プロフィットファクターより先に見る数字――PF1.55のEAを、4つの数字で見直す
はじめに:PFは「どう稼いだか」を隠す
前回、AIで作ったEAがフォワードテストで落ちる理由を書きました。今回は、バックテストのレポートを開いたとき、プロフィットファクター(PF)より先に見てほしい4つの数字の話です。
PFは「勝ちの合計 ÷ 負けの合計」です。1を超えればプラス、1.5なら負けの1.5倍勝っている、という分かりやすい数字です。ただ、合計どうしの割り算なので、「何回の取引で」「どんな勝ち方で」その数字になったかは消えてしまいます。
前回と同じく、MT5に最初から付いているサンプルEA「Moving Average」を、EURUSDの1時間足、2026年1月から9月でバックテストした結果を使います。PFは1.55。これだけ見れば、悪くないEAです。
数字1:取引数――PFは件数が少ないと大きく揺れる
最初に見るのは、取引数です。このサンプルEAは193件あります。
件数が大事な理由は、同じEAの同じバックテストでも、切り取る件数が少ないとPFがまったく違う値になるからです。193件を順番に約32件ずつ、6つに区切ってPFを出すと、次のようになりました。
| 区間 | 件数 | PF | 合計損益(ドル) |
|---|---|---|---|
| 1〜32件目 | 32 | 1.25 | +125.5 |
| 33〜64件目 | 32 | 2.38 | +341.6 |
| 65〜96件目 | 32 | 2.41 | +379.0 |
| 97〜128件目 | 32 | 1.13 | +52.1 |
| 129〜160件目 | 32 | 0.21 | −92.6 |
| 161〜193件目 | 33 | 1.78 | +153.2 |
| 全体 | 193 | 1.55 | +958.87 |
同じEAなのに、32件ではPFが0.21から2.41まで揺れます。「最初の30件でPF2を超えた」「フォワードの30件でPFが1を割った」は、どちらもこの揺れの範囲で起きうることです。
目安として、取引が30件に満たないバックテストは、PFで良し悪しを言える段階にありません。そして30件あっても、上のように大きく揺れます。PFを見るなら、必ず件数とセットで見てください。
数字2:中央値――「ふだんの1件」は勝ちか負けか
次に、取引ごとの損益を小さい順に並べたときの真ん中の値、中央値を見ます。平均は大きな1件に引っ張られますが、中央値は引っ張られません。だから中央値は「ふだんの1件」がどうなるかを表します。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1件あたりの平均 | +4.97ドル |
| 1件あたりの中央値 | −1.40ドル |
| 勝率 | 29.5%(193件中57件) |
| 勝ちの平均 | +47.39ドル |
| 負けの平均 | −12.81ドル |
平均はプラスなのに、中央値はマイナスです。このEAは、10回のうち7回は小さく負け、たまの大きな勝ちで取り返す形です。
この形自体は、トレンドフォローではごく普通です。問題は、PF1.55という数字からはこの形がまったく見えないことです。中央値がマイナスのEAは、大きな勝ちが来ないあいだ、資産がじわじわ減り続けます。フォワードの最初の数か月がその期間に当たることは、十分ありえます。
中央値がマイナスなら、次の「大勝ちを除いた合計」を必ず確かめてください。
数字3:大勝ちを除いた合計――PFは数件で入れ替わる
前回も紹介した確認ですが、今回はPFも並べます。利益の大きい順に取引を1件ずつ除いていきます。
| 除いた大勝ち | 残りの件数 | 合計損益(ドル) | PF |
|---|---|---|---|
| 0件 | 193 | +958.87 | 1.55 |
| 1件 | 192 | +686.40 | 1.39 |
| 2件 | 191 | +443.18 | 1.25 |
| 3件 | 190 | +279.05 | 1.16 |
| 4件 | 189 | +119.85 | 1.07 |
| 5件 | 188 | −34.27 | 0.98 |
193件のうち上位5件の利益を足すと、合計の約104%になります。残り188件を合わせると、わずかにマイナスです。PF1.55のうちの「0.55」は、ほぼこの5件が作っていました。
確かめ方は簡単です。レポートの取引一覧を表計算ソフトに貼り、損益の列を大きい順に並べ替えて、上から3〜5行を消して合計を見るだけです。
判断の目安はこうです。
- 上位1〜2件を除いてマイナスになる:その1、2件がフォワードでも来るとは期待できない。危うい
- 上位3〜5件でマイナスになる:大勝ち依存が強い。フォワードは長めに見る必要がある
- 5件除いてもプラスが残る:大勝ちだけに支えられてはいない
数字4:平均の幅――「ゼロと区別できるか」
最後は、「1件あたりの平均がプラス」という結果が、偶然でも出うるかどうかです。同じEAでも、相場の巡り合わせで平均は上下します。その上下の幅を示すのが「95%信頼区間」です。
このサンプルEAでは、次のとおりでした。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1件あたりの平均 | +4.97ドル |
| 平均の95%信頼区間 | −1.50〜+11.80ドル |
| 平均がプラスになる確率 | 93% |
幅の下の端がマイナス、つまりゼロをまたいでいます。「優位性がまったくないEAでも、このくらいの成績は偶然に出うる」という範囲です。PF1.55でも、統計の上では「まだゼロと区別できない」という結論になります。
表計算ソフトでも、おおよその幅は出せます。損益の列がA2〜A194にあるなら、次の2つです。
- 下の端:=AVERAGE(A2:A194)-2*STDEV(A2:A194)/SQRT(COUNT(A2:A194))
- 上の端:=AVERAGE(A2:A194)+2*STDEV(A2:A194)/SQRT(COUNT(A2:A194))
このサンプルEAでは−1.83〜+11.76ドルとなり、上の値とほぼ同じです。(上の表は、取引を選び直して1万回計算する「ブートストラップ」という方法で出した値です。)
もう一つ。前回書いたとおり、たくさんの設定を試して一番良いものを選んだなら、この幅は実際にはもっと広く考える必要があります。下の端がただプラスであるだけでは、まだ安心できません。
見る順番:PFは最後でいい
レポートを開いたら、次の順に見てください。どこかで引っかかったら、PFがいくつでも、フォワードに出すのは待ちます。
- 取引数:30件未満なら、判断しない
- 中央値:マイナスなら、ふだんは負けている。次の3を必ず見る
- 大勝ちを除いた合計:上位3〜5件でマイナスになるなら、その数件だけに支えられている
- 平均の幅:下の端がマイナスなら、偶然と区別できない
- PF:1〜4を通ったあとで、はじめて意味を持つ
今回のサンプルEAは、1は通りますが、2・3・4で引っかかります。PF1.55の印象とは、かなり違う姿です。
まとめ
- PFは合計どうしの割り算。件数も勝ち方も見えない
- 30件前後では、同じEAでもPFは0.2〜2.4まで揺れる
- 中央値、大勝ちを除いた合計、平均の幅を先に見る。PFは最後
「前半と後半に分けて見る」確認は、続きの第3回「EAを出品する前のチェックリスト」に書きました。
おまけ:この4つをまとめて出すには
この記事の数字は、自作の点検ツール「EA頑健性チェック」で出したものです。MT5のバックテストレポートを渡すと、取引数・中央値・大勝ちを除いた合計・平均の幅をまとめて出し、判定を文章で返します。判定の基準は固定で、結果を見てから緩めることはできません。
自分では疑いにくい、という方向けに、点検を受けられるサービスも用意しています。EAバックテストの頑健性を第三者が点検します ¥14,800(Skijan)。MT5のレポート最大3本をお預かりし、所見書(PDF)にまとめて3営業日以内にお返しします。判定の基準は固定で、結果が良くなかった場合に結果を変えることはできません。
※本記事は筆者自身の検証の進め方を紹介するもので、特定の銘柄・手法・EAの売買を勧めるものではありません。過去の検証結果は将来の成績を保証するものではありません。