EAを出品する前のチェックリスト――9つの確認で、出品後に崩れるEAを見分ける
はじめに:出品したあとで崩れるEAには、共通点がある
EAを出品したあと、フォワードの成績がバックテストとまるで違う。購入者から問い合わせが来る。こうしたことは、AIでEAを作る人が増えたいま、より起きやすくなっています。
崩れるEAの多くは、出品する前に手元のレポートだけで見分けられます。特別なツールも、EAの中身を読む力もいりません。バックテストの取引一覧と、表計算ソフトがあれば足ります。
今回は、第1回・第2回で紹介した確認に、新しい確認を足して、出品前のチェックリストとしてまとめます。例はこれまでと同じく、MT5のサンプルEA「Moving Average」(EURUSD、1時間足、2026年1〜9月、193件)です。
私自身、半年で約200回のバックテストを回しましたが、このリストを最後まで通って実際の資金で動かしたものは、まだありません。それくらい、偶然の好成績はよく出ます。
確認1〜4:前回の4つの数字
第2回で紹介した4つの数字を、出品前の基準として並べ直します。詳しい理由は第2回をご覧ください。
| 確認 | 出品前の目安 | サンプルEA |
|---|---|---|
| 1. 取引数 | 30件以上。できれば100件以上 | 193件。通る |
| 2. 1件あたりの中央値 | マイナスなら、3を必ず確かめる | −1.40ドル。要注意 |
| 3. 大勝ちを除いた合計 | 上位5件を除いてもプラス | 5件で−34.27ドル。通らない |
| 4. 平均の95%信頼区間 | 下の端がプラス | −1.50〜+11.80ドル。通らない |
サンプルEAは、この時点で2つ引っかかります。出品するなら、もっと長い期間で件数を増やして、もう一度確かめる段階です。
確認5:前半と後半に分ける
前回予告した確認です。取引を日付の順に並べて、件数で半分に分けます。それぞれで、第2回の数字を出し直します。
| 項目 | 前半 | 後半 |
|---|---|---|
| 期間 | 2026年1月2日〜5月21日 | 2026年5月21日〜9月30日 |
| 取引数 | 96 | 97 |
| 合計損益 | +846.16ドル | +112.71ドル |
| 1件あたりの平均 | +8.81ドル | +1.16ドル |
| 中央値 | −1.82ドル | −1.10ドル |
| PF | 1.84 | 1.15 |
利益の約88%は前半にあり、後半の平均は前半の約13%しかありません。合計で見ると「9か月でプラス」ですが、実際は「前半の相場にたまたま合っていた」可能性を否定できません。
この確認が大事なのは、出品したあとに購入者が動かすのが、いつも「後半の続き」だからです。後半が弱いEAは、購入者の手元でも弱いままである可能性が高いのです。
目安は次のとおりです。
- 前半・後半のどちらも、合計がプラス
- 後半の1件あたりの平均が、前半の半分以上ある
最適化に使った期間と、使っていない期間が分かれているなら、使っていない期間の成績を「後半」として見るのが一番確かです。
確認6:買いと売りに分ける
買いだけ、売りだけで稼いでいるEAは、その期間の相場の向きに乗っていただけかもしれません。相場の向きが変わると、成績も変わります。
サンプルEAは、買い93件で+448.54ドル、売り100件で+510.33ドル。ここは偏りがなく、通ります。
目安:片側が合計のほとんどを稼いでいたら、反対側は切るか、片側専用のEAとして理由を説明できるかを考えます。
確認7:実際の口座のコストを入れる
サンプルEAのレポートは、手数料の合計が0でした。MT5のテスターは、設定しなければ手数料を入れずに計算します。購入者の口座には手数料があり、スプレッドもテスターより広がることがあります。
確かめるのは「利益がゼロになるには、あとどれだけコストが増えてもよいか」です。サンプルEAでは1ロットあたり約46ドル、EURUSDなら往復で約4.6pips分です。
目安:購入者が使いそうな口座の手数料とスプレッドを合わせても、この余裕の半分以下に収まること。取引回数が多く、1回の利益が小さいEAほど、ここで落ちます。
確認8:ドローダウンを「順番しだい」で見る
レポートの最大ドローダウンは、過去にたまたま起きた取引の順番での値です。同じ取引でも、負けが続けて来ればもっと深くなります。
サンプルEAの実際の最大ドローダウンは337.03ドルでした。取引の順番を5,000回並べ替えて計算すると、悪いほうから5%のところで582.40ドル、実際の約1.7倍になりました。
目安:販売ページで推奨する証拠金やロット数は、レポートの値ではなく、この「順番しだいで膨らむ値」で計算します。
確認9:何通り試して選んだかを書き出す
最適化やAIとのやりとりで試した設定の数を、おおよそでよいので数えます。第1回で書いたとおり、試した数が多いほど、一番良い結果は偶然でも出やすくなります。
目安:試した数が数十を超えるなら、確認1〜5は厳しめに読みます。たとえば平均の幅は、下の端がゼロをはっきり上回るまで合格にしません。そして、その数は自分のメモに残しておきます。
出品前チェックリスト(一覧)
印刷したり、メモに写したりして使ってください。一つでも通らなければ、出品は待ちます。
| No. | 確認 | 合格の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 取引数 | 30件以上(できれば100件以上) |
| 2 | 1件あたりの中央値 | マイナスなら3を必ず確かめる |
| 3 | 大勝ちを除いた合計 | 上位5件を除いてもプラス |
| 4 | 平均の95%信頼区間 | 下の端がプラス |
| 5 | 前半と後半 | どちらもプラス。後半の平均が前半の半分以上 |
| 6 | 買いと売り | 片側だけで稼いでいない。稼いでいるなら理由を説明できる |
| 7 | 実際のコスト | 購入者の口座のコストが、利益がゼロになるコストの半分以下 |
| 8 | ドローダウン | 推奨資金を「順番しだいで膨らむ値」で計算している |
| 9 | 試した数 | 数えてある。多いなら1〜5を厳しめに読んだ |
サンプルEAは、1・6は通りますが、3・4・5で落ち、他も要注意です。結論は「まだ出品しない」です。
販売ページに書いておくこと
チェックリストを通ったら、その前提を販売ページに残します。購入者が自分の口座で同じ結果を期待できるかを、自分で判断できるようにするためです。問い合わせも減ります。
- バックテストの期間、通貨ペア、時間足、取引数
- 最適化に使った期間と、使っていない期間(分けているなら)
- テストに入れた手数料とスプレッドの前提
- 推奨資金と、その根拠にしたドローダウンの値
「勝率」「PF」だけを大きく載せるより、この4つがそろっているほうが、数字を読める購入者には信頼されます。
まとめ
- 出品後に崩れるEAの多くは、手元のレポートと表計算ソフトで、出品前に見分けられる
- 購入者が動かすのはいつも「後半の続き」。前半と後半は必ず分けて見る
- 通った前提は、販売ページにそのまま書く
このチェックリストを通ったEAの商品概要を、AIと一緒に盛らずに書く方法は、続きの第4回「AIでEAの商品概要を盛らずに書く」に書きました。
おまけ:このチェックをまとめて行うには
この記事の数字は、自作の点検ツール「EA頑健性チェック」で出したものです。MT5のバックテストレポートを渡すと、確認1〜8をまとめて調べ、判定と気をつけるべき点を文章で返します。判定の基準は固定で、結果を見てから緩めることはできません。
自分では疑いにくい、という方向けに、点検を受けられるサービスも用意しています。EAバックテストの頑健性を第三者が点検します ¥14,800(Skijan)。MT5のレポート最大3本をお預かりし、所見書(PDF)にまとめて3営業日以内にお返しします。判定の基準は固定で、結果が良くなかった場合に結果を変えることはできません。
※本記事は筆者自身の検証の進め方を紹介するもので、特定の銘柄・手法・EAの売買を勧めるものではありません。過去の検証結果は将来の成績を保証するものではありません。