ラストルック ── 注文を出したあと、相手が受けるか決める時間がある
原則の番号 17番 全55原則のうち | 窓の中の禁止 2つ 価格提示と、ヘッジ | 開示を求める項目 4つ 使用・対称性・窓長・扱い |
電子取引で注文を送ったあと、その場で約定する場合と、いったん保留になる場合があります。受け取った側が、最後にもう一度だけ、受けるか断るかを決める時間があるからです。ラストルックと呼ばれます。
この記事は、その仕組みを、各国中央銀行と市場参加者がつくるグローバル外国為替委員会(GFXC)の「FXグローバルコード」から読みます。日本の店頭FXの話に入る前に、国際的な整理がどこまで進んでいるかを押さえておきます。
電子取引には、注文を受けた側が最後に受諾か拒否かを決める時間がある。FXグローバルコードは、その窓の中で顧客の注文情報を使う取引を禁じ、窓の長さの開示まで求めている。
FXグローバルコードは、20の法域の中央銀行と市場参加者が共同でつくった行動規範です。法的な義務を課すものという位置づけの外にあり、各参加者が「コミットメント宣言」を出す形で守る、自主的で原則ベースの枠組みです。現行版は2024年12月版で、55の原則が置かれています。
第17原則の本文は、こう始まります。
コードは、この窓の中で行ってよいことを2つに絞っています。
| チェック | 目的(コードの整理) | 見ているもの |
|---|---|---|
| 有効性 | 取引要求に含まれる取引の内容が、事務の面で適切であること、および与信の枠が足りることを確かめる | 数量・通貨・決済日・与信 |
| 価格 | 取引要求が出された価格が、いま顧客に提示できる価格と整合していることを確かめる | 要求時の価格と、現在の価格の差 |
ここで効いてくるのが、価格チェックの対称性です。GFXCが2021年8月に公表した指針は、対称な価格チェックを「現在の価格の周りに同じ許容幅を置き、その幅が流動性の出し手に有利な側でも顧客に有利な側でも同じ扱いをするもの」と整理しています。
非対称な設定は、価格が出し手に有利な方向へ動いたときには約定が通り、出し手に不利な方向へ許容幅を超えて動いたときには拒否される、という傾向を生みます。同じ許容幅という言葉でも、片側だけに効かせれば、結果は片寄ります。
ラストルックをめぐる議論の中心は、窓の中で何をしてよいか、でした。2017年12月の改訂で、コードは次の一文を第17原則に加えています。
この禁止には、ひとつだけ例外の枠が置かれています。カバー・アンド・ディールと呼ばれる形です。成立には3つの条件が要ります。市場参加者が先に反対売買を行うことで市場リスクを取らずに顧客の注文を埋める、という明示の了解があること。その期間に取引した数量を、すべて顧客へ引き渡すこと。そしてこの了解が適切に文書化されていること。
2021年7月の3年ごとのレビューでは、第17原則そのものを書き換える代わりに、具体例が加えられました。窓の中で取引要求の情報を使った場合、その期間に取引した数量はすべて顧客へ渡す必要がある。5,000万ユーロの要求に対して4,500万ユーロだけ埋めて残りを拒否する形は、コードの求めるところから外れる、という例です。
窓の長さが実際に何ミリ秒か、拒否率が何パーセントか。この2つについて、業界全体の代表値を公表した一次資料は、探した範囲では未発見のままです。GFXCが求めているのは流動性の出し手による個別の開示であり、集計値の公表はその先の話です。
ある大手の公的年金運用機関は、自らの監視について、評価の期間は通常ミリ秒単位で測られること、取引相手ごとに拒否率が大きく異なったこと、対称な閾値の実装に応じられた相手が一部にとどまったことを、公表資料に書いています。相手ごとに違うという点だけは、一次資料の上で確かめられます。
つまりこの領域は、市場全体の平均を知ることよりも、自分が使っている口座の数字を自分で数えることのほうが、はるかに手が届きます。
窓の長さそのものは、外から見える範囲の外にあります。ただし、送信から約定の通知が返るまでの時間は、口座の側で1件ずつ測れます。その分布の形と、拒否が出た回の時刻をあわせて見れば、自分の注文がどういう扱いを受けているかの手がかりになります。
ここまでを一度まとめます。国際的な規範は、ラストルックそのものを認めたうえで、窓の中での情報の利用を禁じ、対称性と窓の長さの開示を求める、という形に落ち着いています。開示の求めがあるということは、開示を読みにいけるということでもあります。使っている口座の約款と取引説明書に、拒否と保留の扱いがどこまで書かれているか。それ自体が、ひとつの材料になります。