【開発者の本音】バックテストを開いたら最初に見る「5つの数字」― DD・取引数・PF・勝率・検証期間の解剖学
前回、「利益額だけでEAを判断してはいけない」という話を書きました。
では実際にバックテストの画面を開いたとき、どこから見ればいいのか。今回はその具体的な話です。
バックテストのレポート画面を開くとき、正直、私は今でも一瞬だけ「最終利益」の数字に目が吸い寄せられます。
ただ、指が動くのはそこから先です。DD、取引数、PF、勝率、検証期間――この5つを確認し終えるまで、そのEAを「良い」とは判断しません。
今回は、私が自作EAの検証時や新しいEAをチェックする際に、利益額を見る前後に必ず確認しているこの5つの数字について、開発者目線でのリアルな見方をお話しします。
① 最大ドローダウン(DD)― 資金が一番凹んだ「谷底の深さ」
私が何よりも先に見るのは、最大ドローダウン(DD)です。簡単に言えば、「運用途中で資産がピークからどれだけ落ち込んだか」を示す数字です。
例えば、100万円からスタートして最終的に200万円(+100万円)になったEAがあったとします。数字だけ見れば大成功です。
ですが、もし途中で一度150万円まで増えた後、100万円まで資産が激減していたらどうでしょうか。
バックテストのグラフを見ているだけなら「最終的に戻ってきたからOK」と思えるかもしれません。
しかし、リアル口座で自分のお金を運用している最中に50万円の含み損や資金減少に直面して、冷静でいられる人はほとんどいません。
耐えきれずに手動で損切りしたり、稼働を停止した途端に相場が戻っていく……というのが関の山です。
ちなみにこのDD、確定した損益だけで計算する「バランスベース」と、含み損も含めて計算する「エクイティベース」の2種類があります。
ナンピン系のEAほど、この2つの数字が大きく乖離することがあります。バランス上は静かでも、エクイティ上は激しく上下しているケースがあるということです。
私は金額としてのDD(〇〇万円)だけでなく、「口座資金に対して何%落ち込んだか(相対DD)」も重視しています。
どんなに稼げるEAであっても、自分が夜安心して眠れないほどの落ち込みを作るEAは、個人投資家にとって運用が続かないEAです。
② 取引数 ― そのデータは「統計」として成り立っているか?
次に見るのがトレードの「取引数」です。
例えば「勝率80%・PF2.5」という圧倒的な成績のEAがあったとします。
一見すると最強に見えますが、もしこれが「3年間の検証で、たった10回しか取引していない結果」だとしたらどうでしょう。
10回中8回勝っただけなら、単なる偶然やラッキーの可能性を否定できません。
サイコロを10回振って8回偶数が出たからといって、「このサイコロは80%で偶数が出る」と断定できないのと同じです。
前回書いた「条件を足せばバックテストは綺麗にできる」という話には、実はもう一つ副作用があります。
条件を絞れば絞るほど、取引数そのものが減っていくということです。
極端に条件を絞り込めば、負けトレードは消えて綺麗なグラフになりますが、同時に「バックテストは完璧だが、1年に数回しか動かないEA」が出来上がってしまいます。
ただし、もともと取引頻度が低いスイング系の戦略の場合、取引数が少ないこと自体が悪いわけではありません。
その場合は、検証期間そのものを長く取って母数を稼ぐ必要がある、というだけの話です。
正直、この「取引数が少ないのに成績が良すぎる」パターンには、開発を始めた頃の自分も何度か引っかかりました。
③ PF(プロフィットファクター)― 高すぎる数字ほど疑うべき理由
EAの指標で最も有名なのがPF(総利益 ÷ 総損失)です。
1.0を超えればトータルプラスであり、数値が高いほど効率よく稼いでいることになります。
「PF 1.3〜1.5あれば優秀」と一つの目安として語られることが多いですが、これも絶対的な基準ではありません。
バックテストを見ていると、時々「PF 5.0」や「PF 10.0超え」といった異常な数字を弾き出すEAに出会うことがあります。
もちろん高いPFがすべて危険というわけではありません。
ただ、こういう数字を見たときほど、「絶対にどこかに巨大な含み損を隠しているか、損切りルールがバグっているはずだ」と、現場を疑う刑事のような目になります。
正直に言うと、私も以前、あるナンピン系のEAを検証していて「PF 15」という数字を見て、しばらく固まったことがあります。
「これは相当な掘り出し物なのでは」と本気で思いました。
ですが、エクイティカーブ(含み損を含めた資産推移)を別途出力して確認してみると、バランスカーブでは綺麗な右肩上がりだったのに対し、エクイティカーブは何度も口座残高の8割近くまで沈み込んでいました。確定損益だけを見ていたら、絶対に気づけなかった部分です。
なぜこういうことが起きるのか。
種明かしをすると、ナンピン・マーチン系のように「損切り(SL)を一切せず、含み損が消えてプラスになるまで耐え続けるロジック」になっているからです。
損失を確定させないため、計算式の分母である「総損失」がほぼゼロになり、計算上PFが跳ね上がります。
しかし画面上の確定損益グラフが綺麗な右肩上がりに見えていても、その裏に巨大な含み損を抱えているケースは少なくありません。
PFを見るときは、数字そのものより「どうやってこの数字が生まれたのか」の方が気になる――あのナンピン系EAを見て以来、これがすっかり染み付いてしまいました。
④ 勝率 ― 「90%勝てる」と「お金が増える」は全く別物
個人的に、初心者の方が最も惑わされやすいのが「勝率」だと感じています。
「勝率90%!」と聞くとすごく強そうに思えますが、勝率は単に「勝った回数の割合」であって、「いくら残ったか」ではありません。
- パターンA(勝率90%):9回コツコツ勝って「+9万円」。でも1回の負けで「−20万円」。⇒トータル11万円の赤字
- パターンB(勝率40%):6回負けて「−6万円」。でも4回の勝ちで「+20万円」。⇒トータル14万円の黒字
極端な例ですが、これがトレードの本質です。高勝率を謳うEAほど、1回の負けでそれまでの利益をすべて吹き飛ばす「損大利小」の設計になっていないか。
平均利益と平均損失のバランスまで見て、初めて勝率という数字の意味が分かります。
⑤ 検証期間 ― 3年間の成績を「バラバラに解剖」してみる
最後が「検証期間」の深掘りです。
例えば、「過去3年間で+200万円」というバックテスト結果があったとします。
一見すると右肩上がりに見えますが、データを年別に分解してみると全く違う顔が見えてくることがあります。
2024年:+10万円 2025年:+10万円 2026年:+180万円
この場合、「3年間で稼いだ」のではなく「2026年の特定の数ヶ月の相場環境だけに異常にハマって稼いだだけ」という可能性が高くなります。
普段はずっと補欠なのに、たった1回だけ奇跡の満塁ホームランを打って通算打率を稼いでいた選手のようなものです。
さらに「BUY(買い)とSELL(売り)」の成績を分けてみると、「売りトレードでは大きく負け越しているのに、猛烈な上昇トレンドに乗った買いトレードの利益がそれを覆い隠していただけ」という事実が発覚することもあります。
この作業、正直かなり地味です。年別、月別、売買別にデータを分解し、どんな相場環境でも均等にパフォーマンスを出せているかを確認する。
派手さはありませんが、これをサボったせいで痛い目を見たことが、実は私にはあります。
数字は「点」ではなく「立体」で見る
以前の私なら「PF 3.0」という数字だけで飛びついていました。
今は、その数字の後ろに何回の取引があるのか、どんな損切りルールで作られたPFなのか、特定の相場だけに依存していないか?
そこまで見て、ようやく「良いEAかもしれない」と思えるようになりました。
DD、取引数、PF、勝率、検証期間は、どれか1つだけでは意味を持ちません。組み合わせて初めて、そのEAの本当の姿が見えてきます。
おわりに(次回予告)
実は、この5つを全部クリアしていたはずのEAで、私は一度痛い目を見たことがあります。次回はその話を書こうと思います。