t値17.8でも捨てた
FX
# t値17.8でも捨てた。「統計的に効く」と「売買できる」は別だった
第1回の記事で、少しだけ触れた事例があります。
昔のUSDJPYではかなり強く確認できたのに、最近ではほぼ消え、しかも取引コストを超えるほど大きくなかった現象です。
**第1回で少し触れたこの事例を、今回は詳しく書きます。**
検証の途中で、
**t = −17.8**
というかなり大きな値が出ました。
しかもこれは、単純な標準誤差で計算した数字ではありません。
**データの自己相関を補正したNewey-West方式で計算した値です。**
それでも最終的に私は、
**この仮説を売買戦略として採用しませんでした。**
理由は、
**統計的に存在することと、実際にお金になることは別だからです。**
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## 論文由来の仮説を実市場で確かめた
検証したのは、
価格変動の状態によって、短期的な値動きの反転しやすさが変わるのではないか、
というタイプの仮説でした。
論文や研究から得たアイデアを、そのまま信用するのではなく、
自分が使っている市場データへ移して検証しました。
ここで見たかったのは、
- そもそも現象は存在するのか
- 時代が変わっても残っているのか
- 実際の取引コストを超えるほど大きいのか
という3点です。
「論文に載っているから勝てる」
とは考えません。
実際の市場で使えるところまで残るかを確認します。
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## 昔のUSDJPYでは、かなり強く出た
USDJPYのデータを調べると、
2000年から2013年の期間では、
**β = −0.049**
**t = −17.8**
という結果が出ました。
(出典:`design_A1_vol_regime_reversal_20260902.md:384`)
このt値は、
**データの自己相関を補正したNewey-West(Bartlett、lag=10)方式で計算した値です。**
10分の窓をずらしながら重ねて使うため、隣り合う観測は完全には独立ではありません。
その影響を考慮したうえでも、
歴史的にはかなり強い結果が確認されました。
つまり、
「隣り合ったデータを独立だとみなしたせいで、t値だけ異常に大きくなった」
という数字ではありません。
ここまでは、むしろ仮説にとって良い結果です。
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## ところが、最近ではほぼ消えた
同じ現象を時代別に見ると、状況が変わります。
2020年から2025年では、
**β = −0.004**
**t = −0.6**
まで低下しました。
(出典:`design_A1_vol_regime_reversal_20260902.md:384`)
昔はかなり強かった現象が、
最近ではほぼ確認できなくなっています。
これは、自動売買の検証ではかなり重要な問題です。
全期間をまとめて1本の数字にすると、
**昔の強い時代が、最近の弱い時代を隠してしまう**
ことがあります。
だから私は、
「長期間で有意だったか」
だけではなく、
**その効果が最近まで残っているか**
も見るようにしています。
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## 「昔は本物だった」は、今勝てる理由にならない
今回の結果は、
過去の現象が全部偽物だった、
という話ではありません。
むしろ逆です。
2000年から2013年には、
かなり明確な形で存在していた可能性が高い。
でも、
**昔、本当に存在したことと、今取引できることは別問題です。**
市場では、
参加者、流動性、取引コスト、アルゴリズム、市場構造など、
時間とともに多くのものが変わります。
そのため、
過去に強かった現象が、将来も同じ強さで続くとは限りません。
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## さらに問題があった。効果そのものが小さすぎた
ただし、この仮説を売買戦略として閉じた理由は、
最近弱くなったことだけではありません。
もっと直接的な問題がありました。
歴史的に最も強かった時期でも、
予測された反転の大きさを実際の値幅へ直すと、
**約0.15〜0.3pip**
でした。
一方、実際に観測したスプレッドは、
**約0.2〜1.0pip**
でした。
(出典:`design_A1_vol_regime_reversal_20260902.md:390`)
ここでかなり厳しい現実が見えてきます。
**予測できている値動きそのものが、取引コストと同程度か、それ以下だった。**
ということです。
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## 統計的に正しくても、取引すると消える
ここが今回、一番書きたかったところです。
仮に、
「次の値動きが平均的に少し反転する」
という予測が統計的に本物でも、
その値幅より取引コストの方が大きければ、売買には使えません。
極端に言えば、
**未来を少し当てられていても、取引すると負ける**
ことがあります。
自動売買で必要なのは、
予測が当たることだけではありません。
必要なのは、
**予測できる値幅が、売買の摩擦を十分に上回ること**
です。
そこまで届かなければ、
統計モデルとしては面白くても、
売買戦略としては失敗です。
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## t値が大きいことと、利益が大きいことは違う
t値が大きいと、
「かなり強い現象なのでは?」
と思いたくなります。
でもt値は、
利益額そのものを表しているわけではありません。
ざっくり言えば、
**推定された効果が、推定誤差に対してどれくらい大きいか**
を見る数字です。
大量のデータがあり、
小さな現象が安定して繰り返されていれば、
経済的にはごく小さな効果でも、大きなt値になることがあります。
今回がまさにそうでした。
統計的にはかなり明確。
でも、1回あたりに取れる値幅は小さい。
だから、
**「統計的に強い」と「経済的に大きい」は分けて考える必要がある**
と分かりました。
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## 今は、評価を段階に分けている
この経験以降、私は戦略を見るときに、
少なくとも次の問題を分けて考えるようになりました。
- 予測する力はあるのか
- 出口との相性はあるのか
- スプレッドを超えられるのか
- 保有コストを超えられるのか
- 実際に使うブローカーの商品仕様でも成立するのか
全部をまとめて、
「PFが高いからOK」
とは考えません。
ある段階を通っても、
次の段階で落ちることがあります。
今回の仮説は、
**現象としては歴史的に確認できた。**
でも、
**売買戦略としては生き残らなかった。**
そういうケースでした。
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## 「ゼロ」という結果にも価値がある
バックテストでは、
「勝てるものを見つけた」
という結果の方が派手です。
でも実際には、
**何が使えないのかを確定すること**
にも価値があります。
今回も、
t値だけを見て検証を止めていれば、
かなり有望な仮説として残していたかもしれません。
でも、
- 時代別に分ける
- 効果量を見る
- 実際の取引コストと比べる
ところまで進めた結果、
売買戦略としては採用しませんでした。
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## 今回の結論
今回の検証で得た結論は、
**統計的に存在するエッジと、売買可能なエッジは同じではない**
ということでした。
昔のUSDJPYでは、
自己相関を補正したうえでも、
**t = −17.8**
という非常に強い結果が出ました。
それでも、
最近では効果そのものがほぼ消え、
さらに歴史的に最も強かった時期でさえ、
予測できる値幅は取引コストを十分に上回りませんでした。
だから私は、
**現象そのものを否定したのではなく、売買戦略として閉じました。**
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## おわりに
第1回では、
**「勝てるEA」を作ることと、信用できるEAを作ることは違う**
という話を書きました。
第2回では、
**勝率99.5%でも捨てた理由**
を書きました。
そして今回は、
**t値17.8でも捨てた理由**
です。
3つに共通しているのは、
良い数字が出たところをゴールにしないことです。
勝率でも、
PFでも、
t値でも、
その数字が
**何を意味していて、何を意味していないのか**
を分けて考える。
良い数字ほど、一度疑ってみる。
自動売買の検証では、そのくらいでちょうどいいと思っています。
※本記事は、特定のEA・金融商品・個別の売買判断を推奨するものではありません。実際に行った検証と、その検証方法について記録したものです。