ICT理論 × 機関投資家・スマートマネー|その④『時間足の使い分けとマルチタイムフレーム分
各時間足の役割と特徴
時間足の階層構造
機関投資家は異なる時間軸で戦略を立てます。この階層構造を理解することが、彼らの思惑を読み解く鍵となります。
月足(Monthly):グランドストラテジー
役割: 超長期的な市場の方向性
機関投資家の用途: 年間を通じた基本戦略の決定
機関投資家が最も重視する時間足が月足。中央銀行の政策方針、経済の大きな流れ、地政学的リスクなど、ファンダメンタルズ要因が色濃く反映されます。月足レベルのオーダーブロックやサポート・レジスタンスは、数年間にわたって機能し続けることが多くなるので、最も信頼性の高い時間足となります。
個人投資家にとって月足分析は、長期的な資産配分や基本的な投資方針を決める際に重要です。月足のトレンド方向に逆らった取引は、どれだけ下位足でシグナルが良くても、最終的には失敗に終わる可能性が高くなります。
週足(Weekly):戦略的ポジショニング
役割: 中長期的なトレンド分析
機関投資家の用途: 四半期戦略の立案
週足は機関投資家が四半期ごとの戦略を練る際に使用する時間足。週足レベルのオーダーブロックは数ヶ月間機能し、大きな相場転換点を示すことが多くなります。週足での市場構造変化(Break of Structure)は、長期トレンドの転換を示唆する重要なシグナルとなります。
週足分析では、重要な経済指標発表や中央銀行会合などのスケジュールも考慮に入れる必要があります。これらのイベントは週足レベルの値動きに大きな影響を与えるため、機関投資家も慎重に戦略を立てています。
日足(Daily):戦術的分析
役割: 短中期的なトレード戦略
機関投資家の用途: 週次・月次のポジション調整
日足は多くのトレーダーにとって最も馴染みのある時間足ですが、機関投資家にとっては戦術的な調整を行う時間足として位置づけられます。日足のオーダーブロックやFVGは数週間から数ヶ月間機能し、スイングトレードの基本となります。
日足での流動性狩りは頻繁に発生し、個人投資家が最も引っかかりやすいトラップでもあります。重要な経済指標発表や中央銀行の発言があった日は、日足レベルでの大きな動きが期待できるため、機関投資家も積極的に仕掛けてきます。
4時間足(4H):実行レベル分析
役割: 具体的なエントリータイミングの調整
機関投資家の用途: デイトレード・スイングトレードの実行
4時間足は機関投資家が実際のポジション構築を行う際の重要な時間足。4H足のオーダーブロックやFVGは数日から2週間程度機能し、実践的なトレードシグナルを提供します。上位足(日足・週足)の方向性を確認した上で、4H足でタイミングを計るのが基本的なアプローチです。
4時間足での分析では、主要市場の開始時間(ロンドン・ニューヨーク)を意識することが重要です。これらの時間帯は流動性が高まり、4H足レベルでの重要な動きが発生しやすくなります。
1時間足(1H):エントリータイミング
役割: 精密なエントリーポイントの特定
機関投資家の用途: 短期的なポジション調整
1時間足は上位足で確認した戦略を実際に実行する際のタイミング調整に使用されます。1H足のオーダーブロックやFVGは数時間から数日間機能し、デイトレードでは重要な参考指標となります。
ただし、1時間足だけでトレード判断を行うのは危険です。必ず上位足の方向性を確認し、1時間足はあくまでエントリータイミングの調整に使用されていることを忘れないでください。
15分足以下:実行のみ
役割: エントリー・エグジットの実行
注意点: 分析の主体にしてはいけない
15分足以下の時間足は、実際のエントリーやエグジットのタイミングを計る際にのみ使用します。これらの時間足でオーダーブロックやFVGを探すことは推奨されません。ノイズが多く、ダマシが頻発するためです。
機関投資家は15分足以下の動きには基本的に注目しておらず、個人投資家特有の短期的な思考に陥る危険性があります。
マルチタイムフレーム分析の手順
標準的な分析フロー
効果的なマルチタイムフレーム分析には、明確な手順があります。この手順を守ることで、機関投資家と同じ視点で市場を分析することができます。
ステップ1:月足・週足での大局観把握
目的: 長期的なトレンド方向の確認
まず月足チャートを開き、過去2-3年間の価格推移を確認します。主要なサポート・レジスタンスレベル、長期的なトレンドライン、そして重要なオーダーブロックを特定します。月足レベルでの市場構造(Higher High, Higher Low、または Lower High, Lower Low)を明確に把握することが重要です。
次に週足チャートで、直近6ヶ月から1年間の動きを詳細に分析します。週足レベルでのオーダーブロック、FVG、そして流動性プールの位置を確認します。週足での最新の市場構造変化があったかどうかも重要なチェックポイントです。
ステップ2:日足での戦略立案
目的: 具体的なトレード戦略の方向性決定
上位足での分析結果を踏まえ、日足チャートで直近1~3ヶ月の動きを分析します。日足レベルでのオーダーブロック、FVG、流動性狩りの可能性を検討し、具体的なトレード戦略を立案します。
この段階で、エントリー方向(買いまたは売り)、大まかな目標価格、そして許容リスクレベルを決定します。日足レベルでの重要な経済指標発表スケジュールも確認し、トレード戦略に組み込みます。
ステップ3:4時間足での戦術調整
目的: エントリータイミングの最適化
4時間足チャートで直近2~4週間の動きを詳細に分析し、日足で立てた戦略を実行するための最適なタイミングを探ります。4H足レベルでのオーダーブロック、FVG、そして流動性狩りのサインを確認します。
市場の開始時間(ロンドン・ニューヨーク)との関連性も考慮し、最も効果的なエントリータイミングを計画します。
ステップ4:1時間足での実行準備
目的: 精密なエントリーポイントの特定
1時間足チャートで直近1週間程度の動きを分析し、具体的なエントリーポイントを特定します。上位足で確認した根拠が1時間足でも確認できるかどうかをチェックし、複数の時間足で一致するポイントを探します。
損切りラインと利確ターゲットも1時間足レベルで具体的に設定し、リスクリワード比を計算します。
ステップ5:15分足以下での実行
目的: 実際のエントリー・エグジット実行
15分足または5分足チャートで、実際のエントリータイミングを計ります。上位足での分析結果に基づき、最も有利な価格でエントリーできるタイミングを待ちます。
時間足間の矛盾解決法
よくある矛盾パターン
マルチタイムフレーム分析を行う際、異なる時間足で相反するシグナルが出ることがあります。これらの矛盾をどう解決するかが、成功するトレーダーと失敗するトレーダーの分かれ目となります。
パターン1:上位足と下位足のトレンド方向が逆
例: 日足は上昇トレンドだが、4時間足は下降トレンド
この場合、上位足の方向性を優先することが基本原則です。日足の上昇トレンドが継続している限り、4時間足の下降は一時的な調整である可能性が高いです。4時間足の下降を「押し目」として捉え、日足の上昇トレンド方向への買いエントリーを検討します。
ただし、4時間足レベルでの下降が長期間続いている場合は、日足レベルでのトレンド転換の可能性も考慮する必要があります。
パターン2:オーダーブロックの競合
例: 日足の強気OBと4時間足の弱気OBが近い価格帯に存在
この場合は、より上位足のオーダーブロックを優先します。日足レベルの強気OBは4時間足レベルの弱気OBよりも強力であり、長期間にわたって機能する可能性が高いです。
ただし、両方のOBが同時に機能する可能性もあるため、価格がどちらのOBに最初に到達するかを慎重に観察し、その反応を見てから判断することも重要です。
パターン3:FVGの時間足競合
例: 4時間足では強気FVG、1時間足では弱気FVGが存在
上位足のFVGを優先しつつ、下位足のFVGは短期的な調整として捉えます。4時間足の強気FVGが主要な動きを決定し、1時間足の弱気FVGは一時的な押し目を作る可能性が高いです。
この場合、1時間足の弱気FVGが埋まった後、4時間足の強気FVG方向への動きを期待します。
時間足別の機関投資家の行動パターン
機関投資家の時間足別戦略
機関投資家は時間足によって異なる戦略を展開しています。この行動パターンを理解することで、彼らの次の動きを予測しやすくなります。
長期戦略(月足・週足)
機関投資家の長期戦略は、主にファンダメンタルズ分析に基づいています。中央銀行の政策方針、経済成長率、インフレ率、地政学的リスクなどを総合的に判断し、数ヶ月から数年にわたるポジションを構築します。
この時間軸では、大量の資金を段階的に投入することが特徴です。一度に全ての資金を投入するのではなく、数週間から数ヶ月かけて平均取得価格を調整しながらポジションを蓄積します。
中期戦略(日足・4時間足)
中期戦略では、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析の組み合わせが重要になります。重要な経済指標発表、中央銀行会合、政治的イベントなどのタイミングを計りながら、テクニカル的に有利なポイントでポジションを調整します。
この時間軸では、流動性狩りが最も活発に行われます。個人投資家の心理を利用し、重要なレベルでの狩りを仕掛けて、自分たちの大量取引を有利な価格で実行します。
短期戦略(1時間足以下)
短期戦略では、主にポジション調整と利益確定が行われます。大きなポジションを持っている機関投資家が、市場の流動性やボラティリティに応じて、一部のポジションを調整したり、利益を確定したりします。
この時間軸では、個人投資家の行動パターンを最も重視します。個人投資家がどのような心理状態にあり、どのようなレベルで損切りや利確を行うかを分析し、それを自分たちの取引に活用します。
時間足別の成功率とリスク管理
時間足別推奨戦略
各時間足には、それぞれに適したトレード戦略とリスク管理方法があります。
月足・週足ベースの戦略
推奨手法: ポジショントレード
保有期間: 数ヶ月~数年
成功率: 70-80%(長期間での勝率)
リスク管理: 総資金の5~10%まで
長期戦略では、我慢強く待つことが最も重要です。月足・週足レベルでのシグナルは頻繁には発生しませんが、一度発生すると大きな利益をもたらす可能性があります。
損切りラインは広く設定し(100-500pips程度)、利確ターゲットも大きく設定します(300-1000pips以上)。レバレッジは低めに抑え、長期間のドローダウンに耐えられる資金管理を行います。
日足・4時間足ベースの戦略
推奨手法: スイングトレード
保有期間: 数日~数週間
成功率: 65-75%
リスク管理: 総資金の2~5%まで
中期戦略では、上位足の方向性を最重視します。日足レベルでのオーダーブロック、FVG、流動性狩りのシグナルを基に、4時間足でタイミングを調整します。
損切りラインは50-200pips程度、利確ターゲットは100-500pips程度に設定します。リスクリワード比は最低1:2、理想的には1:3以上を目指します。
1時間足ベースの戦略
推奨手法: デイトレード
保有期間: 数時間~1日
成功率: 60~70%
リスク管理: 総資金の1~3%まで
短期戦略では、上位足の根拠があることが前提となります。1時間足だけでの判断は避け、必ず日足以上の時間足で方向性を確認してからエントリーします。
損切りラインは20-100pips程度、利確ターゲットは50-200pips程度に設定します。市場の開始時間(ロンドン・ニューヨーク)を意識し、流動性の高い時間帯を狙います。
実践的なマルチタイムフレーム分析のコツ
効率的な分析方法
マルチタイムフレーム分析を効率的に行うためのコツをご紹介します。
チャート設定の最適化
推奨設定: 4画面同時表示(月足・週足・日足・4時間足)
複数の時間足を同時に表示することで、時間足間の関連性を素早く把握できます。各時間足で重要なレベル(オーダーブロック、FVG、サポ・レジ)を色分けして表示し、視覚的に分かりやすくします。
分析の優先順位
まず上位足(月足・週足)で大局観
次に中位足(日足・4時間足)で戦略立案
最後に下位足(1時間足)でタイミング調整
この順序を守ることで、森を見てから木を見る分析が可能になります。下位足から始めると、目先の動きに惑わされて大きな流れを見失う危険性があります。
重要レベルの統合管理
各時間足で特定した重要レベルを一覧表にまとめ、優先順位を付けます。複数の時間足で重複するレベルは特に重要度が高く、強い反発や突破が期待できます。
まとめ
時間足の階層構造:月足→週足→日足→4H足→1H足の役割を理解
マルチタイムフレーム分析:上位足から下位足への正しい手順
矛盾解決法:上位足を優先し、下位足は調整として捉える
機関投資家の行動パターン:時間足別の戦略を理解
時間足別戦略:各時間足に適したトレード手法とリスク管理
効率的な分析:4画面表示と優先順位の明確化
下位足の小さな動きに惑わされず、大きな流れを常に意識する。これが継続的に利益を上げるトレーダーになるための鍵です。