金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第1960号/加入協会 一般社団法人 日本投資顧問業協会 会員番号 012-02323
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中国経済に危機は訪れるか?、中国は通貨高に耐えられるか?

中国経済に危機は訪れるか?、中国は通貨高に耐えられるか?

中国人民銀行が新設する首席エコノミストに任命された馬駿氏は、金融システムを3年以内に自由化する計画を掲げた。中国の通貨・金融システムがようやく一人立ちすることになる。

米ドルに依存した通貨・金融システムでしかなかった中国が、世界最大の貿易国、世界2位の経済規模に肥大したことが、中国が抱える問題を深刻化させているかと思う。







・中国経済を巡る懸念

中国経済の減速懸念で世界の株式市場がもたついている。

景気減速、
不動産バブルの崩壊懸念、
地方政府債務危機、
民間債務がGDPの2倍超、
支払い不能状態、社債のデフォルト、
シャドーバンキング問題、
資金調達コストの上昇、
中国人民元相場の不安定化、
短期金融市場の流動性危機、
汚職と、インサイダーの海外への資金逃避、
格差問題と少数民族。

中国経済を巡る懸念は、ざっと思いつくままに数え上げても、こんなにある。しかも、どれもがそれなりに深刻とも言える状態だ。とはいえ、どれもが相当に言い尽くされており、ここで敢えて採り上げるまでもないかと思う。他に1つ、私が自分の専門分野から懸念を抱いているところがあり、ここではそのことにだけに絞ろうかと思う。


・米、中国元安を牽制

米オバマ政権は先週、中国元レートの動向を注視していると述べた。元は「大幅に割安」状態だとし、最近の下落に懸念を表明した。

ところで、中国元の対ドルレートは、どのように割安なのだろうか?

2005年7月まで、ドル・元は8.27-8.28でほぼ固定されていた。その月の元・円は13円50-80銭ほどだった。対円の方が、値幅が広いのは完全変動相場制のドル・円が動くからだ。

その後、度重なる元の切り上げにより2014年1月には6.04台にまでドル安・元高となった。そして、このところは6.23台までドル高・元安となっている。オバマ政権の指摘は、今年に入っての反転を指している。昔から比べると、まだまだ大幅なドル安・元高なのだが、5.9台、もしくはそれ以上の元高が望ましいということだろう。

一方、2005年7月以降の元・円では、その間のドル安・円高に連動し、2011年10月には11円台にまで元安・円高となった。つまり、元はドルに対しては高くなっていたのだが、円よりは安くなった。そして、ドル円の反発に連れて、2014年1月には17円30銭台にまで元高・円安と反発した。その後は16円42銭台まで元安・円高が続いている。チャートは著作権が厳しいので、言葉だけでご理解頂きたい。

為替レートと輸出競争力とが強い相関関係にあるとまでは言い切れないが、欧米の主要国が競争相手との為替レートに常に敏感に反応し、情報操作を含む、様々な形で圧力をかけているところを見ると、それだけの重要性があることは容易に推測できる。

例えば、上記のように元・円は2年余りの間に約24%動いた。ドル・円は2012年10月からの1年半で約30%動いている。このことは、TPPにおける関税撤廃で譲歩しても、通貨安になれば取り返せるということだ。高くしたものを引き下げても取り返せるのだから、もともと双方が低いものや、相手側が引き下げたものなどは、そのまま通貨安となった側に有利となる。

通貨政策の自由を担保に取れるのなら、TPPなど相手の言いなりになっても良いくらいのものなのだ。もちろん、通貨は容易に変動するが、関税の変更は簡単ではないので、迂闊な譲歩は危険だ。このことは、日本政府の360円から75円台までのドル安容認は、原因・理由はともあれ、譲歩のし過ぎだったことも意味している。

このところの主要国の円安容認は、「対円ではいくらなんでもやり過ぎた」と考えているのかも知れない。一般的に使われている「通貨戦争」で言えば、欧米主要国の主要敵国は長い間、日本だったが、2005年7月以降は中国も敵国となり、2012年10月頃からは中国が主要敵国となったのだ。理由は、日本が弱くなり、中国が強くなったから、当面の敵を変えたのだ。敵国とは穏やかな表現ではないが、通貨戦争に対応したまでだ。ターゲットと読み換えてくれていい。


・中国は通貨高に耐えられるか?

私は中国経済の躍進を奇跡でも何でもないと思っている。同様に、1991年までの米ソ冷戦構造下での日本経済の躍進も奇跡ではなかったと見ている。構造的な後押し要因があったものを、奇跡などと呼んでいると、その後の合理的な判断が阻害されるかと思う。いたずらに自信過剰になったり、必要以上に自信喪失するのはその為だ。

奇跡と言えば、1997年までのASEAN経済の躍進も、奇跡と呼ばれたことがあったように思う。しかし、ドルリンクで、ドル安と共に成長した経済が、ドルの反転に振り落とされたところを見ると、それまでの成長はドルペッグ制による構造的な後押しがあったと見るべきだろう。
参照:アジア通貨危機の教訓 ー上ー
参照:アジア通貨危機の教訓 ー下ー

世界の貿易総額は史上最大だった2008年の16兆1590億ドルから、リーマンショック後の2009年には12兆5540億ドルに急減した。しかし、すぐに持ち直し、2010年には15兆3000億ドル、2011年は18兆3270億ドルと史上最大を更新、以降は2012年に18兆4040億ドル、2013年に18兆7840億ドルと、ほぼ横ばいながら拡大している。
参照図:世界の貿易総額2005年~2013年(四半期ベース)
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一方、中国の貿易がおかしい。中国3月の貿易収支は77億1000万ドルの黒字だったが、輸出は前年同月比6.6%減と2カ月連続で前年水準を下回った。輸入は11.3%減。貿易額は9%減となった。2014年1~3月の輸出は前年同期比3.4%減、輸入は1.6%増だった。

中国の輸出力の鈍化が目立っている。中国は元の下落なしには、これまでの成長ペースを維持することが困難なのではないか? 過去2年間の企業収益は概ね横這っている。融資は新規投資に向けてというより、過去の膨大な利払いに充てられている。経済成長を維持するには、現状の元は15%から25%割高だとの試算もある。

2010年6月にドル・元が6.83台だったころ、中国当局は貿易通貨として中国元の使用を容認した。同じ頃に当局はそれまでの2年間、6.82~6.87台で推移していた元の上昇も容認した。元を国際通貨にしようとの試みだ。米ドルの覇権に挑戦するなどという観測もあった。

一方で、元の金利は大きく変動しているものの、主要国の金利と比べるとはるかに高い。キャリートレード定番の円やスイスフランだけでなく、リーマンショック以降は米ドルやユーロでもキャリートレードが行える。元は格好の投資先となった。米国と覇権を争うような国に、大きな信用リスクがあるとは思えないことも、後押しした。その後、元は2014年1月の6.04台まで上げ続けた。

キャリートレードがどれ位の規模かは分からないが、もし、元がここから10%~15%下落しただけでも、リーマンショック並の損失が出るとの見方もある。キャリートレードで保有していたものが、元の短期金利商品だけではなく、株式や不動産であった場合には、巻き戻しではそれらも売られてしまう。2014年1~3月期のヘッジファンドのパフォーマンスは、リーマンショック以降で最悪だったが、まだ序の口なのかもしれない。

米オバマ政権は先週、中国元レートの動向を注視していると述べた。元は「大幅に割安」状態だとし、最近の下落に懸念を表明した。とはいえ、元が上げれば中国経済は持たない。一方で、元が下げれば外国資金が逃避するだけでなく、米国が制裁を加える可能性すらでてきたのだ。


・中国版バブルとは

今日の世界のカネ余りは、2008年末に米国が異常な金額の量的緩和を始めた時を端緒としている。米国の資金供給は2008年9月から急増するが、中国も少し遅れて急増させ、2011年1月には、2008年9月からの資金供給量が共に約156兆ドルと並んだ。以降は、中国も米ドル換算ではまったく同じ規模の資金供給を行っている。共に338兆ドル以上に達する膨大なものだ。私は急激な元高を防ぐためのオペレーションだと見ている。
参照図:リーマンショック後の、米国資金供給量
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資金供給量が同量でも、経済に与えるインパクトは違うはずだ。米国の経済規模は中国の約1.7倍だ。米国では国債が1時マイナス利回りとなったり、株式がこの4月にも最高値を更新するなど、資産の高騰が起きている。住宅価格も概ね回復してきた。

中国では、この大量のカネ余りにより、政府が表の銀行融資を規制しても、シャドーバンキングが同じ規模での融資を継続できているのではないか。不動産バブルは通貨政策の副作用なのだ。

また、常住人口13万人ほどの地方都市のトップが、
「党規律検査委員会の調査結果によれば、羅偉倫は“貪婪荒淫無度(貪欲で酒色におぼれきる)”生活を送り、土地使用権の密売などの汚職や収賄で30億元(約480億円)を稼ぎ、広東省内に3軒の工場と2軒の“夜総会(ナイトクラブ)を所有し、配下に1000人もの用心棒を従えていた。そればかりか、羅偉倫は3人の妻と9人の子供を持ち、これら家族全員を香港へ移住させていたし、香港には1億元(約16億円)以上の豪邸を4軒も所有していた」ような財力を得るなど、
中國での汚職や、政府高官を含む海外逃避資産の規模が桁違いなのも、そのためではないか?

参照:北村豊の「中国・キタムラリポート」
ー「日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。ー


この地方都市のトップの行動は、犯罪性と規模を除けば、バブル時の人の行動そのままだといえる。中国のバブルは深刻化している。日本でもバブル期には過剰接待などが話題になったが、一党独裁政権で、官の力が膨大な中国では、容易に富が集中し、すべてのスケールが桁違いになっているのだ。

また、中国はその資金力にものを言わせ、海外で積極的な企業買収も行っている。最近目立つのは、穀物商社や畜産製造・加工会社のM&Aだ。


・中国元が抱えるいくつかの不安要因

米国の量的緩和終了が近付いている。低金利政策は継続する見通しだが、未曾有と呼ばれた資金供給がゼロとなる。そうなると、米ドルの上昇が見込まれるが、元もつれ高となれば、中国経済は通貨高に耐えられるのだろうか?

また、米国が量的緩和を終了すれば、中国もこれまでのような未曾有の通貨供給を終了するものと思われる。そうすれば、対ドルでの通貨の変動幅は小さく保てるかと思うが、バブル崩壊の危険性が高まることになる。そして、中国経済が失速した時にでも、中国の打つ手が限られることを意味している。

一方、通貨供給を続けると、元安になる可能性が高い。そうなると、膨大なキャリートレードにより元高を支えてきた投機筋が一気に元売りに転じる恐れがある。ポンド危機より、アジア通貨危機に近い混乱が生じるかもしれない。

中国人民銀行が新設する首席エコノミストに任命された馬駿氏は、金融システムを3年以内に自由化する計画を掲げた。中国の通貨・金融システムがようやく一人立ちすることになる。

米ドルに依存した通貨・金融システムでしかなかった中国が、世界最大の貿易国、世界2位の経済規模に肥大したことが、中国が抱える問題を深刻化させているかと思う。