今日から始まるジャクソンホールに関する考察 【中原駿の今日のひと言】8月25日更新
パウエル議長の言うこと、言わないこと
カンザスシティー連銀が主催の国際経済シンポジウム(通称・ジャクソンホール会議)が日本時間本日夜、25日から米西部ワイオミング州で開かれる。この会議はロッキー山脈の麓の山荘に中央銀行関係者や経済学者が集まって開くそもそもは牧歌的かつ学術的会議デアあったー少なくとも1989年までは。しかし89年にFRBが金融政策に関する方向性を打ち出したことで、最も影響力の借る会議となった。しかしお題はあくまで学術的で今年のテーマは「経済と政策への制約を再評価する」というものだ。
昨年はカノッサの屈辱ならぬジャクソンホールの大失敗とまで評される「ほぼ完ぺきな間違い」でインフレを加速させてしまった。パウエル議長がいったい何を言うか―ということは、「パウエル議長が絶対に避けたいこと、言わないこと」を考えたほうがわかりやすい。
まず、昨年までのオンライン会議と違い対面での会議となること、そして何より昨年大失敗したことが議長を制約していることは間違いない。つまり、インフレに対する甘い見通しや楽観的な供給、金融緩和的な見通しは絶対に避けるだろう。逆にインフレに対する評価を昨年同様とまではいかなくても、楽観的に見通すようなことがあれば市場にはビックサプライズとなる。そこまでいかなくとも、将来の金融引き締めに対する明確な終着点などを示すことがあれば、市場にはポジティブとなるだろう。もっとも、昨年のパウエル議長の失敗を考えると、この可能性は相当低い。
市場のコンセンサスは、かなりタカ派的な発言をするはずだ―というものだ。リスクシナリオは、さらに、さらに踏み込んでタカ派的発言をする、ということだ。インフレの現状はピークアウトの兆しが見えても、まだ高すぎる。FRBは2%の物価安定に向けて断固とした引き締めを継続する―この辺まではすでにマーケットに織り込まれ、金利の急上昇もそうした見通しを織り込んでいる。長期金利の上昇を考えると、年内に金融引き締めが終わる、という見通しは徐々に弱まり、23年の利上げも織り込みつつある。ポイントは金融引き締めの終着点をマーケットが考えている4%を超えるようこと、さらにそれを超えるような発言が出ればかなりネガティブなサプライズになりえるだろう。
そして、警戒するべきなのはQT(量的引締め)に関するさらなる踏み込みだ。量的引締めは、満期到来した債券を折り返さない形で順次減少させているが、今後市場の長期金利を上昇させる明確な目的をもっていわゆる市場での売り切り(アウトライト)をするようになれば、かなりのサプライズとなる。リーマンショック以降のFRBの巨大な購入によって市場の流動性はかなり落ちており、こうした方針の変更は長期金利に対する強烈な上昇を招く可能性がある。
逆に言えば、利上げの終着点に関するマーケットのタカ派予想をはるかに上回る見通しや保有債券の売り切りないしは同程度の新しい引き締め策などを打ち出さない限り、かなりの他派的発言はマーケットに織り込み済みということだ。市場の予想通り程度の「タカ派的トーンだが、市場予想と同じあるいはさほど強すぎるものではなかった」というものであれば、市場は大きく崩れないだろう。「知ったら仕舞い」、あるいは材料にならないジャクソンホールもまた有り得る、ということだ。