偏り引く往復コスト。この引き算が、短い持ち時間の手法のすべてを決める
引き算の項 2つ 偏りと、往復コスト | 同じ桁になる単位 銭の桁 どちらも数銭の規模 | 差が出る場所 口座の側 規則は同じままでも |
短い持ち時間で数銭の値幅を取りにいく設計では、期待値の計算はとても単純な形になります。
1回あたりの期待値 = 観測された偏りの平均 − 往復コスト。この記事は、この引き算だけを扱います。
短い持ち時間の手法では、観測された偏りと往復コストが同じ桁に並ぶ。だから手元に残る分は、規則よりも口座の側で決まる。
長い持ち時間で数十銭から数円の値幅を狙う設計であれば、往復コストが1銭前後でも、結果に占める割合は小さくとどまります。
一方、1回の持ち時間が十数分で、狙う値幅が数銭という設計では、事情が変わります。観測された偏りの平均と、往復コストが同じ桁に並ぶからです。このとき、引き算の結果は口座の側の数字に強く反応します。
| 設計 | 狙う値幅の桁 | 往復コストの桁 | コストが占める割合 |
|---|---|---|---|
| 数時間から数日持つ | 数十銭〜数円 | 1銭前後 | 小さい |
| 十数分持つ | 数銭 | 1銭前後 | 大きい |
往復コストは、3つの部分からできています。スプレッド(入りと出でそれぞれ片道分)、往復の手数料、そして滑りの平均です。
ここで効いてくるのが、前の記事で見た滑りの対称性です。滑りが対称であれば、その平均はゼロの近くに寄り、往復コストはスプレッドと手数料でほぼ決まります。片寄っていれば、その分がまるごと往復コストに乗ります。
金融庁の監督指針が、顧客にとって不利な方向だけに滑らせる設定を不適切として名指ししているのは、まさにこの部分です。対称かどうかは、期待値の計算に直接効きます。
この引き算の性質を確かめる方法は、ひとつに絞られます。規則とデータを固定したまま、往復コストだけを動かして回すことです。
規則を変えてしまうと、結果の差が規則のせいなのかコストのせいなのか、切り分けができなくなります。だから動かす変数は1つに絞ります。これは実験の作法としては当たり前のことですが、手法の検証では意外と守られにくい部分です。
往復コストの置き方は、いくつかの場面に分けて並べます。たとえば、データに入っているスプレッドをそのまま当てる場面。固定のスプレッドを置く場面。滑りを厚めに置いた場面。それぞれで同じ規則を回し、手元に残る分がどこで消えるかを見ます。
この形にすると、結果の読み方がはっきりします。コストを小さく置いた場面で残り、大きく置いた場面で消えるなら、その手法はコストに強く依存する設計だということになります。どの場面でも残るなら、依存は弱いと言えます。どの場面でも消えるなら、偏りの大きさのほうに問題があります。
そして依存が強い設計だと分かった時点で、次にやることも決まります。規則をいじる作業より先に、自分の口座のコストを測る作業のほうが優先されます。
| 回した結果 | 読み方 | 次にやること |
|---|---|---|
| どの場面でも残る | コストへの依存は弱い | そのまま回せる範囲が広い |
| 小さいコストの場面だけ残る | コストに強く依存する | 口座の実効コストを先に測る |
| どの場面でも消える | 偏りの大きさのほうに問題がある | 場面の選び方から組み直す |
この引き算から、ひとつの実務的な道具が出てきます。往復コストの上限の線です。
観測された偏りの平均から、許容できる最小の残りを引けば、そこが往復コストの上限になります。この線を先に決めておくと、口座の測定結果がその内側か外側かで、回すかどうかの判断がそのまま出ます。
この順番で組むと、判断が測定の結果だけで決まります。その日の相場観が入り込む余地は、この流れの外に置かれます。
線の外側だった場合の扱いも、先に決めておくのが筋です。その口座では見送る、という結論もひとつの答えになります。測った結果として見送りが出ることは、測定が働いている証拠でもあります。
ここまでの話を、もう一段だけ進めます。この線は、口座を選ぶときの物差しとしても使えます。複数の口座を同じ手順で測り、実効ベースの往復コストを並べれば、どの口座なら線の内側に入るかが数字で出ます。
広告に出ているスプレッドの数字を横に並べる作業と、この作業は別物です。前者は提示の値、後者は実際に払った値を比べています。順序としては、広告で候補を絞り、測定で決める、という形になります。
そして測定には実費がかかります。最小の数量とはいえ、往復のたびにスプレッドと手数料を払います。だからこそ、測る前に線を引いておくことに意味があります。線が決まっていれば、必要な営業日数も先に見積もれます。
引き算が単純だということは、設計の自由度が小さいということでもあります。狙う場面が決まり、持ち時間が決まり、コストの線が決まれば、残る判断の余地はごくわずかです。
この形が合うのは、決めた手順をそのまま守るのが性に合う方です。逆に、相場を見ながら都度判断を足したい方には、窮屈に感じられる設計になります。どちらが良いという話の手前で、性格の相性がはっきり出る種類の設計だ、ということです。
もうひとつ。この設計は、対象になる場面が暦で決まるため、その時間帯に画面の前にいられるかどうかが、そのまま実行できるかどうかになります。ここは、測る前に自分で確かめておける条件です。