不安心理からポジション一掃の下落
主要取引所コインチェックがハッキングされ580億円相当の仮想通貨XEMが流出した問題を受け、相場の地合いが再び悪化しました。1/16の安値から一旦140万台まで上昇していたものの、下値攻めが再開し上値が重く価格がなかなか伸びません。2/2には再び安値を更新し950,000円まで下げ、今まさに6ケタ台を固めようとしています。
■センチメントが悪く要所で売りが続く
まず、今回の下落は多くの市場参加者にとって初めての本格的な下げとなっているため、市場の不安状態が好転せず戻りの力強さならびにスピード感に欠けています。これまではイケイケどんどんで過度なレバレッジ等で勝負していた投資家も、一旦下落トレンドを経験すると、確率半分の勝負では弱気になりこれまでのような大胆なトレードができなくなります。レバレッジ比率や仮想通貨への投資比率が下がっていると考えればこの程度の下落には理解の余地があります。
チャートを見ると依然としてボラティリティは高く、下落チャネルも否定されていません。高値圏ではずっしりとのしかかってくるような重さを感じ取れ、戻り回転中の投資家が多そうなので少なくともバンドの中心線を抜けるまでじり安の展開が続くような気配がします。
■主なニュース
今週相場を動かしたニュースは2つありました。
・1/26 コインチェックで仮想通貨XEMハッキング
アルトコインの取り扱いが盛んな国内大手取引所のコインチェックで、主要アルトコインの一つであるXEMがハッキングされました。被害額は600億円に近く、2014年に起きたマウントゴックス(取引所)のビットコインの円換算被害額である115億円の約5倍となるため、歴史に残る仮想通貨ショックとなりました。一時は顧客と思しき一般人がコインチェック本社前で集まり怒号を浴びせるなど、取引所の社員が一歩も外に出られないような混乱状態でしたが、当日記者会見を開き事情説明を行い、その後わずか1日で対応策を公表した事で市場は安心感を取り戻し、すぐに下落を帳消しにしました。
ところが、この後コインチェックは追加の入金を受け付ける一方で円の出金を停止し、元社員によりコインチェックが破産を計画していると内部告発がリークされると、事態は再びきな臭くなりました。これにより下値攻めを完了して再び買いが集中しそうな気配が一転。攻防のポイントだった130万円に到達する事無く再び反転し、今度はテザーという仮想通貨の疑惑が再燃して大幅な下落を再開しました。
・テザー疑惑
テザー社に関わる報道は昨年から続くものですが、今回の下落劇でぶり返しました。このように市場のセンチメントが悪化している時は「なんでもいいから下げる材料を探してきて無理矢理売る」というようなパターンが相場では良く見られます。「好きな人の悪口は聞こえないのに、嫌いになった途端その人の悪口がよく聞こえる」ような心理で、まさに人間そのものですね。
さてこのテザー疑惑ですが、法定通貨ドルと連動するUSDTという仮想通貨がアルトコインとして市場に出回っていました。なぜ仮想通貨でありながらドルと連動させるのかと言えば、「お金の置き場所として最適だから」という理由に他なりません。
例えば仮想通貨での投資を一時休止し、ドルや円などの法定通貨に戻す場合、取引所からの出金等が必要です。出金を行えば手数料や事務的な手続きを行うための時間が発生します。これは、仮想通貨⇔法定通貨の交換となるからです。
しかし仮想通貨間の交換であれば、このようなコストはかかりません。また、突然BTC等が変動して投資を再開したいとき、入金する時間ロスもありません。このため、「法定通貨と価格は同じものの仮想通貨である」、という性質を持つアルトコインがあれば、価格変動のリスクを取りたくない投資家にとってこれほど便利なものはありません。これがまさしくテザーが生まれてきた背景になります。
ところで、このテザーがドルと全く同じ価値を持つならば、顧客がテザーを購入している分と等価のドルが必要となります。あたりまえですが、そうでなければ中央銀行でないのに紙幣を発行している事と同じになり、それはただの錬金術です。つまり詐欺です。
テザー疑惑というのは、このテザーを運営するテザー社が、本当はテザー発行額に相当するドルを持っていないのではないかというマーケットの噂話の事で、直近材料視されています。
繰り返しますが、これは去年から報道されている内容のため、取り立てて材料視されるべきものではありません。それを今さら騒ぎ立てるのも、コインチェック報道から目を逸らしつつ下落に拍車をかける相場の直情的な心理の顕れでしかないと筆者は考えています。
■下落の最終段階となるか
このように相場が噂話で腑に落ちない売られ方をする時は、今買っている参加者を振り落すための最後の絞りだしのようなステージになります。
下落が止まらず、相場のセンチメントが好転しませんが、もうそろそろ底を突くのではないかと見ています。チャートに記しましたが、昨年ボラティリティが高まって相場が過熱してしまった水準が現在の水準に近い事から、その時に焦って買ったポジションの一掃が進んでいると思われます。また海外勢を中心に8,000-9,000USD付近は買いたい水準だと発言しているプレーヤーも多いため、押し目買いに跳ね返されるような事があれば売りのプレーヤーはフリップしてすかさず買いに反転しそうです。
こういう時こそ基礎に立ち返るべきですが、BTCはそもそもブロックチェーン技術が革新的だからこそ投資妙味があり、そこから派生したアルトコインや、個別の取引所の問題は、BTCの応用の難しさを物語るものであったとしても、BTCやブロックチェーンの本源的魅力を否定するものでは全くありません。このような報道はあくまで帳尻合わせのネタに過ぎないので、自己の相場観に立ち返ったうえで、投資判断を冷静に執行していきましょう。
反転時の売り方のストップロスのエネルギーは十分に溜まっているため、ここは冷静にしっかりロングを入れておきたいところです。筆者は800,000円と900,000円でそれぞれ買いを入れておきます。
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【執筆者】
河田 西欧(カワダ サイオウ)
トレイダーズ証券市場部ディーリング課
スイス・ジュネーブ生まれ。慶應義塾大学卒。
世界各国を旅した経験から実体験に根ざしたファンメンタルズ分析は説得力がある。
学生時に学んだ行動経済学を活かし、市場参加者の心理的バイアスを理論的に分析しトレードに活かす。
趣味は将棋でアマ高段者の腕前。中盤の駆け引きは相場の次の一手を読む時にも活かしている。
「大衆は常に間違っている」が信条。
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