売買ルールの構築に挑戦ー日本株システムトレード基礎講座⑧
売買ルールの構築に挑戦
証券アナリストで、システムトレードに関するセミナー講師を担当しています、フェアトレー
ド株式会社の西村剛(にしむらつよし)です。本講座では、ご覧頂いた皆さまが基礎から「シス
テムトレード」を理解できるように、やさしい言葉とやさしい表現で解説していきます。ぜひ、
最後までお付き合い頂ければと思います。今回のテーマは、「売買ルールの構築に挑戦」です。では、中身に入りましょう。
これまでの講座の復習になりますが、システムトレードは システムトレードは、「統計的に優位性のあるパターンを
見つけ出すこと」から全てが始まります。しかし、圧倒的に有利なパターンというのは、ほとん
ど存在しないため、ほんのわずかでもエッジ(優位性)のあるパターンを探し出すことがとても
重要な作業となります。
そこで今回は、簡単な例をあげながら「売買ルールの構築にチャレンジ」するというのがテー
マです。構築するルールの対象は、株でも日経 225 先物でもかまいません。ただし今回は、最
も需要があると思われる株を対象にしてみましょう。
株式市場において、明らかにエッジ(優位性)があると思われ、最も分かりやすいものを例に挙げます。
それは「急落後のリバウンド(反発)」ではないでしょうか。
勢いよく下げた銘柄ほど大きな反発が期待できるという理屈です。これを根拠として、はじめに実際に大きく下落した銘柄を買っ
た場合にどの程度の優位性があるかを検証してみます。
システムトレードでは、ただ単に「下げ
すぎた銘柄を買う」ということは許されませんので「どの程度の勢いで下げたのか」をきっちり
と数値で決める必要があります。
今回は例として、「5 日移動平均からの乖離率が-15%以下」の銘柄を下げすぎた銘柄と定義し
ます。また、実際のトレードでは買いのルールだけではなく、売り(決済)のルールも必要です
が、できるだけ話を単純にするため、利益確定と損切りの条件を同じに設定することにします。
具体的には、利益確定と損切りの値幅をともに 5%とします。つまり、買値から 5%上昇すれ
ば利益を確定するために翌日の寄付きで決済するものとし、反対に買値から 5%下落すれば、同じく損切りのために翌日の寄付きで決済することになります。売買ルールをまとめると以下のよ
うになります。
┌───────────────────────────────┐
[買いルール]
・5 日移動平均と終値の乖離率が-15%以下
[売りルール]
・含み益が 5%以上 または
・含み損が 5%以上
※売買はすべて翌日の寄付き(始値)で行うものとする
└───────────────────────────────┘
確認になりますが、上記のルールは急落した銘柄を買った場合にどの程度の優位性があるかを
確かめるためのものです。第一段階の基本となるルールはこのくらいシンプルなものからで十分
なのです。このルールで毎回 10 銘柄に分散してトレードし続けた場合に、どのような結果にな
ったかを検証してみました。
┌───────────────────────────────┐
[検証結果] (テスト期間:2000/01/01~2008/08/29)
勝率:48.5%(勝ち数:1125 回 負け数:1194 回)
平均損益率:+0.63%
平均保有日数:3.52 日
※売買手数料等は考慮せず
└───────────────────────────────┘
上記の検証結果をご覧の通り、2000 年以降に急落後の銘柄をトレードし続けた場合には、1
トレードあたりで約+0.6%の優位性があることが確認できました。しかし、この結果は手数料
を考慮していませんので、実際に売買手数料を差し引くとまだそれほど大きな優位性があるとは
いえないかもしれません。
この段階でまったく優位性が認められないようですと、これ以上ルールをいじりまわしても無
駄と判断します。しかし、幸い今回は最初の検証の段階である程度の優位性が認められたため、
この基本ルールにもう少し工夫してパフォーマンスを改善してみることにしましょう。
パフォーマンスを改善するためのアイデアには色々と考える余地があります。ここからがルー
ルを作成する皆さんのセンスを問われるところとなります。
例えば、
・相場状況の判定(上昇相場か下落相場か)を加えるとどうなるか?
・利益確定や損切りの値幅(%)を変えるとどうなるか?
・利益を細かく確定するのか?大きく伸ばすのか?
・乖離率を厳しくするとどうなるか?
といった具合に、発想次第では劇的にパフォーマンスを改善する余地がたくさん残されていま
す。ではここで、私のセンスで勝手に売買ルールに改良を加えさせていただくことにします。
先ほどの基本ルールは「急落後の反発を狙った逆張り」というのがコンセプトとなっています。
逆張り型のルールといえども、基本的には下落相場よりも上昇相場のほうが有利と考えられます。
そこで、この基本ルールに「上昇相場しか買わない」を加えてみます。そして、そこから相場状 」
況の判定を組み込むとどのような改善がみられるかを検証してみることにしたいと思います。
現在が上昇相場であるかどうかの判定をするには色々な方法が考えられますが、今回は過去 1
年間(250 営業日とする)の高値と安値から見た現在の終値の位置を基準に判定を行います。
具体的には、「過去 250 営業日 250 営業日の高値と安値からみて、現在の終値の位置が 50%以上(半分
よりも上)」という条件を追加します。簡単にいうと、現在の終値が過去 1 年間の高値と安値の
中間よりも上にあるときにしか買いを行わないということです。これにより、急落した銘柄でも
「上昇相場でないかぎりは買い付けない」という相場状況の判定を加えることができるわけです。
上記のルールをまとめると以下のようになります。
┌───────────────────────────────┐
[買いルール]
・5 日移動平均と終値の乖離率が-15%以下
・終値の現在位置(250 日)が 50%以上
[売りルール]
・含み益が 5%以上 または
・含み損が 5%以上
※売買はすべて翌日の寄付き(始値)で行うものとする
└───────────────────────────────┘
そして、以下がこの条件でバックテストを行った結果です。
┌───────────────────────────────┐
[検証結果] (テスト期間:2000/01/01~2008/08/29)
勝率:62.8%(勝ち数:145 回 負け数:86 回)
平均損益率:+5.22%
平均保有日数:2.62 日
※売買手数料等は考慮せず
└───────────────────────────────┘
この結果を見て驚かれた方もいらっしゃると思いますが、基本的なルールは同じでも、「相場状況の判定」というものをルール 」というものをルールに組み込むことで、パフォーマンスは 、パフォーマンスは劇的に変わるということが
わかりました。
先ほどは「わずか+0.6%」にとどまっていた優位性が、ルールを追加すること
により、「+5%以上」までに改善されているのです。
ただし、ひとつ注意点があります。ルールを追加していくことにより、売買の回数そのものを
絞り込むことになります。つまり、あまりむやみに厳しいルールにするとほとんど売買回数がな
くなってしまいます。そのため、売買回数をある程度確保することができるかなど、全体のバラ
ンスと睨めっこしながらルールを調整していくのが最良の方法といえるのではないでしょう。
今回は、ご自身で売買ルールを発想していく際のヒントとして、「相場状況の判定」というもの
を例に解説しました。ただし、アイデア次第では、まだまだ優れたルールを構築できるかもしれません。ぜひ、皆さんも「売買ルールの構築」に挑戦してみて下さい。
よろしいですか?