口座の質は、5つの数字で言い切れる ── スプレッド・手数料・滑り・拒否・遅延
測る数字 5つ 価格・手数料・滑り・拒否・遅延 | 測る場所 2つ デモ口座と、実口座 | 要る記録 1件ずつ 時刻・気配・約定価格 |
口座を比べるとき、最初に目に入るのは提示スプレッドです。ただし、注文を出した瞬間にその値で約定するかどうかは、別の話になります。
この記事は、実際に払った往復のコストを自分の口座で数えるための、測る対象と手順を整理します。国際的な整理では、この作業は取引コスト分析(TCA)と呼ばれます。
口座の質は、スプレッド・手数料・滑り・約定拒否・遅延の5つの数字で言い切れる。提示された値と、実際に払った値は別物であり、後者だけが期待値から引かれる。
口座の質として測れるものは、次の5つに整理できます。どれも、自分の口座で往復すれば記録が取れます。
| # | 測るもの | 取り方 | 何に効くか |
|---|---|---|---|
| 1 | スプレッド | 注文を送った時刻の、売り気配と買い気配の差 | 片道のコストの土台 |
| 2 | 手数料 | 約定ごとに引かれた額。往復で数える | 片道のコストに上乗せ |
| 3 | 滑り | 送信時の価格と約定価格の差。符号つきで残す | 平均だけでなく、左右の裾の形 |
| 4 | 約定拒否 | 拒否された回の時刻・数量・そのときの気配 | 実際に建てられた割合 |
| 5 | 遅延 | 送信から約定の通知が返るまでの時間 | 速い場面での不利の出方 |
このうち1と2は、取引を始める前から公表されている場合があります。残る3・4・5は、自分で往復してはじめて数字になります。そしてこの3つのほうが、口座ごとの差が大きく出ます。
国際的な行動規範は、取引コスト分析について踏み込んだ整理を置いています。グローバル外国為替委員会(GFXC)は2021年7月の改訂で、取引コスト分析、アルゴリズム取引、開示に関する指針を強め、流動性の出し手と電子取引プラットフォーム向けの「開示カバーシート」、アルゴリズムのデューデリジェンス用のテンプレート、取引コスト分析のデータテンプレートを新たに用意しました。
テンプレートが用意されたということは、比べるための形式が定まりつつあるということです。個人の口座でも、同じ考え方をそのまま小さくして使えます。
デモ口座は、約定の仕組みが実口座と別に組まれている場合があります。デモでの記録だけを根拠にすると、実際の口座の性格を取り違える余地が残ります。
だから測定は2段にします。まずデモ口座で、記録を取る仕組みそのものが正しく動くことを確かめる。そのうえで実口座に移り、最小の数量で実弾の往復を行う。このとき発生するスプレッドと手数料は、当然ながら実費です。
実口座で測る営業日数は、多いほど散らばりが落ち着きます。一方で、往復のたびに実費がかかります。ここは、確かめたい精度と、かける費用の釣り合いで決める話になります。
測定でいちばん起きやすい取りこぼしは、あとから条件を変えたくなることです。それを避けるため、測る前に記録の形を固定します。
| 列 | 中身 | 理由 |
|---|---|---|
| 時刻 | 送信した時刻(ミリ秒まで) | 遅延と、場面の切り分けに使う |
| 気配 | 送信時の売り気配と買い気配 | 提示スプレッドの根拠になる |
| 数量 | 発注した数量 | 数量別の約定率を見るため |
| 結果 | 約定・拒否・失効のいずれか | 拒否率の分母と分子を固定する |
| 約定価格 | 実際に成立した価格 | 滑りの符号と大きさを出す |
| 約定時刻 | 約定の通知が返った時刻 | 遅延を出す |
記録は、判断の前に取ります。先に結果を見てから測り方を変える形は、数字の意味を薄くします。
5つを別々に眺めている限り、口座の良し悪しは決め手を欠いたままになります。そこで、最後に1本の線へまとめます。実効ベースの往復コストです。
片道のスプレッドの半分を入りと出でそれぞれ数え、往復の手数料を足し、滑りの平均を符号つきで足す。この合計が、1回の売買で手元から出ていく分になります。ここに約定拒否の割合を掛け合わせれば、実際に建てられた回数あたりの負担まで出ます。
| 場面 | 提示ベースの往復 | 滑りの平均 | 実効ベースの往復 |
|---|---|---|---|
| 静かな時間帯 | 小さめ | 小さめ | 提示ベースに近い |
| 指標の発表の前後 | 広がる | 大きくなりやすい | 提示ベースから離れる |
| 週明けの寄り付き | 広がる | 大きくなりやすい | 提示ベースから離れる |
回そうとしている手法が、どの時間帯に建てるものなのか。その時間帯の実効ベースの往復コストこそが、その手法にとっての本当のコストになります。静かな時間帯の平均値だけで口座を選ぶ形は、ここで足をすくわれます。
逆に言えば、自分が建てる時間帯だけを測れば足ります。一日中の平均を出す手間は、ここでは省けます。
最後に、この線の使い道をひとつ。手法の期待値が1回あたり数銭の規模であれば、実効ベースの往復コストも同じ桁に並びます。その場合、手法を替えるより口座を替えたほうが、手元に残る分が大きく動く、という状況が起こります。
逆に、期待値が1回あたり数十銭を狙う設計であれば、往復コストの差が結果に占める割合は小さくなります。コストを測る優先度は、狙う値幅の大きさで決まります。自分がどちらの側にいるかを、先に決めておくと迷いが減ります。