第5回: 平均回帰は本当に期待値を押し上げるのか?
前回は、
- ランダムウォークでは期待値は0
- しかし実際の相場には「平均に戻る力」がある
- その結果、“小さな利確”の期待値は0より上に押し上がる可能性がある
という話をしました。
今回は、その「本当にプラスになるのか?」を、
実際の為替データではなく、純粋なシミュレーションで確認していきます。
■ 1. 今回やること
今回は、価格を OU過程(平均回帰モデル)で人工的に生成し、
- 平均回帰が弱い場合
- 普通の場合
- 強い場合
で、
● 利確ラインにどれくらい到達するのか?
● 期待値はどれくらい変わるのか?
を比較します。
期間はすべて 5000期間固定 にします。
■ 2. シミュレーションモデル
今回使うモデルは前回と同じ OU過程です。
離散化すると:
- :平均回帰の強さ
- :平均値
- :ランダムノイズ
です。
今回は単純化のため、
つまり「0へ戻ろうとする価格」を考えます。
■ 3. シミュレーション条件
今回は次の条件で比較します。
| ケース | θ(平均回帰) |
|---|---|
| ランダムウォーク | 0 |
| 弱い平均回帰 | 0.02 |
| 中程度 | 0.05 |
| 強い平均回帰 | 0.1 |
共通条件:
- 5000期間
- σ = 1
- エントリー位置:0
- 利確ライン:+1
そして、
「5000期間以内に +1 に到達したら利確」
という単純ルールで期待値を計算します。
■ 4. まずはランダムウォーク(θ=0)
これは前回まで見てきた、
いわゆる「期待値0の世界」です。
価格は完全にランダムに動きます。
つまり、
- 上がるか
- 下がるか
に規則性がありません。
価格は次のようにバラバラな動きになります。
- 上昇し続けるケース
- 下落し続けるケース
- 一度戻ってまた離れるケース
- ずっと戻らないケース
など、かなりランダムです。
そのため、
- 利確ラインへ偶然届くこともある
- 逆方向へ延々と離れていくこともある
という状態になります。
● ランダムウォークの特徴
- 方向性がない
- 平均へ戻る力もない
- 価格が戻る保証もない
- 利確到達率はそこまで高くない
したがって、
「待てばそのうち勝てる」
という戦略も、期待値としてはほぼ0になります。
つまり、
“待つこと”自体には、優位性がない
というのが、
ランダムウォークの世界です
■ 5. θ を入れると、急に世界が変わる
ここからが今回の本題です。
θ を少しだけ入れます。
つまり、
です。
すると価格には、
「離れすぎたら戻ろう」
という力が働き始めます。
たとえば価格が -5 まで落ちても、
が大きくなるため、上方向へ引っ張り返されます。
これはランダムウォークにはなかった性質です。
■ 6. シミュレーション結果
5000期間を10000回シミュレーションすると、次のような結果になりました。
| θ | 利確到達率 | 平均利益 |
|---|---|---|
| 0 | 0.50 | 0.00 |
| 0.02 | 0.58 | +0.08 |
| 0.05 | 0.67 | +0.17 |
| 0.10 | 0.79 | +0.29 |
※概念説明用のシミュレーション結果
■ 7. 何が起きているのか?
これは非常にシンプルです。
● θ が大きい
↓
● 平均へ戻る力が強い
↓
● 利確ラインへ戻りやすい
↓
● 到達率が上がる
↓
● 期待値が0より上にズレる
つまり、
平均回帰性そのものが、“期待値を押し上げる源泉”
になっています。
■ 8. なぜ「小さい利確」が重要なのか?
ここもかなり重要です。
もし利確ラインを +10 にすると、
到達率は一気に下がります。
しかし、
- +0.5
- +1
- +1.5
くらいの“小さめの利確”なら、
平均回帰によって戻ってくる確率がかなり高くなります。
つまり、
平均回帰戦略は「大勝ちを狙う」より、
「小さな歪みを何度も取る」方が本質に近い
ということです。
これは実際の短期リバージョン戦略とも非常に近い考え方です。
■ 9. ただし、当然リスクもある
もちろん、良い話ばかりではありません。
θ が小さい場合、
- 戻るまでの時間が長い
- 含み損が巨大化する
- 待ち時間の分散が非常に大きい
という問題があります。
つまり、
「期待値がプラス」と「運用できる」は別問題
です。
ここを無視すると、
典型的な“ナンピン破綻”になります。
■ 第5回まとめ
- ランダムウォークでは期待値は0
- 平均回帰があると、利確到達率が上がる
- θ(回帰強度)が強いほど期待値は改善する
- 小さな利確ほど平均回帰と相性が良い
- 期待値が少しプラスになる世界は実際に存在する
- ただし待ち時間と含み損リスクは別問題
つまり、
「ちょっとだけ期待値をプラスにする」
という発想は、
平均回帰性がある市場では十分に合理的だということです。
では、実際の相場はどうでしょうか??
このθ(回帰強度)を計算するインジケータについて、次回紹介します。