2023年、晩秋。
書斎のデスクで、私はMetaEditorに打ち込まれたすべてのモジュールを統合し、一つの完全な実行ファイルへとコンパイルした。
相場の多面的な断面を捉える多層防衛エンジン。
ポジション同士の共食いを遮断し、20.0pipの結界を維持する間隔制御。
非常事態の臨界点において、欲を捨てて微益で生還する緊急脱出ハッチ。
そして、それらを受け止める「母なる海」AUD/CADのショック相殺力学。
【不沈艦 GWR を支える三位一体の防衛アーキテクチャ】
1. フィールドの力学(母なる海):
豪州(鉄鉱石)✕ カナダ(原油)の資源国相関による強力なレンジ回帰性。
2. 空間の統制(結界):
狭いエリアでの密集を防ぎ、広大な間隔を保って配置される多層防衛網。
3. 時間と欲の遮断(緊急脱出):
相場の異常時には利益追求を完全に放棄し、トータルプラスで電光石火の生還を果たす。
「攻めるための武器ではない。いかに相場の暴力から生き残り、家族の資産を守り抜くかという『守りの結晶』だ」
画面に浮かぶソースコードを見つめながら、私は静かに息を呑んだ。
かつて自分の手動トレードで86万円を一晩で溶かし、絶望の淵を彷徨ったあの痛みがあったからこそ、ここまで一切の妥協を排した防衛構造に辿り着くことができたのだ。
完成したシステムを、まずはデモ口座、その後に小額のテスト環境で稼働させ始めた。
朝7時。出勤前にPCの画面を一度だけ確認する。
システムは「母なる海」の静かな揺らぎの中で淡々と波を拾い、ポジションの配置も設定どおりの秩序を保っていた。
日中、会社員の営業として都内を駆け回り、取引先との商談に全神経を集中させる。
ポケットの中のスマートフォンが気になって仕方なかった過去の自分は、もうどこにもいなかった。
システムがどう動くか、どの局面でどう逃げるかを、開発者である自分自身が100%把握している。
この圧倒的な納得感こそが、兼業トレーダーにとって最大の精神安定剤だった。
夜、帰宅して家族と囲む夕食の温かさ。
子どもたちの他愛のない話に耳を傾け、週末の予定を笑顔で話し合う。
チャートの呪縛から解放され、人としての当たり前の日常が、確かな手触りを持って戻ってきていた。
だが、真の不沈艦として自分自身の大きな資金を預け、そして同じように相場で苦しむ兼業トレーダーの希望となるためには、越えなければならない最後の試練があった。
「数ヶ月や数年のテスト結果では足りない。
リーマンショック以降の歴史的急変動、コロナショックの暴風雨、あらゆる天変地異を含んだ『10年半(126か月以上)』の全ティックデータに晒し、一切のカーブフィッティングなしで耐え抜くことを証明しなければならない」
相場に一切の嘘や誤魔化しは通用しない。
10年半という気の遠くなるような時間を、1秒の妥協もなく再現する過酷なバックテスト検証。
「不沈の系譜」が真の証明を手にするための、最終審判の航海が幕を開けようとしていた。