9万5,617人の実取引データから考える「FXは経験で上手くなるのか」
FXを続けていると、自然にこう考えやすくなります。
「今はまだ勝てなくても、経験を積めば上手くなる」
僕もそう思っていました。
負けたら原因を探す。
チャートを見直す。
ルールを修正する。
資金管理を学ぶ。
感情をコントロールする。
そうやって経験を積み重ねれば、少しずつ安定して勝てるようになる。
FXも、仕事やスポーツと同じように、続ければ上達するものだと思っていました。
でも、FXをやめたあとに知った研究は、その前提を一度疑わせるものでした。
9万5,617人の実取引データ
2016年に、Simon HayleyとIan Marshによる
“What do retail FX traders learn?”
という研究が発表されています。
対象は、あるオンラインFX取引プラットフォームを使っていた9万5,617人の個人トレーダー。
期間は2010年1月から2012年6月までの約30か月。
デモではなく、実際のお金を使った取引データです。
トレーダーと取引日の組み合わせは約480万件にのぼります。
研究の中心にあった問いの一つは、
「個人FXトレーダーは、経験を積むことで上手くなるのか」
というものでした。
これは、僕が5年間ほとんど疑わなかった問いそのものでした。
長く残っている人が上手いとは限らない
もし経験によって上達するなら、
長く続けている人ほど成績が良くなっていくはずです。
でも、ここには一つ問題があります。
成績が悪い人ほど、途中でやめる可能性があります。
そうすると、長く残った人だけを見れば、
「経験者ほど上手い」
ように見えてしまうかもしれません。
でもそれは、
経験によって上達したのか、成績の悪い人が先にやめただけなのか
を分けて考えないといけません。
研究者たちは、その影響やトレーダーごとの能力差を考慮して分析しました。
経験で成績が改善する証拠は確認されなかった
その結果、
個人FXトレーダーが経験を積むことで成績が改善するという証拠は確認されませんでした。
調整後には、経験が増えるにつれて成績がわずかに悪化する傾向も示されています。
これは、僕にとってかなり印象的でした。
僕は5年間、
「今はまだ足りないだけ」
と思っていました。
もっと経験すればいい。
もっと検証すればいい。
もっと相場を理解すればいい。
でも、その「経験を積めば自然に上達する」という前提自体が、少なくともこの研究では確認されていませんでした。
最初に勝てた人ほど続けやすい
研究には、もう一つ興味深い点があります。
50日を超えて取引を続けた人たちを見ると、
最初の10日間では39%が利益を出していた一方、
50日を超えた後の取引で利益を出していたのは13%でした。
研究者たちは、
初期の良い結果が、その後も取引を続ける理由になった可能性
を指摘しています。
これは僕自身の経験とも重なりました。
僕も、最初からずっと負けていたわけではありません。
勝てる時期がありました。
だから、
「自分にもできるかもしれない」
と思って続けました。
負けたから続けたのではなく、
ときどき勝てたから続けた。
ここは大きかったと思います。
一時的に勝つことと、能力が身についたことは別
FXでは、半年勝てることもあります。
1年勝てることもあります。
それ自体は事実です。
でも、
その方法が長期的に有効なのか。
その時期の相場環境に合っていただけなのか。
簡単には区別できません。
この研究でも、対象期間のEUR/USDには、短期的な平均回帰や数週間にわたるトレンドが見られ、その時期に利益を出しやすい戦略が存在した可能性が論じられています。
だから、
一時的な利益と、再現可能な能力は分けて考える必要があります。
僕はそこを十分に分けていませんでした。
勝てた。
だから上達した。
この方法は通用する。
そう考えやすかった。
でも、勝てたという結果だけで、長期的な優位性まで証明できるわけではありません。
この研究は「FXでは誰も勝てない」と言っているわけではない
ここは大事です。
この研究は、
「FXでは誰も勝てない」
と証明したものではありません。
9万5,617人という大きなデータではありますが、一つの取引プラットフォームの利用者を対象にした研究です。
観察期間も約30か月。
すべてのFXトレーダーを、生涯にわたって追跡したものではありません。
長期的に利益を出す一部のトレーダーが存在する可能性も否定していません。
だから僕は、
「この研究があるからFXはやめるべきだ」
とは思いません。
僕が重要だと思ったのは、もっと限定的な点です。
経験を積めば、平均的に自然と上手くなっていく。
その関係は、この研究では確認されなかった。
それだけでも、僕には十分考える材料になりました。
「もっと勉強すればいい」の前に考えたかったこと
僕は5年間、
「どうすればもっと上手くなるのか」
を考えていました。
でも今なら、その前に置く問いがあります。
これは、本当に経験が素直に積み上がる種類の活動なのか。
何年続ければ上手くなるのか。
経験者は、本当に経験によって上手くなったのか。
一時的な利益を、自分の能力とどこまで結びつけていいのか。
この研究は、それらに単純な答えを出してくれません。
でも僕にとっては、
「もっと勉強すればいい」以外の問いを持てた
ことが大きかったです。
経験年数そのものを、安心材料にしない
「FX歴5年」
「FX歴10年」
という言葉には、経験があるように見える力があります。
でも、
長くやっていることと、
経験によって成績が改善していることは同じではありません。
もちろん、長年続けている人から学べることはあります。
でも、
経験年数だけを見て、その人が上手い、自分も続ければ上手くなる、と考えるのは少し慎重になった方がいい
と思います。
僕自身、5年間かなり勉強しました。
でも最後は市場を離れました。
だから今は、
「どれだけ長く続けたか」
よりも、
「その時間の中で、何が本当に積み上がったのか」
を見るようになりました。