月5万円の配当を得るまでに必要な「本当の元手」を計算してみた
月5万円の配当を得るまでに必要な「本当の元手」を計算してみた
月に5万円、配当だけで受け取れたら、どれだけ生活が楽になるだろうと考えたことがある人は少なくないはずです。毎月の固定費の一部をカバーできる、旅行の資金に充てられる、あるいはそのままNISAに再投資して資産をさらに育てられる。5万円という金額は、決して夢物語ではなく、多くの人が「現実的な第一目標」として思い描く数字です。
ところが、実際にその計算をしてみると、多くの人は思わず黙り込んでしまいます。想像していたよりもはるかに大きな元手が必要だという現実に直面するからです。そしてさらに問題なのは、その「元手」の計算自体が間違っていることが多いという点です。表面的な数字だけを見て計算すると、後から税金や手数料、インフレや配当の不安定さというリアルに叩きのめされることになります。
この記事では、月5万円の配当を本当に手に入れるために必要な元手を、できるだけ正直に、できるだけ詳しく計算していきます。証券会社のパンフレットや投資系YouTubeではあまり語られない、現実のコストや落とし穴も含めて、丁寧に解説していくつもりです。
「配当利回り4パーセントの株を買えばいい」という話を聞いたことがあるかもしれません。計算は単純です。年間60万円の配当を受け取るためには、配当利回り4パーセントであれば1500万円の元手が必要、という計算になります。月5万円、年60万円。利回り4パーセント。だから元手は1500万円。この計算式を見て、「なるほど、1500万円か」と思った人は、実は大きな落とし穴にまだ気づいていません。
まず最初に直面するのが、税金の問題です。日本では、配当所得には20.315パーセントの税金がかかります。これは所得税と住民税を合算した数字で、特定口座の源泉徴収ありを選んでいる場合には、配当が振り込まれる時点ですでに引かれています。ということは、手取りで月5万円、年60万円を受け取るためには、税引き前で75万4千円程度の配当が必要になります。
ここで計算が変わってきます。年間75万4千円の配当を、利回り4パーセントの株で得ようとすると、必要な元手は約1885万円になります。最初の計算から385万円も増えました。この差額は小さくありません。庶民の感覚では、385万円は数年分の貯蓄に相当する金額です。「1500万円あれば月5万円もらえる」という情報は、税引き後を考慮していない、非常に不完全な情報だということになります。
では、NISAを使えばいいじゃないかという声が聞こえてきそうです。確かに、新NISAの成長投資枠を使えば、配当に対する税金はゼロになります。これは非常に大きなメリットで、長期投資においては無視できない差を生みます。ただし、新NISAには生涯投資枠1800万円という上限があります。成長投資枠の上限は1200万円です。
NISA枠をフル活用して1200万円分の高配当株に投資した場合、利回り4パーセントなら年間48万円、月4万円の配当を非課税で受け取れます。月5万円には少し届かない計算です。ここで不足分をカバーするために、NISA枠を超えた部分を特定口座で運用するという選択をする人も多いのですが、そうなると税金の計算が再び複雑になります。
NISAの枠を最大限活用した上で、残りの特定口座分も合算すると、手取り月5万円を達成するには元手の合計が1700万円から2000万円の範囲になることがほとんどです。これが現実的な数字です。
次に考えなければならないのが、配当利回りというものの不安定さです。4パーセントという数字を前提に計算してきましたが、この利回りは固定ではありません。株価が上がれば利回りは下がります。逆に株価が下がれば利回りは上がって見えますが、それは株の価値が減っていることを意味します。
また、企業の業績が悪化すれば配当は減配されます。2020年のコロナショックのとき、多くの企業が減配や無配に踏み切りました。歴史的に高配当として知られていた企業ですら、例外ではありませんでした。配当収入を生活費の一部に組み込んでいた投資家にとって、これは致命的な打撃となります。月5万円の配当を当てにして計画を立てていたのに、突然3万円に減った、あるいは2万円になった、という事態は十分に起こりえます。
だからこそ、複数の銘柄や業種に分散して投資することが大切になります。一社の減配が全体の収入に与える影響を小さくするためです。しかし分散すればするほど、投資先の管理は複雑になり、最低投資額の問題も出てきます。100株単位での購入が必要な銘柄も多く、少額から分散させていくには、相応の元手と時間が必要になります。
ここで、元手の積み上げ方についても現実的に考えてみましょう。1700万円から2000万円を一気に用意できる人は、日本全体でも少数派です。多くの人は毎月コツコツ積み立てながら、時間をかけてその水準に近づいていきます。では、月いくら積み立てれば、何年後に目標に届くのかを考えてみます。
毎月5万円を積み立て、年率3パーセントで運用できたとすると、20年後の資産は約1640万円です。これはほぼ目標に近い水準ですが、20年という時間は非常に長いです。もし月8万円積み立てられれば、15年で約1740万円に達します。月10万円なら13年程度で2000万円に届く計算になります。
ただしここにも現実があります。20代や30代の前半で月5万円から10万円を投資に回せる人は、それほど多くありません。住宅費、食費、保険料、教育費、交際費と、社会人になってからの支出は想像以上に多岐にわたります。手取り30万円の人が毎月10万円を投資に充てるのは、かなり生活を切り詰めた状態でないと難しい水準です。
だからこそ、配当投資と並行して、投資信託や指数連動型ETFへの積立も組み合わせる戦略を多くの専門家は勧めます。高配当株だけに集中するのではなく、S&P500や全世界株式のインデックスファンドを軸に資産を増やしながら、ある程度まとまった元手が形成された段階で高配当株へのシフトを進めるという順序です。
この戦略の最大のメリットは、資産形成期の効率が高いことです。高配当株は配当を出す分、株価の成長が相対的に抑えられる傾向があります。一方で、成長株やインデックスファンドは配当こそ少ないものの、複利の力で資産を大きく育てやすい性質があります。若いうちは成長重視、資産がある程度育ったら配当重視にシフトするというのは、長期投資の王道とも言える考え方です。
次に、見落とされがちなコストの話をします。投資にはさまざまなコストが伴います。株式の売買にかかる手数料は、近年は多くの証券会社で無料化が進んでいますが、外国株や一部のETFではまだ手数料がかかるケースがあります。また、投資信託には信託報酬という年間コストがあります。インデックスファンドであれば年0.1パーセント以下のものも多いですが、アクティブファンドになると年1パーセントを超えることも珍しくありません。
1500万円の資産に対して年1パーセントの信託報酬がかかるということは、毎年15万円がコストとして消えていくことを意味します。月1万2500円です。配当で月5万円を目指しながら、毎月1万2500円のコストを払い続けるというのは、目標達成の効率を著しく下げる要因になります。コストの低い商品を選ぶことは、配当戦略において利回りの選定と同じくらい重要な判断です。
さらに、インフレという問題があります。今の月5万円と、10年後の月5万円は、同じ価値ではありません。年率2パーセントのインフレが続いたとすると、10年後に同じ購買力を維持するためには、月6万円の配当が必要になります。20年後であれば約7万4千円です。つまり、今月5万円の配当を受け取る仕組みを作っても、時間が経つにつれてその実質的な価値は目減りしていくことになります。
これはどの投資においても共通の問題ですが、特に配当投資においては意識する必要があります。なぜなら配当額は自動的にはインフレに追随しないからです。企業が毎年配当を増やし続けてくれれば話は別ですが、業績次第で増配もあれば減配もあるのが現実です。インフレに対抗するために、配当成長率が高い銘柄を選ぶという戦略も存在しますが、そうした銘柄は現在の配当利回りが低い傾向にあり、今すぐ高い配当を受け取りたい人には向きません。
ここで少し、具体的な銘柄イメージについて触れてみます。日本の高配当株として挙げられることが多いのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、NTT、東京海上ホールディングス、JT、三井住友フィナンシャルグループ、INPEX、三菱商事といった企業群です。これらはいずれも配当利回りが安定して高く、日本の高配当投資家の間では定番銘柄として認識されています。
ただし、JTは健康意識の高まりによるたばこ需要減少リスクを抱えており、INPEXは原油価格の変動に業績が大きく左右されます。銀行株は金利環境の変化で大きく動きますし、商社は資源価格の動向に依存する面があります。高配当である理由の裏に、それぞれのリスクが存在しています。利回りの高さだけを見て飛びつくと、後から気づいて後悔するという典型的なパターンを繰り返すことになります。
外国株に目を向けると、米国の高配当ETFとして有名なのはVYMやHDV、SPYDといったものです。分散が効いており、個別銘柄のリスクを抑えながら配当を得られる点で人気があります。ただし為替リスクという問題があります。ドルで受け取った配当を円換算したとき、円高になっていれば配当の実質価値が目減りします。2022年以降の円安局面では恩恵を受けた投資家も多いですが、その逆もありうるという認識を持っておく必要があります。
配当投資を長く続けている人たちの間でよく言われることがあります。それは「配当を受け取る喜びは、利益確定の快感とは別の種類のものだ」ということです。含み益は株価が戻れば消えてしまうものですが、受け取った配当は手元に残ります。株価が下がっている局面でも、配当が振り込まれることで「投資を続ける理由」を実感できる。これが、高配当投資に取り組む人たちのモチベーションを長期間にわたって支え続ける理由のひとつです。
一方で、配当投資にはデメリットもあります。配当を受け取るたびに課税されるという点で、再投資の効率が落ちます。受け取った配当を再び投資に回すとき、税引き後の金額しか使えないため、複利の力が弱まります。その点では、配当を出さずに内部留保として事業に再投資する企業の株に投資し続ける方が、長期的な資産成長という観点では有利なケースもあります。これがバフェットのバークシャー・ハサウェイが無配を貫いてきた理由のひとつとも言われています。
では結局、月5万円の配当を得るためには何が必要なのか、もう一度整理してみます。
税引き後で年間60万円の手取り配当を得るためには、特定口座で運用する場合、税引き前で約75万4千円の配当収入が必要です。配当利回りを4パーセントと仮定すると、必要な元手は約1885万円になります。これがひとつの目安です。
NISA枠を最大限に活用し、非課税で運用できる部分を増やすと、必要な元手は少し下がります。1200万円をNISA枠で利回り4パーセントの高配当株に投資すれば、年48万円、月4万円の非課税配当が得られます。残りの月1万円分を特定口座で補うとすれば、税引き後1万円のために税引き前約1万2500円の配当が必要なので、特定口座に312万5千円程度を追加投資する計算になります。合計で1500万円強という数字が出てきます。
ただしこれは、利回りが4パーセントを安定して維持できるという前提の話です。現実には3.5パーセントになることも、減配によって2パーセントに落ちることもあります。そのリスクを考えると、余裕を持って元手を1700万円から2000万円の範囲で積み上げることを目標にするのが、精神的にも財務的にも安定した選択と言えます。
ここまで読んできて、「やっぱり高すぎてムリだ」と思った人もいるかもしれません。でも少し立ち止まって考えてほしいのですが、1700万円という数字は、25歳から45歳までの20年間で達成しようとすれば、年間85万円、月約7万円の積立と運用が必要な水準です。これは確かに高いですが、手取りが30万円台の人にとって不可能な数字かというと、そうではありません。支出を見直し、積立の仕組みを作り、運用を継続すれば届きうる水準です。
もちろん、全員がこの目標を達成できるわけではありませんし、そもそも目標とするかどうかも自由です。大切なのは、「月5万円の配当には1500万円あれば十分」という表面的な情報に惑わされず、税金・コスト・インフレ・減配リスクを含めた本当の元手を把握した上で、自分なりの計画を立てることです。正確な地図がなければ、いくら歩いても目的地には辿り着けません。
少し視点を変えてみます。配当5万円という目標を設定すること自体が、投資を継続する上で非常に強い動機になるということは、行動経済学的な観点からも注目されています。人間は抽象的な「老後のため」という目的よりも、具体的で近い将来の報酬を好む傾向があります。「30年後の年金の補填」よりも「毎月5万円という現金収入」の方が、心理的なリアリティがはるかに高いのです。
月5万円の配当を目指すという具体的なゴール設定は、途中で投資を辞めたくなったときのブレーキになります。株価が下落して含み損を抱えても、配当だけは入ってくるという構造が、売り逃げという最悪の判断を防いでくれることがあります。実際に、2020年のコロナショック時に高配当株を保有していた投資家の中には、株価は半値近くになっても配当が入り続けることで長期保有を続け、その後の株価回復で大きな利益を得た人が多くいました。配当は精神安定剤でもあります。
この記事を書きながら、私が思い出すのは投資を始めたばかりのころの自分のことです。当時は「利回り4パーセントの株を買えば配当で生活できる」という言葉を信じていました。計算は単純明快で、なんとなくできそうな気がしました。ところが実際に計算を進めていくと、税金・コスト・リスク・インフレという複数のハードルが次々と現れ、当初思い描いていた数字よりずっと大きな元手が必要だということに気づかされました。
その現実に直面したとき、絶望するのか、それとも正確な目標値をもとに計画を立て直すのかで、その後の行動は大きく変わります。私は後者を選びました。そしてその選択が、長期的な投資継続の土台になっています。夢を語るだけの投資の話は世の中に溢れていますが、現実を正確に把握した上でなお前を向けるかどうかが、最終的に結果を分ける分岐点だと思っています。
最後に、この記事を読んでいる方に伝えたいことがあります。月5万円の配当を得るまでの道のりは、思ったよりも長く、思ったよりもお金がかかります。でも、それは「できない」ということではありません。正確な数字を知った上で動き出す人と、ぼんやりとした目標のまま進む人では、10年後・20年後の到達点が大きく変わります。
1700万円から2000万円という元手は、誰もが一夜にして用意できるものではありません。でも、今日から月1万円でも積立を始めれば、それは確実に目標へ向かう一歩になります。NISAの非課税枠を使い、コストの低い商品を選び、分散を意識して長期保有を続ける。これらの原則は、投資の世界では何十年も前から言われていることです。それでもなお有効なのは、シンプルだからではなく、人間の心理に逆らいながらも継続できるかどうかを試されているからです。
月5万円の配当を手にした先には、さらにその先の目標が生まれるかもしれません。月10万円、あるいはそれ以上。あるいは、月5万円を達成したことで「これで十分だ」と感じ、心穏やかに日々を過ごせるようになるかもしれません。どちらでも構わないと思います。大切なのは、お金に振り回されるのではなく、自分の人生の選択肢を増やすためにお金を使うという感覚を持ち続けることです。その第一歩が、今日の正確な計算から始まります。
Is it OK?