ピボットの節目は特別なのか ― 偽物の節目と比べてみた
EA開発をしているトノチと申します。私は今まで気になっていたけれど見過ごしてきた様々な手法をAIの力を借りて分析し、良いものはEAに取り入れ、私の分析では優位性を見出せないと判断したものはこのような形で発表させてもらってます。今回はその一本です。
題材はピボット。前日の高値・安値・終値だけで今日の節目(R1・S1・S2など)が決まる、計算のいらない支持線・抵抗線です。誰が引いても同じ線になるので、裁量でもEAでも使いやすい道具として知られています。
先に結論です。私の測り方では、ピボットの節目を売買の判断に使って優位性を出すことはできませんでした。そして今回の本題は、「偽物の節目」と比べたことで、効いていたものの正体が別にあると分かったことです。
さらにもうひとつ。この検証の途中で拾った副産物のほうが当たりでした。実際に使えることが分かったので、私のEA「トノチFX」に実装します(§6)。フィボナッチ、エリオット波動、ゴールデンクロス……と有名な手法を片っ端から測ってきましたが、EAの改良材料を見つけられたのは今回が初めてです。空振りに終わった検証でも、やった価値はあった、という話です。
1. ピボットの計算
前日の高値H・安値L・終値Cから、こう決まります。
``P = (H + L + C) ÷ 3 … 中心R1 = 2P − L S1 = 2P − HR2 = P + (H − L) S2 = P − (H − L)R3 = H + 2(P − L) S3 = L − 2(H − P)``
使い方は2つ。支持線で買い・抵抗線で売り(逆張り)か、抜けたら乗る(順張り)です。
▲図1:ドル円の1時間足。左半分が前日で、その日の高値H・安値L・終値Cに印が付いている。右半分が当日で、そのH・L・Cから計算したP(中心)とR1・R2・R3・S1・S2・S3の7本の水平線が引かれている。線は前日が終わった時点で全部決まっていて、当日は動かない。
2. 素直に試す ― 1,680通り
決済の置き方で結果が変わるので、決済も含めて総当たりしました。水準6本 × 使い方2つ × 損切り4通り × 利確5通り × 7通貨 = 1,680通りです。
| 使い方 | 黒字だった組み合わせ | うち3つの時代すべてで黒字 |
|---|---|---|
| 逆張り | 287 / 840(34.2%) | 110 |
| 順張り | 26 / 840(3.1%) | 1 |
1,680通りの平均は −2.77pips/回。水準ごとの平均は、逆張り・順張りとも6水準すべてマイナスでした(S1 −0.43/S2 −1.36/S3 −1.74/R1 −1.15/R2 −0.94/R3 −0.45=逆張りの場合)。
成績の良かった組み合わせには偏りがあり、いちばん外側のS3・R3に逆張りして、損切りを広く・利確を小さく置く形(勝率88%ほど)に集中していました。ただしこれは「大きく動いた後の揺り戻しを取る」形であって、ピボットの計算式のおかげとは限りません。
3. 検証条件
- 通貨:EURUSD・USDJPY・GBPUSD・USDCHF・AUDUSD・NZDUSD・USDCAD
- 期間:2000年〜2026年(26年)/時間足:15分足
- コスト:1回あたり1.2pips を差し引き
- 決済:損切りと利確のどちらに先に届いたかをヒゲの順序で判定。同じ足なら損切り優先(自分に不利な側)
- 先読みゼロ:今日の水準は前日が終わってから計算した値のみ
4. 偽物の節目と比べる
R1やS1が意味のある線なら、同じくらい離れた「意味のない線」より成績が良いはずです。そこで、各水準の「前日終値からの距離」を倍率kで伸び縮みさせた偽物を作り、同じ条件で比べました。k=1.0が本物のピボットです。
| k | 0.50 | 0.70 | 0.85 | 1.00(本物) | 1.20 | 1.50 | 2.00 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| pips/回 | +0.41 | +0.60 | +0.76 | +0.72 | +0.69 | +0.05 | +0.42 |
山は立ちませんでした。いちばん良かったのは本物ではなく0.85倍。水準ごとに見ても、6つのうち本物が最良だったのは1つだけでした。
▲図2:横軸が「前日終値からの距離を何倍にした線か」(0.50倍から2.00倍)、縦軸が1回あたりの平均pips。細い線が水準ごと、太い線が6水準の平均。平均の線は0.85倍で+0.76、本物の1.00倍で+0.72とほぼ横ばいで、本物のところに山は立っていない。
私の検証で言えるのは、「R1」「S1」という計算式が特別なのではなく、効いていたのは「前日の終値からどれだけ離れたか」という距離だけだったということです。以前フィボナッチを同じやり方で調べたときも、比率ではなく「戻りの深さ」だけが効いていました。比率でも水準でも、有名な数字そのものには意味を見つけられませんでした。
(この節の数字がプラスに見えるのは、②で成績の良かった決済の型に揃えて比べているためです。本物にも偽物にも同じ条件をかけているので比較としては成立しますが、絶対値は良いほうに寄っています。)
5. フィルターとしてなら使えるか
「Pの上なら買い目線、下なら売り目線」という使い方も試しました。入口と決済を固定して、通すサインだけを変えるやり方です(1時間足/RSI(14)が30を上抜けたら買い・70を下抜けたら売り/24本後に手仕舞い/フィルターなしは −0.49pips/回)。
結果、このフィルターは選別として働きませんでした。入口の性格で答えが最初から決まってしまうからです。
| 入口の型 | 「Pの上で買い・下で売り」の通過率 |
|---|---|
| 下げたところを買う型(RSI(14)が30を上抜けたら買い) | 0.6%(ほぼ全部落ちる) |
| 上昇中の押し目を買う型(RSI(14)が60を割ったら買い) | 94.0%(ほぼ全部通る) |
▲図3:ドル円の1時間足を2枚並べた図。左は上昇中の押し目を買う型で、買う場所は青いP(中心)の線の上にあり、94.0%が通過する。右は下げたところを買う型で、買う場所はPの線のはるか下にあり、0.6%しか通らない。Pは日ごとに変わるので階段状の線で描いてある。
「S1〜R1の外側だけ通す」も試すと −0.49 → +0.46pips/回と改善して見えましたが、時代を3つに分けると2つの時代でマイナス。私の規律では合格にできませんでした。
6. 空振りの副産物が、EAの改良材料になりました
ピボットを調べている途中で、ピボットとは別の切り口で、成績にはっきり差が出るものが1つだけ見つかりました。節目の計算式とは何の関係もない、たまたま横で測っていた条件です。
見つけた時点では「よくある偽物だろう」と思っていました。単体で良く見えた改良が、EAに組み込むと消えるという経験を何度もしているからです。なので、いつもの手順で確かめました。① 別の通貨・別の時代でも同じ向きに出るか ② 偶然そう見えているだけではないか ③ 最後に、EA本体に組み込んで、資金の落ち込み(最大ドローダウン)を同じ水準に揃えたうえで、入れた場合と入れない場合を比べる。
結果は私の基準ではっきり合格でした。実際に使えることが分かったので、トノチFXに実装します。
そして、私にとってはここがいちばん大きいところです。フィボナッチ、エリオット波動、ゴールデンクロス……と有名な手法を片っ端から測ってきたこのシリーズで、自分のEAの改良材料を発見できたのは今回が初めてです。 これまではどれも「私の検証では優位性を出せませんでした」で終わっていました。空振りを積み上げた先で、ようやく1つ拾えた形です。
中身は伏せます。 書き始めた時点では最後まで公開するつもりでしたが、採用する以上、これは商品の中身そのものになるからです。条件の定義も、どこに使ったかも、効果の大きさの数字も書きません。成績の数字は、公表用のバックテストを取り直したうえで改めてお知らせします。
伝えたいのは数字ではなく、空振りに終わった検証にも、やった価値はあったということです。ピボットが効かなかったという結果より、その過程で偶然拾ったもののほうが大きかった。私はこうやって、日々自分のEAを磨き続けています。
7. この検証の限界
- 試したのは無数にある使い方のひとつです(素直な売買サインと、目線の判定のみ)
- ピボットは「前日」の区切りで値が変わります。区切りを1時間ずらすと数字も少し動きます(結論が変わらないことは確認しています)
- 本来の「水準に指値を置く」ではなく、触れた足の終値で入ったものとして計算しています
8. まとめ
素直な売買サインとしては1,680通りのどこにも安定した優位性を見つけられず、偽物と比べても本物のピボットに山は立ちませんでした。「Pの上か下か」というフィルターは、入口の性格で答えが決まってしまい選別になりませんでした。
これは私の測り方での話です。ピボットで結果を出している方を否定するものではありません。ただ「有名だから正しい」を自分のデータで確かめずに使いたくない、というだけです。
今回の収穫は2つ。ひとつは、偽物と比べるという測り方が、フィボナッチのときと同じ答えを出したこと。有名な数字そのものではなく、その裏にある距離や深さが効いている。次に有名な水準の手法を見たら、私はまず偽物を作って比べます。
もうひとつは、その検証の途中で拾った副産物が、このシリーズで初めてトノチFXの改良材料になったこと。狙って当てたわけではなく、空振りを覚悟で総当たりを回したから横に転がっていたものに気づけただけです。だから私は、当たりそうにない手法もひととおり測ります。このように、日々自分のEAを磨き続けています。
検証条件:7通貨(EURUSD・USDJPY・GBPUSD・USDCHF・AUDUSD・NZDUSD・USDCAD)/2000年〜2026年/15分足(§5は1時間足)/売買コスト1回1.2pips/先読みゼロ。