第4回 ランダムウォークと為替の真実
■ 1. ランダムウォークの世界は、基本“プラマイゼロ”
まず前提として、
「価格が完全にランダムに動く」世界では、長く待っても得もしないし損もしない という性質があります。これは、たとえばサイコロを何回振っても
平均したら出目が3.5になるのと同じです。上がるか下がるかは五分五分。だから平均したら±0。
これが“期待値0の世界”です。
■ 2. でも為替って、そんな単純じゃないんです
ここからが大事なところです。為替(ドル円)は、完全にランダムではありません。
むしろ、現実世界では――
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行き過ぎれば戻りやすい
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急激な変動には抑制がかかる
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企業や投資家の行動が価格を引き戻す
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政策も動く
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輸出入のバランスも効く
こういった“現実の力”が働いています。
たとえばドル円が180円、200円と暴走すると輸出企業も輸入企業も動きますし、中央銀行も「さすがにやりすぎでは」と介入したりします。
反対に、ドル円が100円とか80円になれば、今度はアメリカ側が黙っていません。つまり、
為替は「行き過ぎたら戻る方向に働きやすい」という性質を持っているということです。
これが 平均回帰 です。
■ 3. 平均回帰があると、何が嬉しいの?
ランダムウォークだと、
利確ラインに触れずにずっと離れていくことが普通にあります。
でも平均回帰があると、話が変わります。
● OU過程というモデルで見ると…
平均に戻る力を数式化した OU(オーンスタイン=ウーレンベック)過程では、
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平均から離れたとき
→ 「戻る方向」に力が働く -
平均に近づくと
→ 落ち着く
という動きをします。
これによって、
★ 利確ラインに“戻ってくる確率”が実際に高くなる
つまり、
「小さな利益なら、けっこう現実的に拾える」
ということです。ランダムウォークの場合はずっと待っていれば、値は戻ってくる一方で無限に離れてしまう可能性もあるから、期待値がゼロなのです。
■ 4. 「待てばたいていは利確しそう」という感覚は正しいの?
ここは誤解のないように、モデルで説明します。
平均回帰性があるほど、
平均に戻ろうとする力が強まる
だから利確ラインに触れやすくなる
のは確実にその通りです。
OU過程の hitting probability(到達確率)は次の式で近似できます:
ここで、
:平均に戻る力
:平均値
:利確ライン
:ランダム性の大きさ
となります。
■ 5. 実際、期待値はどうなるの?
この式から読み取れること:
戻る力 が強いほど到達確率が上がる
利確ラインが平均に近いほど到達確率が上がる
ノイズ が大きいと不安定になる
そして、ここが超大事。
★ 平均回帰があるなら、
★ ランダムウォークよりも“期待値は確実に上を向く”
利確幅を 、到達確率を上の式とすると、
となります。
ランダムウォークでは なので、
上の式が 0に近い値になり、期待値も0に収まります。
ですが平均回帰があると、
★ が0より大きくなる
★ だから期待値も0より上を向く
という、ごく自然な話になります。
つまり、
平均回帰は、“小さな利確”の期待値を押し上げる本物の武器
です。
ここが今回の一番のポイントです。
■ 第4回まとめ
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ランダムウォークでは何をやっても期待値は0です
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実際の為替には“平均に戻る力”が働きます
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これは企業・心理・政策など、現実の力から説明できます
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モデル化すると OU 過程という形になります
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平均回帰があると、利確ラインに触れる確率は高くなります
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そのため期待値は0より上になる“余地が生まれます”
■ 次回予告(第5回)
次回は、
平均回帰の強さをいくつか変えながら、5000期間のシミュレーション
をグラフで視覚的に比較していきます。
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