)であり、トレード思想にかかわらず容認できる姿勢だと思います。
よろしいですか?