リスクオフでも円が買われない理由|トレンドフォローEAが勝ちにくい相場へ
「株価が暴落すれば、リスク回避で円が買われる」
FXを長く続けている人ほど、相場の常識として覚えていると思います。
以前は、世界の株式市場が大きく下落すると、ドル円やクロス円も下落することが少なくありませんでした。
低金利の円を借りて海外資産へ投資していた資金が引き揚げられ、円キャリートレードの巻き戻しが起こったからです。
ところが、2026年7月17日の相場では、この常識がほとんど通用しませんでした。
日経平均株価は前日比4.03%安となり、一時は6%を超えて下落しました。
半導体株の世界的な売りや中東情勢の緊迫化によって、明らかなリスクオフ相場になっていたにもかかわらず、ドル円は162円台でほぼ横ばいでした。
「株価が下がれば円が買われる」という、円キャリートレードを前提にした単純な相場構造は終わりつつあります。
為替市場は今、株価やVIXだけではなく、政策金利、国債利回り、財政政策、原油価格、為替介入といった複数の材料で動くようになっています。
そして、この変化はドル円を取引する裁量トレーダーだけでなく、MT4・MT5のトレンドフォローEAにも大きな影響を与えています。
この記事では、EA・インジケーターを6年間開発し、200本以上の開発に携わってきた経験をもとに、円キャリートレードの何が変わったのか、そして今後のEA自動売買では何を見直す必要があるのかを解説します。
2026年7月17日、株価は急落したのに円は買われなかった
2026年7月17日、日本の株式市場は大きく下落しました。
日経平均株価は前日比4.03%安の64,141.12円で取引を終え、一時は6.18%安まで下げました。6月25日に付けた最高値からの下落率は11%を超え、調整局面に入ったと報じられています。
下落の中心になったのは半導体関連株です。
米国でも半導体株が売られ、中東情勢の緊迫化や原油価格の上昇も重なりました。つまり、投資家が積極的にリスクを取る「リスクオン」ではなく、リスク資産から資金を引き揚げる「リスクオフ」の相場です。
数年前までの感覚なら、このような日は円が買われても不思議ではありません。
ところが、ドル円は162円台でほとんど動きませんでした。ユーロ円やポンド円も、急激な円高は発生していません。
従来の「株安=円高」という関係が、かなり弱くなっていることを示しているからです。
そもそも円キャリートレードとは何か
円キャリートレードとは、金利の低い円を調達し、その資金を金利の高い通貨や海外資産へ投資する取引です。
例えば、低金利の円を借りて米ドルに交換し、米国債を買います。
日本の金利より米国の金利が高ければ、その金利差が利益になります。さらに円安が進めば、ドルを円へ戻すときの為替差益も得られます。
円安と海外資産の上昇が続く間は、非常に相性のよい取引です。
ただし、相場の不安が高まったりすると状況が変わります。
投資家は海外資産を売り、借りていた円を返済するために円を買い戻します。この動きが「円キャリートレードの巻き戻し」です。
以前は、次のような流れがよく見られました。
株価が下落する。
投資家が海外資産を売却する。
借りていた円を買い戻す。
円高が進み、ドル円やクロス円が下落する。
これが、「リスクオフになれば円が買われる」といわれてきた理由です。
円は単純に安全な通貨だから買われていたのではありません。世界的に低金利だったため、投資の資金調達に使われ、その取引が解消されるときに買い戻されていた面が大きいのです。
円キャリートレードは本当に終わったのか?
結論から言えば、円キャリートレードそのものは終わっていません。
日本の金利が海外より低く、円相場が安定している限り、円を借りて高金利通貨や海外資産へ投資する取引には依然としてメリットがあります。
実際、2024年8月には大規模な円キャリートレードの巻き戻しが発生しました。
日銀の政策変更や米国の景気減速懸念、ボラティリティの急上昇が重なり、円が急騰しました。
つまり、円キャリー取引は現在も存在し、条件がそろえば一気に巻き戻されます。
では、何が終わったのでしょうか。
終わりつつあるのは、株価が下落しただけで、自動的に円キャリートレードの巻き戻しが起こるという単純な関係です。
以前は、株価と円相場の連動性が比較的分かりやすい時期がありました。
しかし現在は、株価が下落しても米ドルも買われます。
そのため、「株価が暴落したからクロス円を売ればよい」という単純なトレードは成立しにくくなっています。
株価が下落しても円が買われない理由
リスクオフでは円よりドルが買われることがある
今回の相場で大きかったのは、安全資産としてのドル買いです。
中東情勢が緊迫すると、世界の投資家は米ドルや米国債を求めます。
米ドルは世界の決済や資金調達の中心にあるため、市場が不安定になったときに買われやすい通貨です。
リスクオフで円が多少買われていても、同じようにドルも買われれば、ドル円は下がりません。
円とドルが同時に買われた結果、ドル円だけを見ると無風に見えたのです。
為替は株価より金利差を重視するようになった
現在のドル円を動かしている大きな要因は、株価よりも金利です。
米国の政策金利が今後どうなるのか、日銀が追加利上げをするのか、米国債と日本国債の利回り差が縮小するのかという点です。
このような相場では、株価が下落しているからドル円も下落する、という関係は成立しません。
円そのものが買いにくい通貨になっている
リスクオフになれば、無条件に円が買われるわけではありません。
現在の円には、日本固有の売り材料もあります。
日本と海外の金利差、海外資産への継続的な投資、エネルギー輸入による円売り、財政政策への懸念などです。
円を買う材料と売る材料が同時に存在するため、金融パニックが起きたからといって、円高へ動くとは限りません。
円の安全資産性は固定的なものではなく、市場環境によって変化するとされています。
VIX指数とは一般には「恐怖指数」と呼ばれ、VIXが上昇すると投資家がリスクを避けていると判断されます。
以前は、VIX上昇、株価下落、円高、クロス円下落という流れが比較的分かりやすく見られました。
しかし、VIXと円相場の相関は一定ではありません。
VIXはあくまで米国株オプション市場が予想する変動率です。
したがって、VIXだけを見てドル円やクロス円を売買するのは危険です。
今の為替相場では、VIXはリスク心理を確認する補助材料にすぎません。
ドル円の方向を考えるなら、米国債利回り、日米の金融政策、ドルインデックス、投機筋のポジションなども同時に見る必要があります。
ドル円は「じわじわ上がり、突然落ちる」相場になった
現在のドル円には、円安を進める力と円高へ戻す力が同時に働いています。
日米金利差や海外投資は円安要因です。
一方で、日銀の追加利上げ観測や米国の利下げ観測、政府による為替介入は円高要因になります。
通常時は金利差を背景に、ドル円がじわじわ上昇します。
しかし、円安が一定以上進むと、政府の為替介入が意識されます。金融政策の見通しが変わった場合も、円売りポジションが一斉に解消されます。
その結果、上昇には何日もかかるのに、下落は数分から数時間で起こるという非対称な相場になります。
2026年には、日本政府が4月28日から5月27日までの期間に、総額11兆7,349億円の為替介入を行いました。財務省の月次資料では、この期間に巨額の円買い介入が行われたことが確認できます。
このような介入が入ると、それまで続いていたトレンドは一瞬で粉砕されます。
移動平均線が上向いていても、直近高値を更新していても、通常のテクニカル分析では想定できない規模の売り注文が入ります。
つまり、ドル円は長期的には円安方向へ進んでいても、安心して買いポジションを持ち続けられる相場ではありません。
この相場構造の変化は、MT4・MT5のトレンドフォローEAにとって厳しい環境です。
トレンドフォローEAは、一定方向へ続く値動きを捕まえることで利益を出します。
特にスイング型の場合、ポジションを数日間保有し、細かな上下には耐えながら大きなトレンドを狙います。
過去のドル円では、株価上昇と円安、株価下落と円高がある程度連動していたため、相場の方向が比較的長く続く場面がありました。
しかし現在は、株価が下落しても円が買われません。
かといって、金利差だけを理由にドル円を買い続ければ、突然の介入や金融政策の変化に巻き込まれます。
つまり、上昇トレンドに乗ったつもりでも、最後に急落する可能性があります。
トレンドフォローEAにとって最も厳しいのは、値動きがないことではありません。
トレンドが発生したように見えて、すぐに消えることです。
ブレイクアウトした直後に価格が戻される。移動平均線が上向いたところで高値を付ける。数日かけて積み上げた含み益が、介入や要人発言で一気に消える。
このような相場が増えると、順張りEAの損切りが続きます。
EAのバックテストには、その時代の相場環境が含まれています。
例えば、過去のデータでは、株価が上昇すると円が売られ、株価が下落すると円が買われる傾向が強かったかもしれません。
こうした相場環境に最適化されたトレンドフォローEAは、結果として過去の円キャリートレード構造に適応している可能性があります。
ところが現在は、株価が下がっても円が買われず、ドル円はレンジを続ける。
長い円安トレンドの途中で、突然大規模な介入が入る。
こうした相場では、過去20年間で優秀だったパラメーターが、そのまま機能するとは限りません。
実際に私自身、200本以上のEA・インジケーターを開発してきましたが、長期バックテストがきれいな右肩上がりでも、直近相場ではエントリーと損切りを繰り返すケースを見てきました。
これは、EAが壊れたとは限りません。
EAが前提としていた相場の動き方が変わった可能性があります。
だからといって、直近数か月だけに合わせて細かく最適化すればよいわけでもありません。
短期間の値動きに合わせすぎると、カーブフィッティングになり、未来の相場では通用しなくなるからです。
重要なのは、長期でロジックの基本的な優位性を確認しながら、直近2~3年でも機能しているかを別に見ることです。
全期間では利益でも、直近2年間で負け続けているなら、現在の相場構造に合っていない可能性があります。
また、利益の大半を数回の大きなトレンドで作っているEAにも注意が必要です。
過去と同じ規模のトレンドが今後も発生するとは限らないからです。
今のドル円EAに必要なのは予測より適応
これからのEA自動売買では、未来を完璧に予測することより、相場環境が変わったときに損失を抑えられる設計が重要になります。
一つのEAを24時間ずっと動かすのではなく、そのEAが得意な時間帯と苦手な時間帯を把握しておく必要があります。
トレンドフォローEAなら、方向感が出にくい時間帯を避ける。介入への警戒が高まっている局面では、ポジションを小さくする。
この程度でも、想定外の急変動に巻き込まれるリスクは変わります。
今のドル円相場で必要なのは、相場を当て続けるEAではありません。
外れたときに大きく負けないEAです。
EA自動売買は24時間放置するものではない
現在のEA自動売買は、一度設定したら24時間ずっと放置してよいものではありません。
特にドル円では、米国雇用統計、CPI、FOMC、FRB議長の発言、日銀金融政策決定会合などによって、短時間で値動きが変わります。
通常時には機能していたトレンドフォローEAでも、重要指標の発表によって上昇と下落が短時間で入れ替わると、損切りにかかりやすくなります。
為替介入についても同じです。
トレンドが続いているからといって、いつまでも同じ方向にポジションを持ち続けられるわけではありません。
特にドル円が歴史的な円安水準にある場合、通常のテクニカル分析より、政府の発言や介入への警戒を優先したほうがよい局面があります。
EAはエントリーを自動化する道具です。
相場環境の判断や、稼働を続けるか停止するかまで、すべてをEA任せにする必要はありません。
実際に運用するなら、重要指標を避ける、ロットを抑える、一定の損失に達したら止めるといった管理が必要です。
EA自動売買は完全放置ではありません。
相場構造の変化を確認し、検証期間や運用条件を更新する。
それが、円キャリートレードの常識が崩れた新しいドル円相場で、EA自動売買を続けるために必要な考え方です。
著者情報
監修・執筆:まさやん
MT4・MT5のEA、インジケーター開発者。元Webエンジニア・プログラマー。
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Grid Rushシリーズ
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MT5用サインインジケーター
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