エリオット波動は機械で数えられるのか ― 絶対ルール3つを試した記録
EA開発をしているトノチと申します。私は今まで気になっていたけれど見過ごしてきた様々な手法をAIの力を借りて分析し、良いものはEAに取り入れ、私の分析では優位性を見出せないと判断したものはこのような形で発表させてもらってます。今回はその一本です。
題材はエリオット波動。相場は「上昇5波(1-2-3-4-5)→ 修正3波(A-B-C)」の8つの波でひとまとまりになり、その各波の中にまた同じ形が入っている、という考え方です。1930年代のラルフ・エリオットが提唱しました。
この手法は昔から「数える人によって答えが変わる」と批判されてきました。後から見ればきれいに数えられるけれど、その場では人によって解釈が割れる、というやつです。それなら機械に数えさせたらどうなるのか。2000年から今年までのデータで試しました。
先に結論を書きます。私の測り方では、エリオット波動に予測の力があるという結果は出せませんでした。 ただし「エリオットは効かない」という話ではありません。私が試したのは無数にある使い方のうちのひとつだけで、波の取り方も数え方も決済も、私が決めた一通りしか試していません。
そのうえで、途中で分かったことのほうが面白かったので、そちらを中心に書きます。
1. まず、MT5に「エリオット」というインジケーターは入っていない
これは調べてみて初めて知りました。MT5(メタトレーダー5)に標準で入っているインジケーターの一覧を実際に確認すると、「エリオット」という名前のものは存在しません。入っているのはジグザグ(チャートの山と谷を自動で線でつないでくれるもの)とフラクタル(周りより高い/低い足に印をつけるもの)です。
そして、世の中のエリオット解説を読むと、波を描くのに使われているのはほぼこのジグザグです。つまり「エリオット波動を機械で扱う」というのは、実質ジグザグで山と谷を出して、そこに1・2・3・4・5と番号を振ることを指しています。
今回はこの前提で、山と谷の取り方を2通り用意しました。ひとつは値動きの荒さ(ATR)に応じて折り返し幅を決めるジグザグ、もうひとつはMT5に標準で入っているジグザグそのものです。同じ検証を両方でやって、答えが一致するかどうかも見ています。
2. 波そのものは、機械でも数えられた
前回のフィボナッチの回では、「どこを起点にするか」で線の位置が全部変わってしまうので、起点を一通りに固定してから測りました。今回はもっと手前の話です。そもそも波を数えられるのか、から見ています。
結論から言うと、数えるだけなら、意外と素直に機械化できました。
7通貨・15分足・26年分で数えると、1通貨あたり1万7千〜1万9千個の波が出ます。ひとつの波の大きさは中央値で53〜78pips、長さは24〜28本でした。
しかも、取り方を変えても山と谷の場所はだいたい一致します。折り返し幅を3倍に広げても、出てくる山の位置は元の山の位置と99〜100%重なりました(大きい波の頂点は、小さい波の頂点でもある、ということです。エリオットの「入れ子」という考え方とも整合します)。別方式のフラクタルとも94〜95%一致しました。
取り方を変えても同じ場所が出てくるなら、少なくとも「数える」という作業については、機械に任せても大きくは外れないということになります。ここは正直、意外でした。
なお、以下の検証はすべてその時点で確定していた山と谷だけを使っています(先の値段は見ません)。当たり前のことですが、ここを緩めると成績はいくらでも良くなってしまうので、先に書いておきます。
3. 数え方が1つに決まるのは3割 ― でも「押し目です」はいつでも言える
次に、エリオットで客観的だと言われている3つのルールを使いました。ここだけは人によってブレない、と一般に言われている部分です。
- 波2は、波1の始まった値段を下回らない
- 波3は、波1・波3・波5のなかで最も短くならない
- 波4は、波1が動いた値段の範囲に入らない
やり方は、「正しく数える」のではなく「その時点で成り立つ数え方を機械的に全部並べて、ルールに反するものを捨てる」という方針にしました。数え方が1つに絞れたときだけ判断する、という考え方です。裁量を避けるにはこれしかないと思いました。
12万5千局面で試した結果です。
- 数え方が1つに絞れた:29%
- 意見が割れた(2通り以上残った):71%
- どう数えてもルール違反になる:0.0%
最後の行が重要です。エリオットは、どんな値動きに対しても必ず何かしらの説明をつけられます。「説明できない値動き」が一つも無い、というのは、裏を返せば外れることがない=間違いを証明できないということでもあります。
そして、機械化して初めてはっきり見えたことがあります。「今の下落は、直前の上昇(波1)に対する波2の押しです」という説明は、いつでも成立してしまうのです。ジグザグの定義上、直近の一波は必ず「波1」の形をしているからです。だから「押し目だ」という解釈は原理的に消せません。実際、「これは押し目ではなく本流の動きだ」と言い切れる場面は、この条件だと一度も作れませんでした。
そこで、実務家が言う「波の階層」(小さな波を波1とは呼ばない。大きな転換点から数え始める)を機械に入れてみました。すると今度は逆のことが起きます。
- 数え方が出せた局面:14.4%
- どう数えてもルール違反=説明不能:85.2%
絞り込みと説明力は交換関係にある、ということです。ゆるくすればいつでも説明できるが決められない。厳しくすれば決められるが、ほとんどの場面で何も言えない。
4. 核心 ― 絶対ルールの「境目」で、何かが変わっているのか
ここが今回いちばん見たかったところです。
3つのルールが本物なら、ルールを満たす形と破る形の境目で、その後の値動きが不連続に変わるはずです。たとえばルール1(波2は波1の始点を下回らない)なら、戻りが100%を超えた瞬間に「これはもう推進波ではない」と性質が切り替わるはずです。
そこで、戻りの深さを細かく区切って、境界をまたいだところで成績に急激な変化があるかを見ました。階段のように、境目でガクッと切り替わるなら、その線引きに意味がある。坂道のように、境目でも変わらずなだらかに続くなら、効いているのは「戻りの深さ」という連続した性質であって、ルールの線引きではない、ということです。
結果です(15分足・13銘柄・値動きの荒さで正規化した平均)。
| 波2の戻り率 | その後の値動き |
|---|---|
| 60〜80% | +0.049 |
| 80〜90% | +0.058 |
| 90〜100%(ルールを満たす側の端) | +0.023 |
| 100〜110%(ルール違反) | −0.011 |
| 110〜130% | −0.003 |
急激な変化はありません。境目の手前からすでに下がってきていて、100%をまたいでも坂道のまま続いています。山は60〜90%のところにあって、これは「押しが深いほど有利」という、エリオットとは関係のない性質です(前回のフィボナッチ検証で見つけたものと同じものです)。
ルール3(波4は波1の範囲に入らない)はもっとはっきりしていました。
| 波4と波1の重なり | その後の値動き |
|---|---|
| 重ならない(ルールを満たす) | −0.086 〜 −0.229 |
| 少し重なる(ルール違反) | −0.082 |
| よく重なる(違反の度合いが大きい) | +0.012 〜 +0.021 |
逆でした。 ルールに反する形のほうが、その後の値動きは良かったのです。しかもこれもなだらかに変化していて、境目での急激な変化はありませんでした。
▲図1:絶対ルールの境目で、成績に急激な変化があるかを見た図。①波2の戻り率は100%をまたいでもなだらかに下がり続け、③波4の重なりはルール違反の側のほうが良かった。15分足・13銘柄・値動きの荒さで正規化した平均。
ルール2(波3は最短にならない/エクステンションで1.618倍)も同様で、成績の山は「波3が波1の1.0〜1.3倍」のところにあり、有名な1.618倍はむしろ谷でした。
5. 「波3がいちばん大きい」は、順序だけ当たっている
エリオットでいちばん有名な主張は「波3が最も長くなりやすい」です。これは数え方が1つに絞れた局面だけを集めて確かめられます。
波の大きさ(値動きの荒さに対する比):
- 第3波:8.16
- 第2波:8.01
- 修正A波:7.93
- 第4波:7.87
- 第5波:7.75
順序は理論どおりでした。 第3波がいちばん大きく、押し(第2波・第4波)や第5波は小さい。ここは素直に感心しました。
ただしいちばん大きい第3波と、いちばん小さい第5波の差は5%です。取引にかかる費用(スプレッド)のほうがはるかに大きいので、当たってはいるが、私の測り方では取引に使えるほどの差ではなかった、という結論になります。「傾向としては正しいが、賭けの根拠にするには小さすぎる」という言い方が正確だと思います。
6. いちばん困ったこと ― 数え方を変えると答えが入れ替わる
ここまでは「効かなかった」という話ですが、途中で一度、効いているように見える結果が出ました。特定の折り返し幅で数えたときだけ、成績がはっきり良くなったのです。統計的にも「偶然ではまず起きない」水準でした。
そこで前回の記事でやったのと同じ手を使いました。件数を変えて、同じ効果が残るかを見るやり方です。
| 条件 | 件数 | 効果の大きさ |
|---|---|---|
| 15分足・細かい波 | 44,094件 | +0.25 pips |
| 15分足・標準 | 11,095件 | +0.67 pips |
| 1時間足 | 2,834件 | +2.69 pips |
| 4時間足 | 681件 | +7.56 pips |
| 4時間足・粗い波 | 169件 | +39.65 pips |
▲図2:件数と効果の大きさの関係。件数が260分の1になると、効果は160倍に見えた。本物の効果なら、件数が増えるほどはっきり見えるはず。
さらに決定的だったのは、波の取り方を変えると、通貨ごとの当たり外れが入れ替わったことです。値動きの荒さ基準のジグザグと、MT5標準のジグザグで、同じ検証をそれぞれやりました。どちらも「良くなる通貨」と「悪くなる通貨」が出るのですが、その顔ぶれが入れ替わってしまう。折り返し幅を一段変えるだけでも同じことが起きました。
どの取り方が正しいという根拠はどこにもありません。取り方を一段変えるだけで顔ぶれが入れ替わるなら、その「効いて見えた成績」のほうに実体はないと判断しました。
7. この検証の限界(正直に)
- 私が試したのは一通りの数え方だけです。裁量でカウントする方には別のやり方があり、それを否定するデータは私は持っていません。機械で再現できなかった部分は、あくまで私の道具の限界です。
- 使ったのは15分足・1時間足・4時間足の為替中心(一部で金と原油)。エリオットが本来語られるのは株価指数や、もっと長い時間軸です。
- 波の階層(degree)の扱いは、大きい波と小さい波の2段階に単純化しました。本来の理論はもっと多層です。
- 決済は「次の波が確定したら手仕舞う」など単純な形に固定しています。実際の売買ではもっと工夫の余地があります。
そのうえで、3つの絶対ルールの境目に急激な変化が見つからなかったことと、取り方しだいで結論が入れ替わったことは、条件を変えても繰り返し出てきました。ここは私の中では固い結果だと思っています。
8. まとめ
- MT5に「エリオット」というインジケーターは無く、実際に使われているのはジグザグ
- 波を数えること自体は機械にもできた(取り方を変えても山と谷の場所は99〜100%一致)
- 数え方が1つに絞れるのは3割。一方で「押し目です」という説明はいつでも成立してしまう
- 3つの絶対ルールの境目に、成績の急激な変化は無かった(ルール3はむしろ逆向きだった)
- 「波3がいちばん大きい」は順序は当たるが、差は5%
- 効いて見えた条件は、件数が少ないほど効果が大きいという偽物の形をしていた
私はこの検証をしたうえで、エリオット波動を自分のEAには入れないことにしました。ただし繰り返しになりますが、これは私の測り方でそうなったという記録です。同じ道具でも、測り方が違えば別の結果が出るかもしれません。
EAを1本も本採用せずに済んだ、という意味では、作る前に止められた検証でした。個人的には、こういう回のほうが得るものが多いと思っています。